Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第四十一話 我等の宿命とその叫び

 

 カツンカツンと靴の裏でステンレスの滑らかな段を踏みながら、ドームの上へ階段を登って行く。

 

暫くするとロケットの発射を担う制御室の扉が見えてくる。

 

白亜の扉を開き中に入る。

 

コンピューターや各種機材が列をなして互いにひしめき合う室内は、外からのLEDライトの光が正面の大窓から入り込み、室内は優しい光と静寂に包まれている。

 

そして、大窓の近くには…

 

「……ラスボスを倒して景品をねだりに来たのか?」

 

「…まだ生きてたのか」

 

仰向けに倒れているダミアンの胸部からは、休む事なく血が溢れ続けている。

 

SVDS狙撃銃は持ち主を見放す様に明後日の方に投げ出されている。

 

理雄は木箱に入っていた鹵獲品のスチェッキンピストルを向ける。

 

「死ぬ前に聞いておきたい事がある…、何故、新羅雅弓を殺した?」

 

全ての始まりである【イタバシ襲撃事件】…、それに端を発した今回の抗争…。

 

しかし、現在でも分かっていない事がある。それは----『何故、新羅雅弓は殺されたのか』だ。

 

「クリアランスすら持っていない一般人同然の彼女を何故狙った?【ダウンフォール・プロジェクト】の秘密に近づく機会はまず無い筈だ……何故だ?」

 

するとダミアンは失笑気味に笑う。

 

「【ダウンフォール・プロジェクト】は私と、【警視庁公安部特事課】の篤樹秀治警視、そして……81管区評議会議員の、新羅良雄によって12年前に立案された計画だ…」

 

「な…」

 

新羅雅弓の父親が……この恐ろしい計画の立案者の1人だと?

 

唖然とする理雄を小馬鹿にする様に鼻で笑いながら、ダミアンは続ける。

 

「我々3人には共通の意識として、『財団本部に怨みを抱いている』人間だ…、詳しい事は知らないが、あの男の妻は財団本部による不手際により殺されている。しかも出産時に事切れたとその真相を闇に葬られた…。だから…」

 

「…復讐の鬼と化した訳か…」

 

ダミアンは皮肉っぽく笑う。

 

「『財団は残酷ではないが、冷酷ではある』…お前も嫌という程聞いた言葉の筈だ。そしてその冷酷さに身内の生命を奪われた新羅は復讐の機会を密かに伺っていた結果、我々と出会った…。時間と手間をかけた甲斐もあって’鶏'の開発は進み、量産にも成功した。だが…」

 

その時、ダミアンは苦しげに咳き込む。

 

少し間を空けた後話し続ける。

 

「11年前、あの男の娘が妙な力を発現したそうだ…、なんでも、私と同じ【セカイ】を創ったらしい…」

 

その言葉に、今度こそ理雄は衝撃を隠せなかった。

 

思わず声を張り上げる様に問い詰める。

 

「【セカイ】とはなんだ?お前は何を知っている?【初音ミク】との関係はッ?」

 

返ってきたのは、失笑だった。

 

「…さぁな、私が聞きたいくらいだ。ただ……そこには妙な住人達がいてな、彼ら曰く私の『想い』で生まれたそうだ」

 

「『想い』…?」

 

「まぁ彼らとは途中から意見が合わなくなってな…、元よりおかしな連中だったが、私が鬱陶しいと感じ始めた頃から見ることはなくなった」

 

「………」

 

「話を戻そう、具体的に何があったのかは分からないが、その娘の【セカイ】になんらかの影響を受けた新羅は、徐々に計画に懐疑的な態度を取る様になった。娘の方は記憶処理により【セカイ】の存在を封じ込める事に成功したが、つい先月……、新羅は計画から降りると突然言い出し、北米に渡り計画の存在を直接財団本部に暴露しにかかった」

 

ダミアンの表情からは悪辣な笑みが絶えなかった。再び失笑を露わにすると、

 

「奴は言っていたよ、『娘と妻の優しさと温もりを思い出した、冷血無情な事はもうできない』と、……馬鹿な男だ。案の定、私の部隊が口封じとして奴の頭蓋に風穴を開けたが、何処から情報が漏れるか判ったものじゃない。我々は慌てたよ、だから奴と関係のある人間を片っ端から始末しに掛かった。突然の父の死を不審に感じた新羅雅弓はすぐさま安全な場所を求めて君達を護衛に逃走を図り、我々は彼女の力と情報漏洩を恐れて雑な手段で仕留めるしかなかった…」

 

それが、夥しい人間の血を啜った【ダウンフォール・プロジェクト】の崩壊の始まりとなった。

 

「……貴様、英雄に成りたかったのか?そんな幼稚な妄想の為だけにこれだけの人間を殺したのかッ?」

 

理解できなかった。したくもない程歪んだ思惑に吐き気が込み上げ、スチェッキンの銃把を握る手が怒りと厭悪で震える。

 

しかし、そんな理雄の様子を見てダミアンは鼻を鳴らす。

 

「お前にもいずれ分かる時が来る…、平和なんて物はこの世の何処にも存在しない。あるのは圧倒的な闇の表面に薄氷を張り、その上に築いた欺瞞と虚構に満ちた小さな箱庭だけだ。やがて真実を知り全てから目を背けなくなる日が必ず来る。どのみち我々のようなソレを知ってしまった人間は混沌から抜け出せない。一生だッ。光の中で生きられないならば、世界を己が必要される様に変えるしかないのだッ…!」

 

苦しげに吐かれる言葉からは、深い絶望と渇望が感じられた。

 

誰にも己の努力を、覚悟を、葛藤を話せず、ただ隠し続けなければならない光の中に、自分達の居場所はない。自分が人類の為に全てを犠牲にしても、誰からも感謝されることはなく、その軌跡を覚えて貰う事すら叶わない。

 

自分達の目の前を呑気な顔で歩き、当然の様に平和を謳歌している人々が、彼らを日々命懸けで守っている自分達を認める事は勿論、知られる事すらないのだ…。

 

少し後を振り返れば、圧し潰され、窒息しそうな程の闇が蠢いている。

 

彼は…、ダミアン・オコナーは、そんな闇の中で戦う自分達の………絶望の象徴なのかもしれない…。

 

だが…、

 

 

「…貴様がどれだけ絶望しようが、俺達は……、俺は絶対に諦めないぞ」

 

かつて、自分は全てに絶望し、誇り以外に自分を再起させるモノなんてなかった…。

 

だが……、今は違う。

 

「俺はこの世界で、大切な人達ができた…。今まで何もできず…、ただ奪われ地に這い蹲る事しか出来なかったッ…、俺は今度こそ全てを守ってみせる。俺があの子達を光の先の未来に導くまで、誰にも傷つけさせはしないッッ。ダミアン…、貴様の絶望と慟哭、俺はそれに理解と同情を示す。だが決して、俺は貴様のようにはならない…!」

 

ダミアンは黙って此方を眺めていた。

 

その瞳は自分を憐れむ様な視線にも感じた。

 

「……まあ、せいぜい頑張れ、…………………………………’コッチのお前'の様にはならないよう、ささやかに祈るとしよう…」

 

「……何…」

 

その一言に、一瞬呼吸を忘れた。

 

ハッとして思い返してみると、ダミアンは戦闘開始の時から…

 

『君とこうして戦うのは久しぶりだな!』

 

『貴様に2度も負けてたまるか……』

 

……まるで以前から自分と面識がある様な物言いだ。

 

コイツが転移する前の西暦1933年に自分は存在していない。となればコイツと会った可能性がある志熊理雄というのは……まさか……!

 

そんな理雄の様子を見て、ダミアンは『今更気づいたのか…」と嘲る。

 

「ここの監視カメラでお前の顔を見て驚いたよ……2年程前、北アフリカに展開するセクトからの応援要請に応えて、前線基地に居た時、財団の戦術部隊が突入して戦闘になってな、その中に……お前がいた」

 

「…!」

 

息を呑む理雄を無視してダミアンは語り続ける。

 

「状況開始から10秒…、私の前にいた3人が気づいたら殺され、半拍遅れて私の体が崩れ落ちた…。完全に意識が途切れるまでの間、その男は基地内に居た中隊規模の戦闘部隊を鏖殺し続けていった…、運良く救助された私だけが、あの基地の唯一の生き残りだったらしい…」

 

「………」

 

「あの動き…、さっきお前が狙撃銃のボルトを引く瞬間が早すぎて見えなかった、一瞬で行っていただろう?それも片手で…」

 

「……貴様からはアレがそう見えたのか…」

 

「あの動き……アフリカの時とよく似ている………いや、アイツは………もっと………ッ!」

 

その時、ダミアンは口から血の塊を吐き出した。彼の瞳から生気が消失していく…。

 

理雄は慌ててダミアンの顔に近づく。

 

「待て!ソイツは何者だ?一体何があった!?」

 

だが、返ってきたのは、全く関係のない回答だった。

 

「志熊理雄……お前は…、この世界がどうやって創られたか知っているか…?」

 

「なに…?」

 

「ほら…、第一次大戦中、『プールカペッレの戦い』の最中、セルティックウッドでドイツ軍に陽動攻撃を図ったオーストラリア軍兵士71名が失踪した事件があっただろ…?その時…、私は見てしまったんだよ、彼らが神に引き抜かれていく様を…」

 

震える右手を掲げながら、ダミアンは壮絶な笑みを浮かべる。

 

「やがて私も同じ様に………、あんなモノが神だと?笑えない冗談だ…、あんな……自分で創造する事すらできないモノがッ…!」

 

その笑みはやがて嘲笑と失望が色濃くなっていく。

 

「この世界はいずれ崩壊する…、平和は……天体望遠鏡を使っても見えない、だが……、おそらく破滅は…、靴を飛ばせば届く距離にある…!全てが破壊されていく情景の中……お前も……最期は…ッ!」

 

そこで、ダミアンの右手が落ちた。

 

瞳孔が開き、呼吸が停止。

 

財団職員としてこの世の闇を直視し、虚空の中で絶叫した男は、暗く冷たい地の底で息絶えた。

 

ただ1人…、叫びを呑み込んだ男に見送られながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、クソッ!」

 

篤樹秀治は毒づきながら、車のハンドルを必死に握っていた。

 

先程、財団の保安部隊が日本国内の財団施設や関係機関に押し寄せ、それと同時に腐敗細胞の一斉摘発が始まったのだ。

 

ダミアン・オコナーとの連絡も取れない。鉱山施設は落ちたと考えるべきだろう。

 

ともかく、自分はこの国にはいられない。今すぐに高飛びをしなければ…。

 

雨の中山道に入り、ぬかるんだ道をなんとか走り抜け、国道付近まで辿り着く。

 

まだだ、まだ終わってはいない。

 

計画は失敗したが、自分が生きてさえいれば次のチャンスは…!

 

キキィィィィィッ!

 

その時、国道への道なりの前に一台のスポーツカーが前方から現れ進路を塞ぐ。

 

慌ててブレーキをかけ停車に成功すると、忌々しげに前方を見る。

 

スポーツカーのスモークガラスが降り、運転席から1人の若い男が顔を出す。その表情はにこやかだ。顔に見覚えがあり車から降りる。

 

「やぁやぁ、酷い天気ですね篤樹さん」

 

「……【ディーコン】かッ」

 

彼は自分と財団日本支部内の協力者の間を仲介する者であり、主に連絡やバックアップに回っていた者だ。数年前に一度会ったきりなので、一瞬誰だが分からなかった。

 

ハッとして、両手を水平に払う。

 

「計画は失敗した!機密書類を全て燃やした後、すぐさま国外に逃げるぞッ、お前は偽造パスポートを取れ、今すぐにだッ」

 

ディーコンはこちらを黙ってニコニコと見つめている。

 

「そのタバコ、珍しい銘柄ですね」

 

「あ?」

 

思わず視線を落とし、右の胸ポケットに入っているパッケージを見る。

 

どこにでも売っている【メビウス】だ。なんら珍しくなどない。

 

「お前何を言って…!」

 

パシュッ、パシュッ。

 

「……は…?」

 

消音された銃声が聞こえた後、胸に2発の拳銃弾が穴を空ける。

 

ディーコンはサイレンサーを付けたグロック17を握っている。

 

「な…、何をッ…!」

 

「いや〜、人間同士の争い程バカバカしいモノはないって話ですよ〜……

……バレないとでも思ったのか?」

 

低い声が発せられると同時に後部座席のドアが開く。

 

飛び出してきた2人の男からMP7の小口径高速弾が放たれる。

 

フルオートで放たれた弾丸が篤樹の肺と心臓を貫き、最後に脳を破壊。

 

倒れた篤樹の意識が戻る事はない。永遠に…、永遠に…。

 

 

 

 

 

死体に向けて弾倉が空になるまで撃ち続ける。

 

常識の外側に生きる人間は’殺したくらい'じゃ死なない可能性があるからだ。

 

やがて全員が持ち弾全てを撃ち尽くす。

 

ディーコン----------機動部隊い-0 '零号部隊' 隊長 西崎祐仁曹長は無線を繋げる。

 

『0-甲から【鵺の巣】へ、ジャックポッド』

 

『…了解、遺体の収容は事後処理班が担当する、速やかに作戦地域から離脱せよ』

 

『了解』

 

無線を切ると、穴だらけの死体を見遣る。

 

「……暫く泳がせていたが、あんなとんでもない所があったとはな」

 

右隣でMP7を構えていた0-丙こと、真柄蜱嬰一等陸曹が吐き捨てる様に言う。

 

左隣にいる田中将大一等陸曹が無言で同意を示す。

 

「…外部から来た連中に感謝しないとな…」

 

祐仁は空を見上げる。

 

…空が、晴れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

財団の医療施設でラノベを読みながらベッドに寝そべる志熊理雄は欠伸をした。

 

ここは地下にあるせいで普段は日光を浴びれず、辺り一面が不気味な程清潔な真っ白い病室は、3日も居れば気が滅入るには十分すぎる程退屈な空間だった。正直芳香剤の匂いもきつい。

 

あの後、結局出入り口を探している間に体に限界が訪れた。

 

モルヒネの加護が切れた瞬間、理雄の体は忘れていた痛みと疲労で崩れ落ち、あっさり意識を手放したのだ。

 

気が付いた時にはこのベッドの上で、折れた背骨は手術で綺麗に治り、被弾した弾丸は全て摘出されていた。今は左腕も難なく動く。

 

ジュリエットチームは今回の件で活動不能となった。

 

敵のRPGによる崩落に巻き込まれた英牙、初雪、悟は救助されるまでの間、丸一日生き埋め状態だったらしく、救助された後も骨折やその他外傷で全身ボロボロだ。

 

向一が被弾した弾丸は掠めた程度で比較的軽症だったが、龍一郎は手術中に心臓が止まりかなり危ない状態だったが、最後の方でようやく動き出したらしい。

 

…彼は最後まで生きる事を諦めなかったのだ。

 

中島隊長率いる戦術部隊も死人こそ出なかったものの、活動再開はかなり先の事になるだろう。

 

無傷なのは悠間くらいだ。

 

スマホを確認すると、みのりや雫からメッセージが届いていた。

 

雫からは…、

 

『大丈夫ですか?暫く運転は控えた方が……』

 

みのりからは…、

 

『また会える日を楽しみにしてます!交通事故にお気をつけて!!』

 

と送信されていた。

 

どうやらカバーストーリー『交通事故』が流布されたらしい。

 

…もしかしたら次の登校日から、自分は『運転ド下手くそ教師』のレッテルを貼られているかもしれない。

 

「…あの、いつになったら退院できるんですか?」

 

検温に来た看護師に尋ねてみる。リハビリもクリアしたからもう大丈夫な筈だが…。

 

「そうですね…、明日にはできると思いますよ」

 

自分と同年代くらいの若い女性看護師はにこやかに微笑んでくる。たが、明日まで待つのは少しキツイ。というのも…。

 

その時、天井に付けられたスピーカーが鳴り響く。

 

『じ〜〜んるッいィィの為に働く財団職員のみなさ〜〜〜〜〜ん!!本日は私、宮崎信孝がラジオのパーソナリティを務めますッ、ではまずは音楽コーナー、私が歌う『ロミオとシンデレラ』デェ〜〜すッッ!」

 

そう、本来こいつは腹立たしい程歌がうまいのだが、病院という鬱屈な空間に3日も閉じ込められたせいで、各メンバーがストレス発散の為に奇行に走ってるのだ。信孝の場合はわざとがなり声で『歌ってみたラジオ』を放送している。本当に勘弁して欲しい…。

 

「野球場は何処だァァァァァァァァァッ!!」

 

今廊下を車椅子で全力疾走したのは初雪だ。普段の寡黙な性格はどこにいったのだろうか…。

 

(今すぐ帰りたい…)

 

サビの所辺りでスピーカーが音割れを起こし、看護師が絶叫する。

 

溜息を吐きながら耳栓を取り出し装着、読んでいた【銃皇無尽のファフニール】を再び開き寝転がった。

 

 

やれやれ、退屈で騒がしい日々はまだ続きそうだ…。

 

 

 

 

翌日に退院した。

 

ペンギンみたいなヨチヨチ歩きでなんとか登校した理雄は、予想通り『運転絶望的に下手野郎』として、同僚や生徒達から『暫く車には乗るな』と注意された。次に負傷した時は別のカバーストーリーを用意してもらう必要がありそうだ。

 

下校時にまで同じ様な事を言われては堪らないと、できるだけ足早に校門の外に向かう。

 

「せんせ〜〜い!」

 

そんな事を思っていると、背後から元気な声が聞こえてくる。

 

見れば4人の少女がこちらに駆けてくる。

 

「みのり、雫、愛莉…………遥」

 

その中にいた青髪ショートの少女、桐谷遥に目を移す。

 

その表情に、迷いは見られなかった。

 

彼女はこちらに一歩踏み出すと微笑む。

 

「…先生」

 

「…ッ、なんだ?」

 

一瞬、その笑顔に呆気に取られかけた。きめ細やかな白い肌は、イルカのような滑らかさと瑞々しさを持ち、スカイブルーの瞳は今まで見た事のない輝きを発していた。

 

これが…、元国民的アイドル…。

 

遥はペコリと綺麗な姿勢でお辞儀をする。

 

「先生には、本当に感謝してるんです。先生があの時、私に勇気と力をくれたんです」

 

「……」

 

「本当に、ありがとうございましたッ」

 

再び頭を下げる遥。

 

「…約束は守るよ、俺は」

 

理雄の返答に遥はふふッと笑う。

 

「はい、私は貴方を信じていますから-----------理雄先生」

 

遥は眩しい笑顔を向けてくる。空が輝くような美しさに、理雄は再び目を奪われるのだった。

 

すると今度はみのりが心底嬉しそうな表情で------

 

「先生!私達……4人でアイドル活動を始める事になりました!」

 

みのりが快活にアイドルユニット結成を宣言する。

 

「…そうか、無事結成されたんだな………………君は本当に凄いよ」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない…、それより、ユニット名は?」

 

今度は雫がほんわか笑顔で前に歩み出る。

 

「はい!【MORE MORE FIGHT!】って言うんです!」

 

……戦闘狂?

 

「【MORE MORE JUMP!】よッ、何度間違えれば気が済むの!?」

 

愛莉がキレの良いツッコミを披露する。

 

どうやらこの4人で夢にチャレンジすると決めたらしい。

 

皆を引き合わせたのは、おそらくみのりの功績だろう。彼女の気炎万丈な所が、苦悩や葛藤を抱えた他の3人を再び燃え上がらせたのだろう。

 

「…そういえば、理雄先生、私達の事いつから名前で呼ぶ様になったんですか?」

 

「え?……あ」

 

そういえば、名字が被るからと雫と志歩は名前呼びだが、残りは名字呼びだった。すると遥がさも良い事を思いついたといった感じにニマリと笑う。

 

「…私は先生の事名前呼びにしてますけど……、良ければ私達の事も名前で呼んでくれませんか?」

 

「……良いのか?」

 

遥は「はい」と快く頷くと、みのりも「はい!私も名前でお願いします!」と元気よく手を挙げる。愛莉も「というか、一歌ちゃん達も名前呼びだし、私達もその方がいいわ」と同意する。

 

「…分かった、では改めて…、みのり、遥、雫、………桃井さん」

 

「なんでよッ?」

 

やはりキレの良いツッコミに思わず笑ってしまう。

 

「冗談だ、よろしく、愛莉…。それじゃ、結成祝いに俺がアイスでも奢ろう。どこの店がいい?」

 

するとみのりが目を輝かせた。

 

「でしたら!とっておきのお店があります!!」

 

 

 

 

 

みのりの言うアイスクリーム屋台は、シブヤにある大きめの公園にあるらしい。そこまで移動してる最中、みのりは遥にアイスレポートを熱烈に語っていた。

 

「それでね!そのお店のストロベリー味がすごく丁度いい甘さなんだ!なにより、それと一緒にラズベリー味を食べると…!」

 

「そ、そうなんだ…、えっと、本当に美味しそうだね…」

 

遥は少し引き気味に笑いつつも、隣を歩く理雄をチラチラと見ている。

 

「……みのり、遥に美味しいアイスを味わって欲しいんだろうけど、その勢いはちょっと引くわよ…」

 

自分が喋っている間、とにかく好きな物を捲し立てるように話し、相手の話が聞こえない状態----------所謂、オタクの語りのようになってるみのりに対し、愛莉が引き気味に指摘する。

 

みのりはそれに「えぇーーッ!?」とショックを受けた様に叫ぶ。

 

しょんぼりするみのりを遥が「気持ちは嬉しいから…」と慰めた後、理雄に向き直る。

 

「…先生は、私の未来を守ってくれるんですよね…?」

 

遥は少し遠慮気味に言う。

 

「あぁ、全てからだ」

 

理雄は即答する。それに対し遥は少し頬を紅潮させる。

 

「……先生は優しくて、強い人なんですね…」

 

「俺が?」

 

「はい…、そういう所、すごく素敵です…」

 

遥ははにかみながら呟く。

 

「……君も、一歩を踏み出す勇気をだした。余計な事は気にせず、あの3人と進んでいけ………邪魔する敵は俺が排除する」

 

遥は最後のセリフに含まれた低い声に一瞬ビクッと震えたが、いつも通りの無感動な顔の理雄を暫く見た後、クスリと笑う。

 

「…理雄先生って、偶にすごく怖い時あるんですね、星乃さんから聞きました」

 

「まぁ、最初の頃はだいぶ猫被ってたからな…」

 

「……猫?アレじゃまだ虎の方が可愛いし、クラスに初めて来た時の理雄先生、正直言って不気味でしたよ?特に自己紹介の時」

 

「………君もかなり毒舌が鋭いな…」

 

クスクス笑う遥に対し苦笑いしながら歩き続ける。

 

やがてシブヤのスクランブル交差点を渡り、シブヤ駅前に差し掛かる。

 

そこで、理雄はある物を目にし------

 

「悪い、先に行っててくれないか?急用ができた」

 

「え?でも…」

 

突然の言葉にみのりが不可解そうな表情になるが、理雄は無視して財布から千円札を何枚か取り出し、みのりに握らせる。

 

「すぐに終わる。待ち合わせ場所はあそこだ。これでアイス買ったらあの場所で合流する、頼めるか?」

 

理雄が待ち合わせ場所を指差し、みのりに確認を取る。

 

みのりは少し考えると、ビシッと敬礼した。

 

「分かりました!花里みのり、このお金で遥ちゃんを満足させるべく買えるだけアイスを買ってきます!!」

 

「誰がそんな事を言ったッ?おい待て!」

 

理雄の制止を無視してみのりは遥か遠くのアイス屋台まですっ飛んでいった。

 

「…じゃあ、先生私達も…」

 

「…頼む」

 

互いに苦笑しながら愛莉達もみのりの元へ向かう。彼女らを見送った後、理雄は目的地に向け踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ハチ公前広場】…、規定世界と同じで、東急田園都市線・地下鉄半蔵門線の渋谷駅や地下街『しぶちか』の出入り口『A8出口』が広場にあり、そこに設置されている【忠犬ハチ公像】…。

 

飼い主である東京帝国大学の教授、上野英三郎の帰りを待ち続け、飼い主の死後も駅前で帰りを待ち続けた忠犬。

 

もはや世界的に有名な観光スポットだ。

 

乗り換えで常に混んでいる広場の中を掻き分けながらハチ公像に近づく。

 

近くで見ると、小柄で可愛らしくも、雄々しく座る姿はまさに忠犬の名に恥じない佇まいだ。

 

………この完全な姿を、理雄は今まで見た事がなかった。

 

自分の世界にあるハチ公像は…………

 

 

 

 

 

首がなく------

 

 

 

 

 

残った部分もボロボロに錆び------

 

 

 

 

 

辺りには落書きが散りばめられていた------

 

 

 

『全てが破壊されていく情景の中…、お前も……最期は…ッ!』

 

 

その時、ダミアンの最期の言葉が脳内に甦る。

 

 

 

 

 

……俺は彼女らを守ると誓った。

 

 

 

 

 

……俺は彼女らに指し示した未来を輝かせたいッ、決して………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺達の世界の様にはさせない。

 

 

 

 

 

「あれ?理雄先生?」

 

背後からの声に振り返ると、みのりが両手に3段乗せのアイスを掲げていた。背後には同じ様にアイスを手にする3人が佇んでいる。

 

彼女らは昏い表情の理雄を心配そうに見つめていた。

 

「い、いや、ハチ公に忠義のなんたるかをご教示頂いたんだ、君達だけじゃなく俺もグレードアップしないとな!!」

 

普段は見せないような明るさを出し、ファハハハハ!と腹から笑って見せる。

 

それを見たみのり達はしばしポカンとしていたが、やがてみのりから順にクスッと笑い始める。

 

「変な先生…」

 

みのりがそう呟いた時…、

 

 

 

 

パキンッ-----------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ?これ…」

 

 

 

思わず呟いた理雄の視線の先には、細い金属片が散らばっていた。

 

首元に手をやると、下げていたロケットがない。

 

慌てて探すと写真が入った本体はすぐに見つかった。

 

だが、それに通していたチェーンがバラバラになっていた。

 

 

 

その時、彼方の記憶の情景が理雄の脳内で再生される。

 

 

 

 

『【契りのチェーン】?』

 

『うん、パートナー同士がお互いに肌身離さず身につけて、約束を破ったり欺いたりすると千切れてバラバラになるんだ』

 

『【破鏡】みたいだな…、けどそんなセンチなロマンチズム、俺には縁がないぞ?』

 

『そんな事ないよ!ほら、そのロケットに通してッ』

 

『分かったよ…、全く……、俺がお前を裏切ると思うか?』

 

『う〜ん、どうだろう…、リオ女好きだし変態だし……』

 

『甲斐性があると言えよ…』

 

『ま、できもしない約束した時くらいかな、これが千切れるの………ねぇ、リオは私を裏切らないって信じてるよ?けどリオには他にも大切な人がいるし、これからも沢山できると思うから、その人達も欺いたりしちゃダメだよ?』

 

『しねぇよ。分かってんだろ?-----------リリカ』

 

 

 

 

千切れたチェーンが元に戻る事はない。

 

 

 

 

無惨に散るだけだ。

 

 

 

※登場SCP

 

http://scp-jp.wikidot.com/slate-thunder

 

 

http://scp-jp.wikidot.com/scp-3199

 




 
 第3章、やっっっっと終わりました!!第4章に入る前に、意外と人気があった番外編やjoke incident編を何話か投稿します!

今後ともご愛読頂ければ幸いです!!
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