Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
その日は、作詞作曲が上手くいかず、練習にも集中できない日だった。故に、咲希の提案で何か良いインスピレーションが沸くよう、奇抜な催しをする事となったのだが…、
それが、日野森志歩がこなす羽目になった史上最低の任務の始まりだった…。
志熊理雄の自宅内は闇に包まれていた。外は既に陽が落ちており、室内の電気を消した今、周囲には暗闇がひしめき合っている。
「…ねぇ、ホントにやるの?」
「も、もちろん!きっと寒気と恐怖で想像力が吹き飛ぶよ…!」
部屋の中には心底嫌そうな顔で隣の人物を見遣る銀髪ショートの少女、日野森志歩がいた。
彼女の隣にいる薄くピンクがかかった金髪をツインテールにした少女、天馬咲希が笑顔で応えるが、その声は震えており、額にも冷や汗を浮かべている。普段は底抜けに明るい彼女だが、これから挑戦する事には、期待と好奇以上に、不安と恐怖を感じていた。
「咲希…、それ吹き飛んだら本末転倒だから…」
「うん、刺激を受けて想像力を掻き立てる為……だよね…?」
その2人に対面する様に座る少女-------星乃一歌と望月穂波は苦笑気味に言う。長く美しい黒髪が特徴的な一歌は普段は凛とした少女であり、穂波は穏やかで聖母じみた慈しみのある少女だが、2人とも表情には青みがかかっていた。
4人は座卓を囲み、中央部には鍋が置かれている-----------。
具材はそれぞれ持参してきた物だが、誰もソレの実態を明かしていない-------。
今から行われる儀式は、人類が長い歴史の中で、先人達がそれぞれ独自のアイデンティティとして進化させ、重宝し、伝統を受け継いできた数多の食文化を冒涜し、その先にある至高の根源へと至る為に行われる試練の道ッ……!所謂----------------------闇鍋である。
「でも残念…、リオせんせーが急に席を外すなんて…」
「仕方ないよ咲希、困ってる友達を助ける為だって言ってたし…」
悄げる咲希を一歌が宥める。
幼馴染4人の自宅にはそれぞれ他の家族がいる為、夜に実施するのは困難だった。その為、理雄との親睦を深める機会も込めて、彼の自宅マンションの室内で行われる事となったのだ。
当初は闇鍋パーティーの参加に激烈な拒絶反応を示していた志歩も、咲希から「リオせんせーもやるよ」と言われるや否や、「私も行く」と態度を180度変え参加を表明したのだが…
『悪い…、友達が面倒に巻き込まれたらしい。遅くなるから闇鍋は4人で楽しんでくれ』
…と、鍋の用意ができた直後に外出してしまったのだ。
「…ハァ」
小さく残念そうに志歩が溜息を吐く。
「シホちゃん元気出して!大丈夫!またお近づきになるチャンスはあるよ!」
「べ、別に私は……、あーもうッ、ほら、早く始めるよッ」
いつになく意地らしい志歩に苦笑しながら、Leo/needの少女達は持参した食材を入れていく。
流石にアレルギーや苦手な物はお互いに把握しているのでその辺は心配する必要はないだろう。
そして暫く煮込み----------------------いざ食す時が来た。
「……誰からいく?」
「…じゃあ、私から…」
一歌が勇敢に1番手を名乗り箸を取った。
そして自分の食器に掬った鍋料理…………と言えるのかどうか分からない得体の知れない食物を見る。
暗闇の中、見た目はあまり確認できないが、マトモな味がするとは思えない半固形状のソレを見遣る。妙に甘ったるい匂いまでするがどういう事なのだろう…。
湯気と共にゴポッと泡立つ様はこちらを嘲笑ってるように見えた。
唾を呑み込み、覚悟を決め『南無三ッ!』と内心で唱えて口に入れ込む。
瞬間、星乃一歌は涅槃境を観た。
背後から必死の形相のミクに何とか現世に引っ張り戻される。
「……ヴェッ…不味……」
「い、一歌ちゃん大丈夫!?」
意識が戻った直後、猛烈な吐き気に襲われ、穂波から受け取ったジュースで込み上げてきた物を無理くり流し込む。
「…ッハア!なに今の甘さ……」
己の味覚が一瞬死滅した感覚がした。両耳にシャーペンを突っ込んだ芸術家が作った様な料理に一歌は涙目でうめく。
その後も……
「…うッ!?ポテチ味のアップルパイ…」
自分が入れた好物がポテチに蹂躙された穂波が嘆き------
「い〜…、味噌味のチョコチップ……、シホちゃんの味噌ラーメンのせいだぁ……」
咲希がポテチと一緒に入れた甘いスナックが、味噌との激烈な化学反応により口内で最悪のハーモニーを奏で---------
「…グッ!?………ちょっと一歌ッ、焼きそばパンどんだけ入れたの!」
ただでさえビチャビチャでマズイ焼きそばパンが水を吸って膨れ上がり、鍋の中の大部分を占めていた。
その後も阿鼻叫喚の中、少女達の闇鍋惨禍は続いた----------。
*
「…ウップッ……、暫くお鍋は見たくない…」
「私も…」
「は、吐きそう…」
「私、お鍋がトラウマになりそう…」
三々五々にお腹をさすりながら闇鍋パーティーの感想をつぶやいていくLeo/needの少女達。
彼女達は現在、パジャマ代わりに理雄の私服を着込んでいる。
まだ帰らない理雄の自宅を開けるわけにはいかない、もとより合鍵も渡されていない。
連絡を取ろうにも、電話番号を交換していなかった…。
「でも良かったのかな?勝手にお風呂借りちゃって服まで…」
「大丈夫だよ!せんせーはそんな事じゃ怒らないよ!」
屈託ない笑顔で咲希がそう言う理由は、以前大雨に見舞われずぶ濡れになった時、理雄の自宅でシャワーと着替えを貰った事があるからだ。
「…それ、何か根拠あるの?」
すると話を聞いていた志歩が鋭い質問を投げかけてくる。
「…い、いや〜…、ほ、ほら!せんせーっておっきくて怖くて冷たく見えるけど優しいし、こっちをすごく気遣ってくれるでしょ?ね、いっちゃん!」
「え?あ…うん、そうだね」
志歩の視線に若干挙動不審になりながらも、咲希は隣に座る一歌に話を振る。
座卓と鍋を片付けた後のリビング中央には、大きめのIKEA製ソファがあり、4人はそこでドライヤーで髪を乾かしたり、スキンケア等をしながら各自くつろいでいる。
明日は休日であり、家族にはそれぞれお泊まりする連絡をしている。
まぁ、理雄の人間性からして、ここの生活設備を使って一晩を明かしても怒りはしないだろうと一歌は思う。
年頃の女子高生である身としては、体はできるだけ清潔を保ちたい。
使ったシャンプーは男物だっだが、これはこれで新鮮な感じがしたし、化粧水や乳液、洗顔用アルコールや洗顔泡等のスキンケア用品があるのは正直ありがたかった。理雄の体格は引き締まっており、着衣越しでも筋肉の強靭な厚みが見てとれる雄々しい体躯だが、顔立ちはどちらかといえば女性的で肌も綺麗だった。身嗜みにはかなり気を使っているのだろうか。
自分が着ている理雄の服の匂いをこっそり嗅ぎながら一歌はそんな事を思う。男物のシャンプーの香りは一歌にとってとても新鮮な匂いがした。服の匂いは男臭さ……とでも言うべき匂いがしたが、これはこれで悪くなかった。
4人が着ている服はどれも190cm用か195cm用で、着ているというか着られていると言うべき状態だ。
「…そう言えば、何か良い曲浮かんだ?一歌ちゃん」
「う〜ん……どうだろう、なんか全ての束縛から解放された気はしたから調子は戻ると思うけど…」
「焦る事はないけど、次のライブもあるんだから、みんなしっかり気を引き締めてね」
「うん!シホちゃんの味噌チョコチップのおかげで気が触れたように練習に励めるよ!」
「……ケンカ売ってんの?」
咲希を睨む志歩を「まぁまぁ…」と宥める穂波。
そんな中、ふと思いだす。
「あれ?キノコ持ってきたのって誰?」
「私じゃないよ?…志歩?」
「違うけど………あ」
志歩が何かを思い出したかのように呟く。
「どうしたの?シホちゃん」
「そういえば、理雄先生が用意してた食材だった………正直あれが1番マシだった…」
その言葉に全員が苦笑した。
「だよね〜、あのキノコ美味しかったから、アレがなかったら最後まで持たなかったかも…」
「どんな味にも合っていたからね、……そういえば、なんてキノコなんだろ?」
そう言って一歌は冷蔵庫からキノコを取り出してきた志歩を見る。
「さぁ…、暗くてよく見えなかったから…」
肩を軽く竦める志歩。
「そっか、……でもこうしてお泊まりするのなんか新鮮ー」
そう言って咲希はリビングのカーペットに寝転ぶ。
「咲希、行儀悪いよ」
「えへへ…、でも何だか久しぶりだよね、こうして皆んなでお泊まりするの」
「…そうだね、最後にしたの小学校の修学旅行だったかな…」
彼女達にとってこうして集まるのは、本当に久しぶりに感じた。……中学以降はすれ違いにより。言葉を交わす事すら殆どなかった。
だが、今はもう違う。
今後どんな困難があろうと、二度と……決して離れ離れになる事はない。
……私に勇気をくれたあの人に、いつか恩を返したいな…。
一歌はそう思いながら、大切な幼馴染達を見渡す。
「でも残念だったね、せっかくだしリオせんせーとも一緒にお泊まりしたかったなあ〜」
「……咲希?まさか…、理雄先生と一緒に寝たいとか思ってないよね?」
志歩が引き攣った笑みを咲希に向ける。
咲希は一瞬驚いた表情を見せたが、少し考える間を置くと…
「…う〜ん、私は別に良いかな〜、せんせーなら変なことしないだろうし…」
「さ、流石にそれは…、先生の事は信じてるけど……ねぇ…?」
倫理的な問題があると穂波は一歌に同意を求める。
一歌がなんと答えたものかと悩んでいると、「あッ…」と何かを思い出した様子の咲希がニマニマしながら志歩に視線を向ける。
「もしかしてシホちゃん………、せんせーと寝たかったの?」
「んなッ…」
咲希から放たれた衝撃の一言に、全員の視線が志歩に集中する。
「ちょッ…、違うから!咲希ッ、変な事言わないでよ!また適当な事を……」
「え〜!適当じゃないもん!!だってお風呂上がる時、凄いデザインの下着つけてたもんッ」
「ガッ……!」
今度こそ志歩は硬直した。
逆に周囲の興奮は最高潮に達する。
「志歩ちゃん…すごい…!」
「うん、なんか……大人の女って感じ…」
顔を赤くしながら感嘆の言葉を漏らす穂波と一歌。
恥辱に震えながら声も出せずに全身を茹蛸の様に熱くしている志歩を差し置いて、咲希は嬉々として色欲エピソードを続ける。
「ねぇ、いっちゃん…、志歩ちゃんが今着けてる下着について……、もう少し詳しく知りたくありませんか?」
ニヤニヤしながら咲希は一歌に問うてくる。
「うん!色は?デザインは?どこのブランドッ?」
何故か一歌は食いつき気味だ。するとハッと我に返った志歩が慌てて口を開く。
「待って勝手に話を進めないでッ、一歌も話に食いつかないでよ!咲希、いい加減にッ…!」
眦を吊り上げて睨んでくる志歩を意に介さず、咲希は口を開き------
「え〜とっねー、色は黒でレースが多くて、背中のお肉を胸に寄せられるようになっていて…」
-----------瞬間、志歩の血管がブチリッと切れる音がした。
やがて志歩は俯くとそのまま立ち上がり、ゆっくりとした足取りで玄関に向かう。
そこには、己のベースが入ったギターケースがあり、吊り革を掴み持ち上げると同じくゆっくりとこちらに戻ってくる。
「し、志歩ちゃん…?」
様子がおかしい志歩に対し、穂波が恐る恐る問いかける。
「…ねぇソウルベルグ……え?お喋り幼馴染の脳ミソが食べたい?仕方ないなぁ……フフ…」
怒りのあまり精神に変調をきたした志歩が傍のベースと会話を始める。
「ねぇ咲希?選んで…?」
「え?………何を…」
その時、志歩は顔に可愛らしい笑みを作る。
「だがら〜、死ぬか記憶を消されるか…………選んで?」
志歩の目が据わっていた。
身の危険を感じた咲希が顔を真っ青にして逃走に移り、志歩がギターケースを振りかぶりながら追跡する。
「ひぎゃあーー!犯されるーーッ!!シホちゃんのヘンタイッ、強姦魔ー!!」
「その口潰すッ、頭も潰すーーッ!!」
「待って志歩!楽器が壊れちゃうから!!」
「一歌ちゃん……心配するとこそこ…?」
リビングの中をグルグルと追いかけっこする2人の少女。火に油を注ぎながら泣き叫ぶ咲希を、鬼の形相で追いかける志歩。
一歌が的外れな心配をして、穂波は只々困難する。
ドタバタ走り回る一歌達の騒音に、下階の住人が怒り狂って家宝の槍を天井に突き刺し始める。
いよいよ事態が混迷を極めてきた。
しかし、すれ違いを乗り越えられたからこそ、この賑やかな光景が見られるのだ。そう思うと、自然と胸の内に温かい物が生まれる。
望月穂波は微笑みながら、何よりも大切な幼馴染達を見守った。
「咲希ッ、覚悟してて、アンタを素っ裸にひん剥いてシブヤで1番目立つ場所に吊し上げる!!」
「いゃあああああああ!!」
……そろそろ止めた方がいいかもしれない。
皆さん、お疲れ様です。唯尊です。
季節もだいぶ暑くなり、私もリアルの本業が勝負所になってきました。
さて、この様子だとかなり先の事になりそうですが、本作品『Project Sekai SCP incident feat.』と世界観を共通させたオリジナル小説を執筆予定です。
オリジナルの為、プロセカやSCPの話は一切登場しませんが、元々本作品はオリジナルの要素が強く、オリキャラとプロセカの既存キャラとの絡みが少ない傾向があります(今後増やしていく予定ですが)。
本作品はあくまで『プロセカとSCPのクロスオーバー』なので、オリジナル要素を組み込み過ぎると話が脱線しかねません。
そこで、オリジナルキャラクターやその他要素を『共通の世界観を持つ別作品』に投げ込む事にしました。
新作では本作の主人公、理雄達の世界が主な舞台になります。
彼らの世界を色々と考えてる内に作品1つ書けるぐらいのボリュームが出来てしまったので、今回の決断となりました。
といっても私、これから猛烈に大変な生活になると思いますので、この作品自体完結できるかどうかという問題があるのですが(笑)…。
本業は私の究極の欲(夢という言葉は私はあまり使いません)です。
その為の修行・経験として本作品を執筆していますが、全てが自分の力になると信じています。
また、この作品を通してプロセカやSCPに興味を持ってくれた方、ストーリーに共感し、少しでも活力をみなぎらせてくれた方には、日々心か
らの感謝を。
素人の物書きで申し訳ありませんが、是非今後とも応援いただければ幸いです。
新作には新たな主人公も登場します。
是非ご期待ください。
では、皆様に神と精霊の祝福がありますように。
唯尊