Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

48 / 83
番外編 幼馴染を救え!日野森志歩 史上最低の任務とその1日 PART3

 

 言いたい事は山程あったが、日野森志歩に選択肢などなかった。

 

メリッタとの通話を切り腹をくくる。

 

一刻も早く目の前の幼馴染(星乃一歌)を病院に送らなければッ…!

 

…が、

 

「…えっと、一歌?」

 

「しッ」

 

星乃一歌はこちらに向き口に人差し指を当てる。

 

彼女は窓のそばに張り付き、慎重に外の様子を窺っていた。

 

「何してるの?」

 

「お前にはアレが見えないのかッ?」

 

「アレ…?」

 

一歌に促され視線の先を見る。

 

「……あのお婆さんがどうかしたの?」

 

「いや…、ただの老婆じゃないッ…」

 

「…どういう事?」

 

ただならぬ緊張を放つ一歌につられて、思わず志歩も固唾を呑む。

 

「奴は凄腕のミーム殺害エージェント…、双六鬼女犬(すごろく きしょい)

だッ!」

 

「…は?」

 

「気をつけろ、奴はSCP財団から俺を殺す為に派遣された最強の暗殺者だ」

 

「…あのお婆さんが?」

 

「そうだ」

 

「買い物袋持ってテチテチ歩いてる腰曲がった人なのに?」

 

「アレは偽装だ。気をつけろ、奴はちょっと念じただけでゾウの首を捻じ切る能力を持っている…、ミーム汚染を防いでも安心はできないぞッ」

 

「……」

 

志歩は困惑するしかなかった。

 

SCP?ミーム殺害エージェント?…というかさっきから一歌の口調がおかしいのだが…まさか…、

 

「…ねぇ一歌?アンタの職業と身分を教えてくれない?」

 

まるで不審者に職質する警官みたいな物言いだが、今の一歌は不審どころの騒ぎじゃない。

 

すると一歌は「フッ…」とニヒルな笑みを見せ…

 

「俺は常闇から人類種を守る神盾………GOC(世界オカルト連合)『PHYSICS』 部門、排撃班9999【マックス・ダメージ】所属、コードネーム【焔鋼臥薪】------超重交戦殻戦士ッ、コンドラキ・アーネンベルゲンだッ!!」

 

「…………」

 

どうやら自分の名前も忘れてしまったらしい。

 

志歩は引き攣った笑みを浮かべながら出来る限り穏やかに接する。

 

「…ねぇいち……コンドラキ?悪い事言わないからさ?一緒に病院に行こ?」

 

日野森志歩は、自分の大切な幼馴染を病院に放り込もうとしている現実が悲しくて仕方がなかった。

 

「病院?何故だ?」

 

一歌……もといコンドラキ某は怪訝そうな顔で問い返す。

 

「ホラ…、頭とか脳とかの検査とか…、した方がいいし…」

 

泣きたかった。日野森志歩は、頭のおかしくなった幼馴染の脳に対し涙を禁じ得なかった。

 

自分が不甲斐ないばかりに、普段クールな幼馴染の脳を破壊してしまった事を、心の中で一歌の両親に詫びた。

 

「何故そんな事を言う?まさか……この俺を病院という密室空間で毒殺する気かッ?」

 

「しないから!あ〜もう、いいから早く行くよ!」

 

いい加減一歌のオカルトヒロイック妄想につき合えなくなった志歩は、強引に一歌を引っ張ろうとし…

 

「クッ…離せ!」

 

その時、一歌が志歩の手を払いのける。

 

「俺にはやらなければいけない事があるッ、何故かオレンジスーツがないが、俺はやり遂げてみせる!」

 

中性的…どちらかといえば男性的に雄々しく叫んだ星乃一歌は、何処ぞの世界的アクションスターよろしく窓を蹴り破り------落下した。

 

「ちょッ…、ここ14階!!」

 

志歩は慌てて窓際に駆け寄るが、時既に遅し。

 

見えなくなった一歌の安否を確認するべくエレベーターに向かう。

 

その際、リビングに倒れている理雄が視界に入る。

 

(ごめんなさい理雄先生…、でも私は、大事な人とまた離れ離れになりたくないんです!)

 

自分は彼に救われた。友との絆も…生命も…心も…。

 

そんな彼なら、今この状況で、起きていれば自分にこう言うはずだ、

 

『助けに行け』と…。

 

あの時、一歌は自分達の絆を繋ぎ直そうと動いた。

 

今度は……私の番だ!!

 

 

 

 

 

 

 日野森志歩がマンションのエントランスから飛び出した時、目に入ってきたのは------

 

「あらやだ自殺かしら…」

 

「やだ、ちょーウケるんだけど〜」

 

「写メ撮ってネットにあげてやんよ!」

 

「おかーさん!このお姉ちゃん今、空飛んでた!」

 

「しッ、見ちゃいけません!」

 

昼間からヒマそうな顔をした野次馬に囲まれる一歌だった。

 

--------うつ伏せで路面にめり込んだ状態で…。

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

近くに駆け寄ると、ピクリと一歌の体が動き、

 

「フ…!この程度で騒ぎすぎだ。大した事じゃない」

 

ガバッと勢いよく起き上がる一歌、すると周囲の野次馬から歓声があがる。

 

「おい見ろよ、すげー美人」

 

「イケメン系美少女…」

 

「やばい、アタシくらっときたぁ…!」

 

確かに一歌は美人だ、自分もそう思う、思うのだが…。

 

「ねぇ……足が変な方向に曲がってるんだけど…?」

 

「気にするな」

 

「気にするでしょ普通ッ、ていうか大丈夫なの!?」

 

「ハァ…、分かった分かった、こんなものすぐに…」

 

一歌は己の足を無造作に掴むと…

 

【肉と骨が軋む怪音】

 

「な!」

 

 よく分からないが治ったらしい。

 

「…いや、痛くないならいいけど…」

 

むしろあの高さから落ちてよくこの程度で済んだ物だ…と、志歩は不思議に感じていた。

 

 いや、それよりも病院だ。

 

「ねぇ一歌?無事なのは良かったけど、大事をとって病院に行かない?」

 

「……病院?俺がおかしくなってるというのか?俺が病気?俺が怪我?俺が弱ってる?故障してる?リアリィッ??ありえない。俺は無敵、故に!痛覚はなく怪我や病気とも無縁ッ、アイ・アム・ザ・レッッジェンド!!!!」

 

完全に頭がハッピーになっている。無事ではなかったらしい。

 

「さて、俺はこれから任務に向かう、さらばだ!」

 

「え…ちょ!病院!病院!」

 

走り出す一歌を慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

走り続けた先にたどり着いたのは、我らが母校、宮益坂女学院だった。

 

「え…ここ?」

 

隣で校舎を睨みつける一歌を見遣る。

 

「そうだ、ここが敵の戦略的重要拠点だ」

 

一歌は何かの覚悟を決めた表情をすると、ずかずかと校内に入っていく。

 

(まぁ…、流石に学校ならそこまで変な事…)

 

 

 

 

 

 

 

------ズダァンッ!!

 

「キャァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

突如聞こえた銃声に呆気に取られる。

 

(嘘…だよね?まさかそんな……)

 

冷や汗をかきながら校門前に立ち尽くしていると、玄関から1人の女生徒が血相を変えて飛び出してくる。

 

「し、しぃちゃんッ!」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

飛び出してきた少女------日野森雫は、普段は儚い雰囲気を纏った美人なのだが、今は恐怖と困惑で顔を真っ青にしている。弓道部の朝練に参加していたのか、彼女は今、弓道着姿だ。

 

「一歌ちゃんが突然職員室で銃を…!お願い、あの子を止めて!」

 

「はぁぁッ!?」

 

パニック気味の雫に手を引っ張られながら、校内を2人で駆ける。

 

まさか一歌が今のを…?

 

いや、そんなバカな、きっと見間違いだろう。黒髪ロングJKなんてどこにでも…。

 

そして職員室につき、横扉をガラッと開けると------

 

「いいかッ!少しでも顔を上げたら頭を撃ち抜くぞッ!!」

 

職員机の上で獰猛なフォルムを持つS&W社製、M300リボルバーを頭上に掲げて怒鳴る一歌がいた。

 

どこで手に入れたのか、目元にかけている安物のサングラスも相まって、完全にB級映画の悪党である。

 

よく見ると足元には踏んづけられた教頭先生が呻いている。

 

一歌はその足を退けると、目の前に皮製カバンを放る。

 

「その中に学校にある全ての金を入れろ!!そして理事長も呼ぶんだ!」

 

周りの教員達は優しい生徒の変貌ぶりに慄いていた。

 

「ほ、星乃さん…どうして…」

 

「黙れ!貴様から射殺されたいかッ!?」

 

「ひぃぃぃッ…」

 

教頭は慌て理事長室に向かう。

 

暫く呆然と立ち尽くしていた志歩だが、やがてハッと我に返り、あわて一歌に詰め寄る。

 

「ちょっと一歌!何してんの!?」

 

するとこちらに気付いた一歌がこちらを一瞥する。

 

「何って…活動資金を頂戴してるんだが?」

 

何食わぬ顔でそう言い放つ一歌に対し、志歩は顔を覆った。

 

「…ねぇ、一歌の目的って何?」

 

「エージェント・アーネンベルゲンと呼べ、女ランボー志歩」

 

(何、女ランボー志歩って!?)

 

「俺の目的は、ここから財団の収容オブジェクトを密かに破壊する事だ。コレはそのついでだ」

 

強盗をついでって…。

 

というかさっきから何なのだ財団って。

 

「っていうか、その銃どこで手に入れたの?」

 

志歩は一歌が手にするM300を指差す。

 

「これか?あの変態厨二病野郎から奪った」

 

「はぁ??」

 

訳が分からなかった。理雄先生があんな物を?そんなバカな…。

 

その時、一歌の背後ににじり寄る大きな影に志歩は気付いた。

 

宮女で1番の嫌われ者、体育教師の舞祭狗美幸だ。

 

大柄で横幅が広く、目は細い割に唇が分厚く冷酷な印象を相手に与える容姿、それ以上に横柄な振る舞いと自尊心が強い性格は、彼女を『宮女史上最低の教師』と言わせるには十分だった。

 

そんな女が、背後から一歌を取り押さえようとしている。

 

この世で自分が生理的に最も受け付けない生物が、一歌を…

 

「一歌ッ、危ない!」

 

気がつくと志歩は、近くの机の上にあったセロハンテープの台を掴み取り、舞祭狗教諭の顔面めがけて投げつけていた。

 

「ぶべらッ」

 

「!」

 

背後に迫る脅威に気付いた一歌が、振り向き様に後ろ回し蹴りを顔面に刺す。

 

「じゅびッ…」

 

セロハンテープ台が鼻に押し込まれ、顔面が陥没。

 

後方に蹴り飛ばされ、机と椅子の何台かを巻き込み無様に昏倒した。

 

「助かったぞ女ランボー志歩!危ない所だった」

 

「え、あ…」

 

思わず助けてしまったが、これではまるで…、と嫌な予感を感じた。

 

「ひ、日野森さん!貴女もこの強盗に関わってるんですか!?」

 

「え」

 

見れば5m程向かいの机の下に隠れている痩躯の女性教師が、震えながらこちらに向かって叫んでいた。

 

どうやら今ので、自分を『一歌と愉快な強盗犯たち』のメンバーの1人にカウントされてしまったらしい。

 

「しぃちゃん…」

 

震えた涙声が聞こえ、ギョッとして背後を振り返る。

 

とてつもなく悲しそうな表情の日野森雫が涙目でこちらを見つめていた。

 

「わ、私…そんな、しぃちゃんの事信じてたのに…、う、うぅ…」

 

溺愛していた妹の変貌に耐えられなくなったのか、雫がついに泣き出してしまう。

 

そんな姉妹の決裂を見て、星乃一歌は嗤う。

 

「フ…、お前も中々にえげつない女だな、女ランボー志歩。実の姉であろうとその心をクソのついた足で踏み躙り、容赦なく切り捨てるその残酷さ!……嫌いじゃないぜ…」

 

「やめて!私を最低の極悪人みたいに言わないで!!」

 

「謙遜する事はない、今やお前の残虐性は万世が知る所だ」

 

何が愉快なのか、星乃一歌は高らかに哄笑しながら、机の上で職員全員に声を飛ばす。

 

「いいか良く聞け!次またおかしなマネをしてみろ、ここにいる女ランボー志歩がお前達を嬲り殺しにするぞ!!言っておくが、この女の精神状態は人間には計り知れない程異常で、愛も平等もなく、性に無関心で他人の痛みに鈍感で殺人嗜好症の社会病質者であり、口では『ただ殺したいだけ』なんて嘘を平然と吐きながら、精神的苦痛と肉体的苦痛を万人に与える為だけに存在している、ポル・ポトも立ったまま失禁する程の真の三国無双、天下無敵の女だッ!!」

 

「だから私を変にキャラ好きするのやめてよッ!」

 

「ファハハハハハハハッ!女ランボー志歩……お前は野獣だァ……!見境なく鋭い牙を生きた動物に突き立て、肉を引き裂く感触に愉悦と興奮を覚え、凶悪な狼の様にひたすら血を求める様は、まさに鷹視狼歩の野獣ッ!!」

 

「うっさいッ!女を野獣呼ばわりしないでよッ!!」

 

一歌の傍若無人ぶりに志歩は絶叫する。

 

そんな中、周囲の教師達は…

 

「あ、悪魔だわあの子…」

 

「きっとヒトラーの生まれ変わりよ…!」

 

「なんであんな子をウチに入れてしまったんだ…」

 

この時点で日野森志歩は、宮益坂女学院にて物理的かつハードな意味で居場所を失ったのだった。

 

そうでなくとも大犯罪の立派な共犯である。

 

いよいよ志歩の逃亡生活の始まりかと思った時…

 

「ほ、星乃さん!?これは一体どういう事ですか!」

 

見てみると、丁度職員室に入ってきた理事長が泡を食った様子で叫んでいた。60を超えた穏やかな壮年の女性だが、背はしゃんと伸びている。

 

すると一歌は悪辣な笑みを浮かべて机から降りる。

 

「理事長、貴様には収容している全てのオブジェクトを出してもらおう」

 

「な、何を…言って…」

 

「惚けるな!ここに財団の重要な何かがあるのは分かってるんだッ、オブジェクトじゃなくても、『マリア・ジョーンズのパンツ』とか、『アルト・クレフ博士の精液研究論文』とか、そういうの色々あるんだろ!?多分!」

 

「た、多分って…」

 

あまりにもテキトーすぎて言葉も出なかった。

 

というか、名前からして明らかに貴重さのカケラもない物品のような…。

 

呆れた眼差しでその様子を見ていると、理事長が驚きの表情をみせる。

 

「ど、どうしてそれを…!?」

 

「…え?」

 

予想外の反応に志歩も驚く。

 

「隠すのは無駄だ、さぁ……生命は大事にしろ、案内してもらおうか」

 

「は、はい。こちらです…」

 

理事長がどこかに案内を始める。

 

予想外の展開に置いてけぼりを食らわないよう、急いで2人の背中について行く。

 

歩く事数分、理事長室に入った3人は、大量の書籍が詰まった本棚と対面した。

 

理事長はその中の一冊、『里見八犬伝物語』の第三巻を手前に引くと、本棚の奥からガチャリと解錠される音が聞こえてくる。

 

理事長は本棚を奥に軽く押すと、下に隠れていたレールの上をギギッと重々しい音をたてながら、本棚が扉と化し------

 

「嘘でしょ…」

 

まさか理事長室に隠し部屋があるなんて…

 

チラと一歌を見てみると、予想通りの現実を目にし満足そうだった。

 

「さぁ、行くぞ」

 

中に入ってすぐに階段が現れ、暗い地下に降りていく。

 

暫く降りると、真っ白い清潔すぎる空間が現れる。

 

「何…ここ…?」

 

換気と冷房が効いた最新設備が充実した部屋は、とても年季のある伝統校とは思えなかった。

 

一体ここは…。

 

すると理事長が電子錠が施された隔離室の前に立つと、懐から出したIDカードらしき物を認証パネルにかざす。

 

比較的軽い単調な機械音が扉から響くと、空気を薙ぐ音と共に素早く開かれる。

 

「…トマト?」

 

見れば、隔離室には無機質な植物栽培プランターが置かれており、換気フィルターからは室内を適度な温度・湿度に保つ為に生暖かい風が流れ込んでいる。LED植物育成ライトに照らされているプランターにはトマトが育てられている。

 

「これが…、一歌の言う重要な物?」

 

「そうだ」

 

短く答えてくる一歌。

 

しかし、志歩にはこれが一般的な普通のトマトにしか見えなかった。

 

自分がよく使うスーパーに売られている物や、園芸部の生徒達が育てているトマトとなんら変わりはない。

 

「理事長、本当にこれが『批判的なトマト』なのか?」

 

「はい、研究の一環としてここに保管された【SCP-504】の一つです」

 

 (…?)

 

 

なんの話をしているのか志歩には理解できなかった。この状況も、目の前のトマトもだ。

 

理事長は一体何者なのだろうか?

 

そんな困惑を隠せない志歩を無視して、一歌と理事長は会話を続ける。

 

「本物か?怪しいから試してみろ!」

 

「え!?いや、それは…」

 

何故か理事長が口籠もる。まるで怯えているようだ。

 

「チッ…、もういい俺がやる」

 

苛立った様子で一歌がトマトに向き合う。

 

一歌は一呼吸を置き、そして------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「------星乃一歌は、焼きそばパン中毒じゃないッ!!」

 

瞬間、プランターに実っていたトマトが一個、茎を引き千切る様に躍動し、一歌に向かって剛速球となって飛んでいく。

 

「…え」

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 

当然である。最低でも時速160kmを超えるトマトを志歩が目で追える訳がない。

 

赤いリコピンの詰まった弾頭は、狙い誤たず一歌に命中した。

 

「ルガッ…!」

 

背後に噴き飛ばされた一歌は隔離室の扉を破り、白い壁に叩きつけられた。

 

「い、一歌!」

 

慌てて壁にめり込んだ一歌を引っぺがす。白眼を剥き泡を吹いていた。

 

「ち、ちょっと…、しっかりしてよ!?」

 

まさか今度こそ死んだのでは…!

 

------ガバッ!

 

「ハハハッ、大袈裟だなエージェント・志歩!この程度でくたばる俺ではない!!」

 

何だか司みたいな復活の仕方をする一歌。

 

(また呼び方変わってるし…ていうか…)

 

「ねぇ……腕が変な方向に曲がってるんだけど…?」

 

「あぁ、これなら------」

 

【骨と肉が断裂する絶望的な異音】

 

「な!」

 

「いや、痛くないならいいんだけど……って、そんな場合じゃない!」

 

ポケットからスマホを出す。時刻を確認すると残り1時間を切っていた。

 

このままでは一歌は一生クルクルパーに…

 

「一歌いくよ!」

 

「ど、どうしたエージェント・志歩!?」

 

一歌の腕を引っ張って地下の階段を登り、校舎を飛び出す。

 

去り際、日野森雫は裏切られた様な顔をしていた。

 

 

 

 

 歩道を走る二人の少女、星乃一歌と日野森志歩は1番近い病院を目指して駆けていた。

 

徒歩じゃ間に合わない。バスや地下鉄は論外だ。一歌という燃料気化爆弾を人間が敷き詰まった空間に放り込む真似ができようか。

 

残された手段はタクシーしかない。

 

志歩は大きく右手を挙げる。

 

「タクシー!」

 

 

 

 

 

小坂井初雪は、この世界の表にて、タクシードライバーの職を渡された。

 

運転は別に嫌いではない、ただ無口で淡泊な自分が客を運んでいる所を妻が見たらどう思われるだろうか。

 

『いや〜、私としてはキミが誰かに接待するなんて想像もつかないな〜』

 

自分より1つ上の彼女は、きっとこんな風に飄々と評するだろ。

 

まぁ、なんて事はない、いつも通り普通に、マニュアル通りにやるだけだ。タクシージャックでもされない限り脇のフォルスターの銃を抜くこともない…。

 

その時、大きく手を振る銀髪の少女が見えた。

 

客か…と道路の傍に詰める。

 

 

 

 

 

(よかった…、捕まえられた)

 

ホッとした。後は一歌を病院まで…

 

「止まれ!殺すぞッ」------ズダンッズダンッズダンッ【発砲】

 

その時、タクシーの正面に立ちはだかった一歌がフロントガラスに50口径の拳銃弾を3発撃ち込む。

 

途端に急ブレーキを踏んだドライバーが必死の形相でハンドルを執るのが見えた。

 

耳をつんざめく音を出して急ターンをして3回転スピンしながら真っ白タクシーはそのまま逃げ去っていった。

 

「ちょっと!何してくれてんのッ!!」

 

唯一の希望を銃撃で破壊した本人に噛み付く。

 

「何ってカージャックを…」

 

「もういいッ!あ〜…、もう…バカ…」

 

半泣きだった。消え入りそうな声で蹲る志歩の脳内には、クルクルパーになったままの一歌との未来がありありと浮かんだ。

 

【クルクルパーになった一歌】『志歩〜、焼きそばパンの具材になって〜』

 

【笑っちゃう位クルクルパーになった一歌】『ごめ〜ん、志歩のベース歯で弾いたらおじゃんになった〜』

 

【メガトン級にクルクルパーになった一歌】『会場を盛り上げろって言われたから火をつけといたよ〜』

 

 

 

 

……冗談ではなかった。

 

想像しただけで脳が焼き切れそうだった。

 

そんな苦悩に囚われている志歩を無視して、再び時の災厄こと、星乃一歌が動いた。

 

「よし、次の拠点を襲撃するぞ!!」

 

彼女が次に襲撃宣言をしたのは、目の前に佇む大型ホテル『宮益坂プラザホテル』だ。

 

一体今度は何をするつもりなのか…。

 

(…そうだ、これなら…!)

 

おそらく、これが最後のチャンスだ…!

 

 

 

 

 

 

「…あの、お客様…?」

 

「大至急、ここの支配人に取り継いで欲しいんです」

 

「えぇと、私めが支配人ですが、お客様方は…」

 

このホテルの支配人を務めて今年40年なる、三好諌は困惑を隠せなかった。

 

長らく大勢の客を見てきた諌は、どんな客だろうと完璧に対応できる自負があったが、自分と同じくらいの身長の女子校生の要求…というより…

 

「あの〜、お客様の後にある物は〜…」

 

「気にしないで」

 

「いや、後のゴミバケツは一体〜…」

 

「気・に・し・な・い・で」

 

「そんな事言われても、さっきからゴトゴト音が…」

 

諌の目線の先には、明らかに何かが入ってるとしか思えない汚いゴミバケツが揺れている。

 

やがて観念したのか、志歩は説明する。

 

「この中に入っている子をすぐに病院に運びたいんです。車を出して貰えませんか?」

 

「そ、それはどういう…?」

 

「この中の子は………危ない人なんです!!」

 

「いや、だからどういう…」

 

「お願いします。何も聞かずに力を貸してください。こんなでも私の大事な人なんです」

 

「い、いきなり言われましても…」

 

「…でしたら、直接この子の状態を見て下さい」

 

見せたくはないが、この際仕方がない。

 

覚悟を決めゴミバケツの蓋に手をかけ------開いた。

 

パカッ------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニュッ------「やぁ、君は妖怪『だるまさんが殺しちゃう像』を知ってるかい?一瞬目を離しただけで首をへし折りにくる彫像なんだけど、瞬きしただけでも高速移動で襲ってくるんだ。これはある秘密結社では【SCP-173】と呼ばれていて------」

 

バタンッ------

 

 

「ね??」

 

「いやはやこれは…酷いですな…」

 

思わず目頭を揉んだ。確かにコレは一刻を争う事態だ。

 

「…分かりました。この三好諌が一肌脱ぎましょう」

 

一族そろってゴールド免許、御年80歳、ぶっちゃけそろそろ免許返納した方がいいと思っていたが、彼女らの為に車を出す事を決意した。

 

 

 

 

 

 

 『シブヤ中央総合病院』手前で降ろしてもらった2人は、全力で疾走していた。

 

残り1分------!

 

「おーい!コッチだぁ!!」

 

向かう先の扉前には、こちらに両手をふる長身の女性がいた。

 

声からしてあれがメリッタなのだろう。

 

扉前に辿り着くと、メリッタは傍に置いてあったケースから薬品の入った圧力式注射器を取り出す。

 

「下がるんだ!」

 

叫ぶや否や、一歌の首筋に注射器を当て------注射。

 

「ぐ……あぁ!」

 

短い悲鳴を残して、一歌は意識を失う。

 

「ちょっと、大丈夫!?」

 

倒れた一歌を志歩が揺さぶると、やがて目を開き------

 

「し、志歩……?」

 

「一歌!ねぇ、自分の名前分かる?アンタは何者!?」

 

「えっと…私は、星乃一歌、宮益坂女学院の1年生で、志歩の幼馴染……って痛った!何コレ!?腕と足が折れてるッ、まるで高い所から落ちて時速160kmのトマトにぶつかった様な…」

 

どうやら治療薬が効いたらしい、よかったと胸を撫で下ろす。

 

「一歌ちゃーん!」

 

「いっちゃーん!」

 

すると院内から先に運ばれた穂波と咲希が現れる。2人共一歌の身体を見てギョっとする。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「う、うん…、けど、1人じゃ動けそうにないかも…」

 

「大丈夫!私達がついてるよ!ほなちゃん、私と一緒にいっちゃんを運ぼうよ!」

 

「うん!じゃあ私は右に…」

 

咲希と穂波は2人で力を合わせて、一歌を病院内に運んでいく。

 

志歩はその光景を眺めながら安堵の溜息を吐いた。

 

 

 

 

まったく…、どうして彼女らといるとこうも騒がしくなるのか…。

 

 

けど、どうしてだろう…。

 

 

…今日みたいな最低な1日も、消える事のない思い出となるだろうと確信していた。

 

 

※出典 http://scp-jp.wikidot.com/scp-504

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。