Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
第四十二話 くだらない夢
志熊理雄は歩いていた------。
赤く灼けた大地を---------------。
上を見上げると、見渡す限り空が燃えていた。
漆黒に染まった雨雲はやがて絡み合い、大気の摩擦で雷を起こし始める。
暗く重い世界に、黒い雨が降り始めた。
……誰もいない、あらゆる生命が死に絶えた世界。
それが-----------物心がついたばかりの自分を歓迎した世界だった。
それでも、自分は確かにこの世で生まれ、重苦しい空気を肺に取り込みながら、生きてきた、------生き続けた。
『なんの為に-------?』
ふと声が聞こえた。
後ろに振り返ると、10代半ばの女性がいた。
…忘れる筈がない、自分がよく知る…愛しい顔の少女。
『リオは何の為に生きてるの?何の為に生き続けているの?』
-----------負けたくないからだ。この世界に負けて、世界に虫ケラ同然に終わらされるのが許せないからだ。…お前たちの様に。
『------嘘つき』
少女は嗤う、冷たく------呪う様に。
『私を守るために…、一緒にいる為に生きるって約束したくせに』
-----------お前は死んだ。どれだけ願おうと二度と会えない。……どのみち、約束を果たせなかった俺には、もはや自分の為だけにしか生きられなかった。
『死んで…………会いにきてくれないの?』
-----------お前を殺した世界が、神が、天国や地獄なんて大層な物を用意する訳がない。
『------フ…フフフッ…』
少女は嗤う、嗤い続ける。
『…ねぇ、もう一度聞くね?何の為に生きてるの?』
-----------自負心と自尊心……だった。
『貴方のちっぽけな誇り以外に、何か理由があるの?』
-----------守りたい人達が出来た。今度こそ……死なせたくないッ…。
-----------だから抗ってんだッ!!
その途端、少女が笑みを消す。
------顔が死人らしく冷たく白く-----血に塗れながら、凍りついた憎悪の瞳を向けてくる。
『------滑稽だね』
彼女はゆっくりとこちらに歩いてくる。
ビチャリ…ビチャリと、歩く度に鮮血が足元で跳ねる。
『貴方はあの子たちを、私達に重ねてるだけ…。貴方は------また繰り返す。私達の様に』
すると、背後から別の気配を感じる。
『アンタは------志熊理雄は、女がいないと生きていけない。だからアンタは代わりを見つけた、新しい世界で』
見れば同じような死人が、こちらを怨嗟の形相で睨みつけていた。
------これもまた、よく知る幼馴染の1人によく似ている。
『アンタはリリカが死んだ後、別の女を求めて私を…私達を求めた…』
ふと気づけば、その背中から3人目の幼馴染が姿を見せる。
『アナタは慰めて欲しいダケ、その為に女を利用スル…、あの子タチも、イヤラシイ目で見てるダケ、死んダラ……乗りカエる』
かつて、自分がこの世で何よりも大切だっだ幼馴染達が、自分を否定し、侮辱してくる。
だが、驚く程自分の心は動じない。
------当然か、死人は何も感じない、愛も…憎しみも…悲しみも…死は何も生まない。あの世なんて物はなく、死の先にあるのは永遠の闇と虚無だけだ。死んだ彼女らが何を想い、感じ、こちらに伝えてくるというのだ。
それが志熊理雄の死生観であり、哲学であり、宗教なのだ。それを解ってるが故に、彼女らが自分を恨む事などあり得ない。
……恨みでも何でもいい、また会いたいとどれだけ願って、祈って、叫んでも……死者は生き返りもしなければ、想いを伝えてくる事もなかったのだから。
------だから、コレは夢だ。
くだらない……滑稽な夢…。
-----------何も感じない死人が…、見てくれだけを模倣したカカシが、一歌達を侮辱するんじゃねぇよッ。お前らはリリカ達じゃない、その姿で、その声で俺の大事な人を騙るなッ------。
『…そうでしょうか?」
その声が聞こえた時、呼吸が止まった。
声の主は死者ではない、生者の声だ。
…後にいる、だが……。
『……どうしたんですか?こっちを見て下さい。あなたの妹ですよ?』
全身が、魂が彼女を見るのを拒んでいた。
『……酷いですね、私を抱いておいて、酷いです…』
悲しそうな…、それでいて凛とした声音が耳に侵入する。
生者はその身を持って、全てを感じ、果たす事のできる。
故に……彼女は自分を------。
------ポスンッ…。
その時、背中に柔らかい物が触れた。
目線を下に向けると、細い両腕が胴にまわされていた。
自分は背後から抱きつかれている。彼女に、(ノイズ音)に…。
『あなたが1番苦しんでいる時、私はあなたに全てを捧げた。あなたの事を誰よりも、1番知っていて…、1番好きだったから。だからリリカさんと結ばれた時も、ツラかったけどお二人を祝福したんですよ?リリカさんが死んで…、絶望していたあなたの求めに応じたのも…』
やめろ……やめろ…。
『それでもあなたは、(ノイズ音)さんとも関係を持っていて、最後には(ノイズ音)さんと結ばれた』
頼むッ、それ以上は……。
『私はあなたの幸せが1番ですから、あなたが笑顔になってくれればそれでいいんです。なのに…』
胴にまわした両腕が絞められる。
華奢な肩と腕からは考えられない怪力に、思わず恐怖を感じ…震えた。
『結局、あなたは何も守れなかった。全てを失って、全てが壊れた世界で1人ぼっちになった私をあなたは見捨てた。傍に居てくれるだけでよかったのに…、ちっぽけな誇りの為に、自己顕示欲の為にあなたは私を無視して踏み越えて-----捨てた』
砕けそうな心が震え-----落ちた。
理雄の絶叫は世界を裂き、自分を殺した-----。
そして-----彼女が嗤う。
『そんな事しておいて、これ以上他の女に色目を使うとか----------許せる訳ありませんよ、兄さん?』
冷たい美声が、裂かれた世界を凍りつかせ-----砕いた。