Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第五話 集り始める剣たち

 

 モールでの事件の後。志熊理雄は自宅から車を走らせた。一歌達をそれぞれの自宅に送るためだ。

 

「「.........」」

 

車内は終始無言だった。無理もない、人質事件に巻き込まれた挙句、

凄惨な殺人の瞬間まで目の当たりにしているのだから。

 

 

あの後、警察と救急車が駆けつけ、男の死体回収とは回収され現場は確保、封鎖された。

 一歌達は救命士から簡単な診察を受け、軽いショック症状があるが特に問題ないと診断された。理雄は警察から事態に深く関わった人物としてその場で事情聴取を受けたが、あの男に関しては何も情報を得られなかった。聴取していた刑事に聞いてみるとギクッとした表情をして黙りこんでしまい。最後は「御協力感謝致します。」と言われて解放された。

 

 

一歌達が心配だった理雄は先に帰宅して車を取りに行き、一歌達を送っていた。

 

 周囲の景色はすでにもう暗く、車内は恐ろしさほど静かだった。途中車を停めて自販機でペットボトル飲料を買い一歌達に配る。陰鬱な空気を払うべく、車内にミクの新曲を流す。綺麗な歌声が闇を消し払うように一歌達の表情が段々マシになってきた。

 

「...今日はゆっくり休むといい。」

 

理雄は静かに切り出した。一歌達がゆるりと首をこちらに向ける。

 

「こんな時に聞くのもなんだが...、すれ違いは乗り越えられたかい?」

 

「はい...。」

 

「良かった...、強い絆はそこにあったんだ。俺も嬉しいよ。」

 

一歌が微笑する。他の3人も小さく、されど心から嬉しそに笑う。

<教室のセカイ>の屋上でお互いの想いを伝えあい、再び一緒にいられるようになった4人はその後モールで遊んでいたのだが、突然現れたあの男に志歩が羽交締めにされ人質になり。あのような事になったらしい。

 

「君達を見ていると懐かしくなってくる...。」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ...、優しくて面白い俺の幼馴染達だ。」

 

理雄は密かに好意を抱いていた(無論いつの日かに思い出してしまったクズとカスとゴミ某ではない。あの醜い有機生命体どもは見つけ次第

高射砲で殲滅すると心に誓っている)元の世界にいる幼馴染の少女達を思い出す。その1人、実際に交際していた少女をの声が脳裏をよぎる。

 

 

 

 

 

 

(リオなら大丈夫だよ。私の好きなその強さが困難を打ち砕く。)

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

その少女にはもう会えない。それはここでも元いた世界でも同じ事だ。

 

 

 

 

彼女が好きだと言ってくれた強さを失いたくない。それが志熊理雄を剣たらしめる重要な想いだった。

 

 

 穂波、咲希、一歌を送り届けた後、最後に志歩を送る。

今日の事件で1番ダメージを受けたであろう彼女は自宅に着く頃にはある程度口をきけるようになっていた。 

 

「あの...」

 

志歩は理雄にあらためて向き合い一礼する。

 

「今日は助けていただき本当にありがとうございました。」

「ん...、あぁ。」

 

理雄は曖昧な返事をする。彼女の暗い表情がどうにも気がかりだ。

 

「御両親はいるかい?今夜は誰かと一緒にいた方が良い。」

 

「姉が一緒にいてくれると思います。...ちょっと過保護かもしれませんが」

 

志歩が苦笑いする。

 

「何かあったら、いつでも相談にのる。必要ならカウンセラーをつけよう。じゃあ、また...。」

 

「......」

 

車に戻ろうとした時。「...あのっ!」と声をかけられる。

振り向くと少し躊躇いがちな様子で志歩は言う。

 

「...もう少し話せないでしょうか。一歌や咲希から先生の事聞いていて、私も少し話したいんです。」

 

志歩はまっすぐに理雄の目を見て話すが、よく見ると彼女の手は震えていた。自分を助けてくれた大人をもう少し頼りたいのだろう。

 

「......わかった。」

 

少し考えた後、理雄は日野森家にお邪魔することにした。

 

 

 

 

入ってすぐに彼女の姉が志歩に抱きついた。涙目で志歩に怪我はないか、大丈夫かと質問攻めにされている志歩を理緒は驚いた目で見ていた。その後、志歩の両親に挨拶し今回の事件と彼女の心身の健康面について話し合う。両親は深く頭を下げてきた後、志歩としばらく話し合わせて貰えた。

 

志歩の部屋にお邪魔した理雄はゆっくりと彼女の話を聞く。中学の時、クラスからハブられ孤立していたこと。自分だけじゃなく幼馴染達のことまで悪く言われるようになり、巻き込ま無いように自分から一歌達から離れた事。屋上から見守りながらまた一緒にいたいと想っていた事。

咲希がきっかけでバンドを組むようになった事。穂波とぶつかり喧嘩した事。そして今日、ようやくずっと一緒にいられるようになった事を話した。

 

彼女の想いを聞いた俺は一言、されどしっかり労いの言葉を伝える。

 

 

「君は頑張ったよ。本当に、大変だったな」

 

 

 

 

 

「...はい...!」

感極まった彼女は涙を流しながら嗚咽を堪える。理雄はハンカチを差し出す。

 

「一歌が言っていました。先生の言葉で一歩を踏み出す勇気をもてたって、本当にありがとうございます。おかげで私達は一歌にまとめられたんです。」

 

「そうか...、よかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に良かったよ!俺の高校生活の時と違って君は友人に恵まれている!ドラッグのやり過ぎで脳みそが木星まで飛んでったロン毛野郎もいなけりゃ、ゲームに課金するために俺のクレジットカード乗っ取ったカスもいないし、「見ろ!!これはプロメテウスの火だ!!奴が磔にされる前にぶんどったこの神々の炎を大親友のお前に捧げてやる!!はっぴーバースデー!!!」なんて血迷った奴に俺と俺の家に火をつけられそうになったこともない!君は素晴らしい友人に囲まれて輝いて生きている!素晴らしきかなキミの人生!ハレルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥヤ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の想いを大事にするんだ。君も星乃さん達も輝ける」

 

志熊理雄は思わず口にしそうになった本当の想いの酷さに吐き気を覚えたので、鉄で出来た聖人の笑みの仮面と共にその想いを封印した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 その後、志歩の姉である雫にも礼を言われ。午後8時前には日野森家を出た。帰り際、姉妹から「理雄先生」と呼んで良いかと聞かれ承諾した。理雄はこの世界の人間たちと絆を結びつつあった。

 

 

 

 

自宅に着き。理雄は自室のベッドの下からガンケースを取り出す。

ケースを開き、スプリングフィールドアーモリー社製XDM 4.5を取り出す。40口径モデルのこの銃は十分作動し、40S&W弾も60発ある。

それと状態の良いAKMが一丁見つかった。しかし弾薬が見つからない。財団の管理ナンバーが掘られていないあたり外部、おそらくブラックマーケットで手に入れたのだろう。よく見ると「東ドイツ1976年製」と書かれていた。

他にはM26破片手榴弾2発、ベーグライト製AKマガジン6本、ロシア製チェストリグ1着。アメリカ製M81ウッドランドパターンBDU1着、

サバイバルナイフ一本のみだった。ボディーアーマーは見つからなかった。

 

この時の志熊理雄は兵士の目をしていた。宮女の客員講師ではなく必要ならありとあらゆる非道を許容し敵を切り裂く冷酷な目だ。今回の件で思い知った。志熊理雄はどこでなにをしようが財団の剣に変わりはないのだ。アノマリーが秩序を無くそうとするならば、彼は迷いなく我が身を投げ打ってでも最後まで敵に切り込むだろう。いつそのような時が来ても良いようにこうして備えていた。

 

(この世界に来てから妙な記憶がある...,)

元の世界の記憶はなくしていない。だがこの世界で23年生きてきた記憶と痕跡がある。ブラックマーケットでAKMの弾薬を手に入れるルートも知っている。

(これはあくまで推測だが...、この世界の志熊理雄に俺が憑依しているのか?)

SCP-062-jp (生存権)。雲の上の世界に自分がもう1人いたという現象が実在した。別世界にもう1人の自分がいてもおかしくない。だがそいつが同じ組織で同じ仕事をしているなんて偶然があるのだろうか。

 

 

突如。携帯がなる。モーツァルト「ピアノ協奏曲第21番」の明るく清らかなメロディーが部屋中に響く。

 

いつも使っている方の携帯ではない。無機質だが高い通信保護機能を持っている端末を理雄は手にとる。

 

「...Ein Falke」

「Adler」

 

 

男の低い声が聞こえてくる。ドイツ語の合言葉を返すと「くっ.,.」と小さく笑い声が聞こえてきた。

 

「Es ist lange her, es ist beruhigend , dass du auch hier bist.」

 

この声と独特なアクセントは聞き覚えがある。’元いた世界'でだ。

 

「Julias Schwert,versammeln Sie sich wieder.」

 

   天城英牙。

 

MTF-θ-25-Jの分隊長が、低いバスボイスで号令をだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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