Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
メリッタの店の地下射撃場に理雄はいた。
耳をつんざく激しい銃声が、薄寒い射撃場に鳴り響く。
手にしているXDM4.5から放たれる40口径弾は、掌から手首にかけて強烈な反動を与える。
元々は1986年4月11日、フロリダ州マイアミで起きた2名の武装強盗とFBI捜査官達の間で行われた銃撃戦の際、捜査官達が装備していた9ミリ口径の拳銃が威力不足だった事が指摘され、その教訓から開発された10ミリオート弾の改良として生まれたのが、40S&W弾である。
個人的には9ミリは9ミリで反動がキツイのだが、45口径とは比べ物にならない。炸薬量も弾頭のサイズも差がありすぎる。
拳銃のみで応戦しなければいけない状況だと、9ミリでは心元ない。
故に自分は、個人携帯する拳銃に40口径のXDMを用いてるのだ。
25mの位置にセットしている人型ターゲットに16発全弾を命中させると、
銃を降ろして安全を確認、故障や弾詰まり、その他不審な点が無い事を確かめ、ホールドオープンしたXDMから弾倉を抜き、台のトレーの上に置く。
リモコンを手に取りターゲットを電動レールで引き寄せる。
頭部と胸部に全ての弾痕を確認した。
胸に10発、頭に6発だ。
「見事だな」
イヤープロテクターを外し、隣の射座を見る。
そこにはベレッタAPXの弾倉に弾を込めている勇刃悠間の姿があった。
「珍しいですね、ユウさんが射撃なんて…」
「定期的にやってるんだ、自主訓練は欠かせないだろ?」
訓練校時代、ライフルランニングの訓練があった。
自分がいた訓練校で不定期に朝一で実施されたこの訓練には、自分を含め多くの人間が心を折られかけた。
フルマガジンの89式小銃(約4kg)を胸の前で両手で持ち、4〜5キロのランニングをするのだが、教官の号令で銃を前に水平につき出したり、頭上に持っていったりする。戦争映画でヘマをした新兵なんかがやらされているヤツだ。
最初の2キロくらいはいいのだが、これがかなりキツイ。正しい姿勢で銃を保持しないと、教官から『銃を揺らすな!』、『もう5キロ追加するぞッ』と怒鳴られる。
しかも最後には、訓練場でアサルトコースと呼ばれる障害物コースが待っている。これはどこの国の軍事キャンプにもある物だ。
鉄条網を潜ったり、塀を乗り越えたり、モンキーバーと呼ばれる梯子状の鉄棒にぶら下がって前に進むのだ。
そして最後には腕立てと腹筋を200回。
最後の腕立てなんかは腕がプルプルと震えてくる。そのくらい過酷なのだ。
この間、必ずと言っていい程不平や不満を零す者が一定数いるが、それは彼らが、これらの訓練の積み重ねが、遠く無い未来で自分に跳ね返ってくる事を理解していないからである。
…少なくとも勇刃悠間は数年間、それなりの修羅場を掻い潜ってきた身だ。
故に自主訓練の重要性を正しく理解している。
戦場における生還率は、訓練や経験でしか上げられない。
だから皆必死に鍛えているのだ。特に最前線で戦う自分たち起動部隊は…。
「それに…、こういうのは良いストレス発散になるしな」
全ての9mパラベラム弾を装填し終え、弾倉をベレッタに叩き込む。
「…で?何かあったのか?」
さりげない様子を繕って問うてくる悠間、どうやら全てお見通しらしい。
「…嫌な夢を見ましてね」
「…PTSの兆候か?」
「どうでしょう…、どちらにせよ、気にする価値もない夢です」
理雄は今朝まで自分を苦しめてきた悪夢を思い出す。
(俺が一歌達を代わりにしてるだと?バカバカしい…)
とはいえ不快感はそう簡単には消えない、だから朝の6時からこうして射撃場に赴いているのだ。
「……お前の事だ、余計な事は考えず、何が別の事に集中していれば大丈夫だろ」
「えぇ、大丈夫ですよ、いつも通り『無視して踏み越える』だけです」
これまでずっとそうしてきた。
……あの時以前からずっと。
「そういえば、怪我はもう大丈夫なのか?」
「財団のICU(集中治療室)で最先端の治療を受けられましたからね、本調子とはいきませんが、射撃くらいならなんて事ありません」
「龍一郎が今日、麻酔が切れて目が覚めるそうだ。一緒に見舞いに行くぞ」
「…状態は良いんですか?」
「財団さまさまだな、内臓も骨も殆ど治りかけている。リハビリもあるから退院はだいぶ先になるらしいがな」
「了解です。でば昼に全員治療施設に集合しましょう」
「そうだな、皆にそう伝えておくよ」
その時、自分もXDMに全ての弾を装填し終えた。
「…よければ勝負しませんか?」
「いいぜ、昔お前にボロ負けした借りを返してやる」
「リベンジはいつでも歓迎しますよ」
「…生意気な所が変わらない辺り、本当に大丈夫そうだな」
互いに苦笑しながらターゲットをセット、シューティンググラスをかけ、イヤープロテクターを装着する。
互いに銃を構えてフロントサイトとリアサイトを合わせて照準-----。
刹那、ガス抜きを兼ねた勝負が始まった。
*
「じゃ、俺は先に…」
「えぇ、また昼に…」
扉を開いて悠間が地下室から出ていく。
射撃場を後にした2人は、入出記録帳に入場した時刻、利用時間、使用した銃(2人が使った個人携帯用の銃は製造ナンバーがそのまま登録番号となる)の登録番号、退出時刻を記帳し終えると、悠間は他に用事があるとの事で、先に地下室を後にした。
自分はメリッタに少し用がある。
「お〜い、せんせ〜?」
見渡してもメリッタの姿はない。今朝は普通に居たのだが…、
「居ないのか〜…と、いたいた」
部屋の奥まで行くと、机の上に置かれたノートパソコンに向かって手を動かしているメリッタを見つけた。
仕事中なのか、ワイヤレスのヘッドホンを付けて一心不乱にパソコンの画面を見つめている。
邪魔をしては悪いと思ったものの、一体何をしているのか気になり、後から画面を覗き込んでみると-----、
アリス『く…、このブタ野郎ッ!早くこの気持ち悪い触手から私を解放しろッ」
ブタ大臣『それは無理な相談だ、私の命を狙った暗殺メイドにくれてやる情けはない、だがお前は口こそ悪いが、身体は罪深い程美しい…。だから殺す前にこうして使い魔で遊んでいるのだ、ブヒヒッ…』
アリス『なッ…!お前ッ……女を何だと思ってやがるッッ!!く……あ、そんな所……ぅ…触る…なァ…ッ!』
ブタ大臣『ブヒヒヒヒヒヒッ!中々に唆られる格好だな、安心しろ…、たっぷり弄った後は、私がお前を心ゆくまで犯してやるッ』
アリス『誰がッ…、あ、いや…!そんな…パンツを引き千切るなァァァッ…!』
----------18禁ゲームの陵辱シーンの真っ只中だった。
眉目秀麗な割に口が悪い金髪碧眼のメイド服美少女が、巨大な触手生命体に絡まれている。
粘液をふんだんに纏った触手が細い肢体に絡みつき、衣服を次々と剥ぎ取る様子を、名前どおり醜い体で醜い顔をしたおっさんがブヒブヒ視姦していた。
「グヘッ、グヘヘヘヘヘヘヘ…」
見ればメリッタは、ヨダレを垂らしながら気色の悪い笑みを浮かべて愉しんでいる。
いい歳した大人が朝っぱらから何をやってるんだ…と、理雄は呆れながら立ち尽くしていた。
やがて、長かった陵辱シーンが終わり、ゲームがエンディングに入ると、メリッタは伸びをして「う〜〜ん!」と唸り、付けていたヘッドホンを外してようやくこちらを見る。
「あ〜気持ちよかった!中々に面白かったよ、おっと久しぶりだね理雄くん、私の世界へようこそ。相変わらず陰険そうな顔だね、見ているだけで人間不信になりそうだよ。悪いんだが明日までにその顔をのっぺら坊にして来てくれないかい、'IKEAのスタッフ'みたいに」
「そんなに破滅的なのかよ俺は!」
理雄は重い溜息を吐く、最近知り合ったばかりだというのに、これで一体何度目の溜息になるのだろうか。
彼女は暇さえあれば人形造りに励んでいるが、それ以外の時は趣味の映画鑑賞か、18禁ゲームをプレイしている。
メリッタはノートパソコンから取り出した『メイド少女の堕とし方〜触手こそが最強説〜』のディスクを、机の上に置かれた『ボヘミアン・ラプソディ』のパッケージに入れた。
彼女に神経という物は通っているのだろうか。
すると何を思ってか、彼女はそのパッケージをこちらに差し出す。
「さて理雄くん……この作品、君もやらないか?」
「やらん」
「遠慮するなって」
「だからやらん」
「なんなんだ君は!もっとハードな陵辱が良いのか?」
「陵辱モノ自体嫌いなんだよ!つーかアレより強烈ってなんだ、最後のシーン、金髪メイド触手に飲み込まれたじゃねぇか、軽くトラウマになる所だったぞッ」
「何を言う、君は日々、女子校で生徒に並々ならぬ獣欲をぶつけるのを必死に堪えているんだろ?『ゔぅ〜〜、誰か俺の中の淫獣を鎮めてくれぇ〜』」
「ソレ俺のモノマネなのかッ?憶測で人を変態超人X扱いするなよ!」
アンタは俺に怨みでもあるのかッ?
メリッタは腹を揺らすだけ揺らすと、ようやく話題を変える。
「で?何か用かい?帰り際の挨拶にしては……深刻そうな顔をしているな」
そう言われて理雄は手鏡を渡される。
鏡の中を覗き込むと、張り詰めた様な壮絶な雰囲気を眼から放つ自分がいた。
これでもメリッタの冗談で大分解きほぐされた方なのだろう。
自分はさっきまでもっと酷い顔をしていたのか…。
確かに、これでは悠間でなくとも気付かれるだろう。
もしかしたらさっきのバカな会話は、メリッタなりの気遣いだったのかもしれない。
理雄は心の中で感謝すると、顔を2度両手で叩き、邪念を振り払う。
「以前、高速道でカオス・インサージェンシーが乱射した機関銃。何か調べはついてないか?」
あの時、自分と悟は奴らがトラックに積んでいたNSVT重機関銃にスクラップにされかけた。そしてそのトラックが、自分の教え子である鳳えむの父親の経済グループ、【フェニックス・グループ】に連なる一企業、【不死鳥運輸】だった。
「機関銃の残骸の調査は済んでいる。ライフリングはクリーンで犯罪使用歴はない。使われた50口径弾はロシア製だった。そして…」
メリッタはチラリと理雄の表情を窺う。もしかしたら自分の顔がまた強張ったのかもしれない。
「アレを積んでいたトラックは正真正銘、本物の【不死鳥運輸】のトラックだった。ナンバーも照合した結果、それは間違いない。搭乗者たちの死体も、全員が不死鳥運輸に雇用されている正社員だ」
「……ッ」
理雄は奥歯を噛み締める。では、やはりフェニックス・グループは…、
「まだ調査は続いている。君が思ってるような事態とは限らない。…もっとも、今回の一件で捕虜になった者は全員、拘置所で不審な自殺を遂げていたからね…、これ以上何か分かるかは何とも言えない」
「…………」
篤樹秀治とダミアン・オコナー、新羅良雄が画策した【ダウンフォール・プロジェクト】を粉砕した理雄達は、地下の鉱山施設に閉じ込められ際、応援として駆けつけた財団日本支部に救出された。今回の一件で財団本部は日本支部の明確な反逆行為として、日本支部理事会の解体に取り掛かろうとしたものの、理雄達の救出のどさくさに紛れて現場を先に確保され、その他証拠や関係者の身柄含めて手柄は全て日本支部に掻っ攫われてしまい。『日本支部内の身内の不穏分子を日本支部で排除しただけ』として、財団本部の介入を拒んだ。
また、今回のような事態を事前に防ぐべく、日本国内における財団本部の活動の幅を広げろという要求に対し、日本支部理事会は「今回の一件は、【D.I.G計画】並びに【イワト・プログラム】による81地域、日本国の安全保障を脅かす策略をとった財団本部に責任がある」として、これを拒否した。
流石の財団本部も、日本支部との本格的な抗争は望まなかったらしく、『日本支部の自浄能力に期待する』として引き下がったらしい。
…自分があの時、ダミアンとの決戦で見た現象……『セカイ』の存在に関しては、調査こそされたものの、存在した痕跡が全く残っていなかった為、本格的な調査は難航しているらしい。
『プルアー』に関しても、ダミアン・オコナー招来の件を含めて綿密な調査が進められているが、なんでも現実改変が起こされた形跡がないらしく、状況からして、何らかの手段で異常空間が0から構築されたと考えるしかないらしい。
こうなると観測するのだけでも困難を極めるそうだ。
「…もし、フェニックス・グループが今回の件に深く関わっていた場合…どうなる?」
「そうなれば財団から準要注意団体としてマークされる。何らかの形で財団からの接触があるだろうが……まぁ、今回の件だけでもかなりの人死が出ている。トップの人間は法の外側で責任を追求されるだろう、悪けりゃ文字通りの意味で首が飛ぶ…」
その時、メリッタは理雄の表情に気付く。
その眼には、僅かながら痛みの色が滲んでいた。
「…何故そんな事を聞く?」
「…俺の教え子の父親なんだよ…、そこのトップ…」
正直に言って良かったのかと、今更ながらに後悔した。
メリッタは何かを考え込む仕草をすると…
「…理雄くん、我々は人類の守護者だ、罷り間違っても正義の味方なんてモノじゃない」
「解ってる…」
「善行のバーゲンセールなんて誰もしない、財団も同じだ」
「それも解ってる…」
「では聞こう……君のすべき事はなんだ?」
「よく解っているッ、その時は、父親を失ったあの子を俺なりに元気付ける。それが俺のやるべき事だ!」
口ではそう言うが、握られた拳は震えていた。
自分でも声に動揺が滲んでいるのが分かる。こちらを見るメリッタの表情は死人の様に昏く冷淡なままで、考えが読めない。
「…理雄くん、君は君の内の矜持に従え、少なくともそれが財団や人類の安寧を害する物とは私は思わない」
「…!」
「君の強みは視野と思考の広さだ、私の様な根暗と違って、一時の感情で選択や判断を誤る事はないだろう」
「先生…」
「それでもまだ不安が残るなら、私から人生の先輩として一言、君に助言を授けよう」
メリッタはこちらに真剣な表情を見せる。自然と空気が厳かになった。
「……いいか?よく聞くんだ…」
「あ、あぁ…」
ゴクリッ…と固唾を呑み込む。
「………また『頭がクルクルパーになる茸』を食べるんだ」
「…は?」
「今度また取り寄せる予定なんだ、もう必要な調査と実験は全部済んでるんだ、保管庫にまだ在庫があるから200個くらい食べれば悩みも葛藤も吹っ飛ぶだろう。身内も親友も恋人も躊躇いなく粛清できる位には」
「お、俺を頭の壊れたスターリン2号にする気かよ!」
「大丈夫さ、ちゃんと治してやるよ。一歌ちゃんのパンツ被って赤旗振り回す君を映像に納めた後に」
「決めた!1人の大人として明日までに解決するッ、出来なかったら酪銘街に逃げ込む!一生戻らないからな!!」
こんな人に悩みを打ち明けた俺がバカだった…、と重く嘆息した。
以前、メリッタに押し付けられた『頭がクルクルパーになる茸』による一歌達の暴走劇は、財団の事後処理による記憶処理剤散布により幕を閉じたものの、一般人に実弾入りの銃を所持させた挙句、発砲までさせたのだ、病院で目を覚ました自分に待っていたのは、上層部の人間からの叱責と、大量の始末書だった。
『ダウンフォール・プロジェクト事件』終結後、負傷者を多数出したジュリエットチームは活動不能となり、暫くの間、自分は罰も兼ねて書類仕事をやらされている。正直退屈過ぎて苦痛だ。
…そういえば、初雪が病院で無言のまま引っ叩いてきたが、アレは何だったのだろうか?
「なんだよ…、君がM300を撃ちたがってたからアレで手を打ったんじゃないか」
「だからって毒キノコ食うのを対価に要求する奴があるかッ」
そう、元々事の発端は、自分がメリッタの地下室にあったM300リボルバーを見つけた事だ。自分は50口径の拳銃を撃った事がなく、ささやかなガンマニアとして興味をそそられた。その時、M300を貸し出すのと引き換えに、あのキノコを押し付けてきたのだ。
「…私は君を信頼してるんだよ。君は君らしく戦え、……自分を見失うんじゃないぞ、理雄くん」
その時、メリッタの死人じみた顔に僅かな笑みが浮かんだ。
*
シブヤに戻った理雄は、朝のランニングコースを歩いていた。
休日の朝だからか、この時間帯に他の通行人はあまり見ない。
朝の冷たい空気が肌を刺すが、理雄は何も感じない。
理雄の頭の中は、昨夜自分を唸らせた悪夢の事でいっぱいだった。
いくら頭から振り払おうとしてもどうにもならない。まるで脳がコールタールに張り付かれた様に重く不快だった。
(そもそも…俺は何故今更あんな夢を…)
ここ暫く、彼女らの夢を見た事はなかった。何故今になって…。
……一歌達への罪悪感?いや…。
(俺の脳に新しい記憶が入ったからか…?)
ダミアン・オコナーとの決戦の際、自分は【セカイ】と呼ばれた力を使い、魔人・ダミアンの打倒に成功した。
その時、自分の脳に’この世界の志熊理雄'の新たな記憶が流れ込んできたのだ。
人が夢を見るのは記憶の整理であり、新たな記憶の追加により過去の記憶が整理され、あの夢を見たのだと理雄は推測する。
……だとしても、あの悪夢はタチが悪すぎる。
(----------過去との決着がついてないから……か…?)
これは、今まで全てを無視してきたツケなのだろうか------。
ふと我に帰ると、自分は神山高校の校門前に来ていた。
そう言えばここは------。
「おい!グラウンドで変人ワンツーがまた何かやってるぞ!」
「マジかよ、今度はどうやって吹っ飛ばすんだ?」
休日にもかかわらず、校庭で生徒たちが騒ついている。
ふと興味が湧いて柵越しにグラウンドの見える場所まで移動してみると、
「おい類ッ、コレは本当に大丈夫なのか!?」
「安心したまえ、司くんを打ち上げるだけなら安全だからね」
「待て!打ち上がった後落ちるだろッ、それは大丈夫なんだろうな!?」
「それじゃあ、打ち上げシステム起動!発射シーケンススタートだ!」
「聞けよ類ッ!?」
天馬司と神代類がグラウンドにいた------厳密には、巨大な大砲に司が詰め込まれていた。
「類ッ、俺が世界一のスターになる前に殺す気かッ?」
「大丈夫、死にはしないよ、死にはね…」
さらりと不安な事をナスビ頭の少年が漏らす。
「こらーーッ!何をしとるかぁ!!!」
大喝が聞こえた方を見ると、ハゲ頭に1本だけ毛が突っ立ている中年教師がいた。大きめの四角いレンズの眼鏡をかけており、某国民的アニメに登場する雷オジサンを連想させた。
「おっと、じゃあ僕はお先に失礼するよ」
「ちょ、待て!せめて砲身に詰めた爆薬を抜いてくれ!身動きが取れないし…まさか本物じゃないだろうな!?」
「またお前らか!この変人どもッ、全く…変な大砲に変なタイマーをつけやがって……って、『天馬司、上空3000mまで吹っ飛びます。残り10秒』……逃げろみんなぁ!!!」
雷教師は速攻で天馬司を見捨てる判断を下した。
「おーい!待ってくれぇ!見捨てないでくれェェェェェェッ!!!!」
虚しい絶叫がグラウンドに響く。だれも助ける素振りすら見せない中、轟音と共に天に向かって憐れなペガサスがふっ飛ばされた。
そのまま星になった司を唖然と見上げていると------。
「------おや?貴方は…」
視線をグラウンドに戻すと、そそくさと逃げ去った類がこちらに近寄ってくる。類は興奮を隠そうともせずに喜色満面な顔でこちらを見てくる。
「どうでした?司くんの打ち上げは」
ニヤニヤしながらこちらに問いかけてくる。
今の出来事に、悩みが完全に吹き飛ばされた理雄はガックリと脱力した様に肩を落とした。
悩んでいた自分がバカみたいだ…。
「------俺の脳と魂に響いたよ、Dr.ジャック・ブライト・ジュニア…」
フェニランで初めて会った時に抱いた印象を、ようやく口にする事ができたのだった。