Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
志熊理雄がチャーリーチーム全滅の訃報を聞いたのは、自宅で書類仕事に音をあげていた時、突如謹慎を解かれサイト-8156に呼び出された時だ。
「……全滅ッ?」
「…残念ながら、チャーリーチーム6名及び、中国軍超常部隊共に生存者なしだ」
作戦司令室にて、阿嘉二尉から告げられた無情な報告に、急遽呼び出されたジュリエットチーム8名は言葉もなかった。
チャーリーチームの1人が身につけていたガンカメラの映像から、黒い影の群れに次々と仲間が屠殺されていく様子が流される。
凄惨な光景に誰もが口を閉ざしていた。映像が止まった後もしばらく沈黙が続いたが、やがて初雪が静かに拳を挙げる。
「SCP-1983…『先のない扉』で間違いありませんね?」
「現時点で我々はそう考えている。映像に映ってる通り、彼らを襲った敵性存在は1983-2と見られる。場所はお前達の世界の内モンゴル自治区、ゴビ砂漠だ」
作戦司令室にある円卓に座る理雄たちに、司令部付き職員から1983の報告書と、今回のインシデントの状況説明書が渡される。
「…懐かしいな。訓練校時代に聞いた『エージェント・バークレー』と『ジャクソン・パーカー』の講義以来だよな?コレ聞いたの」
龍一郎が隣にいた悠間に話を振る。
「あぁ…、俺達がジュリエットに入るずっと前、自らの命を捨ててまでアノマリーに立ち向かった大先輩だ。史上初の『Dクラスの叙勲者』の話でもあるからな、有名な話だ…」
感慨深げに言う2人だが、今はそうも言っていられない。
「この世界の時代からだと、30年以上前にNeutralized(異常性無力化済オブジェクト)に分類されたヤツが、なんで今更ッ…」
信孝が困惑と憤りの混じった声を漏らす。無理もない、仲間を虫ケラ同然に殺されたのだ。ここにいる全員が同じ思いに違いない。
「…二尉、一つ質問が」
それまでずっと黙っていた英牙が挙手する。
「ここにある情報には、1983-2の存在は確認出来ても、1983-1の存在は未確認のようですが、そちらの状況は?」
阿嘉は嘆息しながら答える。
「残念な事に、向こうも発見出来ていない。現場で1983-2の追跡が間に合わず、奴らは日が昇る前に消えたそうだ。本来なら襲撃を受けた直後にドローンで補足・追跡するのがマストだが……お前達の世界でそれは難しいだろう、特にあの辺りの地域は下手にドローンなんか飛ばせば------------最悪、世界が'表'から滅びかねない」
その言葉が作戦司令室内に響いた瞬間、重苦しかった空気が凍り付いた。特にジュリエットチーム8名の表情は、恐ろしいまでの戦慄を交えた壮絶な物だった。
「……二尉は、あちらの世界の事をどこまでご存知で?」
自然と英牙の口から、暗く重い、どこか憎悪に似た感情を孕む声が溢れた。
阿嘉は少し気まずそうに視線を一瞬逸らすと、短く一言。
「…少なくとも、この世界より’表'の情勢が緊迫しているとは聞いている」
「…………」
「ともかく、無力化されたオブジェクトの再活性化は、財団にとって大きな危機だ。この世界でも同様に危険なオブジェクトが再び世界に損害を与える可能性がある。故障中のお前達にはまだ呼び出しは来ないが、各自、日常生活でも一切気を抜くな、アノマリーの真の脅威は、その不確定さにある」
それと------、と一言区切る。
「明日、チャーリーの葬儀が向こうの世界で行われる。残念ながらお前達が戻る手段は未だ確立されていない、よって、葬儀の参加希望者は明日の0900までに参加希望を出すように。葬儀開始予定時刻は1500だ。我々は集会場にてリモート参加を行う。……何か質問は?」
誰も手を挙げないのを確認すると、「今日はこれで解散とする。…明日は遅れるなよ」と言い残し、作戦司令室を後にした。
他の面々も続々と退出し、残ったのは非常事に備える待機要員数人と、ジュリエットチームだけだった。
「……向こうはどうなってんだろうな」
不意に龍一郎が口を開く。
「どうって……どっちがだ?」
悟が無表情のまま問い返す。龍一郎は苦笑気味に答える。
「どっちもだよ。俺達の世界……表も裏も混沌としている。正直この仕事に就いてから、どっちも大して差がないように思えて来たんだ。……だってそうだろ?俺達の世界じゃあんな------」
「やめろ」
突如、英牙が先程と同じ声音で、視線を下に向けたまま遮る。
「俺達の仕事はいつだって暗闇だ。表も裏も関係ない。------闇が闇に同化しても、なんら変わりはない。------どのみち、俺達みんな、やる事は同じだ」
今更口にする必要はない。仮に自分達が財団職員でなくても、表社会で比較的平凡な職に就いても、裏に潜む異常存在に関わらずとも、いつだって相手にするのは、破滅と絶望がひしめく醜悪な世界だ。
果てしなく続く凄惨な道のりの先は、もしかしたら地獄かもしれない。
希望も救いも最初から存在せず、最期に見るのは肝脳塗地となった自分かもしれない。
……あるいは全てを失い、慟哭と共に世界と終わりを迎えるのか。
「だからって……諦めてたまるかよッ…!!」
拳を握り締めながら、理雄は誓いを……自分とジュリエットの想いを口にする。
そうだ。自分達に出来るのはそれだけだ。たとえ現実がどれほど忌まわしくとも、自分達を押し潰そうとも、決して負けられない。抗いを……戦いを放棄しないと己に誓ったのだッ。
その言葉に気迫を取り戻したのか、やがてジュリエット達が立ち上がる。
作戦司令室から退出し、近くの食堂で信孝が献杯用に持参した蒸留酒をグラスに注いでいく。
全員でグラスを掲げ、互いの目を見る。
「我らの兄弟、チャーリーの戦士6名は最期まで抗った------財団らしく、守護者として、剣として最期まで戦うッ」
「「「最期まで、剣らしくッ!!!」」」
英牙の掛け声と同時にテーブルをグラスで叩き、一気にグラスを煽った。
決して負けられない。最期まで抗うと魂の内側で叫ぶ。
不屈の誓いを飲み干しながら。