Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第四十九話 ロメオチーム

 

 サイト-8156の集会場には、手が離せない重要な職務に就いてる者を覗き、総勢300名以上の財団職員がリモート葬儀に参加していた。

 

 このサイト以外の財団施設からも多数の同士が駆けつけてくれた。

 

 サイト-8156の地下深くに備えられた直径約100mのドーム状の集会場の中は、LEDライトが白すぎるホールを照らし、空調設備が換気と殺菌を行った事により、無機質な冷たさを孕んでいた。あるいはこれが財団特有の厳格さなのかもしれない。

 

 理雄が見渡す限り、この場にいる人間のほぼ全員が、黒スーツの上に財団のシンボルマークを付け、無言のまま英霊を見送ろうとしていた。

 

 ホールは各階ごとに分けられており、理雄達ジュリエットチームが立つのは2階、最上階である4階にはサイト管理官(顔立ちからして日本人)と各内部部門責任者、倫理委員会関係者、警備責任者、防諜部のトップ、軍部の将官、参謀総長などが立席していた。

 

 やがて、葬儀が始まる。自分達が見上げる正面の宙に投影された立体映像からは、財団のシンボルフラッグと中華人民共和国の国旗が交差する様に立てられているのが判る。

 

 その前に在るのは、6つの黒檀の棺----。

 

 そして、規定世界にて実際に葬儀が行われている場所--------中国支部の某所としか理雄達は聞かされていない地にて、財団上級管理官の答辞が読み上げられる。

 

『人類を異常存在から守るべく、我々、SCP財団か創設されてから既に100年以上が経った今日---------三大理念の剣の切先たる同士達が、其の命を持って、人類守護の重責を果たした--------』

 

 答辞を読み上げる声は男の物だ。だが姿までは見えない。保安上の問題がある為、姿は勿論、この声すら偽装されてる可能性がある。

 

 だが…そんな事は些細な問題だ。

 

 本来、財団職員の死がこうして手厚く送られるのは常ではない。Dクラスは勿論の事、大半の財団職員の死は、職務の一環として'よくある事'で大抵が済まされる。冷たいかもしれないが、人類の為にと命を使った人間のほとんどが、よほどの功績を残さない限りすぐさま忘れられる。

 

 ここは人と人以外の死が常に存在する異常な世界だ。異常存在に立ち向かう財団もまた、人間としては異常な部類に入るのかもしれない。

 

 こうして葬儀が行われる事なんて贅沢は、財団職員にはまず存在しないと思った方がいい。異常存在が関わった死は、誰にも知られる事なく闇に葬られる。彼らの遺族が財団関係者でもない限り、その死が正しく伝えられる事はない。実際、あの場にチャーリーの遺族や親しい人間は1人たりとていないと聞いている。

 

 人類の為に戦い------、死に------、最後には全てを消される。

 

 それが財団職員の一生だ。

 

 誰にも知られず、感謝もされず、生命を落とせば存在ごと抹消される。其処には僅かな希望も、救いも一切ない。只々、人類が明日を生きる為に、全てを犠牲にして消耗される日々--------その中で、一個人が厚遇される事はない。この葬儀も、『最前線で散った英雄』というプロパガンダ目的の為に上層部が利用しただけだ。でなければわざわざ貴重か金と時間を浪費する筈がない。

 

「…ッ」

 

理雄は無言のまま、その事実を噛み締める。希望なんて物は存在しない--------そんな事は最初から分かっていた。

 

 だが……それでも自分は、戦うと決めたのだ。死者すら利用する組織に身を置いてでも、人類の為に使い潰されようとも、決して歩を止めはしないッ--------。

 

(…そうしなきゃ……俺は…)

 

 これからどの様に生きて行けばいいのだ…。全てを失い、失い続けると宣告されたあの日から……戦いを、抗いを辞めたその時…、

 

 --------自分は生き方を……己を見失う。

 

 志熊理雄には……希望も未来も、本当はないのかもしれない。

 

 星乃一歌や花里みのり、天馬司の様に、今の自分はこの先の未来に一筋の期待も抱けない。

 

 先にあるのは破滅だと、何度も思い知らされた。

 

 こうして自分が起動部隊員として何とかやって行けてるのは、ただのエゴでしかなかった。

 

 

 

 

 

『先生の言葉で、一歩を踏み出す勇気が持てたんです』

 

『私は、貴方を信じていますから』

 

『先生は……自分の意思で誰かを救える人なんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 それでも…、確かに…………自分の中の何かが変わっていく。

 

 

 

 変えてくれたのは……君達だった…。

 

 

 やがて答辞が終わり、儀仗隊がライフルを構え、天に向け弔銃を放つ。

 

 3発3回の銃声が魂にまで鳴り響き、銃声が止むと、トランペットの音色が葬送曲を奏で、現地で参加したシータ25の隊員達が、棺に部隊のシンボルマーク--------金の'生神女'のバッジを打ち込んでいく。

 

 やがて参加した全ての隊員から’パナギア'が送られ、葬送曲が終わると共に、参謀総長が声を飛ばす。

 

 

「敬礼!」

 

 

集会場に立つ全ての職員が挙手式敬礼を取る。理雄達も敬礼する。

 

 

 

 どうであれ、同じ人類の為に消耗される身として、今は彼らを見送りたかった。

 

 彼らの死を憶えていられるのは、同じ財団職員だけなのだから。

 

 

 

 

 

 葬儀が終了し、開かれたホールの扉からゾロゾロと黒服達が出てくる。非番の者を除き、彼らはまた元の職務を再開する。人類の為に。

 

「少し待て」

 

背後から慶三郎の声に止められる。

 

 喪服姿の黒々としたジュリエットチームの中から、英牙が応える。

 

「何か?」

 

「故障したお前たちの代わりに、新たなチームが向こうの世界から派遣される事になった」

 

突然の通達に英牙達が面食らう。英牙が少し訝しむ様に聞き返す。

 

「…まだこちらと向こうは行き来出来ないと…」

 

「俺も今朝参謀本部から聞いたばかりだ。どうやら昨日、片道の『行き』だけは可能となったらしい。どうやら思ったよりも早く向こうに戻れるかもしれない」

 

その言葉に英牙達は一瞬沈黙する。

 

 帰りたくないわけではない、向こうの世界に家族を残したままの者もいる。悟や悠間なんかは頻繁にここの施設を用いて身内と連絡を取り合っている。

 

 それでも……あの世界の惨状を思い出すと、どうしても気が沈んでしまう。

 

「……何処のチームが?」

 

英牙が曇りかけた空気を祓うように本題に戻る。

 

「シータ25-R」

 

今度こそジュリエット全員が驚いた。

 

「ロメオがッ?そりゃまた何と言うか…」

 

「地獄がより血みどろになるな…」

 

車椅子に座る龍一郎が「ご愁傷様…」といった感じで溜息を吐き、それを押す信孝が苦笑する。

 

 シータ25-R……通称'ロメオ'チームは、ジュリエットチームとほぼ同時期に設立された部隊であり、ロシアや東欧を中心に活動しているのだが、シータ25の中では'1番引き金が軽い'分隊であり、彼らが派遣された任務地は、決まって大半が『更地』となる。財団が抱える数ある機動部隊の中でも、かなり破壊的な方に分類される。無論、どの部隊よりも勇敢で自らの犠牲を厭わず、必ず任務を達成する彼らを尊敬してはいる。いるのだが…、

 

「中都市一つを丸ごと消滅させた事のある奴らですよッ?まさかシブヤに…!?」

 

理雄としては彼らがこの街を戦場に変えるのではと内心に冷たい物を感じていた。

 

 ロメオの任務は従来の確保・収容・保護ではなく、補足・殺害・終了としての面が強い。これは本来の財団の職務遂行が困難になった場合の最終的な切り札だ。ロメオはその一翼を担っている。理雄とて仲間を非難したくはないが、下手をすれば彼らは、自分達ジュリエット以上に二次被害をもたらし、それに一歌達が巻き込まれかねない。

 

「ロメオはここ、サイト-8156を拠点に活動する。当然、今後はシブヤでもお前たちと行動を共にする事があるだろう。残念ながら我々にも人的な余裕はない、…『プルアー』の件に関しても、お前たちの世界の人間にも力を借りなければならない」

 

「…ッ」

 

「プルアー』は『第一次O/D作戦』時から規定世界の住人を拉致した存在である可能性が高い。『セカイ』の存在やダミアン達'引き抜かれし者'の調査を含めて、理雄達の世界からの協力者が必須なのだ。理雄とてそれは理解している。何より----------自分もあの『セカイ』の事が気になる。

 

 鉱山内地下にて見たあの光景は、あれ以来目にする事はなかった。『untitled』のアプリも、スマホごと何度調べようが、ページが開かずアイコンだけが残った状態のまま返却され、今も何度弄ろうが、起動も削除も出来ない謎アプリと化したままだ。今のところ害はないので放置している状況だ。

 

 あの超常の力があれば、自分は今度こそ……全てを…!

 

「…それで?あいつらはいつ到着を?」

 

初雪の問いに、慶三郎は両手を腰に当てながら答える。目下の人間と話す時の彼の癖だ。

 

「既にチーム全員を確保済みだ。今は彼らに当てがった住居の整理をしている所だろう」

 

「…シブヤ区内ですか?」

 

「多分な、問題あるか?」

 

「いえ…」

 

怪訝な顔をする慶三郎を尻目に、初雪は小さく溜息を吐く。他の面子も同じ様な、少し気疲れした様子だった。まぁ、ロメオなら普段は大丈夫だろう。クセとアクの強いV(ヴィクター)や、問題児しかいないW(ウィスキー)、兎に角面倒臭いA(アルファ)よりはマシな筈だ。多分。

 

 やれやれ、また周りが騒がしくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

シブヤの路上にて、少しばかり珍しい光景に、道ゆく人々は注目していた。

 

 

「サモちゃん待って〜!そんなに走らないで〜〜!!」

 

真っ白な大型犬が、飼い主らしき少女を置き去りにして疾走していた。

 

 サモエドと呼ばれるシベリアを原産地とした大型犬は、体高60cmの偉丈夫と、強靭な体力と持久力を持って、最近舗装された滑らかな道をサモエドスマイルを浮かべながら走っていく。

 

 その飼い主である花里みのりは、全力で追いつこうと試みるが、距離が詰まる気配すらない。遥たちとランニングで鍛え始めたとはいえ、やはりまだまだ体力が足りないなと、みのりは息を切らしながら痛感する。やがて、みのりからぐんぐん遠のいていく『サモちゃん』は曲がり角の前で速度を下げぬまま走り抜けようとする。

 

 その時、曲がり角から人影が現れる。

 

「ッ!危ない!!」

 

みのりが叫ぶが時すでに遅し、体重32キロの巨犬がタックルをかまし------たかと思われたが…。

 

「Ups…,was ist los? Ein groBer Hund?」

 (おっと…、どうした?デカいワンちゃん?)

 

「え…?」

 

思わずみのりは目を瞬かせた。通行人を張り倒すかと思われたサモちゃんが、強烈なタックルを受け止められた挙句、ひょいと軽々と持ち上げられている。当のサモちゃんは舌を出しながら「ハッ…ハッ…」と息を立て、自分を抱え上げる男を親愛の情が深い黒目で見つめていた。

 

 ようやく追いついたみのりが息を整えながら、ぶつかった男性に謝ろうとする。

 

「す、すみません…!大丈夫です…か…!?」

 

「Hmm? Sind Sie der Besitzer?」

(ん?君が飼い主か?)

 

近くまで駆け寄り、みのりは再度驚嘆した。

 

 ぶつかった通行人は外国人であり、おそらく北欧系の白人だった。プラチナブロンドの髪を短く刈り込んでおり、白い顔は頬が少し赤く、二重の目元からはスカイブルーの瞳がこちら覗き込んでいた。

 

 温かみを感じる端正な顔立ちの青年だが、それ以上にみのりの目を引いたのはその体躯だ。

 

 身長は190を軽く超えている。自分が最近親しくなった理雄もデカかったが、それより一回り近く大きい。筋肉で引き締まった身体つきは比較的細身だが、見る人を圧倒するには十分な物があり、手足は長くスラリとしていた。年齢は理雄と同じ二十代前半だろうか、白のシャツと明るい青色のジーンズが髪と瞳の色によくマッチしている。まるで海外雑誌で見るプロアスリートのモデル写真の様な男だった。

 

「ご、ごめんなさい!!え、えと…、私ッ……!」

 

謝罪しようにも、相手は見上げる首が痛くなる程の巨漢だ。おまけに不慣れな外国人でしかも言葉からして英語話者ではない。この時、花里みのりは理雄から丁寧に教えてもらった英語も、持ち前のタフネスも全てが脳内から吹き飛び、目を点にしたまま古いパソコンのハードみたいに硬直した。

 

 男はしばし不思議な物を見る様な目でみのりを眺めていたが、やがて彼女がフリーズした理由を悟ったのか、口の動きを確認するかの様に開閉を繰り返すと------、

 

「------この子ハ、アナタのデスか?」

 

「…!は、はいぃ!!」

 

思わず裏返った声で返事をしてしまったが、日本語が通じる事に内心安堵する。アクセントに違和感があるが、丁寧で頭打ちがしっかりした聞き取りやすい日本語だ。男はニコリと笑顔を浮かべると、抱えていたサモちゃんを地に降ろし、柔らかくボリュームのある毛並みを優しく撫でる。

 

「サモエドは狼に近い種デス。逞しい子ダ…」

 

男はそう言って、タックルを受けた際に落とした買い物袋を拾い上げる。特徴のない白い布バッグの中にはニュージーランド産の豚肉のトレイが詰まっており、それに目を光らせるサモちゃんを、みのりが「ダメッ」とようやく捕まえたリードを手繰りながら制する。

 

 そんなサモちゃんの様子を見ながら苦笑する男は、視線をみのりに戻すと…、

 

「犬、スキなんですカ?」

 

「あ、はい!サモちゃんって言うんです!あと…ごめんなさい、怪我はありませんでしたか?」

 

「大丈夫デスヨ、このクラい…、私も犬が好きですから、サモエドの笑顔は特に好きです。…散歩中デスカ?」

 

「はい、途中で走り始めて…そのまま置いてかれそうに…」

 

「ハハハ…、元気があるのは良い事ですガ、事故には気ヲつけてクダサイね?」

 

そう言って男は居住まいを正すと、腕時計を見て時刻を確認する。丁度真昼になった所だ。

 

「では、私はコレで…、ランチの用意がアリます。…私は最近シブヤに引っ越してきたので、またお会いできレバ…」

 

 男は踵を返し、みのりと『お座り』をするサモちゃんに手を振りその場を後にした。みのりも小さく手を振りながらその場で男を見送った。

 

 男の姿が見えなくなり、ふとみのりは内心で呟く。

 

(なんか…雰囲気が理雄先生に似ていたなぁ…、少し怖いけど、優しくて強い感じがする)

 

そんな事を思いながら、再び『お座り』するサモちゃんに目を向ける。

 

「行こう、サモちゃ……って!また走り出してる!?待ってよ〜〜!置いてかないで〜〜!!」

 

叫びながら、また少女は走る。

 

 そう言えば…と、みのりは走りながらふと思った。

 

 

 

 

 

 

 あの北欧青年は、どんな事情でシブヤに引っ越してきたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

シブヤの街を歩く北欧青年------スカーライル・T.E・アンダースは、ズボンのポケットから携帯端末を取り出し、何処かへと連絡を取る。

 

「------あぁ…、借宿の整理は済ませた。昼食が終わり次第サイト-8156に向かう」

 

通話を終えると、スカーライル------親しい者からはスカーと呼ばれる青年は歩を早める。正直、あの愛らしいサモエドともう少し戯れていたかったが、今は腹を満たすのが先だと思考を切り替える。不測の事態に備えて、いつでも出動可能にしておくのも、機動部隊員の責務だ。

 

 SCP財団機動部隊-シータ25-R所属、コールサイン'R-4'、スカーライル・T.E・アンダースは自宅へと急いだ。

 

 

 

 

 

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