Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第五十話 財団の宣告

 

 サイト-8156のブリーフィングルームに集まったシータ25の2チーム------ロメオとジュリエットは、中央に置かれた縦長の円卓に向かい合う様に座っている。

 

 この場には彼らの他に、阿嘉慶三郎と情報部エージェントの田上由那が入室しており、これから作戦計画の指示・説明が行われようとしている。

 

 本来、故障中のジュリエットは機密漏洩防止の為、入室は許可されないのだが、先遣隊としてロメオとの情報共有を行うべく、こうして8名全員が緊急召集された。

 

 円卓の1番右端に座る理雄は、目の前で対面するロメオチームのリーダーに視線をやる。

 

 元は黒髪だったらしいが、今ではその大半が白髪となっている。一度睨まれると大半の人間が震え上がる三白眼、深海を想起させる暗いブルーの瞳、白い肌は灰を被った様でヴァンパイアじみており、むしろ牙が無い方が不自然に見えた。外見年齢は50を過ぎてる様に見えるが、実際は39だと言うのだから、この男がこれまで潜り抜けてきた修羅場の壮絶さが窺い知れる。

 

 ルーマニア出身の戦闘員------アポストレーチェ・ドミトリェスクは、財団入所前から10代で兵役に就き、20年以上の軍歴を誇るベテランである。現役のシータ25の中で最もキャリアの長い戦士は今、他者に思考を読ませない伶俐な表情を浮かべている。

 

 そして、その隣に座る青年は対称的に、冷たい大地を燦々と照らし続ける太陽の様な温かさを感じる。

 

 雰囲気こそ鋭いが、彼の温厚篤実な人格は不滅の強さであり、機動部隊員としての高いポテンシャルも相まって、仲間たちからの信頼は厚い。

 

 それが----スカーライル・T.E・アンダースである。理雄より一つ年上のスウェーデン人であり、幼少期から空手を嗜んでいる事もあって、ロメオの中では一番気の合う友人だ。

 

 ロメオチームを構成するメンバーのルーツは多様だ。ルーマニア人、スウェーデン人、ロシア人、ウクライナ人、ポーランド人…。

 

 ジュリエットも数代前までは中国人や韓国人、台湾人などが在籍していた。

 

「全員揃ったな…。ではこれより、作戦概要を説明する」

 

投影スクリーンの前に立つ慶三郎が由那と場所を替わる。黒のパンツスーツ姿の30代女性がセミロングのブラウンヘアを掻き分けながら前に立つ。

 

「今回の任務は、脅威度の高い要注意団体との関係が疑われる人物らの拉致・確保が目的よ」

 

外国人部隊のロメオにも伝わる様、由那は英語で話している。アルトの声と共にスクリーンに画像が投影される。3人のアジア人男性のバストアップ写真と共に、横には小さく彼らの略歴が記されていた。1人は50代前後、残りの2人は20代後半程度の人物だ。

 

 ------それを見て、理雄は息を呑んだ。

 

「『フェニックス・グループ』経営者、鳳幸之介……及び彼の実子である慶介、晶介氏。この3人が今回の標的よ」

 

由那の声を他所に、理雄は当惑を顔に出さない様必死だった。この3人の顔は知っている。以前フェニックス・ワンダーランドを訪れた際、現地で配布されていたパンフレットに彼らの顔写真が載っていた。

 

「情報部の調査の結果、ジュリエットから報告されていた通り、確認出来ただけでも、『カオス・インサージェンシー』、『マーシャル・カーター&ダーク株式会社』、『如月工務店』との接触が3ヶ月前から行われていた事が確認されている。また、前回北海道で見られたサーキックの地下壕や、ダミアン・オコナーらの『日立鉱山地下施設』も如月工務店によるものと見られるわ」

 

表向きは東北地方の民間建築企業を自称している『如月工務店』。その実態は『鬼』と思われる存在により構成された要注意団体であり、主に異常建造物おいて言及されている組織だ。

 

 やはり短期間であれだけのモノを造れるのは、日本だとこの団体くらいのものだろう。

 

 だが、理雄にとっては余りにも衝撃的な話だった。

 

「それは…確かな情報ですか?」

 

思わず口を挟んでしまう。

 

「既に件の鉱山施設にて、如月工務店から送られたと見られる文書が幾つか確保されたわ。そして、高速道機関銃乱射事件を起こした『不死鳥運輸』を調査した際、社長室の金庫から同種の手紙類が発見され、それらに関するメールのやり取りがこの3人の間で行われていた事が判明した。メールは削除されていたけど、ハッキリ言ってこの辺は素人ね…、復元・確認に大して手間は掛からなかったわ」

 

肩を竦めて、由那は話を続ける。

 

「メールの内容には、彼らが要注意団体並びに財団の腐敗細胞から、財団が管理するオブジェクトと、武器類の取引を仄めかすやり取りが確認され、潜入エージェントによる調査が行われたわ。…結果、最初に派遣された潜入員は死亡し、2人目は武装した『フェニックス・グループ』のサラリーマンに撃たれ死にかけた……。2人とも私と同じ、情報部に属する大事な後輩よ」

 

気付けば、由那のダークブラウンの瞳に怒りの炎が宿っている。仲間の1人を手にかけられたのだ。今すぐにでも敵地に乗り込まんとする激情が、その声には込められていた。

 

 彼らは一線を越えた。もはや無関係の一般人ではない。

 

 その変えようのない事実に、理雄は瞠目していた。大事な教え子の父親が、兄達が、光と闇の境界線を踏み越え、異常存在と関わりを持ち、多くの罪なき人間の命を奪う所業に加担した…。既に自分達の仲間も殺されている。

 

 その時、理雄の脳内にえむの言葉が蘇る。あの時、フェニックス・ワンダーランドで、彼女は嗚咽を堪えながら振り絞る様に言った。

 

『私も…みんなを笑顔にさせたいってホントに思ってるんです!だから…!!』

 

 もし彼女がこの事を…自分の肉親が人々の安寧を蹂躙する暴悪だと知れば、彼女はどんな顔をするのだろうか?

 

 怒るか?------悲しむか?------それとも…。

 

 

 

 

 

 

 いずれにせよ、今後、鳳えむが理想を掲げる事も、笑顔を見せる事もなくなるだろう。

 

 一体何故ッ……と理雄は人知れず奥歯を噛み締める。この3人が如何なる理由で、こちらの世界の闇と化す選択をしたのか、自分には理解も許容も決して出来なかった。彼らの行いは、家族であるえむへの卑劣な裏切りであり、闇で生きる理雄達を照らす光を、脅威と戦う為の希望を奪うに等しい行為だった。だが…、

 

「これまでフェニックス・グループは、不死鳥運輸と同様、長らく我々と秘密裏に協力体制を取っていた。けれど連中は我々を謀り、利用し、『ダウンホール・プロジェクト』では財団と人類の存続を脅かした…。もはや彼らは、この世から抹殺すべき害虫よ。財団はフェニックス・グループの即時壊滅を決定したわ」

 

 肉親を失なっても、えむの絶望は変わらない。異常存在に関わった人間の家族に、ハッピーエンドが訪れる事はない。

 

 そして……その残酷な現実を突き付けるのは、他でもない自分なのだ。

 

 財団職員として、確保・収容・保護の名目の下、人類の脅威となる人物や組織を壊滅させるのも、それにより身近な人物の想いを踏み躙るのも、自分達の宿命でしかない。

 

 理雄の心情は今、人類を守護する財団職員としてのプロ意識と、教え子の想いを守りたいという感情で板挟みにされていた。握る拳が震えそうになる。迷いは苛立ちとなり、苛立ちは焦燥を生み、苦悩の末、葛藤に支配される。

 

(俺は…どうすればッ……!)

 

 その時、ロメオチームに属する坊主頭の若い男------。シルヴェステル・クノールが疑問を口にする。

 

「今回の任務の目的は、目標の生きたままの確保であって、殺害ではないのか?」

 

ポーランド訛りのある英語を話す25歳の男は、やはり同じ歳の悟と比べても、異様に老けて見える。陰気な割に眼つきばかりが鋭い元GROM(ポーランド特別軍)出身の機動部隊員だ。

 

「取引された異常物品の詳細が未だ不明よ。不死鳥運輸の社長は確保したけど、ソイツ曰く、直接アノマリーに関与していたのはこの3人だけ…。少なくともこれ以上の情報は得られなかったわ。よって、この3人の生捕は必須よ」

 

 殺害標的リストに入っていないだけ、まだ救いはある。……今までの理雄なら、何食わぬ顔で言い放っていただろう。

 

「目標の家族から事情聴取しては?」

 

次いで言うのは、クロアチア人の隊員だ。暗い茶髪を天然パーマにした男で、最近ロメオに配属された新人であり、理雄達ともあまり面識はなかったが、名前は確かボリス・H・モドヴィッチだ。

 

「とっくにやったけど成果なしね、カンボジアでボランティアに従事している幸之介の妻は完全にシロ。長女のひなた氏も平凡な大学生に過ぎなかったわ。次女の方は……………アレでアノマリーと関わりがあったら、それこそ異常よ」

 

小さく溜息を吐く由那。まぁ確かにそうだろうなと、理雄は内心で苦笑してしまう。いつの間にかそんな事があったのかと少し驚きはしたが、口ぶりからして尋問ではなく、警察などの公的機関を通した常識的な聴取だったのだろう。その辺は心配なさそうだ。

 

 やがて、由那が再び慶三郎と交代する。スクリーンの画像も変わり、見慣れぬ無人島の地図を映していた。

 

「今回ロメオが派遣されるのは、フェニックス・グループが所有する南太平洋の小島だ。ここには幸之介が所有する別荘があり、今夜ここに3人が外泊する予定だ。そこを急襲する」

 

そうして作戦概要の説明が終わると、室内に襲撃予定地である無人島の等身大模型が運び込まれる。厳密に言えば、無人島、周辺海域、海岸に浮かぶクルーザーがセットになった演習用模型だ。島の地形や別荘邸の建築構造が細かく作られている。その周りには島の気候や環境状況、別宅を守る護衛の人数や装備、行動パターンを記した資料が並べられる。これを用いて、実際の戦術行動を立案する。

 

「別荘の見張りの数は9人。島には合計で30人の護衛がいる。日本の法律の外だから、全員が銃火器で武装しているな…」

 

 アポストレーチェが冷たい声音で護衛の装備とパーソナルデータを確認する。

 

「むしろ助かる。日本の大都市じゃ二次被害のリスクが高いからな、無人島なら多少暴れても問題ないだろ」

 

ジョージア人のテンギス・ガムスファルディアが濃い髭を摩りながら笑う。

 

「アフガンやイラクの民兵、少年兵とは違う。こいつらは全員フェニックス・グループに雇われたプロだ。自衛隊や海外の外人部隊で充分な訓練と実戦を積んでいる…。装備は拳銃とサブマシンガンだけか?」

 

ハンガリー人のベネデク・ファルカシュが資料を読みながら言う。

 

「今の所、取引による新たな武器が運び込まれた様子はない。異常性のある武器も確認されていないが…、油断はするなよ」

 

慶三郎が鋭い声で忠告する。

 

「今夜、この辺りの海域は荒れないんですよね?潜水艦で周辺海域に近づき、海中から侵入して上陸。別荘邸を目指して制圧しては?」

 

ロシア人のアレクサンダー・N・シルフスキーが提案する。

 

「いや、島の面積は約23㎢だ。起伏の多い地形な上、別荘があるのは南の先端だ。この島では一番標高が高く、そこの周囲は30メートル以上の崖が海岸沿いに聳え立っている。接地した後登るのは不可能だ。北の海岸は港となっていて監視が厳しく。東西は比較的取付きやすいが、別荘までの最短ルートは、徒歩だと片道1時間以上かかる。ノロノロ移動してると敵に見つかるリスクが高まるし、トラップの類もある」

 

アポストレーチェが言外に却下すると、再び提案が持ちかけられる。ウクライナ人のゲオルギー・S・イヴァニュークだ。

 

「ヘリで別荘に直接強襲をかけるのは?」

 

「ヘリを飛ばす拠点がない。あの辺りには他の島もないんだ。LPH(強襲揚陸艦)が使えれば別だろうが…」

 

「残念だが不可能だ」

 

阿嘉が「あの海域には、海賊から襲撃される事案が多数報告されている。装甲艦に喧嘩を売る馬鹿はいないだろうが、国籍不明の軍艦を堂々と晒せば、後始末が面倒な騒ぎになる。ただでさえ周辺国同士の領海問題で揉めてるエリアだ。戦争にでもなれば目も当てられん」と、これも却下される。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、作戦計画は、『高高度降下による別荘宅への直接奇襲と、東海岸から高速艇を用いた目標の回収と撤収』に決まった。

 

 

 

 

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