Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
サイト-8156内の武器庫にロメオの8名が集結する。
鉄柵のついた窓口部屋に管理人が1名座っており、中年間近のその男にアーチェがIDを見せると、ビーッという電子音と共に電子ロックが外され武器庫内に全員が通される。
貸金庫で使われる様な重厚な鉄扉を前に、鍵が差し込まれ解錠。両手を使う程のハンドルを回しながら鉄扉が開かれていく------。
そこには、黒光りする大量の銃火器が置かれていた。
壁にはFN社製・SCAR-Lやマグプル社製・MASADA。コンクリートの壁を貫通する50口径弾を放つARX-50対物ライフルの他、東側諸国の傑作アサルトライフル------AKシリーズが大量に掛けられていた。
棚を見ると、最新のハンドガンとそれらに必要な弾薬類。
各所に積まれた木箱を開けると、干し藁の緩衝材に包まれ、油紙で巻かれた新品のP90短機関銃だった。他にも手榴弾などの投擲武器、狙撃銃、グレネードランチャー、軽機関銃、地雷やプラスチック爆弾といった各種爆薬。
そして、アノマリーに対抗するべく財団が独自開発した'特殊兵装'まで、あらゆる武器が揃っていた。
「相変わらず良い品揃えだな」
「超地球規模で活動する財団の財力だ、こんなのまだ序の口だろ」
ベクとボリスが英語で感想を呟く。
「今回の一件、あの成金共はチャーリーを全滅させた1983の再活性化に関わっている可能性がある。念の為『銀の弾丸』を常備しろとの事だ。さぁ………とっとと準備して南国のビーチでバカンスだ」
アーチェが指示を出すまでもなく、それぞれが自身の装備を見繕う。
獰猛な肉食獣の牙を思わせるサバイバルナイフ、接近戦時の切り札になるトマホーク。ロメオ共通のサブウェポンであるイジェメックMP443グラッチのスライドを開閉しながら動作状態を確認。
AK-12、AK-74、AK-104、RPK-16-----各々のメインウェポンは多少異なるが、マズルのサプレッサーや、各所に設けられたレールに赤外線可視レーザー装置やタクティカルフラッシュライト、光学照準器、ハンドガードといった各種アクセサリーの装着により、もはや原型を留めない程カスタムされた彼らの銃は、やはり隊員一人一人の個性が滲み出ていた。
マガジンに銀製の弾頭を持った各種弾薬を1発ずつ丁寧に押し込んでいき、銃に叩き込んでボルトを引き、薬室に装填された事を確認する。
サブベルトにサスペンダーを装着し、ダンプポーチ、救急キット、拳銃用ホルスター、予備マガジンポーチを取り付けていく。上体にタクティカルベストを重ね着し、その場で軽くジャンプして、問題がない事を確認する。
Ops-Coreヘルメットには、正面マウントレールにAN/PVS-31双眼式暗視装置。サイドレールにヘッドセットとヘルメットライト。後頭部の位置に暗視装置用の4セルバッテリーパックとマーカーライトが備えられている。バッテリーの充電と機能状態は入念にチェックする。
「…А как насчет Шидушики?」
『シドゥーシカ(尻当て)は?』
ふとサーシャが呟く。
「Це Японія. І це весна」
『ここ日本だぞ。しかも春だ』
「?…2人ともどうした?」
サーシャのロシア語にゲオルギーがウクライナ語で答え、その様子にスカーが首を傾げる。スカーはロシア語は理解できるが、ウクライナ語は理解出来ない。シドゥーシカという言葉も初耳である。
「ロシア軍やウクライナ軍で使われる尻当てだよ。死ぬ程寒い場所で尻が濡れると凍傷になる危険性があるだろ?それを防ぐ為のアイテムだ」
ゲオルギーが巻き舌のある英語で説明すると、スカーは納得した様に頷く。
「…確かに、ここはもちろん、東南アジアでも必要ないな」
「俺やサーシャの国じゃ夏も寒い。だがここのは過ごしやすいよ」
そう言ってゲオルギーは笑顔を浮かべる。昔、基底世界にて夏の渋谷に来た事があるそうだが、日本人が悲鳴をあげる猛暑も、寒冷国出身の彼からしてみれば、この様な感想になるらしい。
これから戦場に赴くというのに、ロメオのメンバー達の表情は明るい。どんなに死亡率の高いミッションでも、彼らは潜り抜けてきた。
やる事は変わらない。任務を果たして帰還するだけだ。
最後に降下傘と酸素マスクの用意が終わると、いよいよ出撃である。アーチェが吸血鬼じみた壮絶な笑みを浮かべ、自分を中心に取り囲む様にサークルを描いて並ぶチーム全員を見回しながら、鬨の声をあげる。
「お前たちは何者だァ!!」
「「「剣ですッ!!!」」」
「アノマリーをどうする!?」
「「「殺すッ!!!」」」
「ソイツのお友達の人間はどうする!?」
「「「殺すッッ!!!」」」
「最期まで抗うのは誰だッ!!」
「「「我らロメオの勇者ですッッッ!!!」」」
「アノマリーが人類を脅かせば、我々が絶滅させるッ。パナギアの名にかけて、死力を尽くせ!------Слава опекуну!!」
「「「Слава опекуну!!」」」
『守護者に栄光あれ!!』
*
午後11時37分。
完全武装したロメオチームの8名を乗せた輸送ヘリがサイト-8156を飛び立ち、埼玉県・航空自衛隊入間基地に着陸する。
夜間の歩哨・警備につく自衛官や航空機誘導員達は、チラチラとこちらに目配せしながらも、真面目に隊務をこなしている。
彼らが自分達の事をどの様に聞き及んでいるのかは不明だが、パッと見た感じ、先進国の特殊部隊によく似た装備を身に纏ったロメオチームは、同盟国から派遣されてきた他国の正規軍部隊と思われたかもしれない。
財団のシンボルマークが描かれた無塗装のC-130輸送機に乗り込んだスカー達は、目的地を目指し機上の人となった。
同時刻、サイト-8156の食堂にはジュリエットのメンバーが遅めの夜食を摂っていた。
「あ〜クソッ……、暇だよなぁこの時間…」
「仕方ないだろ。作戦が終わるまではここを出られない規則だ」
信孝は好物のカレーを肘を突きながら食べ愚痴る。それに対応する龍一郎もまた、チキンブリトーを齧りながらヒマそうな顔をしている。リアルタイムでこちらの情報が漏れるリスクがある以上、暫くこの施設での待機を命じられていた。
「仲間が仇討ちに行ってるんだ。そんな時に……クソッ」
夜も遅いというのにコーヒーを啜る悟は、見るからに苛立っている。
「ムカつく気持ちは皆んな同じだ。だが今は、怪我を治す事を最優先にしろ」
英牙が殺気立つチームメイトを宥める。仲間の仇を討ちたいのはここにいる全員が同じだが、故障中の自分達がついて行っても、足手纏いになるのは目に見えていた。
悶々とした感情を処理するべく、食堂にて軽食やネット配信サービスの映像作品で解消を試みるが、どうにも集中できない。
この食堂で出されている春のシーズン限定メニュー、『筍の天ぷら』を食べていた初雪が、見かねた様に溜息を吐く。
「お前らうるさいぞ。ヒマならここの収容室でも見学してこい」
「このサイトに面白いオブジェクトなんてあったか?」
悠間が首を傾げる。
初雪は少し考える間を取ると、
「そういや……最近SCP-053『幼女』が仮異動されたらしいぞ。リュー、行って来たらどうだ?好きだろ幼女」
「小さ過ぎるし近づいた瞬間トチ狂うだろうがッ!…ッ、痛〜……!」
車椅子に座る龍一郎が盛大にツッコみ、痛む腹を押さえて蹲る。
10代の少女しか性的対象にならないスナイパー------蒼部龍一郎は、自他ともに認めるロリコン(12〜18がストライクゾーンらしい)であり、『ロリコンドラゴン』という身も蓋もないあだ名を頂戴している。それでもこの男が女性から求められるのは、高いコミュニケーション能力による会話の上手さと、無骨な機動部隊員の中でも、特にファッションに気を遣っている所にある。メイクや髪型ひとつ取っても高い完成度を誇り、たまに女装もしているが、腰が抜けそうな程違和感がない。可愛らしい顔も相まって、低いテノールの声を聞くまでは大半の人間が初見で彼を若い美人と認識する位だ。その気になれば悠間とセットでモデルとしてやっていけるだろう。
財団に入所する前は、若くして超一流のアーティストだったらしいが、本人がその辺りの過去を話したがらないのと、情報規制により詳細は誰にも知らされていない。
「…………」
そんな中、スマホの動画配信サービスで海外ドラマを見ていた向一の隣に座る陰険顔の男------志熊理雄はさっきからずっと黙ったままだ。
「…理雄、さっきから随分静かだな。ブリーフィングの時も腹を殴られた様な顔していたが、何かあったのか?」
英牙が両手をテーブルに突きながらこちらを見てくる。
「いえ…その……」
歯切れの悪い反応に、英牙は目を細める。
「リーダーの前で隠し事はやめろ。この件に関わる事なら尚更だ。隠しても大抵ロクな事にならない」
英牙は理雄の目を見ながら大きな声で捲し立てる様に問い質してくる。相手のパーソナルスペースに対し、無遠慮とズカズカと踏み入ってくる姿勢はこの男の特性であり、部下を統率する為の手段でもあった。
普通かなりの圧力を感じる接し方だが、理雄としては余計な気遣いをしなくて済むので、正直今まで助かっていた。
とはいえ、話すべきか……。今回のターゲットが、気にかけている教え子の父親だという事を。気がつけば暇を持て余したチーム全員の視線が自分に注がれており、迷う時間はなさそうだった。
その中で、信孝はどこか心配そうな視線を向けてくる。
「実は…」
結局、どうするのが正解か判らず。話す事にした。
*
東南アジア・南シナ海某所
輸送機の後部ハッチが開き、8人の剣が降下に備える。
「30秒前!」
「「「30秒前ッ!!」」」
非常ベルが鳴り響く中、ついに降下コースに差し掛かる。
「行くぞッ…!!」
アーチェの号令で、次々と隊員が跳び出す。
HAHO(高高度降下高高度開傘)降下による数秒の自由落下の後に開傘、高高度からパラシュートを操縦しながら降下していく。
ハンドヘルドGPSで航法を行い、目標地点に向かう風の回廊から外れないよう注意しながら、敵地深くまで上空を滑空しながら接近する。
やがて雲海を抜け、島の館が見えてくる。
屋上に見張りが2名。スカーがサプレッサー付きの拳銃で頭部を照準。乾いた音と共に高性能徹甲弾が放たれる------。
1名が倒れる。それにもう1人が気づく前に、アーチェが同様に見張りを処理する。
敵2名を排除し、屋上に8名全員が降り立つ。各自が脇に固定した銃を構え、臨戦体制に入る。
「こちらR-1。'エレメンタリア'通過」
『CP了解。引き続き任務を継続せよ』
「敵に気付かれるな。時間が勝負だ。見張りは静かに倒せ。間違ってターゲットを撃つなよ」
英語での交信を終えたアーチェがチーム全員に目配せすると、各自が動き始める。3階建てのレトロなカントリーハウスに屋上から侵入する。
「3階から各部屋を索敵しターゲットを捕縛する。R-3、前衛につけ」
RPK-16を構えたクノールを先頭に前進。『301』のプレートが掛けられた部屋まで辿りつく。事前の情報でここが幸之介の部屋だと聞かされている。
ポケットからピッキングツールを取り出し、部屋の鍵を静かに開け侵入する。豪奢なベッドの上で小さく寝息をたてる50代前半の男。精巧に蓄えられた黒い髭が特徴的な偉丈夫を見て、スカーはスペインの伝説上の人物であるドン・ファンを連想した。
「拘束しろ」
アーチェの指示に従い幸之介の口を塞ぐ。
「…ぐッ…!?むぐぐ…!!」
呼吸を妨げられ、パニックになりかけながら覚醒する幸之介。しかし彼が暴れる前に後ろ手に結束バンドで拘束。猿轡を噛まされ、その上から麻袋が被せられる。
「むぐぐ!?むぐ…んぐッ!」
尚も抵抗しようとするバスローブ姿の幸之介。その頭部にサーシャがグラッチの銃口を突きつける。彼の耳元に口を近付けると、
「黙れ」
「…ッ!」
小さくも低い恫喝に、一瞬で大人しくなった。こめかみに当てられた硬く冷たい感触には、魂を刈り取られる絶大な恐怖があった。
「こちらR-1。'クレア'確保」
アーチェが幸之介を確保した事をCPに伝える。
「ここからは三手に別れる。R-2、3はこの部屋で待機。R-4、5、6は'フィアナ'の確保に向かい、R-1と7、8は'エリス'の確保に向かう」
「「「了解」」」
静かに音を立てずに進む。
階段から2階に降りて直ぐに、ライトを持った黒服の見張りと遭遇。
パシュッ----。
見張りの頭部を撃ち抜き倒す。廊下の突き当たりに物置部屋が現れ、そのすぐ隣にある階段との間に死角がある。そこで歩いてきた2人組の見張りを待ち伏せる。
「-----?ッ!」
「…な、貴様ら…!」
死角に入ってきた2人が驚きに目を剥くが、声を出す前に1人をスカーがナイフで口を押さえながら心臓を素早く刺し貫き、もう1人をサーシャがワイヤーで絞殺。
「ガッ…!」
「ギッ…!」
倒れた2人を死角に隠し、引き続き前進。
2階の『204』号室にて就寝中の慶介を発見。
「!?------お前たち…」
有無を言わせず拘束。'フィアナ'を確保。
そして1階、『101』号室。
「------ガッ」
暴れそうになる晶介をボリスがAKの銃床で顎を打ち沈黙させる。
『こちらR-1、’パッケージ'オール確保。繰り返す。’パッケージ'を全て確保』
『CP了解。全ての'パッケージ'と共に速やかに離脱せよ』
無線から聞こえる慶三郎の声を切ると、ロメオチーム全員を1階に集合させる。
「裏口から出るぞ。森を突破して東海岸で回収部隊と合流する。外の連中に見つかるなよ」
全員が無言のまま頷くと、裏口から密かに出る。
と、その時----------。
「……」
スカーが裏口から出る直前、振り返る。
「…?どうした?」
「……いや」
ゲオルギーが聞いてくるが、スカーはすぐ様外に出ていく。
彼が見つめていた場所----------なんの変哲もない『扉』。そこからスカーが感じた気配は、チャーリーの全滅の報により神経過敏になっていたからだろう。……よもやあの扉がそうである筈がない。
もし、そうなら。ここの人間は全員、とっくの昔に心臓がなくなった状態で転がっている------。
*
理雄が抱えている葛藤を話すと、暫く食堂内に沈黙が下りる。
やがて、英牙が厳かに口を開く。
「いいか、お前はお前のすべき事だけをしろ」
英牙の表情と声には、一切の私情を許さない冷徹さがあった。
「しかし…俺は…」
「その子がどんな夢や希望を抱こうが自由だ。だが身内が'熊の穴'に火を投げ込んだなら俺達は容赦しない。気の毒ではあるが、こうなったが最後、巻き込まれるのは避けられない……俺達と同じでな…」
「…ッ!」
それは、どうしようもない現実であり、正論だった。
だが…それでも…!
「俺は……この地獄に、あの子達を引き込みたくないッ。天城さん、俺は8年前。両親と恋人を失い。世界の闇に足を踏み入れてからも大切な人を失い続けた…。俺は呪いましたよ。無力な自分と、破滅に向かう世界を。一度は全てを諦めた。夢も希望も持たず、期待する事をやめて。いつか来る自分の最期までひたすら抗って生きるしかないって------」
そして、一歌達と出会った。
「俺はこの世界で、守りたい人達が出来た。俺は彼女達から貰ったんだ。希望を……本当の想いを!!それを闇に呑ませたくないッ」
「…膨大な数のアノマリー、実態不明の要注意団体、Kクラスシナリオによる世界の破滅。'アレ'がいないこの世界も、1年後には消滅しているかもしれないんだぞ」
「だが財団は、そういった脅威から100年以上人類を守ってきたんでしょうッ?俺は戦いますよ。彼女らの想いと、この世界の為に。アノマリーも、要注意団体の連中も、必要なら財団とだって、一歌達の未来を阻む存在は全部ッ全部ッ……俺が倒す!!」
全てを言い終えると、聞いていた皆が口を開けながら唖然としていた。
財団を敵に回す……それは、世界の全てを敵に回すのと同意義である。
すると、英牙は------。
「財団を敵に回しても…か…、お前、本当に変わったな」
少し苦笑しつつ、呆れたような、感心した様な表情を見せる。
「------俺も、俺達のような人間を増やしたいとは思わない」
そう言って、左の拳を理雄の前に突き出した。
「お前だけじゃ戦えない。俺も力を貸す」
「天城さん…!」
気付けば、ジュリエット全員が理雄の周りに集まっていた。
「戦いを放棄しない…俺達の誓いだ」
悟が言う。
「俺も、あのテーマパークのガキ共には笑っていて欲しいしな。おもしれぇ奴等だし」
信孝が続き、各々が理雄と拳を合わせていく。
想いが1つになる。8人の本当の想いが…。
俺は…俺達は、この世界の想いを守りたい------!!
その時、全員のスマホが光り始める。
「…?」
「なんだ…これ?」
「『untitled』…?」
各自のスマホの液晶画面に表示される見知らぬアイコン。そこから眩い光が発せられている。当然戸惑う者が大半だが、その光には、自然と全員が惹かれ------アイコンをタップ。
直後、溢れた光が音と共に8人を包んだ------!