Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
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『理雄、君が私の側に付くのなら、あの時の力を……【時間の流れが永遠と化したセカイ】を君に与える』
その瞬間、空気が変わった------。
アノマリーの少女------IAから提示された条件に、全員が息を呑んだ。
束の間、夕陽に照らされたセカイに沈黙が満たされる。
「…………デタラメを言うな」
不意に、理雄が押し殺した声で低く呟く。握られた拳が震えていた。
『本当』
しかし、IAはにべもない様子で断言する。
「…本当に……あの力を寄越すんだなッ?」
『もちろん。ただし……こっちの味方に付かない限りは、絶対にあげない』
「…ッ!」
理雄は歯噛みする。
今の自分では、今後アノマリーや要注意団体などを敵にした場合、対等に戦う事はできない。ダミアン・オコナーと激突した際、理雄は己の無力さを痛感したばかりなのだ。
IAの提案は、とても無視できる物ではなかった。
「俺は……」
「そこまでにしろ!」
理雄が何か言おうとした時、英牙から怒声が飛ぶ。
「理雄、お前は何かを決める立場にない。決めるのは俺だ」
流石に見過ごせなかったのか、英牙は2人の間に割って入ると、会話を無理矢理中断させる。
「悪いな。少なくとも俺はこの半人前の小僧にヘンテコな力を与える気はない」
『……そう』
意外な事に、IAは不快そうにするでもなく、素直に引き下がる。
『まぁ、取り敢えず今日はいいや。このセカイの完成と、君達への挨拶が今回の目的だからね、これ以上欲張るのはやめておこう』
IAは肩を竦めると、右手でパチンッ…と指を鳴らす。
すると、何もない空間から光が集まり、物体を形作っていく。
やがて、黒光りする大小の物体がIAの腕の中に現れる。
『君に返すのを忘れていたんだ。受け取って』
理雄に差し出されたソレは、HK416とH&K VP9拳銃だった。
特徴的なサプレッサー始め、各所に見慣れたカスタムが施されていてすぐに気付いた。
「コレは……俺の…!」
見間違える筈がない。自分が元居た世界で使用していた装備だ。ジュリエットに所属して以降、自分で注文し、何年も自分で管理してきた欠かせない存在だ。
この世界に連れてこられる直前------あのマンションでIAと接敵した時も、この銃で任務に当たっていた。
『他の皆んなと違って、君はちょっと特殊なケースだったからね……武器まで一緒に持ち込めなかったんだよ』
そう言えば……あの部屋で目覚めた時、自分はマルチカム迷彩のコンバットシャツとパンツ、ブーツの上にタクティカルベストやガスマスク、ヘッドギアを付けた状態でベッドに寝転んでいた。
各種ポーチに詰め込んでいた弾薬やIFAK(個人用応急処置セット)は見つかったが、銃は最後まで見つからなかった。
「なんだ。銃を無くしてたのか?」
英牙が呆れた様子でこちらを見る。
「まさかッ、素人のヘッポコ新兵じゃあるまいし……ここに来た時には無くなってたんですよ」
慌てて否定した所で、理雄はある疑問を抱く。
「え……他の皆んなはこの世界に来た時、装備はそのままだったんですか?」
見渡すと、全員から首肯を返された。
「あぁ、コッチの財団に回収された直後は、あのマンションの時に使った装備のままだったぞ。銃もそのままだ」
初雪からそう言われる。
だが、向こうの世界では、ジュリエットチームは作戦行動中、基本的にはHK416とVP9を装備する。
機動部隊はあくまで"アノマリー収容のスペシャリスト集団"であって、全ての機動部隊が米軍のデルタフォースやNABY SEALsの様な軍事系の戦闘部隊という訳ではない(もっとも、機動部隊は危険な任務に対応するのが常なので、所属する人員の大半が戦闘のプロである場合が多い)。
だが、シータ25は対人・対アノマリー戦を想定した武装即応部隊である。
どちらかと言えば、シータ25はニュー7と同様の軍事系戦闘部隊だ。少数精鋭の特殊作戦部隊である事から、武器だけでも様々な物を使う。初雪や信孝の様にポジションに応じてM110やMINIMIを装備する事もあるが、拳銃までは変わらずVP9だった筈だ。
現在のジュリエットチームは、任務時は全員がSIG P320を装備している。てっきり自分と同じで、この世界でメリッタから装備を一から揃え直していたのかと思っていた。
その辺を聞いてみると、今度は悟が苦笑気味に答える。
「あぁ……それか?俺達も使い慣れたヤツのままがいいから、メリッタにもそう言ったんだが、『VP9だけはパーツやアクセサリーが足りないから整備性に支障が出る』って言われたんだよ。だから新しい部品が納入されるまで『コイツで我慢しろ』って言われてSIGを渡されたんだ。けど拳銃以外の装備はそのままだぜ?」
あっけらかんとした様子で語る悟。改めて見ると、ベストやヘルメット、コンバットシャツの肩口には日本の国旗と財団のシンボルマークの他に、シータ25の部隊章である"パナギア"が描かれたワッペンが貼られていた。
これらのワッペンは『IRパッチ』と呼ばれ、赤外線を反射する素材で作られた夜間や暗所での
「なんで俺だけ……」
いや、それよりも------。
「…何故、あの時の力を俺に託す?」
あれだけの力を、英牙や初雪ではなく自分に与える理由が分からなかった。
しかし、IAはあっけらかんとした様子で言う。
『簡単だよ。あの力は君以外には使えない。だってアレは……志熊理雄が元から持っていた力なんだから』
「…は?」
意味が分からず、眉を顰める。
『あぁ、これだと分かりづらいか……ならこう言おう------------アレは、"この世界の君"が生み出した力だ』
その言葉を聞いた瞬間、全身に衝撃が走った。
理雄だけでなく、IA以外の全員が驚愕していた。
その時、理雄の脳裏をある物が過った------。
あの力を発現した際、頭に謎の記憶が大量に流れ込んできたのだ。
「どういう事だ!何故そこで俺の名前が出てくる!?この世界の俺に何があったッ?あの力は……『セカイ』ってそもそも何なんだッ!アンタは何を知っている?教えてくれ!IA!!」
衝動に駆られながら叫ぶ理雄とは対極に、IAは落ち着き払った態度で背を向ける。
『私はもう失敗できない……今度こそ、この世界を守ってみせる』
IAの決意じみた言葉を最後に、理雄達は音と共に光に包まれる。
そこに、理雄達の姿はなかった。
気付いた時には、理雄達はサイト-8156にある食堂に戻っていた。しばし茫然と立ち尽くしていた彼らだったが、やがて英牙が口を開く。
「……お前たち、無事か?」
英牙が見渡す限り、ジュリエットチーム全員が無傷で揃っていた。だが、その表情からはまだ困惑が窺えた。
「…何だったんだよ。アレは…」
ふと信孝が呟き、再びスマホを確認するが、『untitled』のアイコンをいくらタップしても何も反応しない。
理雄も同じ様に試したが結果は変わらなかった。他の皆も同じだ。
「ちッ……あの女、俺達を閉め出しやがった」
信孝が悪態を吐きながら己のスマホを食堂のテーブルに叩きつける。
「取り敢えず……夢じゃないのは確かだ」
理雄がそう言うと、テーブルにゴトッ…と重い物を置く音が聞こえる。
あの場所でIAから渡されたHKとVP9だ。
「------本当だと思いますか?」
ふと、珍しく向一が自分から喋る。
「何がだ?」
英牙が問い返す。
「この世界が………近い内に滅びるって話です」
あまりにも単純かつ、重い響きを残すその言葉に、全員が押し黙る。
世界の滅亡------Kクラスシナリオをはじめ、財団で何度となく聞いてきた話だったが、まさかこの様な形で知らされるとは思わなかった。
「まぁ……Kクラスなんて物が実際にあるんだ。あながち嘘だとは思えないが……」
初雪がチラと英牙を見る。
「……あの話の真偽は別として、問題はこれからどうするかだ」
『セカイ』の存在はダミアンの件で上に報告済みだ。今回の出来事を話せば、間違いなくジュリエットチームは調査対象になる。当然、暫くは自由なんてないし、最悪の場合はアノマリーの如く隔離・収容される可能性もある。
この場にいる全員がそれを理解していた。
「……上の連中の中には、現場の事なんか頭にない輩も多い。今回の件が耳に入れば、俺達は良くてクビ。悪けりゃラボの実験台に直行だ」
英牙が最悪の結末を語る。そしてそれは、間違いなく事実だ。
「言いたくはないが、財団お抱えのキチガイ博士や変態研究者どもに身体を弄くり回されるのはゴメンだぜ」
「安心しろ宮崎、俺も皆んなも同じだ」
英牙は全員の目を一人一人見て意思を確認すると、結論を告げる。
「俺はこのまま使い捨てられる気はないし、お前達にもさせない」
「じゃあ…」
英牙は初雪の方を向いて頷く。
「この件は、俺達のチームだけの話とする。阿嘉や財団上層部の人間は勿論、他所者には絶対に話すな。いいなッ?」
英牙の下した決定に、反対する者はいなかった。とは言え、この状況を放置する訳にもいかない。
「あのアノマリー……IAに協力しますか?」
悠間が提案する。
「冗談だろッ?サーキックのへなちょこ野郎と叛逆者どもの親玉を引っ張り込んだクソだぞ?」
「同感だ。何一つ信じられない」
信孝が激烈な拒絶反応を示し、悟が同意する。
「理由は知らないが、あの女が全ての元凶なのは間違いないんだろ?俺達が手を組む相手じゃない」
「その上、肝心な事は全て秘密ときた。これで信頼しろと言われてもな…」
龍一郎が吐き捨て、初雪が肩を竦めて失笑する。
「秘密と言えば……この世界の理雄の事が気になるな」
ふと、悟が理雄の方を見る。
「お前の報告書は読んだ。時が止まった……とか書いてあったが、具体的にはどういう事なんだ?」
あの時の事象をイマイチ理解出来なかった悟が聞いてくる。
「えっと……俺の"特技"に関しては以前説明しましたよね?」
それに全員が頷く。
「確か………度を越した思考の回転力、空間認識能力、視力、聴覚、反射神経------だったか?」
悟が確認してくる。
「はい。俺が生まれつき持っている数少ない資質です」
機動部隊員としての実力は、高く見積もってもせいぜい上の下程度の自分がジュリエットに抜擢されたのは、この能力を有している事が大きい。
人間の体感時間は人によって異なる。それは、年齢による脳の衰えもあるが、時間の流れという物は人それぞれであり、個人個人によって時間は伸びたり縮んだりするのだ。
志熊理雄の脳は、常人よりも遥かに速い思考速度を持っている。
「普通、人間は物事を考えれば考える程、時間の流れが遅く感じる。逆に思考する回数が減ればその分速く感じる……お前の場合、普段の思考回数が常人の数倍……集中すれば数十倍まで跳ね上がる。結果、お前の見ている世界は時間の流れがスローモーション並みに遅くなっている」
初雪が解説を挟む。
「それに併せて、高い視力と空間認識能力を備えている。銃撃戦の最中も相手の銃口がどこを向いているかすぐに分かるし、そこから弾道を予測すれば、弾丸が発射されるまでに回避位置を一瞬で見出す事が出来る。『弾が発射された後だと当然無理だが、相手の狙う位置さえ分かれば、引き金を引き切る前に避ける事は難しくない』------だから弾に当たらないって……メチャクチャ過ぎるだろ。最初の頃は信じられなかったが、訓練で俺の狙撃を躱された時はホント驚かされたよ…」
龍一郎が溜息を吐きながら言う。
「俺も理雄とスパーリングしている時はそんな感じだったな……何せ、こっちの放ったパンチが全く当たらないんだ。そのくせ、向こうは面白い様に当ててきやがる。相手の攻撃が1秒後どこにくるのか、身体がどの位置にあるのか……全て見えていたのか…」
悟がウンザリした様子で頭を抱える。
「戦場で遠くから砲弾が降ってくる時も、音だけで着弾位置が読めるくらいだからな……バンカーで待機してる時、外に出ようとしたら『今はよせ』って突然コイツから言われて、『何だ?』と思った直後に、ヒュゥゥゥゥ……て音がして、すぐ目の前で榴弾が炸裂したし……どんな耳してんだよ。音が聞こえるより先に察知するとか…」
信孝が呆れた様子で呟く。
普通、発射された砲弾はある程度落下位置に近づかないと音が聞こえないのだが、理雄は砲弾が降る音をかなり遠くからでも聞き取る事ができる。そこから着弾するまでの時間と位置を把握できるのだ。
「まぁ……それは特技というよりもはや異能の域だが、それとこれに何の関係がある?」
英牙が話を本題に戻す。
「あの時は、その時間の流れが今までで一番長く感じられたんです。いや……アレは殆ど止まっていた。多分"ゾーン"に入った時の何千倍……何万倍と遅かったでしょう」
それを理雄の口から聞いた瞬間、全員が息を呑んだ。
「…時間の流れが永遠と化している……か……確かに、そんな力があれば、別次元の戦いになるだろうな。相手は何をされたのか分からないまま、気付いた時にはやられているだろう」
悠間の意見に、全員が同意した。
それだけの力があれば、少なくともジュリエットチームは、今まで以上に強力な敵と渡り合う事が出来る。しかし……、
「あのIAとか言う奴の話が本当なら、その力はこの世界の理雄が生んだ物なんだろ?『セカイ』がどうとか言っていたが、その正体が全く分からん…」
悟が頭を掻く。
IAは『セカイ』の事を、『"想い"が生んだ場所』と言っていた。ならばあの空間は、理雄達ジュリエットチーム全員の想いが生んだ事になる。
しかしながら、それであの現象の本質を測る事は出来ないし、納得も出来ない。
そもそも、あのIAと名乗る存在自体が、完全に正体不明なのだ。一体何を考えているのか……見当もつかなかった。
『この世界を守る』だなんて台詞も、実際どこまでが本当なのか……何か知っているとすれば、それは"この世界の志熊理雄"だろうが…。
「本人に聞こうにも、もう死んでるんじゃな…」
龍一郎が残念そうに呟く。
「……ちょっと待て」
その時、英牙が何か思い出した様に声を上げる。
「理雄、お前が提出した報告書には『謎の記憶が流れ込んできた』とあるが……アレはこの世界のお前の記憶で間違いないのか?」
理雄は頷く。
「はい。記憶の中の登場人物が俺の名前を呼んでいましたから…」
そこで、理雄はあの時見た記憶の内容を細かに話す。自分の事を兄さんと呼び涙を流す少女、教室で自分を糾弾する少女、激昂する少女、そして、『忌まわしい…』という謎の声----------それらを全て伝えた。
「……………分かっている事は少ないが…」
やがて、英牙が黙考を終え面を上げる。
「少なくとも最後の『忌まわしい…』って台詞に関してだけは、俺達にはよく聞き馴染みがある」
「「「…………………」」」
全員が静かに首肯する。
おそらく、クリアランスレベル2以上の全財団職員が、そのフレーズに聞き覚えがある筈だ。
「でも、何でここで"ヤツ"の名前が……」
「------静かにッ、誰か来る…!」
信孝が呟いた時、理雄が小声で人差し指を口に当てる。遠くから聞こえる足音を察知したのだ。
「マズイ……銃を隠せッ」
サイト内では警備などの任務に就く場合を除き、銃の所持を厳しく制限している。こんな所を見られたらタダでは済まない。
英牙の指示でテーブルに置かれたHKとVP9を厨房の大型冷蔵庫の陰に隠す。
やがて、近づいてくる足音が食堂の出入り口前で止まる。
「------ここに居たか、お前たち………どうかしたのか?」
現れたのは、我らがジュリエットチームの担当将校、阿嘉慶三郎だった。ジュリエットチームと同じマルチカム迷彩のACU(戦闘服)を着込んでおり、どこか挙動不審な理雄達を見て眉を顰める。
「いえ、何でも………何かありましたか?」
英牙が何食わぬ顔で答える。慶三郎はしばしこちらを不審そうに見ていたが、それ以上追求はしてこなかった。
「ロメオが帰還した。目標の3人全てを確保------作戦は終了した。以上を持ってサイト内の封鎖は全面解除。お前たちは帰っていいぞ」
それだけ言い残して、慶三郎は踵を返す。まだ仕事が残っているのだろう。
「…帰るか」
これ以上ここに居ても仕方がない。
隠した銃をこっそり回収し、英牙を先頭に食堂を出て行くジュリエットチームであった。