Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第五十八話 西暦2045年--------渋谷

 

 地雷原のビーチから回収された理雄は、駆けつけた財団職員に嫌な顔をされながら車の後部座席に乗せられる。自分を助ける為に危険地帯のど真ん中に送り込まれたのだ。文句の一つも言いたくなるのだろう。

 

「…どこに向かってるんだ?」

 

 財団が所有する黒塗りの4WDの助手席に座るスーツ姿の男に声をかける。

 

「第818基地だ。まったく……向こうの連中はどうかしてるぞ。あんなヤバい所に同僚を放り込むとか…何考えてんだ」

 

喉元の髭をジョリジョリと掻く30代半ばの男は、目付きが鋭く、独特な暗い雰囲気を醸し出している。どう見てもカタギではないし、彼の脇には拳銃が収められたホルスターが下げられている。

 

高速に入り暫く走っていると、やがて自衛隊の輸送ヘリが2機、上空を飛び去っていくのが見えた。陸自が保有するCH-47J/JA(チヌーク)だ。迷彩に塗装された機体は昼間だとかなり目立つ。

 

「軍事境界線に向かってるんだろうな。人員か物資の輸送だろう…」

 

 短髪で肩幅の広い男の運転手が一人呟く。

 

「最近はどうだ?アルギュロスの様子は…」

 

 理雄が聞いてみると、運転手は前を向いたまま諦めた調子で答える。

 

「変わらないな。高空から侵入を図ってくるヤツもいるし、近くの財団施設も被害にあってる……今じゃどこの業界も、アルギュロス対策に金を注ぎ込まざるを得ない。一般社会の民間企業は、安全圏外の空路や海路で物や人を運ぶだけでも、PMC(民間軍事会社)PSC(民間警備会社)を雇って護衛を付ける事が法律で義務化されてるし、政府は防衛費を賄う為に増税を継続、ハイテク装備が使い物にならなくなった自衛隊は、不足する戦力を人員で補おうとしているが、どう考えても足りていない……まぁ、戦後に失業者が溢れ返って、その受け入れ先として自衛隊があった訳だが、昔と違って今は殉職率が死ぬ程高い。終戦後も、過去に何度かアルギュロスとの戦闘で数百〜数千の隊員が戦死してるし、今じゃ志願者も元通り減ってるよ。20年経って、全国で復興はだいぶ進んだが、それでも国民の生活は苦しいし、ホームレスだって街には溢れたままだ。勿論、財団だって例外じゃない。アノマリーだけじゃなく、アルギュロスも相手しなきゃいけないんだ。昔以上に過酷だよ。今の財団は…」

 

「……………」

 

「そういや、中国とロシアの国境付近で、また衝突があったらしいぞ」

 

「またか?何年か前にもあったよな?」

 

「中国だけじゃない。アルギュロスから土地を取り戻す為には大量の資源が必要だ。領土争いや資源の奪い合いで、また人間同士の争いに火がつきそうだって、テレビじゃ散々言われてきたが……最近はどんどん現実味を帯びて来てる、実際、数年前から日本も離島とかで他国との小競り合いが何度かあったろ?まったく勘弁して欲しよな……こっちはアノマリーだけで手一杯だってのに……人間同士で殺し合って滅んだら、俺達の努力は水の泡になるだろうが……」

 

「…確かにな…」

 

 運転手との会話が終わると、今度は助手席の男が尋ねてくる。

 

「なぁ、アンタ異世界に行ってたって話だが……本当なのか?」

 

理雄は一瞬、話してよいものか迷ったが、彼らのクリアランスレベルならば、細かい情報を伏せれば問題ない筈だ。

 

「あぁ……そうだよ。詳しい地名とか任務の内容は話せないが、確かに行った」

 

「マジか!どんな所だった?」

 

男が興味深そうな顔をする。隣の運転手も気になるのか、チラチラとこちらを伺っていた。

 

「そうだな、まぁ………すごく平和だったよ。俺は殆ど覚えてないけど、戦前の日本みたいに穏やかな世界だった。アノマリーや要注意団体は変わらず暴れてたけどな…」

 

「ハハ、そりゃ最高だな。アルギュロスがいないだけでも……俺達にとっては、天国みたいな場所だろうな。そこは…」

 

 

 

高速から降りてから、東京との県境辺りで車は停まる。周囲は森で囲まれており、人の気配はない。

 

「ついて来い」

 

男二人の後に続き、理雄は車を降りる。

 

 目の前には、分厚い鉄筋コンクリートで作られた入り口らしき物が見えた。さながら映画に出てくるような、大規模核シェルターのようだった。

 

 その正面には『国有地につき、関係者以外の立ち入りを禁ず』との警告と、立ち入り禁止のラインが引かれていた。

 

 それを踏み越えて入り口手前まで来ると、対面する鋼鉄扉と対面する形で、備え付けられたテンキーで暗証番号を入力し、最後に生体認証として網膜スキャンと音声スキャンを済ますと、ガシャンッ!と大きな音と共に、扉が開錠される。

 

「ここが第818基地だ。余計な事はするなよ?最近はセキュリティ装置を増設したおかげで、些細な事でも基地全体に警報が鳴らされる仕組みになってる。そしたら上から大目玉を食らう」

 

物騒な脅し文句を口に、ギギギ…と重そうな音を立てながら、扉を手動で開けていく。どうやら中心にあるハンドルを回さないと、構造上開けられない仕組みらしい。万が一敵に侵入されても、時間を稼ぐ為の設計なのだろう。

 

「ふぅ……やっと開いたぞ、ここを使う時はいつもコレだ……ようこそ、第818基地へ」

 

難儀して開けた扉の前で一息吐きながら、その奥へと入っていく。急な階段を少し下ると、エレベーターの入り口があり、それを用いて地下へと降りる。

 

 『地下15階』と書かれたフロアに到着すると、無骨なコンクリート壁に囲まれた通路を歩いていく。

 

 一歌達の世界で根城にしていたサイト-8156と比べると、やや荒っぽい感じの施設だ。少なくとも不気味な程白く清潔ではない。

 

「正規のサイトとは違って、ここは完全な軍事基地なんだな」

 

「余計な研究エリアや収容ブロックがないからな。財団が所有する純粋な軍事拠点であり、他の要注意団体やアノマリー関連の勢力と戦争になった際、この地下要塞は真価を発揮する……ま、最近じゃ財団の活動を阻害するアルギュロスの殲滅にも用いられるけどな。ここから少し離れた場所には、『除外サイト-94G』もあるから、その防衛の要にもなってる」

 

「こういう場所は見慣れてるよ。派遣先でも寝泊まりする場所はこんな感じの基地だったりするし、どれだけ汚くてもないよりはマシだからな」

 

「おー流石、天下の機動部隊員様だな。色々と刺激的な生活を送ってそうだ」

 

「俺達はここに配属されてから、ほぼずっと地下勤務だからな……隊舎も地下にあるから、陽の光もあまり浴びれないし、今はもう慣れたが、正直息苦しくはあるよ」

 

 二人は羨望と敬服の眼差しを向けてくるが、理雄はそれに苦笑を返す。

 

「いやいや、派遣先によっちゃ基地すらない場合があるからな。特に最悪だったのは、巡洋艦での艦上生活だな。船酔いはするわ、寝床は狭いわ、艦の駆動音のせいで夜はロクに眠れないわ……あと、同僚のいびきは強烈だったな。マスタードガス並みの屁をこきやがるし…」

 

因みに、その人間マスタードガスとは、言わずもがな宮崎信孝である。あの男は、艦内持込み禁止の酒の代わりに、医療用の消毒用アルコールを飲んでやがったのだ(それも持って来たボトルを全て一人で飲み干した)。

 

 軽く談笑しながら歩いていると、司令官室の前に着く。習慣になってるからか、自然と心が引き締まった。

 

 肩幅の広い方の男が、扉前で2回ノックする。

 

日向(ひゅうが)二曹!以下一名、入ります!」

 

「入れ」

 

扉の奥から低い男の声が聞こえると、ゆっくりと扉を開ける。

 

 規則正しい動きで入室すると、そこには質素な執務机が置かれており、その奥の椅子に司令官らしき40代後半の男性が鎮座していた。細いフレームの眼鏡をかけた、武人らしい鋭い雰囲気を放っている。

 

 その側には、しかめ面の英牙も立っている。理雄と同じく、こちらも私服姿だ。登山ブーツにカーゴパンツ、上にはモスグリーンのマウンテンパーカーを着ていた。

 

 2人が入室すると、日向と名乗った肩幅の広い下士官が、音を立てない様ゆっくりと扉を閉め、その場で回れ右を行い、姿勢を正して10度の敬礼を取る。理雄も同じく腰を曲げて敬礼する。

 

「日向二曹は、志熊二曹をお連れしました!」

 

「ご苦労。下がってよし」

 

 短く労いの言葉をかけられると、「要件終わり!帰ります!」と大声で返事し、敬礼した後、回れ右を行い、先程と同じ要領でキビキビと退室していった。

 

「君も休め」

 

「ハッ」

 

気をつけの姿勢から、休めの姿勢を取る。

 

「話は聞いている。戻って早々、散々な目にあった様だな」

 

「いえ、ご迷惑をお掛けし、大変申し訳なく思っております!」

 

 自分も身分上は自衛官なので、ハキハキとしっかり受け答えする。もっとも、訓練校在籍時は、周囲の教官や助教は大半が自衛隊上がりであり、訓練のメニューや座学の内容も自衛隊がベースとなっている。

 

「この第818基地司令官を任せられている、四瀬匠(しせたくみ)将補だ。さて、君達は療養期間中、こちらで休暇を過ごす訳だが……我々の監督の元、君達には10日間の休暇が認められた。申請すれば、国内に限り移動も可能となる。ただし、有事の際はこちらからの呼び出しに応じて貰うし、帰隊拒否、許可された地域からの離脱、音信不通などの場合は無許可離隊(脱柵)と判断し、逮捕・拘束された後に軍事法廷で裁かれる。また、機密保持に関しても気を抜かないように……万が一民間人、あるいは外部組織に対する情報漏洩や身元の特定が行われた場合はすぐさま報告しろ。財団保安一般規約に則り対応するが、いずれにせよ懲戒処分となる可能性がある事を忘れるな」

 

それから暫く、休暇を過ごす上での規則と注意点を細かく説明された。特に身分証の紛失は問答無用で処罰の対象となる他、拳銃などの護身用武器も携帯は許されるが、紛失、或いは暴発を含む違法な発泡をすれば厳罰。

 

 定期連絡を含め、報告を欠かさない事。特に警察などの一般司法機関に身辺の調査、身柄の拘束、或いは拘束される可能性があった場合は、速やかに報告するよう念押しに言われた。

 

「注意事項はこれでひと通りだな……では、財団職員としての本分を忘れず、しっかりと英気を養うように……何か質問は?」

 

「「ありません」」

 

「では、下がってよし!」

 

英牙と二人で敬礼し、司令官室を後にした。

 

 

 

 

 その後、英牙と共に私服姿のまま法務部を訪れた。

 

「では、これらを武器庫の管理責任者へと渡して下さい。それと、お渡しした身分証明書は絶対に失くさないように」

 

 太いフレームの眼鏡をかけた、文官タイプの軍人から渡されたのは、拳銃と弾薬一式の所持申請と、それらを許可する旨が書かれた書類だった。責任者のサインと捺印も押されている。

 

 もう一つは、この世界で新たに発行された身分証明書だ。

 

 今までは免許証や保険証にコッソリと秘密IDを忍ばせていたが、今回はより頼り甲斐のある物を配られた。

 

国際ヴァンガード監督機構(IVSO)から発行されたPMCライセンス……ですか」

 

法務部を去り、廊下を歩きながら渡されたカードを感慨深く観察する。ラミネート加工を施された硬質な表面には、それぞれのバストアップされた顔写真と、拳銃携帯許可証が記されていた。

 

ふと疑問に思い、隣の英牙に尋ねる。

 

「俺達の身分って自衛官ですよね?コレ大丈夫なんですか?」

 

「知らないのか?自衛官を含め、全ての公務員と民間人は、養成機関で訓練を受ければ基本誰でもライセンスを取得出来る」

 

それは初耳だった。少し驚く理雄に対し、英牙は呆れる。

 

「あのなぁ……アルギュロス戦争以降、銃刀法が大幅に改正されてからは、一般人でも税金さえ納めれば自宅内で拳銃や散弾銃を所持できる。それらを外出時も携帯出来る様にしたのが、PMCライセンスなんだ。別に民間軍事会社の人間じゃなくても、V&Rシステムに登録する事は出来る」

 

 英牙の話によれば、車の免許取得と同様に、自衛隊内でもPMCライセンス取得が可能であり、駐屯地内で自前の教習所や訓練施設を用いて必要な資格を得られるらしい。その際、費用は全て自衛隊持ちなので、外出時の護身用に銃を携帯する為に、取得する隊員も多いとの事だった。

 

「とはいえ、免許と同じで順番待ちがあるから、結構先になる場合もある。俺の場合は20歳の時だったな…」

 

「え…天城さんも持ってたんですか?」

 

「一応な。ただ……財団とIVSOは長い間連携して来なかったからな。俺が財団に入った瞬間、せっかく手に入れたライセンスも白紙にされたよ…」

 

「…そういや、ウチとIVSOって仲が悪いんでしたっけ」

 

「あぁ、ヴァンガードの事でかなり揉めたらしいからな……ま、財団からしてみれば、当然と言えば当然かもしれないが…」

 

『ヴァンガード』とは、『蒼星の忌み子』と呼ばれる特殊な力を持った少女達からなる戦闘員であり、PMCにおいては『リアガード』と呼ばれる監督役と二人一組でタッグを組ませるのが基本となっている。

 

 かつて、人間の常識から外れた彼女たちをアノマリーと認識し、SCIPとして確保、保護、収容を図った際、同じく彼女達をヴァンガードとして管理するIVSOと真っ向から対立する形となったのだ。

 

 その後、ヴァンガードも蒼星の忌み子も世界的に知られる様になり、財団は異常存在の秘匿という大義を失った。結果、財団とIVSOの対立は無くなったものの、過去の経緯からお世辞にも良好な関係とは言えなかった。

 

 それでも、ここ最近は互いに協力する姿勢が見られている。先程、理雄と英牙が受け取ったライセンスも、財団の手が加わった上でIVSOから発行された物だ。これは一般社会において、警察手帳とほぼ同じ扱いを受ける。

 

「やれやれ……これでこの世界にいる間は、気兼ねなく銃を持てる。…お前みたいなすぐ迷子になる奴でも、コレがあれば安心だな」

 

意地悪そうに笑ってくる英牙に対し、失笑気味に反論する。

 

「別に好き好んではぐれてる訳じゃないですよ。あの女(IA)に拉致られたり、向こうのアホな職員どもの手違いだったり……それだけですよ」

 

 雫じゃあるまいし……と、理雄は外見と内面が驚く程見合っていないポンコツアイドルを連想した。

 

「そうか?お前ジュリエットに来てから最初の任務の時、崩れた建物の中に落っこちたろ。危うく任務から離脱しかけやがって」

 

「任務は成功したし、俺も自力で抜け出しましたよ!」

 

「そうだな。あれで任務が失敗したら、そのまま置き去りにしていたよ」

 

 さらりと酷い事を言いながらカラカラと笑う。

 

 英牙は所属企業のロゴがない、資格のみとして機能しているライセンスを見ながら、ふと呟く。

 

「…そう言えば、PMC以外にもIVSOからヴァンガードは出向していたよな?」

 

「えぇ、刑務所の看守や自衛隊のヴァンガード部隊……財団にもW(ウィスキーチーム)が居ますからね。元気かなアイツら……」

 

「…淫獣の本能が荒ぶるか?変態め…」

 

「違いますよッ!」

 

英牙が蔑む様な視線を向けてくるので、全力で否定する。

 

 Wチームは、オーストラリアを拠点に活動するシータ25の構成分隊の一つであり、全員がヴァンガードで構成されたチームである。分隊指揮官を除けば全員が10代の少女であり、ジュリエットは一時期、彼女達の教導部隊として、訓練と実戦を共にした経験がある。

 

 その際、理雄はメンバーの少女達とかなり仲良くなったのだが、一体何を勘違いされたのか、自分は周囲から『淫獣』という不名誉な渾名を拝命している。

 

 今でも財団の女性職員からは汚物を見る様な視線を向けられるし、男性職員からは嫉妬と憎悪の視線に晒されている。

 

「何でもいいが、兎に角行くぞ。アイツらが先に待ってる。俺達以外は全員このライセンスを持ってるから、後は俺達だけだ」

 

 何でもよくないのだが、面倒臭くていちいち文句を言う気にもなれず、渋々後をついて行く。

 

「…ヴァンガードで思い出したんですが、宮崎も財団に来る前はライセンス取ってたらしいですよ。PMCじゃなくて、大学行きながら民兵やってたとか…」

 

「……そうなのか?」

 

今度は英牙が面食らった様子だった。

 

「えぇ……聞いていませんか?その話なら確かみんなが…」

 

 過去の話はタブーとはいえ、このくらいなら自分から話題に出したりもする。てっきりジュリエット全員が知っているものと思い、英牙の反応に少し戸惑う。

 

「…いや、まぁいい。確かそんな話もあったかな…」

 

何だか曖昧に誤魔化される。

 

 その後、英牙がこちらと目線を合わせてくる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下故に、冷んやりとした空気に包まれた武器庫の前には、金網で塞がれた受付口があり、そこには常駐の管理責任者を務める戦闘服姿の軍人が座っていた。

 

 階級章を見てみると、三曹となっていた。

 

「天城英牙、認識番号62784144。拳銃の受領と弾薬を申請、使用弾薬は9mmパラベラム、合計15発」

 

申請許可証を渡すと、それを確認した軍人が「確認しました」と言って席を外す、少しすると、ハンドガンの入ったケースと弾薬入りの紙箱を持ってくる。

 

 ハードケースと呼ばれるポリプロピレン製のガンケースであり、紙箱には15発分のカートリッジが詰め込まれていた。

 

 ガンケースから銃を取り出すと、ベルギーのFNハースタル社製、FN HiPerだった。

 

 プラスチック製のトレーにHiPer拳銃と弾薬を並べると、受取口からこちらへ差し出される。

 

「申請した内容通りか確認して下さい。問題なければ、ここにサインを」

 

英牙は拳銃の状態と弾薬の数を確認すると、渡されたクリップボードに挟まれた記録用紙に直筆で名前と日付、銃の種類と弾の数を記入する。

 

それを完了すると、クリップボードを返し、受領を完了する。

 

 自分も同じようにXDM4.5を40口径弾と共に受領する。

 

 マガジンに弾を込め終わり、二人とも腰の後ろのベルトに挟む。

 

「さぁ、行くぞ」

 

 英牙について行きながら、地上までエレベーターを用いて上る。

 

 エレベーターから降りると、それぞれの手荷物を抱えた信孝、龍一郎、向一、悠間、初雪、悟が待ち構えていた。

 

「よお。地雷源に落とされたって聞いたぞ?」

 

悟が少し心配した……というよりは、安堵した表情を見せる。

 

「すみません。迷惑かけて…」

 

素直に謝ると、背後からニヤけ面の信孝が近付いてくる。

 

「だから言ったろ?この"黒髪のお姫様"は不死身だって。地雷なんかじゃ死なねえよ」

 

「当たり前だろ。俺だぞ?」

 

軽口を叩き合いながらグータッチを交わす。

 

「よし。理雄も戻った事だし、これでジュリエットチーム全員集結だな」

 

初雪が全員を見渡すと、最後に英牙に視線を向ける。

 

「まず最初に、帰還した事を"彼ら"に報告する。その後は自由行動だ。ここの司令官殿が配慮を効かせて、長距離バスを用意してくれた」

 

おぉ〜…と低めの歓声が上がる中、向一が理雄に困惑した顔を向けてくる。

 

「あの、先輩……"彼ら"とは?」

 

「ん、あぁ……お前は行った事なかったな。俺達ジュリエットチームが創設から50年もの間、隊員同士で気軽に交流を深める場として、資金を出し合って維持している山荘だよ。所謂"溜まり場"とか、秘密基地だな。夏はキャンプとかバーベキューに使うんだけど……まぁ、来れば分かるよ」

 

 そう言って、8人は移動を開始した。車椅子に乗る龍一郎は、悠間に後ろから押されて行く。

 

理雄達が現在いるのは、地上から車両などを出入りさせる為の入り口付近であり、背後にはかなり広い駐車スペースがある。基地に配備されている軍用車両の他、勤務する軍人達の自家用車もちらほらあった。

 

 軍用車両の大半は、73式大型トラックや軽装甲機動車(LAV)。他にも96式装輪装甲車(WAPC)16式機動戦闘車(16MCV)、90式戦車や10式戦車などが見られた。

 

 これらは全て現行の自衛隊で運用されている筈だ。おそらく大半が陸自の払い下げ品、或いは何らかの形で譲渡、購入された物だろう。

 

 天井は低く、空気はあまり良くないが、緩やかな坂を登って行くと、入り口から差し込む陽光の光が見えた。

 

 地上に出ると、森に囲まれた舗装路に足を踏み入れた。

 

 周囲は森に囲まれ、やや暖かくなった春の風が、清涼に顔を撫でる。ここはどこかの公道なのか、目の前には大型のバスが停留していた。

 

「さぁ、とっとと乗るぞ」

 

英牙に続いて続々と乗り込んでいく。悟の大荷物は、後日トラックで配送されるらしく、皆が手荷物を抱えたまま身軽な状態だった。車椅子の龍一郎は周りの手を借りながら、慎重に乗車していた。

 

「ヒュー……見ろよ貸し切りだぜ?」

 

信孝が口笛を吹きながら感想を口にする。車内は思いのほか広く、クーラーも効いていて快適そうだった。

 

「座席も柔らかそうだし、こりゃ途中の昼寝が楽しめそうだ」

 

そう言って初雪が一番奥の席に座り、他の面子も各々好きな席に座っていく。

 

 全員の乗車が完了すると、バスは緩やかに発車した。

 

 

 

 

 

木々に囲まれた道を抜けると、だだっ広い開けた土地に入る。特に見るものはない。流れて行く景色の大半は、畑か田圃のどちらかだ。

 

 終戦後の再開発により、この辺の土地は大体が食糧生産拠点か、地域資源として活用するべく、太陽光発電によるソーラーパネル群が増設されている。

 

 海辺の方に寄ると、海沿いに設置された風力原動機の巨大なプロペラや、バイオマス発電所。そして、近年正式稼働が始まったトカマク型核融合炉などが見られた。

 

「なんか懐かしいな。こういうの見てると、学生時代の宿泊研修や修学旅行を思い出すよ。俺の時は京都だったな……ユウ、お前はどこ行った?」

 

龍一郎から話を振られた悠間は、外の景色を眺めるのを中断し、顔を向ける。

 

「俺はオーストラリアに行ったな」

 

「マジか!?こんなご時世に海外かよ…」

 

「高校時代な、元々俺の入った高校って私立の名門女子校だったんだけど、他校と合併して共学になったんだよ。だから金もそこそこあったんだろ」

 

「へー……じゃあ、生徒も女子が多かったんじゃないか?羨ましいぞ」

 

 信孝が揶揄ってくると、悠間は「ハァ……」と嘆息する。

 

「あのな…その学校は中高一貫の典型的なお嬢様学校で、金持ちの女の子達が入るような敷居の高い場所だったんだよ。俺が入った時なんかは共学から一年しか経ってなかったから、全校生徒の8割近くが女性、三年の先輩は全員が女だし、二年も殆どが女だった。入学したばかりの頃は兎に角居心地悪かったよ…」

 

「ほ〜ん……でも、お前みたいなモテ男なら、嫌がる奴はいなかったんじゃないか?」

 

「どうだろうな……まぁ、基本的には皆んな親切にしてくれたよ。二年には頼りになる男の先輩もいたからな。その人のおかげで俺は学校生活に馴染めたし、男子生徒の存在を不安視したり、認めようとしない女生徒も、その先輩が力を貸してくれたからこそ、見る見る内に減っていった……俺が二年に進級した時には、先輩は学校初の男子生徒会長になり、それからかな。男子と女子の間にあった壁みたいなのが無くなったのは…」

 

「そりゃスゲェな……俺でもそんな高度で政治的な手腕は持ち得てないぜ」

 

「お前の場合は入学自体拒否られるだろ」

 

 理雄が横から茶々を入れると、周囲から笑いが起こる。

 

「ハハハッ、確かに俺みたいな究極超人は常識じゃ計り知れない男だからな。その内財団からも『Thaumiel』クラスに認定されるぜ」

 

 歯を見せながら自慢げに笑う宮崎。その様子を見て、理雄がツッコミを入れる。

 

「お前の一部に関しちゃとっくにアノマリーレベルだろ。主に人格というか性癖が。マジで『Keter』クラスオブジェクトに対抗して、世界を救っちまう次元だぞ」

 

「ファハハハハハ!そうだぜ理雄、よく分かってるじゃねぇかッ、俺が居ればジュリエットは無敵だ!心から感謝しろ」

 

誇らしげな顔で真に受ける宮崎。皮肉の通じない男だ。

 

「まぁ、それはさて置き……その先輩って、今何してるんだ?」

 

 龍一郎が話を戻す。

 

「確か……卒業した後、自衛隊に入ったって聞いたな……その後は音信不通。今は何してるのか…」

 

 目線を落とす悠間。財団に身を置いたせいかは分からないが、ともかく疎遠になってるらしい。

 

「ま、修学旅行は楽しかったよ。飛行機で移動してる間は、PMCの護衛機が見物できたし、向こうは他の外国人も多かったから、色々と新鮮な体験だったよ。あと、めちゃくちゃ暑い」

 

各自で話題に盛り上がる中、理雄は窓の外を見遣る。

 

 路上の隅に、アルギュロスの残骸が放置されていた。

 

 全長20m弱のサイズで、亀の甲に似た背中に120mm滑空砲を二門担いでおり、前方の頭部らしき部位には、センサーらしき目が大量に付いていた。

 

「…副長」

 

「ん?」

 

「…そう言えば、ジュリエットってアルギュロスと交戦した事ありましたっけ」

 

近くの席に座っていた初雪に聞く。

 

「あぁ……確かお前と宮崎が入る少し前にあったな。財団が関与しない非公式な任務だったが、陸自の支援に向かったんだ。それがどうしたか?」

 

「…いや、以前リューさんが言ってたじゃないですか。『俺達の世界は、表も裏も混沌としてる』って……確かに、アルギュロスなんて物がいるせいで、ぶっちゃけ何が普通で、何が普通じゃないのか……時々分からなくなんです」

 

戦前の頃……アルギュロスが襲来する前は、世界の表裏が明確だったと聞く。一歌達の世界なんかは、正にそんな感じだった。

 

「俺は、戦争勃発前の日本を殆ど覚えていません。開戦直後の時点で3歳かそこらだったので……副長は何か覚えていますか?まだ表社会が平和だった頃を…」

 

「…………………………」

 

すると、初雪は妙な沈黙を返す。

 

「…副長?」

 

「------てない…」

 

「え?」

 

「俺は、当時の事を覚えてない。というか-----------------俺には、過去13年の記憶がない」

 

「え------------」

 

あまりに衝撃的な告白に、言葉が出なかった。

 

「俺の記憶は、高校一年生以降………つまり、俺の妻である小坂井真綾と出会う一年前より後の記憶しかない。それ以前は全くだ。自分がどこで生まれたのか……両親の顔すら、俺は覚えていない」

 

「それって……」

 

「原因は不明だ。財団は何か知ってる様だが、データベースにある俺の過去記録には、自分のは勿論、英牙のクリアランスでもアクセス出来ない。記憶処理でも受けたのか、何か別の理由があるのか………俺が財団に身を置く理由はそれだ。自分が何者なのか………その過去を知りたい」

 

初めて聞かされた初雪の目的------記憶がないというのも驚きだが、こうして仲間の真意に触れるのは、今まで無かった事だ。

 

 悠間や信孝に自分の過去を話した事はあったが、こうして誰かの過去を-----------想いをしっかり聞いた事は、振り返ってみればなかった。

 

 すると、話題がある程度収まった頃を見計らって、信孝が英牙の席に向かう。横目で見た彼の表情は、先程と打って変わって真剣極まる物となっていた。

 

 他のメンバーから一番離れた、前方の席に英牙は座っていた。その隣に信孝は腰を下ろす。

 

「…おい宮崎、席なら幾らでもあるってのに、なんでわざわざ大男2人でこんなピッタリくっ付いて座るんだ」

 

「アンタに大事な話がある」

 

英牙の抗議も聞かず、鋭い雰囲気を放ちながら信孝は話す。

 

 真面目な話だと分かり、すぐさま聞く姿勢を正した。

 

「向こうの財団の連中、転移装置が完成するや否や、いきなり俺達を送り返しやがった。休暇と言えば聞こえは良いが、療養ならむしろ、アルギュロスどもがいない向こうの方がいいだろ。どうしてコッチに移す?」

 

「お前らが治療施設で散々暴れたからだろ?向こうもいい加減うんざりして、体よく厄介払いされたんじゃないか?」

 

「果たしてそうかな」

 

「……何が言いたい?」

 

「別に帰りたくなかった訳じゃねえよ。ロメオの連中は粗雑だしえげつないが、腕は信頼している。俺が言いたいのは、サイト-8156であの『セカイ』とか言う空間に放り込まれた日、その直後にまるで図ったようなタイミングで、帰還命令が下った---------上の連中、俺達が隠してる事に気付いたんじゃないか?」

 

英牙の眼が剣呑に細められる。

 

「…誰かが上に告げ口したって思ってるのか?」

 

「そりゃないだろ。皆んな纏めて解剖台送りにされるって分かってるんだ。わざわざ自分の首まで絞める奴は居ないし、そもそも裏切り者なんてジュリエットには居ない。俺はそう信じてる。となると---------」

 

 英牙は眉間に皺を寄せる。

 

「…財団は………『セカイ』や『IA」の事を、最初から知っていた?」

 

信孝は慇懃に頷く。

 

「考えてみりゃ、財団の言う事なんて大抵嘘塗れだ。それに、『O/D作戦』は過去に3度行われているんだろ?なのに成果を含めなんの情報も寄越さないってのはどういう事だ。財団はその時、何かを掴んだんじゃないのか?」

 

「…………」

 

「上の考える事なんて、碌なもんじゃない。奴等はまだ何かを隠している。『ディアトロフ峠事件』なんて比にもならない、とんでもない陰謀の臭いがプンプンするぞ…」

 

警告に近い言葉を残し、信孝は元の席へと戻って行く。

 

「………」

 

英牙は、不意に窓の外を眺める。

 

 青い空は、丁度曇り始めていた。

 

 今にも雨が降りそうな天気だった。

 

 それを睨む英牙の表情は、休暇中とは思えない程殺気立っていた-------。

 

 

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