Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
※今更ながら、キャラ崩壊にご注意を。それでは今日も参ります。
開いた扉から出て来たのは、理雄もよく知る顔だった。
大きな鼻に微量のシナモンロールをくっ付け、ウクレレを常に持ち歩き、Aメジャーコードを演奏しているチェシャ猫の様なニヤけ面の中年男性…。
そう……何を隠そう、財団が抱える問題児三人衆の1人。
「アルト・クレフ……おいマジか、勘弁してくれよ…」
性犯罪者なんて信孝と龍一郎で既にキャパオーバーだと言うのに……。
絶望のあまり崩折れそうになるが、ふと、脳内である記憶が引っかかる。
この男はどういう訳か、顔を撮影出来ない。
深い意味はない。文字通り不可能なのだ。
というのも、写真を撮ろうとした際、何かその場にない別の物が映り込んだり、そもそもちゃんと映らなかったりするのだ。
理雄が電光石火の勢いで、懐からスマホを取り出し、カメラアプリを開くや否や。超高速で撮影ボタンを連続タップする。
「うおッ?なんだいきなり…」
驚くおっさんを無視して、激写した何枚かの画像データを確認する。
結果------。
一枚目------------何も映っていない。完全なブラックアウト。
二枚目------------病院のベッドで、全身包帯グルグル巻きにされた東雲彰人が映っている。
三枚目------------宮崎信孝が全裸で死んでいる。うつ伏せの状態で斃れながら、右手でどこかを指し示していた。『止まるんじゃねぇぞ…』とでも言いたいのだろうか。
四枚目------------
五枚目------------誰だか知らないが、暁山瑞希に似た若い女性が、瑞希の隣で気が狂った様にゲテゲテ笑っている。姉か何かだろうか?背後には火災でも起きたのか、彼女達の実家らしき建物が炭と化している。実家の惨状を見て正気を失ったのかもしれない。
------------あ、これ間違いないな。
それらを見て全てを悟った理雄は、一瞬といえど、『もしかしたら似てるだけの別人かもしれない!』という儚い希望を、木っ端微塵に打ち砕かれた。
あからさまに頭を抱えて俯く理雄に対し、アルト・クレフこと、クレフ博士は不機嫌そうな顔になる。
「なんだ君は?それが上司に対する態度かッ?まったく最近の若造は礼儀がなってなくて頭にくるよ!」
「最低限の常識と倫理を放棄した奴に言われたくねぇよッ!この『
思わずスラング混じりの英語で怒鳴り返してしまう。
財団では対応チームとフィールドエージェントの訓練部門と開発課のトップを任され、セキュリティクリアランスレベル4を持つ上級職員であり、本来なら今みたいな態度が許される相手ではない……のだが…。
「悪いがアンタに敬意は払えない……というか払いたくても生理的に無理なんだよッ!財団に来る前、生物学で『人の精液の【規制済】への使用について』や『実験室と野外における人間の女性の乳首の感度の比較、※以下略』なんて論文書いて学界追放されたアンタに!」
そう---------この男、仕事は出来ても、人格が終わっているのだ。というか常軌を逸した変態なのである。
SCPの中でもかなり厄介な現実改変能力者に対抗するための非常に高い知識を持っており、実際にこれまで非常に沢山の危険なSCPを、迅速に、手際良く、精密に終了してきた実績がある。
現実改変者の殺害記録は99体。
最低でも一体の神格存在を破壊している絶対殺戮者である。
また、財団の堅牢なセキュリティを安易と突破したり、財団最凶と言われるSCP-682こと、通称"クソトカゲ"が手を出せなかったり、全ての女性に対して『本能的な恐怖』を煽るなど、写真が撮れない事以外にも謎の能力が盛りだくさんであり、ぶっちゃけ殆どSCPと大差がなかったりする。
非常に有能な一方で、辛辣な態度と度を越した変態性により、多くの財団職員から毛嫌いされている。
まぁ……顔馴染みのメリッタを含め、これらの類の変人は珍しくないが、採用する財団も財団である(聞いた話によれば、彼が発表した論文の中で、あるSCPの特性と似た特性に言及していた為、財団から接触があり、そのまま採用されたとの事だ)。
その辺に関しては、既に慣れてしまったのか、或いは反応する気力さえ失せてしまったのか、理雄は光のない枯れた瞳で心底嫌そうに聞く。
「------で?なんでここに居るんだ?
すると、クレフは開き直った様に嗤う。
「気にするな。ジェラルドが引き起こした厄災のおかげで、勤務先のサイトもセキュリティごとおじゃんになった。おかげでこうして自由の身だ」
晴々とした顔で言われるが、理雄の表情はどんどん曇って行った。どんよりと暗く湿気った顔からは、その内カビとキノコが生えそうだった。
「せっかく日本に来れたんだ。思いっきりハメを外せる店を探してたんだが、まさかこんなに理想的な店があるとはな!さぁさぁ、君も入りたまえ!」
グイグイと強引に店に引き込まれる。ここから先、一体どれ程の惨状が広がっているのか------------想像もしたくない万魔殿の入り口を前に、理雄は胸の前で静かに十字を切った。
店内に入った瞬間------------男女のむさ苦しい匂いと熱気に迎えられた。
「いいぞーッ!その大胸筋を見せつけやれー!!」
「女は度胸と筋肉よー!!」
狭い店内で男女の群衆をかき分けていくと、
中年の黒人男性に似た999JP-Jと、一歌達と同年代の少女に見える357-JP-J。その正体は激しい修行の旅を乗り越えたミルクチョコレート色のスライムと、現実歪曲を引き起こすマッチョである。
居酒屋内は完全にボディビル会場と化していた。既に会場の興奮度はMAXに近かった。
「ふぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」
その中で、一際自分で盛り上がっている女が一人、角ぎわで歓声を上げていた。
全身が包帯で巻かれてミイラみたいになっているおかげで、容姿では判別出来なかったが、伸びのある力強い声からして、おそらく白石杏だろう。
「ホラこはねー!見て見てーッ、あの子の上腕二頭筋エグいよ!キレてるよー!」
ミイラ女こと白石杏は、隣の小柄なミイラの身体を両手で掴み、首がもげそうな勢いで揺さぶっている。異様にテンションが高い上に、なんだか目の焦点が合っていない。どう見ても正常ではなかった。
全身が脱力して生気を感じられないチビミイラはピクリとも反応していない。名前を呼ばれたあたり、多分アレが小豆沢こはねなのだろう。
可哀想に……ジェラルドが起こした爆発か何かで相棒の脳が破壊され、自身も既に満身創痍である。こうなった以上、自分ではどうしようもなかった。
----------すまん、こはね。だが仇は必ず取るッ!!
胸の内側で両手を合わせ詫びると、隣にいたクレフから離れる。
「あ、おい!どこに行く!?」
制止する声を無視して、群衆の波へと立ち向かっていく。人混みに押し潰されそうになり、窒息しそうな程息苦しい感覚に襲われるが、僅かな隙間に身を捩じ込ませ、人の身体を払い除け、荒い息を吐きながらなんとか突破に成功する。
「ゼェ……ゼェ…ッ」
ついに………辿り着いたぞッ。
目の前には、事務室の扉がある。
------------ここだ。この先に真の敵がいる。
自然と確信した理雄は、固唾を呑んで正面を睨み据える。
ここから先、生きて帰れる保障はない。待ち構えているのは、暴悪の根源にして、シブヤ壊滅の件に多分関わっているであろう黒幕。
腰からXDM拳銃を引き抜き、呼吸を意識しながらコンセントレーションを高めていく。
集中が極限まで達した瞬間、右足を跳ね上げ、扉を蹴破る。
事務室に足を踏み入れ、拳銃を構え怒鳴る。
「動くな!SCP財団だッ。複数のアノマリー収容違反につき、貴様の身柄を拘束するッ」
XDMの銃口の先には、ここの居酒屋の店主ではなく、全く別の人間が事務机の向かい側に立っていた。こちらに背を向けているせいで、顔までは確認出来ない。
「本来の店長を追い出し、店にSCPどもを置いたのはお前だな?何者だッ」
鋭い声で誰何する。
「---------よくぞここまで辿り着いたな。財団の犬め…」
ゆっくりとこちらを振り返った。全身を包帯で巻いた若い女である。
「だが、中々に悪くない腕だ。どうだ------------私の部下にならないか?」
「…………………」
女の声を聞いて、理雄はXDMを腰にしまうと、無言のままゆっくりとした足取りで近づいて行く。
丁度、1メートル手前まで来た。
「何かね?言いたい事があるなら聞こう」
「お前------------天馬咲希だろ」
「誰だソイツは記憶にないな」
「嘘吐くなよ。声が磯部花凛だからすぐに分かるぞ」
もはやメタネタを用いる事に何の躊躇いもなかった。
よく見れば金髪のツインテは若干焼け焦げているが、見覚えのあるセットだった。
「なんか前にも似たやり取りあった気が------------まぁいい!仕切り直しだ!!」
仕切り直しらしい。っていうか何だその胡散臭い口調…。
「貴様の運命もここで終わりだ!」
「いや、そんな事言ったってお前………あと他の3人はどうした。一歌や志歩は?」
「金に変えた」
「は?」
「一歌は(編集済)国の焼きそばパン工場に売っぱらった」
「え?」
「穂波はキャバクラに」
「えぇッ?」
「志歩は闇で人身売買に流した」
「えぇえッ?」
幼馴染を人権無視上等の国で不眠不休の重労働に就かせ、風俗店に売り飛ばし、闇で商品にするという外道っぷりに、ドン引きする理雄である。
「私には目的がある……その為にはやむを得ない!」
歯を食いしばり、苦渋の決断を下したかのような顔をする咲希。
「目的……何をしようってんだ?」
「……聞くのか?」
心の奥に響くような低い声で問われ、思わず息を呑む。
「あ、あぁ…」
「……後悔するぞ」
「お、おう……構わない、聞いてやる」
ドンと威勢よく構えてみせる。
「------------いいだろう。そこまで言うなら、聞かせてやる」
咲希は厳かに間を取ると、前置きを挟む。
「私が友を売ってまで金を集め、やろうとした事は……」
「や、やろうとした事は…?」
ゴクリ…と固唾を呑み込んだ直後、咲希が声を高らかに宣言する。
「-----------紅白歌合戦のメイン曲を、全てボカロに置き換える事だッ!!」
「………!」
なんか、物凄くバカっぽい目的に言葉も出なかった。
「今の紅白は演歌がメインだが------------アレはダメだ。変な衣装着たオジサンとオバハンが怪音波を放ってるようにしか見えないッ!」
咲希は音楽業界の重鎮たちが激怒しそうな事を言った。
---------なんかもう………面倒くさくなった。
これ以上付き合ってられないので、理雄はスマホを取り出し、どこかへと連絡を取る。
「ファハハハハハハッ、無駄だ!ジュリエットチームなら今頃生牡蠣に当たってトイレの住人と化しているッ、ロメオチームは鯖に当たって全滅だ!さぁ、大人しく我が軍門に下れ----------」
悦に浸っていた直後、咲希が自身の足元を見て硬直、一瞬で顔が青ざめていく。
「ちょ、なんだこの黒い染みは!?まさか------------や、やめろ!なんでお前が……ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」
理雄が呼んだのは、財団から収容違反を犯した
黒く腐食した床面に呑み込まれていく咲希を見届け、全身が黒く腐ったようなジジイに向き直る。
「なぁ、アンタ…」
『あぁ、分かってる…』
お互いに顔を見合わせると、深く嘆息する。
二人同時に、思った事を口にした。
「『カオスが極まってるな、このセカイ……』」
【終】
*出典SCP及び人物
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