Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

77 / 83
番外編 財団で免許取ろうとした結果

 

 宮益坂女子学園1-Cクラスにて、1時限目の授業を終えた理雄は、授業で用いたタブレット端末を傍に教室の外へ出ようとする。

 

「あのッ、りおせんせー!」

 

 背後から咲希に呼び止められ立ち止まる。

 

「どうした?」

 

「りおせんせーって、車の免許持ってますよね?」

 

 突然脈絡のない話題を持ち出されて眉を顰める。

 

「ん?あぁ……持ってるよ。それがどうかしたか?」

 

「実はアタシ、車のドライバーに少し憧れてるんですよね〜!いつか、いっちゃん達と一緒にドライブとかしてみたいんですッ」

 

 両手でハンドルを操作するマネをしながら、目をキラキラと輝かせる。

 

「ほ〜、ま、あって困る物じゃないしな。いいんじゃないか?宮女を卒業したらチャレンジしてみるのも」

 

 咲希の場合、体の方に問題がなければ免許取得も十分可能だろう。

 

「はい!そこで今回は、先輩ドライバーであるりおせんせーに色々と質問しちゃいますッ」

 

 今日もテンション高いなと思いながら、腕時計で時刻を確認する。

 

「次の授業まで時間がないから……よければ昼休みに校庭のベンチで話さないか?」

 

 理雄の提案に咲希は快く頷く。

 

「ありがとうございます!あ、みのりちゃんも呼んでいいですか?あの子もきっと聞きたいと思うんです」

 

不幸体質のみのりが車になんか乗ったら人身事故が起きると思うのだが……。流石に口にするのは躊躇われた。

 

「じゃ、昼休みにまた」

 

「はい!楽しみにしてます」

 

愛用の財団製ブラックスーツの裾を翻し、理雄は今度こそ1-Cを後にする。

 

 しかし、廊下を歩いて暫くすると、先程の件に対してある重大な問題が脳に浮かび上がる。

 

---------そういや俺って、財団で免許取ったんだった。

 

 現在自分はAT車の普通自動車免許と、輸送トラックや装甲車などを運転する為に必要な大型免許、及び大型特殊自動車免許を所持しているのだが、これらは全て財団の金と訓練設備を用いて手に入れた資格である。

 

 言うまでもないが、その事実をそっくりそのまま一般人である咲希たちに伝えられる訳がない。

 

 二人からの質問責めに対し、迂闊な事は決して言えない以上、こちらからの回答には全て、ある程度の脚色が必要があった。

 

 しかし残念な事に、民間の教習所で一般的な教育を受けた人間は理雄の知り合いにはいない。

 

 ジュリエットチームは自衛隊で免許を取得した英牙と向一、それと警察官出身の悟を除いて、全員が財団で免許を手にしている。引きこもりのメリッタはそもそも持っていないし、慶三郎からは『昔の事すぎて覚えていない』と言われている。

 

 つまり、一般的な免許の取り方(・・・・・・・・・・)を自分は知らないのだ。

 

 知らない事を、他人に教えられる筈がない。大まかな教習内容は変わらないだろうから、明らかに普通はありえない(・・・・・・・・)エピソードだけを取り除けば大丈夫だろうが……。

 

 問題は、その普通はありえないエピソードが多過ぎるという事だった。

 

 

 

 

 

 

 基底世界・西暦2040年、日本国某所。

 

「走れェッ!誰がノソノソ動かせと言ったァ!」

 

 

 耳元で40代男性の怒号が響く。狭い車内で至近距離から全身に浴びせられる罵声に耐えながら、理雄はハンドルを必死に握り、ペダルを踏んでいた。

 

 ここは世界中にネットワークを持つSCP財団が管理する施設の一つであり、様々な専門知識・技能を求められる財団職員を育成する為の訓練校である。

 

 多様な教育プログラムと設備が充実しており、そこには自動車免許取得の為の教習所も設けられている。

 

 18歳となった自分は、教育訓練に基づき強制的に自動車教習を受ける事になったのだが…。

 

「どこを見てやがるッ、左に進路変更だ!」

 

「はい」

 

「馬鹿野郎ッ、右車線から左折する奴があるか!左に寄れ!!」

 

「はい」

 

「標識を見ろ標識を!50キロ出せっつってんだろ!!」

 

「はい」

 

「テメェは俺の車が年老いてボケた爺いにでも見えるのかァ!?」

 

「いいえ」

 

さっきからずっと教官とのやり取りはこんな感じである。ここに来てから今年で3年目、色々とアクの強い人間に囲まれて過ごしてきたせいか、今となってはありとあらゆる理不尽や苦痛に慣れてしまっている。いや、無関心になったと言うべきかもしれない。

 

 集団生活の中で徹底的な規律を叩き込まれ、教官や先輩から指導・反省という名の扱きにひたすら耐えてきた。

 

 ここの訓練校は財団の除外サイト並みに一般社会から隔絶されており、外部との接触は著しく困難を極めているのが特徴だった。未熟な学生や準職員達がアノマリーや要注意団体の脅威に晒されるのを防ぐ為らしいが、これではまるで隔離病棟だ。

 

 レギュラー職員曰く、『貴重な未来の人員を使い物になる前に死なれちゃ困る』という理由で、自分たちは温室栽培される苗のように丁重な扱いを受けているとの事だが、ここにいる上司・上官と呼ばれる類の人間達を見ていると、果たして自分達の身が案じられているのかは甚だ疑問が残る。

 

 特に、自分が乗る教習車(プリウス)の助手席に座る男------篝火鉄心(かがりびてっしん)三曹を見ていると、他のサイトで手に負えなくなった問題児の左遷先になってるんじゃないかと思うほど、ここの面子はひどいのが揃っていた。

 

2ヶ月間の教習期間の間、自分と他20人の訓練生はこの『頭おかしい前提の軍曹』と呼ばれる男の世話になるのだが、初日から自殺したくなるような非人道的訓練を受けるハメになった。

 

「もういい!今すぐこの車から降りやがれッ」

 

ある時は運転の仕方が気に入らず、車両重量約1,400kgのプリウスにロープを繋げ、人力で周回を牽引させられた。またある時は、交差点の右折を曲がりそこねて激昂し、プリウスの前に立たせた自分を日が暮れるまで追いかけ回すという暴挙に出た。

 

「ファハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ」

 

あの時の殺人衝動に満ちた凶悪な顔が、今も瞼の裏に焼きついている。

 

 常識もなけりゃ良識もない、母親から知性と理性を与えて貰えなかったのかと思うくらい、危険な人が教官となってしまった。

 

 その内交通事故(思いっきり故意なので事件かもしれないが)で殺されるかもしれないと、運転席に乗る度に死の幻想(ビジョン)が脳裏を過るが、それよりも遥かに辛かったのが食事だった。

 

 鉄心から指導を受けている期間中、朝・昼・晩と食事は全て一つのメニューに限定された。

 

 …………"焼きそばパン"と呼ばれる、魔物に。

 

「……教官」

 

「なんだ?」

 

食堂でモシャモシャと焼きそばパンを食べる鉄心を前に、枯れ果てた目で理雄が尋ねる。

 

「ここの食堂のメニュー………何種類でしたっけ?」

 

「大体60種類だな」

 

「今日のビュッフェはなんでしたっけ」

 

「ピザだな」

 

「昨日食ったのはなんでしたっけ」

 

「焼きそばパンだな」

 

「その前の日は?」

 

「焼きそばパンだろ」

 

「では、自分の目の前に置かれている物体はなんでしょうか?」

 

「何って……………………焼きそばパンに決まってるだろうが」

 

「Fu○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ckッ!!!!」

 

 ガタンッと椅子を鳴らして勢いよく立ち上がると、アメリカ人みたいなドぎついスラング混じりの英語で喉が潰れんばかりに絶叫する。

 

「やかましいぞ。一体なんだ」

 

 何食わぬ顔で鉄心は焼きそばパンをペロリと食べ終えた。

 

「こんな炭水化物の塊ばっか食っていたら糖尿病になりますよ!実際自分以外みんな入院してるじゃないですかッ」

 

 本来この食堂にいる筈だった20人の同級生全員が生活習慣病を患い、現在医療棟のベッドに横たわっている。おかげで広々とした食堂内はがらん…としていて寂しかった。

 

「フンッ、たかが20日間焼きそばパン漬けにされたくらいで壊れる腎臓の持ち主なんざ、今この場で死んでおきゃあいいんだよ。どうせ現場に出ても役に立たん」

 

傲然と鼻を鳴らしてふんぞり返る鉄心。なんでこんな最低な人を訓練校に寄越したんだろうと、理雄は財団の人事部の人間を呪った。

 

「ホラ、お前も早く食え。明日も教習あるんだからな」

 

もはや逃げ場はない。諦めて目の前の皿の上に置かれた焼きそばパンを無理矢理口に突っ込み、水で流し込んだ。もう、味とか考えたくもなかった。

 

 

 翌日、焼きそばパン生活21日目。今日も焼きそばパンを食った。朝も昼も夜もだ。このままだと本当に病気になる。

 

 

 焼きそばパン生活25日目---------。場内教習をクリアし、外部の路上教習に入った。久々に訓練校を出たが、出されるメシは焼きそばパンのままだった。

 

 焼きそばパン生活28日目--------。今朝も焼きそばパンを食わされた。昨日も焼きそばパンを食わされた。

 

 焼きそばパン生活30日目--------。退院した20人の訓練生達とともに鉄心に土下座してメニューを変えてくれと懇願したが、焼きそばパンを出された。

 

 焼きそばパン生活31日目--------。バカな訓練生の一人がコンビニでカレーパンを購入し、焼きそばパンとこっそり取り替えようとしたのがバレて、その日から出される焼きそばパンの数が一つから二つに増えた。因みにソイツは他の訓練生から袋叩きにされた。

 

 

 

 次の日も焼きそばパンを食べた。その次の日も焼きそばパンを食べた。もうずっと焼きそばパンを食べ続けている。気が狂いそうだった。

 

 

 焼きそばパンを食べた。焼きそばパンを食べた。焼きそばパンを食べた---------。

 

 

 

 

 

 焼きそばパン------焼きそばパン------焼きそばパン------。

 

 

 

 焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン焼きそばパン--------。

 

 

 

 焼きそばパン生活35日目---------。

 

「もっと!もっと焼きそばパンをくれッ!このドクドク呑み込んで苦しんで泣いて吐き出せない気分が最高でやめられないんだ!!」

 

 志熊理雄は、焼きそばパン中毒によりかまちょ味寂ジャンキーと化していた。

 

 焼きそばパン生活40日目---------。

 

「頼む……。誰でもいい……今すぐ俺の前からソイツを消してくれ……見るだけで呼吸が出来なくなるんだ。息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息が詰まる息------」

 

 志熊理雄は、焼きそばパンを見る度に呼吸困難を引き起こすようになった。

 

 焼きそばパン生活50日目---------。

 

「嗚呼……アァッ!ハレルゥゥゥゥゥゥゥゥゥヤッ!!焼きそばパンを食べている時だけ、俺の存在意義(レゾンデートル)が証明される!あの油ギットギットの焼きそばをパッサパッサのパンで挟んだだけの、せいぜい定価120円そこらの安い食べ物で俺の心は満たされるッ、素晴らしきかな我が人生!!」

 

 志熊理雄は、いつの日かに封印する事となる本当の想いが爆発した。

 

 

 焼きそばパン生活55日目---------。

 

「分からない……なんで焼きそばパンを食べているのか…、そもそもなんで財団に入ったのか……俺って何がしたいんだろう。なんかもう………味がしない…」

 

 

 志熊理雄は、心の底から忌み嫌う宮女の優等生みたいに感情を喪失しかけていた。

 

 焼きそばパン生活58日目---------。

 

「見てミク!この焼きそばパン39次元の味がする!」

 

 志熊理雄は、焼きそばパンの食べ過ぎで脳に異常をきたし、初音ミクの幻覚を見るようになった。

 

 焼きそばパン生活60日目---------。

 

「ミミズたん、おいちい」

 

 

 志熊理雄は、免許と引き換えに正気を失っていた。

 

 こんな物を昼に毎日バクバク食ってる星乃一歌(怪物)に、心の底から畏怖の念を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返すだけで、気分が底の底にまで沈み込むエピソードばかりだった。

 

 そんなこんなで昼休みを迎え、暗澹たる気持ちのまま校庭のベンチに座っていると、ニコニコとした顔の咲希とみのりがやってくる。

 

「では、早速第一の質問ですッ」

 

「免許を手に入れて良かった事はなんですかッ?」

 

手にしていた烏龍茶のボトルをぐいと煽ると、顔に素敵な笑みを貼り付ける。

 

 落ち着け……取り敢えず実際の体験談は何一つ話せないし話したくもないから、当たり障りのない綺麗事で構成したフィクションでも聞かせればいい。戦前の『使えない日本の政治家の皆様』にだって出来た事だ。鳩山由紀夫(鳩ポッポ)菅直人(すっから菅)野田佳彦(どじょう)だってやってのけたのだから、自分が出来ない道理などない。

 

 ささやかな決意を胸に、理雄は口を開いた。

 

「そんな物はない。人間性を失いたくないなら、車になんか乗るな」

 

 

「「……………………………」」

 

 

今まで見た事もないようなドス黒い表情で語る理雄を前に、言葉を失う少女達であった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。