Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
SCP『お・ま・た・せ・♡』
午前の授業は朝っぱらからハードだった。一時限目は苦手な数学でしかも教師から集中的に当てられ、二時限目は死ぬ程退屈な現国だった。三時限目でようやく化学の実験という、多少は興味が惹かれる時間を過ごし、四時限目になると体育が始まり、男子はバスケットボールを行う事となった。
「理雄ッ、決めろ!」
我が校の男子バスケ部エースである、スポーツ刈りの少年が相手チームのディフェンスを巧みに突破し、バスケットゴールの手前に立っていた理雄にボールをパスしてくる。
投げられたボールを難なく取ると、日頃から空手で鍛えた足腰や瞬発力を活かして、高さ305cmのリングへジャンプし、上から直接ボールを叩き込んだ。
ネットからボールが落ち、華麗にダンクシュートが決まると、味方のチームだけじゃなく、少し離れた位置から観戦していた面々からも歓声が上がる。
「うおお!マジかよッ」
「相変わらず凄まじいなぁ!理雄は」
「空手だけじゃなくスポーツ全般でほぼ敵なしだろ!その上、頭もメチャクチャ切れるんだから、反則だぜあんなのッ」
「冗談じゃねぇよ!バスケ部のエースに理雄が加わったら勝ち目ないだろうが」
「そーだそーだ!せめてどっちか抜けるか、他と交代しろー!」
逆に敵チームからはブーイングが上がるが、当の本人はどこ吹く風だった。
「ナイス!理雄」
「最高のパスだったぜ」
スポーツ刈りの少年とハイタッチを交わすと、ふと視線を感じて隣のコートを見遣る。体育館は現在、男子と女子で2つのコートに分かれており、もう片方は女子がバレーボールに使用していた。
手の空いてる女子生徒の何人かが此方を見ている。スポーツ刈りの少年が爽やかな笑顔で手を振るのを見て、理雄も同じようにすると、彼女達は嬉しそうに喜ぶ。
「ねぇ、志熊くんって結構カッコよくない?」
「ホントホント!最初はなんか怖かったけど、ああ見えて優しい所とか多いんだよね」
「あ、ソレ分かる!少し前に私が自転車の鍵落とした時、遅くまで捜すの手伝ってくれたんだよね。あの時は本当に嬉しかったなぁ〜」
何やら盛り上がっていると、いつの間にか彼女達の背後に、莉梨歌が近づいていた。怖いくらいの笑顔で迫っている。
「あ…り、莉梨歌…?」
「そろそろ今のチームが交代するから、準備した方がいいよ?」
「う、うん。そうする…」
「なんかごめん…」
莉梨歌の気迫に圧され、逃げるようにその場から去っていく。そのまま小さく溜息を吐くと、莉梨歌が此方をジトっと睨んでくる。
なんだよ何か悪いかよ、と思ったが、後が面倒臭くなりそうだったので、取り敢えず両掌を合わせて謝っておく。
「相変わらず仲良いよな、お前達」
スポーツ刈りの少年が愉快そうに揶揄ってくる。
「まぁな……少し面倒な所もあるけど、そういう所も含めて可愛い彼女だよ」
「ハハハ、お前って陰険そうに見えるし、信じられないくらい自己中だけど、本当は誰よりも真っ直ぐだし、一本筋の通った奴だからな。尊敬してる奴や友達になりたい奴だって多いと思うぜ?」
「………可愛い女子ならいつでも大歓迎だが?」
「……そういう所だぞ、理雄」
ドンと拳で肩を叩かれ、同じく叩き返すと、先程と同じポジションに戻る。試合再開のホイッスルが鳴った。
*
日本国北海道・札幌市郊外。
本部から派遣された機動部隊
「……アレがプサイ-13なのか?」
「サーキックの組織への浸透と高脅威メンバーの終了を目的としている高度機密財団・
翼が気味悪そうに見ていると、隣にいた慎吾が同意を示す。人口密集地での戦闘が想定される為、現在のジュリエットチームは私服の上にタクティカルベストや小銃、火炎放射器などを装備している。如何に財団が人払いを済ませているとはいえ、それにも限界がある。重武装の戦闘集団が街中を闊歩していれば、市民は強い恐怖とストレスに晒される。だからこそ、PMCスタイルと呼ばれる一般人と変わらない服装をする事によって、無用なトラブルや身分の露呈を防げるのである。実際、所属を示せる物はベストに貼られたIRパッチ……財団のシンボルマークと国旗だけだった。
にもかかわらず、あの様な威圧感に満ちた恰好をする辺り(装備の機能上、どうしようもないのかもしれないが)、彼らにとって地元民への悪影響など、どうでもいいのかもしれない。
英牙が数えてみると、プサイ-13のメンバーは全部で7人だった。やがて、その中から一人の男が近付いてくる。
「…
ヘッドギアを外し、暗い金色の双眸を持つ白人男性が現れる。ナチュラルブロンドの頭髪は半分近くが白髪になっており、50代後半くらいに見える。体格は白人の平均で、顔を晒すと割と普通の人間に見えるが、瞳の奥は深淵を思わせる程深く、暗かった。
分隊長の豹馬が頷くと、そのまま手を差し出してくる。
「機動部隊プサイ-13・第1分隊長のデビット・K・ハリントン軍曹だ。コードネームは"アナイアレイター"。コールサインはFT-P1」
「機動部隊シータ-25・ジュリエット分隊長の雪平豹馬曹長だ。コールサインはJ-1。……こんな極東の島国までご苦労だったな」
互いに握手を交わすと、デビットはやれやれと呆れた様子で肩を竦める。
「アルギュロスのおかげで、太平洋を横断するのも一苦労だ。俺たちは空路でここまで来たが、サーキックの連中はボロ船で水中型アルギュロスと
「あぁ、腐ってはいても根性なしではないらしい」
「そのようだな」
実動部隊の指揮官同士で軽く談笑を済ませると、共に仮設指揮所の中に入ろうとする。アーミーグリーンのテントの出入り口前で足を止めると、背後に控える英牙達に振り向く。
「今の内に装備の最終チェックを済ませておけ、すぐにでも"狩り"が始まる」
鋭い視線を受け、全員が「了解」と短く、強い意志をもって応えると、そのままテントの奥に姿を消す。
中に入ると、そこには背広姿の中年男性がどこかへと電話をかけていた。
「------だからその辺の説明は君がどうにかしたまえッ、君の部下なんだからそれが筋だろう?……とにかく、此方から指示した場所には絶対に近寄らせるな。万が一目撃でもされれば二次被害が発生する。そうなったら取り返しがつかんぞッ」
一方的に通話を切ると、男はたった今気付いたと言わんばかりに、驚いた顔で此方を見る。
「おぉ!よく来てくれたね、私がここの現場責任者で、日本支部札幌支局・警備部長の
脂汗の浮かんだギトギトの額を光らせながら、贅肉に塗れたブヨブヨ男が弛んだ笑みを見せる。一応、札幌に展開する財団施設の警備の他、非常時における敵対勢力からの防衛指揮を任されたBクラス職員らしい。
しかし、作戦に直接参加する自分達の詳細を知らないのか、彼は最初から間違いをやらかしている。
「将校ではありません」
「……は?」
キョトンとした表情で目を瞬かせる。
「
永瀬はしばし沈黙していたが、やがて恥ずかしそうに頭を掻く。
「そ、そうだったか……。それで、君達の上官は------」
「別地点で待機しています。今回の任務はプサイ-13が主導し、我々シータ-25Jと
「わ、我々は……」
「そちらには地元警察と連携し、ブラックロッジ構成員が侵入・潜伏したと思われる地域の避難誘導と、財団施設の防衛をお願いした筈ですが?」
大柄な豹馬に気圧されるように、永瀬はたじろぐ。
「あ、あぁ。近隣の財団施設は厳戒態勢にある。ただ……ひとつ問題がある」
何を言われるかは、大体予想がついていた。
「地元警察が一般人の避難誘導に手間取ってるんだ。カバーストーリーとして『テロ攻撃』を理由に避難を進めているが、部外者にサーキックの詳細を話せない以上、警察も対応マニュアルが分からず、現場でもたついてるらしい」
まぁ、そんな事だろうな……。豹馬とデビットが顔を見合わせながら嘆息する。
「……ブラックロッジの潜伏先は?」
「札幌の都市部に近いエリアだ」
永瀬はテントの奥に置かれたテレビモニターを点けると、液晶画面に正確な座標が示された地図と、どこかの廃屋らしき写真が映る。
「ここが奴等の潜伏地点ですか?」
「そうだ。現在は完全に人払いが済まされ、戦術チームが包囲している。1時間前から目立った動きは見られない」
「投降は?」
「呼びかけたが、反応なしだ」
「なら、手短に済ませましょう。戦車砲の白リン弾で一掃できる」
豹馬の提案に永瀬が泡を食う。
「都市部でそんな物使える訳ないだろ?ただでさえ人口密集地で警察の対応が遅れてるんだ。重火器……それも戦車なんか持ち出したら大騒ぎになる!」
「周辺に一般人はいないんでしょ?」
「それはあの廃屋から半径2km圏内だけだ!戦車を要請した場合、1番近くからでも最低40分はかかる。移動中は人目に晒されるし、先月の『狗鷲事件』で市民は神経質になってるッ、街中で堂々と機甲部隊を配置すれば、また市街戦になるとパニックを起こし、予測不能の事態が発生する!もちろん日本政府だって黙っちゃいない、経済的打撃を受ければ高額な賠償を求められるし、その後の友好関係にも影響が出る。私一人じゃ責任なんか取れんぞッ」
豹馬は内心で舌打ちする。ここの連中のレベルだと、やはりこの辺りが限界らしい。
日本語の分からないデビットに現状を訳して伝えると、諦めたように溜息を吐かれる。
「I can't help it..., it's dangerous, but I have no choice but to rush directly into the building《仕方がない……、危険だが建物に直接突入するしかないな》」
「No, you don't bother to go into a small room. You can burn down the entire abandoned house with flame radiation. If you do that, it will jump out like a mouse《いや、わざわざ狭い室内に入る事はないだろ。廃屋ごと火炎放射で焼き尽くせばいい。そうすればネズミのように飛び出してくる》」
「I see..., are you going to come out?《なるほど…、いぶり出す訳か》」
「It's easier to be burned to death as it is《そのまま焼け死んでもらった方が楽だがな》」
永瀬に思案した作戦内容を伝えると、渋々といった感じで了承される。
「あまり荒っぽい手段は取りたくないが……、
こんな状況で今更すぎる事を言う永瀬、無線で
テントを出ると、完全武装を済ませたジュリエットとプサイ-13の6人が待ち構えている。ジュリエットは対火スーツとガスマスクを着けていた。
「よし、全員ハンヴィーに乗り込めッ」
ダークカラーに塗られた
「おいおい、
背部のタンクが突っかえ、躬弦が不満を漏らす。
「一旦降ろせ、奥に詰めれば入るだろ」
「あークソッ、ただでさえ狭いってのに……」
初雪に促され、車内の窮屈さにブツブツと文句を言いながら火炎放射器を外すと、そのまま奥に押し込みながら乗り込んでいく。
全員の乗車が完了し、エンジンを唸らせハンヴィーが発車する。窓から見える景色が、都会の街並みから殺風景な田舎へと変わっていく。
「おい勢之、そのデカいケツを引っ込めてくれ」
「これ以上無理だ」
「なあ九重!コイツのケツを小さくできないか?」
「無茶言うな。あと少し静かにしてくれ樋崎、ただでさえ狭いし臭いんだから…」
「そうだぞ躬弦、お前だって殺人級に口が臭いんだから、少し口を閉じてろッ」
「お前だって『足が臭い』って女房から離婚されてるだろうが!」
「うるせぇ!それは言うんじゃねえッ」
移動中も車内は騒がしかった。やがて、元は何かの物流倉庫として用いられていた廃屋が見えてくる。写真で見た時よりも大きく、周辺を財団の戦術部隊が囲んでいた。数はせいぜい一個中隊規模で200人前後、やはり戦車は見られず、せいぜい軽装甲車が何両か見られる程度の装備だった。
降車すると、現地部隊の指揮官から倉庫内の見取り図を渡され、それを元に作戦を説明する。プサイ-13をはじめ、現場で合流した他の機動部隊も説明に混ざる。
「いいか?まず侵入はしない。正面入口だけを残しておいて、プサイ-13が裏口と通風口から火炎放射、中に篭ってるネズミども蒸し焼きにする。連中が耐えかねて正面入口から飛び出した瞬間、俺たちジュリエットチームと日本支部機動部隊がトドメの火炎放射を喰らわせる。躬弦と初雪、勢之が火炎放射器を担当、残りは俺と一緒に足止めだ。2408-1に銃弾は効かないから、足を狙って動きを止めろ」
初雪が手を挙げる。
「連中が人質を取ってる可能性は?」
「今の所、その報告は受けていない。完全な廃屋と化してるから、遠慮は無用との事だ」
続いて英牙が質問を投げる。
「逃走中のブラックロッジ構成員は9人でしたよね?全員があの中に?」
「
「そりゃよかった。ここで一網打尽にできますね」
不敵な笑みを浮かべる英牙。
「油断するな、投降に応じないという事は、奴等は殉教する覚悟でかかってくる。一人も逃すな、互いに
その時、豹馬の無線に通信が入る。與一からだ。
「肥前岡三佐?はい、これから攻撃を……え?はい、まぁ要請はしましたが、現地の責任者からは間に合わないと---------」
しばし交信を続けていると、やがて豹馬が獰猛な笑みを浮かべる。
「------はい、ありがとうございます。三佐」
通信を終了すると、改めて英牙達に向き直る。
「作戦に若干の修正を加える。戦車は無理だが、ドローンによる航空支援が許可された。無人機が白リン弾を投下してくれるそうだ」
「「「おぉ〜…」」」と低い感嘆の声が上がる。
「なら、わざわざ近づく必要はありませんね」
翼が少し安堵した様子を見せる。
「そういう事だ。……では、他に質問がなければ、作戦実行に移すがいいな?」
全員が無言の同意を示すと、プサイ-13の分隊指揮官、デビットが前に出る。
「5分後にドローンの攻撃が開始されるッ、それまでに配置につけ!」
デビットの号令により、各機動部隊が、各々の配置につき戦闘態勢を取る。作戦の修正により、倉庫からは最低200m離れる。
やがて、蒼穹の彼方から無人戦闘攻撃機『MQ-20 アベンジャー』が姿を現す。ターボファンエンジンを唸らせながら、攻撃目標の廃屋倉庫に向けて白リン弾を投下。刹那、轟音とともに激しく燃え上がる。白リン弾に含まれる白リンは、空気中で自然発火し、約2,000~2,500℃という非常に高い温度で激しく燃焼する。一度燃え始めると、燃焼温度が極めて高いため、通常の手段で消火するのはほぼ不可能。たとえ異業の怪物であろうと、絶死の炎に変わりはない。
燃焼と同時に有毒な
「よし、前進ッ」
豹馬の指示に従い、ジュリエットチームが動き始める。他の機動部隊も進撃を開始。姿勢を低くし、息を潜めながら、静かに、慎重に歩を進める。敵が真っ先に飛び出してくるとしたら、まず正面入口からだろう。裏口や通風口、それ以外の壁を突き破ってくる可能性もある為、全体を包囲するように距離を縮めていく。有毒な煙を吸い込まぬよう、ガスマスクと対火スーツに身を包んだジュリエットは、正面入口に銃や火炎放射器の照準を合わせる。
倉庫まで残り100m、現在はほぼ無風状態。緊張と恐怖で顔から汗が噴き出し、ガスマスクの内側を濡らす。呼吸を整えながら、冷静に進み続ける。
「おい、なんか静かすぎないか…?」
「あぁ、嫌な感じがする…」
普通に考えて、業火に焼かれる悲鳴が耳をつんざくと身構えていたのだが。倉庫内からは何も聞こえてこない。いや、気配すら感じられなかった。明らかに異常な事態に、翼と慎吾が不安を口にする。
「待ち伏せでもしてんのか?畜生ッ……こういう時の静けさは本当に最悪だぜ」
「黙れ躬弦、集中しろッ」
苛立つ躬弦に対し、初雪が注意を促す。
残り50m。既にジュリエットチームは、白煙の海に身を浸からせていた。隣の仲間を見失わぬよう、距離感に注意しながら、敵の姿を探し求める。自分達の相手はアノマリーであり、常識の通用しない究極の脅威だ。いついかなる時も、此方の死角を狙って脆い生命を刈り取ろうとしてくる。決して気は抜けない。集中が途切れた瞬間が、自分達の最期だ。
体感にして3時間は経過した気がした-------。実際の所は数分と経っていないだろうが、常人ならば耐えられない程の緊張と
それでも、何も起きない。何も聞こえない。
もしや、先程の空爆で全滅したのではないだろうか---------?
そんな、あまりにも都合が良く、甘えに甘えた希望的観測が脳裏を掠めた瞬間。
ヒュンッ----------。
英牙のすぐ隣を、鋭い風切り音が擦過した。
「------え?」
事態の変化を察知し、すぐさま視線を隣を移した。そこには本来なら、自分と共に前進していた九重翼がいる筈だった。しかし、彼の姿はない。
ふと、気配を感じて後方を見る。
---赤黒い尾に、翼の腹が刺し貫かれていた。
「は---------?」
翼は自分の身に何が起きたか理解できず、呆然とした表情のまま、真正面から貫かれる形で宙に持ち上げられている。
やがて、太古の恐竜に似た強靭な外皮に覆われ、先端に鋭利な突起を生やした尾が乱雑に引き抜かれ、翼の内臓が引き摺り出される。
空中に鮮血と臓物がぶち撒けられ、英牙の全身を赤く染めた。
引き抜かれた尾は煙の中へと戻っていく。
何が起きたのか、瞬時に理解した。
「敵襲ッ!」
英牙が叫ぶと同時に、眼前に猛獣の影が見えた。考えるよりも先に体が反応する。顔面を地に擦り付ける勢いで姿勢を低く屈めると、頭上を襲撃者が擦過し、ヘッドギアの頭頂部を掠める。
ギシャアアアアアアアアアッ!!
直後、白煙の奥からSCP-2408-1達が飛び出す。白リン弾を全身に浴びたのか、燃え盛る炎に全身を焼かれながらも、6体の異形が炎上したまま突撃してくる。サイズや形状はバラバラだったが、報告書に書かれてる通り、非ヒト型生物の特徴が見られ、タコに似た触手を無数に生やした3m級の怪物は頭部に鹿の角を生やしており、2m級の狼に似た生物の顔は爬虫類……どちらかと言えば忌々しい
「来たぞッ。作戦通り---------」
ジュリエットから見て右手側から接近していた機動部隊い-18の指揮官が、何事か言う前に触手の攻撃を喰らい、肉の組織ごと顎を破壊され、前のめりに斃れる。
他の機動部隊い-18の隊員達も、無数に伸びてくる触手に、次々と身体を刺し貫かれていく。両肺を穿たれる者、心臓を貫かれる者、頭蓋をズタズタに潰され、脳味噌が地面に零れ落ちる者など。惨たらしく殺されていく。
「た、隊長ッ…!」
「狼狽えるなッ、焼き殺せ!!」
左手側の機動部隊い-01が火炎放射と銃撃を繰り返すが、狼に似た2408-1は四脚運動を活かした俊敏な動きで攻撃を回避。瞬く間に隊員達に肉薄すると、1番近くにいた隊員の腕に噛みつく。増幅された筋力により、2408-1は噛みついた腕を顎と頸の力で食いちぎる。
腕を失い、大量出血しながら絶叫する隊員。隣の仲間がアサルトライフルを照準するが、弾丸が発射される直前、2408-1は軽々とした身のこなしで射線上から退避、弾丸は虚しく空を切り、僅かばかりに大地を削り取っただけだった。
「クソッタレッ」
MINIMI軽機関銃を乱射する隊員が毒吐くが、狼に似たSCP-2408-1に夢中になってる間、背後からの脅威に気付かなかった。
「んッ」
他の構成員と違い、比較的ヒトの型を保っていた個体だったが、身長は2.5mはある。何より特異だったのは、両腕から伸びた2丁の鋏だった。形状はザリガニの鋏に近い。
すんでの所で気配を察知した
「なんだと……ぐぁッ!」
戦慄する間もなく、鋏が腹部に突き立てられる。
「このッ……醜い化け物め…!」
拳で鋏を叩くが、びくともしない。刹那、男の上半身と下半身が分断され、泣き別れた。腸が大地のキャンパスを毒々しく染める。
最初に翼を串刺しにしたトカゲみたいな個体が躍り出ると、凶器じみた長い尾を振り回し、手当たり次第に人間を殺戮していく。頭部を狙撃しようと試みたプサイ-13の女性隊員は引き金に指をかけた瞬間、尾に刺し貫かれる。空中に彼女の身体が突き上げられると同時に、トリガーにかけられた指が引き絞られ、銃が暴発。偶然近くにいた味方に当たり、背負っていた火炎放射器のタンクに被弾、爆発し炎上する。
火達磨となり、喉が裂けんばかりに悲鳴を喚き散らすプサイ-13の隊員を目撃し、英牙の視界が憎悪に染められた。
「ブッ殺してやるッ…!」
HK416の
腰からサバイバルナイフを抜くと、外皮の隙間を狙って一閃。奴にとって最大の武器である尾が途中から切断され、トカゲ型SCP-2408-1は悲鳴に似た呻き声を上げ、尾を引き戻そうとする。
それを逃がさずナイフを手放し、左手で掴むと、右手でHKを脇に挟んで固定し銃撃、トカゲ型の尾のつけ根を吹き飛ばし、攻撃能力を奪う。
「初雪!」
「任せろッ」
再生する隙を与えず、初雪が火炎放射器を放つ。点火されたゲル化ガソリンが噴出され、トカゲ型SCP-2408-1を今度こそ焼き尽くす。
「うぉぉぉォォォォォォッ!!!!」
豹馬が果敢に鋏持ちのSCP-2408-1に
「死ねぇェェェェェェェェェッ!!」
内臓をグチャグチャに掻き回され、たまらずノックダウン。倒れた瞬間にマガジンを交換、再装填し、銃口を顔面の口に突っ込むと、トリガーを引き、頭蓋を粉砕する。動きが止まったのを見計らって、ポーチから強酸の入った特殊容器を取り出し、全身に浴びせる。顔がなくなってるせいか、身体が何度か痙攣するだけで苦悶の声は漏らさず、そのまま溶け去っていった。
慎吾と躬弦も互いに援護しながら、狼型のSCP-2408-1と対戦する。火炎放射を浴びせながら、絶妙な距離を維持する。全身を焼かれた狼型は徐々に動きが鈍っていき、やがて完全に焼死する。
しかし、二人の火炎放射器の燃料タンクが空になったタイミングで、野豚を思わせる四脚型の個体が正面から接近。
慎吾はガラクタと化した火炎放射器を捨て、腰の後ろから近接戦闘用のマチェットを抜き、構える。
「こいやぁッ!!」
大声で威圧すると、それに応えるように飛びかかってくる。慎吾は体捌きで躱すと同時に、上からマチェットを振り下ろす。
「オルァァァァッ!!」
裂帛の気合いと共に振り下ろされたマチェットの刀身が頸を捉え、見事に分断される。頭部を失った胴体が地面に倒れ、再生を始めるが、その前に躬弦が持っていたTH3焼夷手榴弾が叩き込まれ、絶命する。
6体の内、4体を撃滅---------。
「残り2体だ!片付けろッ」
豹馬が声を張り上げ、それに鼓舞された機動部隊の生き残りが即席で"班"を作り、態勢を整える。
包囲陣を敷いていた戦術部隊からも援護され、流れは完全に逆転した。
「あのタコ野郎には近づくなッ!殺られるぞッ」
豹馬が見た限り、大量の触手を持つ個体の攻撃有効範囲は、半径20m程度と推測。相手の触手が届かない位置まで後退すると、戦術部隊のハンヴィーを前に出し、車載されたM2重機関銃で応射させる。どれだけ骨密度が増加し、筋肉を中心とした質量が増大していようとも。既存の銃火器の中で最強の破壊力を持つのが、この銃の恐ろしさである。航空機の装甲を紙屑のように引き裂き、軽装甲車程度なら蜂の巣にしてしまう。それだけの威力を前に、タコ型のSCP-2408-1はなす術もなく、体液とともに肉片を撒き散らす。
「The movement has stopped! Kill him with an incendiary grenade!!《動きが止まったぞ!焼夷手榴弾でトドメを刺してやれ!!》」
デビットがポーチからTH3焼夷手榴弾を取り出し、安全ピンを引きちぎる。点火レバーを取り去ると、「Frag out!」という掛け声と共に全力で投擲。元来、種類にもよるが、手榴弾は一般人が想像するよりも重く、投げづらい。にもかかわらず、デビットは40mも離れた位置からメジャーリーガーに匹敵する豪速球を放つ。緻密なコントロールをかけられた
『ギィギャァァァァァァッ!!』
加害半径が狭く、燃焼時間が短いという欠点がありながらも、一瞬にして摂氏2,204度の猛火を浴び、けたたましい絶叫を吼える。時間にして2〜3秒は地獄の苦しみを味わうが、足りない。
「Frag out!」
「Frag out!!」
他のプサイ-13の面々も次々と投げる。鉄骨を溶かせるレベルの高熱に包まれ、もはや呼吸すら覚束ない様子だった。
「It's a friend's revenge! Use all the gasoline in the tank!《仲間の仇だ!タンクのガソリン全部使え!》」
「「Yer,sir!!」」
銃撃を加えながら接近し、有効射程に入った瞬間、火炎放射で塵も残さず焼き払う。
残り一体-----------英牙がそう思った時、ふと地鳴りを感じた。
首を左に向けた瞬間、激しく燃えるSCP-2408-1が此方に向け突っ込んできた。
上半身は人間のまま、下半身は馬の四脚になっており、ギリシャ神話のケンタウロスに似ていたが、全身にひどい火傷を負っているせいで、醜く焼け爛れている。右腕から大蛇の頭が生えている事も相まって、生理的嫌悪を覚える容貌となっていた。そこには高潔さや勇猛さなどはカケラも感じられず、純粋に、かつ完全な狂気だけが残っていた。
「英牙!そこをどけッ」
豹馬の怒鳴り声が聞こえて反射的にその場を飛び退くと、自分の背後から無反動砲『カールグスタフ M4』を構える豹馬が見えた。おそらく戦術部隊から借り受けたのだろう。後方の安全を確認し、正面から迫るケンタウロスを照準に捉えた瞬間、トリガーを引く。
軽いショックが肩に伝わると同時に、
そのまま爆散するかと思われたが、ケンタウロスは強靭な頭蓋を持つ蛇の右腕を盾にしたのか、右腕の喪失のみに留まった。突進の速度は緩まない。
「くッ…!?」
無反動砲を捨て、回避を試みるが、完全には体当たりを躱せず、ゴム毬のように軽々と弾き飛ばされ、何度も地面をバウンドする。
豹馬がやられた……?自分が知る限り、世界で一番無敵の男がッ?
不安と焦燥に駆られそうになるが、すぐさま感情に制動をかけ、乱れかけた心を沈める。殺意を研ぎ澄ませ、眠らぬ梟のように極限の集中力を維持する。
吹き飛ばされた右腕を再生させながら、再度突撃しようと態勢を整えるケンタウロスの足を照準。消音され乾いた銃声が数発響く。的確なバースト射撃で脚部を撃ち抜き、転倒させる。
「コイツで仕留めるッ!」
燃料を使い果たし、いつの間にか火炎放射器を投棄した初雪がM79グレネードランチャーを取り出す。ストックと銃身を切り詰めたソードオフモデルであり、コンパクトながら高い打撃力を誇る。
『ゴァアアアアアアアアアアッ!!』
獣じみた断末魔を残し、ケンタウロスは力尽きた。
「雪平隊長ッ」
英牙が豹馬の元まで駆け寄る。地面に倒れたまま動かない巨漢に対し、大声で何度も呼びかけると、やがてうつ伏せの状態から顔を上げる。
「……ヤツはどうなった?」
起きて早々に、自分よりも標的の生死を確認する辺り、如何にも彼らしいなと苦笑してしまう。不完全な状態からとはいえ、大型トラックに真正面から追突される程の勢いだった筈だが、思ったよりピンピンしていた。
しかし、安堵の息を吐いた瞬間、背中に鋭い衝撃を受け、肺から空気が絞り出される。
「ガハッ……!?」
撃たれた------と直観的に確信を得る。タクティカルベストに挿入された背面の防弾プレートが銃弾を阻んだのだ。
憤怒の形相で背後に首を向けると、力尽きたと思われていたケンタウロスが隠し持っていた
既に変身は解け、人間の姿に戻っていたが、下半身と右腕は喪失され、力が残ってないのか再生する気配はない。上半身は焼け爛れ、片目の眼球も潰れている。酷い有様に目も当てられなかった。
だがそんな事は関係ない。敵が生きてる以上、完全に終了するまで連続性を断ち続けるッ。
すぐさまHKを構え直して射殺を試みるが、弾が一向に発射されない。トリガーに異常を感じ、ボルトを引いて薬室の状態を確認すると、
取り除く暇はないと瞬時に判断し、指のセレクター操作でセイフティをかけ、
腿のホルスターからVP9拳銃を抜き、両手で構えて発砲。左手に握られた拳銃を手首ごと吹き飛ばし、マガジンが空になるまで撃ち続ける。弾切れを起こした瞬間にタクティカルリロード、銃撃を継続。
スライドストップでVP9がホールドオープンし、弾薬が尽きる。相手は半死半生の体だが、まだ死んでなどいない。
「クソッッ……タレがぁァァァァァァァァァッ!!」
拳銃をホルスターに戻し、ナイフを抜刀した瞬間、逆手に持ち替え吶喊する。咆哮と共に白兵戦を仕掛け、死にかけのSCP-2408-1の直前で高く跳躍する。
「人間をッ---------------」
両手でナイフの柄を握りしめる。狙うのは、標的の頸と鎖骨の間。
「舐めるなァァァァァァァァァァァァッ!!」
振り下ろされた渾身の一撃が、増強された肉体を斬り裂いた。
*
戦闘が終結してから数時間が経過し、現場には財団から派遣された消防部隊が、廃屋倉庫の鎮火に取り組んでいる。
その間、支援部隊が黒焦げになったSCP-2408-1の遺体を回収していく。遺体は解剖され、有害廃棄物プロトコルに基いて処分されるとの事だ。
一方、ブルーシートに横たわる遺体は9体。……ヒトの原型を保てていない者も含めて、今回の任務で戦死した機動部隊員達が永遠の眠りに就いている。その中にはジュリエットの一振り、九重翼の姿もあった。
遺体袋のジッパーが閉められ、顔が見えなくなるのを、ジュリエット全員で見送った。
「……俺のすぐ隣にいたんです」
不意に、英牙が呟いた。声色には強い罪悪感が含まれていた。
「俺が敵の攻撃に気付いていれば、翼は……」
「やめろ、そこまでだ」
隣に立つ豹馬が告げる。
「どれだけ下っ端に見えようが、俺達が相手にしたのはアノマリーだ。予測不能な状況が何度でも起きる。それが俺達の戦場だ」
「……………」
「お前はベストを尽くした。翼の死は避けようがなかったんだ。悔しいのは皆んな同じだが、仲間の死を乗り越えるのも、俺達の宿命だ」
「……はい、隊長」
悲痛な感情は決して消えはしない。無力な自分に対しての怒りもだ。これから永い時間をかけて、見えない傷が自分を蝕んでいくのだろう。不思議とそんな気がした。
その時、背後から防護服に身を包んだ男が泡を食った様子で飛び込んでくる。
「あのッ、ちょっとよろしいですかッ!?」
豹馬が男と向き合う。
「なんだ、どうした?」
「確か敵兵の数は、9人でしたよね!?」
突拍子もない質問に、豹馬は怪訝な顔をする。
「あぁ、9人全員があの廃屋に逃げ込んだと報告を受けている。交戦したのは6人だが、残りは倉庫から出なかった辺り、あのまま焼け死んで------」
「遺体がないんです!」
「……は?」
一瞬、彼の言った事をすぐに理解できなかった。
「だから!残り3人の遺体が確認できないんですよッ。我々も白リン弾の空爆で死んだと思っていましたが、先程消火が終わって、焼け落ちた倉庫を調べたんです。ですがどれだけ探しても、ある筈の遺体が見つからないんです!!」
瞬間、ジュリエット全員の背中に冷たい戦慄が走る。
豹馬は救護車の元まで駆け寄ると、頬を負傷して治療を受けている
「なぁ、アンタらがブラックロッジの9人を捕捉したのは、あの倉庫で間違いないんだよなッ?」
日本人離れしたイカつい大男に迫られ、指揮官は目を白黒させる。
「あ、あぁ…。それは間違いない。倉庫の周りが包囲されてから、離脱した敵兵も確認されていない」
「…ッ!」
それだけ聞くと、豹馬は脇目も振らずに走り出す。最悪なケースが脳裏を過った。
消火が終わったばかりの倉庫跡は、まだ熱と煙が大量に残っており、外していたガスマスクを着け直すと、「あ、ちょっと!」と制止する支援部隊員の声を無視して火災現場に踏み入る。後ろから英牙もついてくる。
足元の瓦礫を注意深く観察していると、ふと妙な違和感を覚え、すぐ真下にある瓦礫を見遣る。
何度か足を踏み鳴らしてみると、音の反響が聞き取れる。
「英牙!」
「はいッ」
この下に空洞がある---------同じ事を察したのか、英牙の行動は早く、二人で瓦礫を持ち上げる。瓦礫にはまだ高温な余熱が残っており、掴んだ瞬間にコンバットグローブが灼ける匂いがする。掌に伝わる激痛にも似た感覚に耐えながら、邪魔な瓦礫をなんとか排除する。
「……畜生ッ」
「最悪だ…」
瓦礫の下に隠れていたのは、人間一人なら優に通れる縦穴だった。表面の床材ごと剥がされ掘られている。
こんな物をどうやって作ったのか、答えは簡単だった。変身時、様々な非ヒト型生物の特徴を有するSCP-2408-1ならば、穴掘りに特化した生物---------単純なイメージとして、モグラの手のような形状の部位があれば、この程度の掘削は容易だろう。
最初に飛び出してきた6体が囮だったのかどうかは知らないが、あの戦闘が行われている間に逃げ仰たらしい。
では行き先はどこか------?これもすぐに分かる事だ。ここからほんの少し離れた位置には、人口196万人が暮らす大都市・札幌がある。人混みに紛れて逃走するには、十分過ぎる環境だった。
「英牙!すぐに武器弾薬を補充しろッ、再出撃の準備だ!!」
「了解ッ」
英牙が飛び出すと、豹馬は無線で連絡を入れる。
「J-1よりCP!大至急、札幌都市圏内で出動可能な全実動部隊を動員してくれッ。……ダメだ。札幌支局の連中はノロくて使い物にならない!日本支部理事会に直接協力を要請するんだ!相手は白リン弾の洗礼を受けても暫くは余裕で動ける。精鋭チーム9人を殺せるくらいにはだッ、急げッ!」
このままでは、本当に取り返しがつかなくなるッ----------。
理雄の過去編は次回でひとまず終わります。その後はワンダジョのメインストーリー編に戻ります。
なお、この時の休暇で、理雄と共に元の世界に戻っていた他のジュリエットチームのメンバーのエピソードは、特別章『Juliets Record』で書かせて頂きます。是非ご期待下さい。
司「なぁ、今の今まで、俺達の存在忘れられていなかったか…?」
寧々「私たちのメインストーリーだよね?この章…」
唯尊「悪いな、そろそろオリキャラ達の深掘りが必要だったんだ。他に入れるタイミングがなかったからお前たちに犠牲になってもらった」
類「おやおや、なんかひどい事を言われた気がするよ…」
唯尊「安心しろ、お前たちをブチのめ……ゲフンゲフン、歓迎してくれるSCP達が待ってるぞ」
司「今、ブチのめすとか言おうとしただろッ!?」
唯尊「気のせいだ。ホラ、あそこで手を振ってるぞ。挨拶してやれ」
SCPの皆さん『お〜い!八つ裂きにしにきたよ〜!!』
寧々「ゲッ!帰りたくなってきた……」
司「プロセカの原作本編より悲惨な事になりそうだな……」
唯尊「SCPが関わってんだから救いなんてある筈ないだろ」
ワンダジョメンバー「「「「…………………」」」」
絶望に明け暮れるワンダジョであった。
それではまた次回に!