Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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 ジュリエットチームによる『第4次O/D作戦』開始の約1年前の物語---------。


番外編 サイト-██にて発見された手記 PART1

 

 ※警告---------。本記事は記録・情報保安管理局(RAISA)により削除予定とされています。各内部部門による調査が完了次第、本記事に掲載されている全資料はアーカイブ化され、一定期間経過後に消去されます。

 

 なお、本記事に対するクリアランスレベル3以下の職員の閲覧を全面的に禁じ、違反者が確認された場合、懲戒審査の対象となります---------。

 

 また、回収された手記は汚損が激しく、発見当時の物に大幅な修正を加えている事を留意してください。

 

      RAISA管理官、マリア・ジョーンズ。

 

 

 

 

 西暦2044年3月---------。旧ベネズエラ・ボリバル共和国、カリブ海沿岸部から内陸部へ20km地点。

 

 SCP財団・旧サイト-██(現在は放棄)所在地---------。

 

 かつて、超地球規模で活動を展開するSCP財団が有する施設の一つが存在した場所に、機動部隊シータ-25A---------通称"アルファチーム"と呼称される7人の隊員達が、目の前の状況に息を呑んでいた。

 

「隊長………本当に、ここが?」

 

 A(アルファ)チームの新人であり、若干22歳で機動部隊の一員に選抜されたアメリカ人戦闘員、ワイアット・グティエレス一等兵曹は眼前に広がる光景に戦慄を禁じ得なかった。

 

「そうだアット、今は見る影も無くなってるが、ここがかつて南米最大規模の収容サイトが置かれていた場所だ」

 

ワイアットの愛称を呼ぶ分隊指揮官、レックス・アロイシウス・クアールズJr.上級上等兵曹は対照的に、ひどく落ち着いた様子で丘陵の先を見つめていた-------。

 

 彼らの視線の先には、まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターが存在していた。その正体は約20年前、緊急事態に伴い地下に設置された核爆弾による自爆が生み出した陥没孔(シンクホール)だった。時間帯が深夜だからというのもあるのだろうが、例え昼間の陽光がふんだんに降り注いでいたとしても、深い峡谷の底には闇が縦横無尽に広がっており、泥土のような邪悪が蠢いてるようにしか思えなかった。

 

 いや---------、実際の所、『サイト』という物は財団がアノマリーの確保・収容・保護を目的に建造した人類史上最大の監獄(ジョイント)だ。仮に悪魔に等しいナニかがあの穴の中に封印されていた過去があったとしても、何らおかしくはない。

 

「今からあそこに降りるんだろ?嫌な予感しかしない…」

 

戦友であり、チェチェン系アメリカ人のザウルベック・アブドゥルムスリモヴィチ・ボルチャシビリが呻く。アルファでは歴戦の猛者の一人であり、顔面にある大きな裂傷と火傷跡(防護服越しなのでこのままでは分かりづらいが)が潜り抜けて来た修羅場の熾烈さを物語っているが、やはりチームリーダーであるレックスと比べると、踏んできた場数の差があるのか、やや緊張気味に見えた。

 

「……ベック、ちょっと来い」

 

すると、レックスが自身の方へ来るよう手招きする。

 

「は?」

 

「いいから来い」

 

命令に従い、レックスの元まで歩み寄るザウルベックこと、ベックの右手を唐突に握り、まんじりともせず見つめる。

 

「……大丈夫そうだな」

 

手の震えがない事を確認すると、右手を離す。

 

「いけるか?」

 

「……勿論」

 

「ならいい。----------コワルスキー、作戦開始までのカウントは?」

 

 短いやり取りを終え、分厚い防護服を着た長身の部下へと視線を向ける。20年という相当な時間が経過しているにも拘らず、周囲一帯には致死量の数十倍という放射線がバラ撒かれているおかげで(財団の放射線科学の専門家曰く、あと200年は生物の生存を許さないらしい)、自分達はこうしてクソ重い上に暑苦しい防護服なしでは近寄る事すら不可能だった。一応自衛用の短機関銃を装備してはいるが、こんなモン着ていざ戦闘に突入した時、果たしてまともに動けるかどうか、甚だ疑問だった。………まぁ、被爆して死ぬよりかは幾分マシだろうが…。

 

「残り20秒切りました。あとはイプシロン-6の連中が配置に着けば------」

 

その時、レックスの無線から若干のノイズが混じった男の声が響く。

 

K(キロ)-521よりQ(ケベック)-621へ。此方の配置は完了した。もうじき作戦開始時刻へと到達するが、そちらの状況を確認したい、オーバー』

 

ようやくか、ノロマども……。と口の中で悪態を吐きながら、平然とした調子を装って無線に応じる。

 

「Q-621よりK-521へ。問題ない、いつでもいける。アウト』

 

無線を切ると、少し離れた位置から「チッ…」と舌打ちする声が聞こえる。周囲の警戒に当たっていた金髪オッドアイの男性兵士だった。

 

イプシロン-6(村のアホ)どもめ……、ここがアルギュロスの支配領域と隣り合わせだって事、忘れてんじゃねえのか?」

 

モデル顔負けの美顔に似合わず、荒っぽい口調で吐き捨てる元米海兵隊特殊作戦コマンド(マリーン・レイダース)の男に対し、米海軍特殊部隊(Navy SEALs)出身のレックスが落ち着くよう促す。

 

「苛立つな、ディトーネ。この辺のアルギュロスは一番近い所に位置する軍団でも数マイルは離れている。敵の斥候機体は確認されてないから、余程の事がない限り俺たちが見つかる心配はない」

 

 そうは言うものの、モタモタしてる時間はない。脚の遅い大型機なら兎も角、小型で機動力のあるアルギュロスの走破力ならば、ここに辿り着くまで数分と掛からない。敵に補足されるのを避ける為、味方のドローンによる支援もなければ、敵の包囲下にある以上、周囲の実動部隊からの応援も望めない。日の出前までに任務を完了し離脱しなければ、軽装備の自分達は一方的に屠殺されかねない。

 

 刹那、タイマーを設定していた腕時計からアラームが鳴り、定刻に達した事を知らせる。愛用のカシオ DW6900-1Vに視線を落とすと同時に、作戦指揮所(CP)から無線が入る。

 

CP(コマンドポスト)から全作戦部隊へ告ぐ。作戦に変更なし、"オリンピア"開始。繰り返す、"オリンピア"開始』

 

作戦開始を知らせるミッションコードを受け、チームが動く。

 

「よし……。総員傾注」

 

レックスの短く、重い響きを含んだ一言に全員の意識が向く。

 

「これより放棄サイト跡への降下・侵入を試みる。敵からの察知を防ぐ為、一時的にUAV(無人偵察機)の監視は外れ、CPへの無線連絡も封鎖される。分かってると思うが、今回の任務は時間との勝負だ。ヤバそうなヤツがいたら、人間だろうがバケモノだろうが…………殺せ」

 

 低く呟かれたレックスの言葉に、全員が「「「了解」」」と短く応じる。

 

 用意したカラビナをエイト環に通して身体に固定し、ほぼ垂直の崖から陥没孔の底へとリペリング降下していく。財団が防護服として採用し、着用しているNBCスーツは、米国環境保護庁(EPA)が設定している規格の中で最も優れたレベルAを誇る最新の2040年モデルだが、完全密閉型で内部に自給式空気呼吸器(SCBA)を装着することが必須となる為、全身の装備総重量は約15 kg〜20 kg以上に達する。それに加え銃火器に弾薬、専用の回収物保管ケースまで携行するとなると、一般人の場合ロープ降下どころか、身動きを取る事すら難しいが、過酷な選抜訓練を安易と通過し、数々の戦場を経験してきたアルファチームの機動部隊員達にとって、この程度の事は造作もなかった。

 

 あっという間に全員が地の底に降り立つと、瞬時にGM計数管式(ガイガーカウンター)とカント計数機から尋常じゃない勢いで警告音が鳴らされる。

 

「おいおい、穴の中に入った瞬間にコレかよ…」

 

アルファ-6のコールサインを持つ黒人兵士、ドレイヴン・A・ツィーグラーが呆れた様子でボヤく。

 

「ガンマ線だけじゃなく、周辺のヒューム値まで異常だ。かつてここに収容されていたSCPの影響か……」

 

計数機を見ながら、ナイフのような鋭い目付きを持つ銀髪の隊員が冷静に状況を分析する。

 

「皆んな気をつけろ。ここまでヒューム値が低いと、この辺りの現実性は相当不安定になっている筈だ。俺達にはコイツ(・・・)があるが、それでも予断を許さない状況に変わりはない」

 

レックスが己の左胸の辺りを拳でトントンと叩く。NBCスーツに内蔵された対現実改変装置がアルファの隊員達の現実性を一定水準(2hm)以下に固定しているのだ。コレがなければ、自分達の身体は数秒と保たない。……もっとも、スクラントン現実錨をベースに開発されたこの特殊装備は、オリジナルと比べて大幅に小型・軽量化されたと開発部では謳われていたが、耐腐食性の銅ベリリウム合金(比重は鉄やアルミニウムよりも重い約 8.25 ~ 8.9 g/cm³)を使っているせいで普通に重いし、動力源となる大容量のバッテリーパックはサイズがデカい割に消耗が激しく長時間の使用が不可能。おまけに装置自体が精密機器の塊なせいで故障しやすく、バッテリーが発火して一瞬で火達磨になったり何もしてないのに突然ヒューム値が急激に下がって全身がオートミール状になるという、とんでもない欠陥を抱えている。

 

 とても財団製とは思えない程のクオリティの低さに、現場の職員達からは『燃える死装束』とか『人間粉砕機(ハンドブレンダー)』などと悲惨な渾名で揶揄されているシロモノであった。

 

「やれやれ、こんなモン身体に巻き付けて放射線まみれの現実性異常空間で任務だと?ふざけやがって…、作ったヤツを張り倒してやりたいぜ」

 

「そう言うなディトーネ、アルギュロス戦争のせいで、最盛期の財団を支えていた熟練職員の大半が死んでしまったんだ。貴重な知識と才能を持っていた研究者や技術者もな……。今残ってる人員と予算で作れるアイテムなんて、どんなに頑張ってもコレぐらいの物が限界だ」

 

 恨み言を口にする仲間を研究者出身のコワルスキーが諭す。西暦2025年に勃発したアルギュロス戦争は、世界中から凡ゆるものを奪った。それは財団とて例外ではない。あの戦争により、財団は多くの優秀な職員と保有するSCPオブジェクト、そして----------永劫に匹敵する長い時間をかけ、数多の犠牲を払ってまで手にした数々のテクノロジーを失った。これらは再生しようにも、重要なデータは保存していたサーバーごとアルギュロスに破壊されているし、戦火により国土の大半を喪失した国々に置かれた収容サイトは土地ごと放棄(戦後の慢性的な土地不足に伴い、財団と同盟関係にある各国政府の要請の元、所有していた不動産を行政に返還・譲渡・売却したりもした)され、これ以上自分達では抱えきれないと判断されたSCIPもやむを得ず終了処分(破壊)という最終手段が取られた事により、不可能だった。

 

 こういった経緯により、2040年以降のSCP財団はほぼ末期と言って差し支えない状況に置かれている。皮肉な事に、財団と敵対する要注意団体も同様の理由から似たような有様なので、小競り合いこそ絶えないが、少なくとも世界の裏側で大規模な人間同士の殺し合いが激化する兆候は今の所ない。………あくまで"戦前の頃"と比べれば、だが。

 

「お前たち、無駄話はその辺にしとけ。もう任務は始まってるし時間にも余裕がないんだ」

 

レックスが二人を注意した後、「前進ッ」と号令をかける。今回の任務は、そういった財団の失われた技術---------ロストテクノロジーの調査と回収にあった。無論、何かが残っている保障は無いし、財団が過去に遺した遺産の多くが戦時中に喪失した物なので、現在それらが放置されている場所は、白銀の傀儡どもが支配する楽園となっていたり、放射線や地雷源、不発弾だらけの不毛地帯と化している。回収はおろか、近付く事すら許されない危険地帯だった。

 

ただ----------現在レックス達が踏み入っているエリアは、少し事情が異なる。

 

「……隊長」

 

「ん?」

 

歩き始めて5分、闇と同化した荒れ放題の地底空間をライトで照らしながら、アットがふと疑問に思った事をレックスに尋ねてみる。

 

「20年前って事は……、このサイトってアルギュロス戦争が始まる前に放棄されたって事っスよね?」

 

 帰り道を見失わぬよう、細長いケミカルライトを折って目印として地面に放る。

 

「そうだ。今から19年前、エイリアンの襲来から端を発した完全自律型無人戦闘兵器・アルギュロスの侵攻によって人類は絶滅寸前まで追い込まれた。当然、財団も未曾有の大被害を被り、数多くの財産を失った」

 

「………隊長も、参戦してたんスよね?」

 

「……あぁ」

 

 当時18歳で米海軍の水兵として従軍していたレックスは、戦時下にあった世界情勢の悲惨さを経験している焼き尽くされた世代(アルギュロス戦争体験者)の一人だ。あの日の惨状を前にした時、レックスはまるでこの世の全てが一瞬で地獄の底に叩き落とされたような感覚を覚えた。開戦から数ヶ月と経たぬ内に、人類の切り札たる核が無力化され、北米大陸への侵攻を許すとほぼ同時に、米軍も沿岸警備隊を含め、陸・海・空・海兵隊が壊滅し、宇宙軍は全滅を避け撤退---------。当時の大統領がホワイトハウスから『世界中に展開する米軍を全て本土に引き揚げさせる』などと一方的に通告し、実行するという暴挙に出たが、結局その頃には、全てが手遅れとなっていた。

 

「子供でも理解できる。『完全に詰みだ』ってな……。艦隊と一緒に世界中を回ったが、見渡す限り世界が炎に包まれていた。俺の故郷も家族も、皆んなアルギュロスに焼き殺された…。だからロサンゼルスで最初の反抗作戦が成功し、再構築した防衛線からアルギュロスを押し返したって聞いた時は正直信じられなかったし、本土に帰還したらいきなり『戦争が終わった。人類は勝利した』なんて言われても、あまり実感が湧かなかった……」

 

右も左も分からない未熟な新兵だった自分が受けた命令は、世界中に散らばるアメリカ国籍保有者を保護し、帰国させる事だった。無論、港にはアメリカ人よりも圧倒的に多く現地人が押し寄せていたので、そこから同胞のみを助け出し、それ以外の人間は艦に乗せないよう、波となって乗船を試みる人々に銃を向け、壁となって立ちはだかった。中には現地人と結婚して家族を持った米国人も居たが、乗せられるのはアメリカの市民権を持つ者だけだ。元より彼らを受け入れられるような余力のある艦も国も、その時点で地球上のどこにも存在しなかった。結果、現地に留まったり、泣き叫ぶ家族と引き裂かれる状況が多発。ひどい時だと、暴徒化した現地人の集団に発砲したり、すぐ背後に迫るアルギュロスから逃げ惑う人々を見捨てたりもした。『助けてくれ』、『見捨てないで』、『子供だけでも連れて行ってほしい』---------そんな現地人達の懇願する言葉を無視して、自分達の艦隊は出航した。置き去りにされた人々がアルギュロスに虐殺されていく様を、彼らの絶望と悲壮に満ちた絶叫を、遠く離れた海の彼方から、ただ、見ていた---------。

 

 上官や仲間からは『俺達は任務を果たした』、『アメリカ人を守るのが米軍の仕事だ』『何も間違った事はしていない』と励まされたが、それでも気分は晴れなかった。

 

 誰かに自慢できるような戦果を上げた訳ではなく、助けを求める人々を全て救い出せた訳でもない。当時の若く非力だった自分は、戦う術を持たない大勢の無力な人達が、一方的に殺されていく光景を、ただ見ている事しか出来なかった---------。

 

 それが、レックス・クアールズJr.のアルギュロス戦争だった。

 

「………でも、今は違う」

 

 そこまで話すと、今まで黙って聞いていたアットが口を開く。

 

「昔の隊長がどうだったかは知らないっス。けど、今の僕たちがこうしていられるのは、隊長を信じてついてきたからっス」

 

「その通りです。隊長がいなければ、私達はとうの昔に死んでいました。生き残れたのは、隊長が誰よりも強くて誇り高いからです」

 

「俺達はアンタについていくよ、今までも、これからも」

 

 背後からコワルスキーとドレイヴンの声も加わり、レックスは暫し沈黙する。

 

「……俺も、お前たちと出会ってから、本当の人生が始まった気がするよ」

 

 先程よりも、比較的表情が和らいだ気がした。戦後にSEALsの精鋭まで登り詰め、今では財団の機動部隊でチームを率いる身となっている。海軍から財団に籍を移してから来年で丁度10年となる。今の仲間達に出会えた事は、大して冴えない自分の人生における、最高の宝物となっていた。

 

「---------と、話が脱線したな。アット、このサイトがどうしたって?」

 

「いや……、アルギュロスが原因じゃないなら、何で放棄されたんだろうって」

 

「……不明だ」

 

「え?」

 

思わず聞き返してしまうが、レックスは前を向いたまま進み続ける。

 

「数日前、南米で活動する要注意団体の動きを監視していた財団の衛星が、偶然、放棄されたと見られるこのサイト跡地を発見した。だがどういう訳か、この施設の存在を知っている人間が誰もいないんだ」

 

「それは、一体……」

 

「さぁな。一応現存する記録に存在が記されてはいるんだが、判明しているのはサイト番号と所在地のみだ。誰が、いつ、どんな目的で何を収容していたのか---------その一切が分かっていない」

 

 アットは不気味に感じながらも、少し考える素振りを見せる。

 

「……なんか、SCP-1730みたいですね」

 

「別次元から転移してきたって?まぁ、可能性はあるかもな……。機動部隊タウ-5(サムサラ)みたいに人質救出しろってんなら、出直す必要はあるが」

 

 この謎のサイトの正体を知るには、やはり直接現場に乗り込むしかない。レックスがそう結論づけた時、改めて周囲の景色を見回してみる。

 

「……しかし、予想通りというか……、正に"死の世界"だな」

 

 レックスが嘆息混じりに呟く。360度全方位を見渡す限り、この地で呼吸をしているのは自分を含めチームの7人だけだった。先程まで月明かりが差し込んでいたが、雲が出てきて隠れたせいで世界は再び闇に閉ざされてしまっている。地面はザラザラとした砂の感触しかなく、ライトを照らして見つかるのは大小様々なサイズの石塊くらいだ。あとは、何もない。文字通り---------無だった。

 

「キロトン級とはいえ核ですからね。こうなるに決まってますよ」

 

 コワルスキーが肩を竦める。

 

「放射線なんて屁でも無いアルギュロス(鉄屑ども)にとっちゃ楽園なんだろうが、人間(俺達)にとっては地獄そのものだ。多少の放射線を浴びただけで死ぬし、ヒューム値が低い空間に放り込まれれば身体を維持できずバラバラになる………人間ってのは自分達が思ってる以上に脆く弱いんだ。クソッタレ…」

 

 ベックが忌々しそうに吐き捨て、ディトーネが同意を示す。

 

「だな……。おいウルフ!さっきから計機類がうるさくて耳がイカれそうだッ。アルギュロスに気付かれる前に止めてくれ!」

 

ディトーネが絶叫すると、ウルフと呼ばれた銀髪灰眼の男が無言のまま、やかましく鳴り続けるガイガーカウンターとカント計数機のアラームを止める。

 

「ふぅ……、やっと静かになったぜ」

 

「フィフティ・アーサーが交通事故をやらかして任務から外されたから、今日こそは静かにいけると思ってたんだがな……」

 

「ドレイヴン、ベック、警告アラームよりもフィフティの方がずっとウザいと思うぞ」

 

「……だな」

 

「違いねぇ」

 

コワルスキーの指摘に苦笑していると、レックスが「全隊停止」と号令を出す。

 

「この様子だと、財団のお偉いさん方が欲しがるようなモノは何も残ってなさそうだ。これ以上探し回っても時間の無駄だろう。アルギュロスに勘付かれる前に引き上げ---------」

 

「隊長」

 

最後まで言い切る前に、アットが地面の一角を指し示す。

 

「どうした……って、なんだコレは…」

 

視線を下に向けると、そこには直径30cm程度の穴があった。穴の周りを軽く踏んでみると、パラパラと薄氷の様に砕け落ち、すぐさま人間が通れる大きさとなる。

 

「まさか、更に下があるのか…?」

 

ケミカルライトを一本取り出し、真ん中の辺りを折って発光させると下に投げ落とす。暫しの間、淡いグリーンの光が宙を照らすが、やがて地面へとぶつかり落下が止まる。

 

「高さ20フィート(約6m)……。ロープでも降りられるな」

 

コワルスキーが驚愕を顕にする。

 

「危険ですッ。下がどうなってるか分かりませんし、いつ崩落するか------」

 

「いつだって最善を尽くすのが俺達だろ。何より、手ぶらで帰るのは性に合わない」

 

コワルスキーを説き伏せ、再びロープを巧みに操り地下へと降下する。着地した瞬間、足元から水の跳ねる音が響いた。どうやら地下に多少の水が溜まっているらしい。ライトで辺りを照らすと、厚さ30cm以上の鉄筋コンクリートと土壌で外殻を覆われているのが確認できる。『爆風』『熱線』『初期放射線』『放射性降下物(フォールアウト)』の4つの脅威を防ぐ高気密・耐爆構造となっていた。放射性物質や有害ガスを完全に遮断するNBCR対応の特殊フィルター付き換気装置は、当然の事ながら電力が遮断されていて機能していない。

 

「核シェルター並みの頑丈さですね。だからここのブロックだけが奇跡的に残ったのか…」

 

「だが、間近で核が起爆したんだ。完全に吹っ飛びはしなくても、皆んな爆風でやられたんだろうな…」

 

 丸焦げになった壁や天井を見て、ディトーネが沈痛な面持ちで呟く。

 

「取り敢えず、なんでもいいから研究者どもが喜びそうな物を探せ。バッテリーの残量が心配だから、手早く済ますぞ」

 

「「「了解」」」

 

核の爆発により、このブロックも相当なダメージを受けている。もはやいつ崩落してもおかしくないので、全員が速やかに動く。

 

「にしても、下に降りたって状況は最低じゃねぇか…。こんな所で何を探すってんだ?」

 

「これだけ頑丈に作られてるって事は、相当に重要なモノがあったんじゃないスかね?」

 

「O5御用達のポルノとか?」

 

「それはお前だろコワルスキー、ジュリエットの"ロリコン・ドラゴン"から借りたロリコン向け雑誌をたんまり隠し持ちやがって…、気持ち悪りぃ」

 

「なッ…!なんでソレを知ってる!どこで知ったッ?」

 

「皆んな知ってるから安心しろ。……あのなコワルスキー、誰もお前の気持ち悪い趣味に口出しする気はないが、万が一、万が一お前が変な気を起こして現実の10歳の女児に悪戯しようものなら----------俺がお前を粛正するからな?」

 

レックスの目が本気だった。

 

「大丈夫っスよ隊長、今のところは二次元の女子小学生相手にしか興奮しないようですから」

 

「アット、余計な事を言わないでくれるかッ?」

 

「でもこの間、日本の可愛い女の子が出てくるエロアニメを宮崎から借りてたよな?」

 

ドレイヴンからの鋭い指摘に「ゔぅッ!」と変な声を上げる。

 

「あと一昨日も夜中に『美少女三姉妹の義兄になりました。〜病弱金髪ツインテール(三女)を愛のおちゅーしゃで(夜だけは)救ってみせます』ってエロゲーをプレイしてたよな?あれ、ヘッドホンから喘ぎ声とかガッツリ漏れていたぞ」

 

「ガッ…!」

 

硬直した。

 

「俺がお前ん家に泊まりに行った時も、夜中にトイレから変な呻き声が聞こえたから、最初は聞こえなかったフリをしようと思ったんだが………、お前の「美咲たん、もっと足広げてッ、ハァ、ハァ…!」とか気持ち悪い独り言が耳に入っちまって………。すまん、アレはマジでキモかった。キモすぎて頭から離れない。おかげで今でも夢に出てくるんだどうしてくれるッ」

 

「ソレ私が悪いのか!?」

 

「おいコワルスキー、お前のせいでドレイヴンがPTSになっちまったじゃねぇか」

 

「仲間の精神を破壊してどうするんだ変態コワルスキー。責任取れ」

 

「そーだそーだ、毒電波は敵かアノマリーに向けろ変態コワルスキー」

 

「私はロリコンでもなければ毒電波の使い手でもないッ!ストライクゾーンが少し低めなだけだッ。例え蔑まれようが罵倒されようが、コレだけは決して譲れな---------」

 

「気にするな、お前が変態でも俺は見限らないぞ多分」、「フツーにキモいなお前、やっぱりキモい」、「死んだ方がいい」、「流石『財団の抱かれたくない男ランキング5年連続1位』の覇者だな」、「いや、そのキモさって普通に異常じゃないか?調査の必要があんだろ」、「研究者のモルモットにされんぞ」、「ウィスキーチームの連中が縛ってGOCに差し出そうとした事もあるとか…」、「絶望的だな」、「子供の頃の夢はエロ漫画家か?」、「しかも脇が臭いっス。あと偶に錯乱するッス」、「そのうち誘拐事件でも起こしそうだな」、「週七で女児のパンツ被ってオナニーしてんだろ?」、「お母さんに毎日カビカビなったパンツ洗って貰ってるらしいな」、「今朝もオナニーしてパンツガビガビにしたんだろ?汚ねぇからコッチ寄んな」、「そうか、お前のトイレが長いのはパンツにぶちまけた精子を洗い流す為なのか」、「帰ったらパンツ洗えよ精子野郎」、「オナニー野郎でロリコンとか救いようねぇな」、「死ねロリコンクソ野郎ッ」、「白濁液!」

 

 

 その後、コワルスキーは二度と口を開かなくなった。

 

 





 少し中途半端な形で終わってしまいましたが、次回でこの番外編は終わります。

 あと、今回登場したコワルスキーは作中で一番気持ち悪いキャラです。彼がほんの少しでも『キモいッ!』と思った方はお気に入りに登録と高評価、感想をお願いします。
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