Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
嵳神向一が入室する。
【記録開始】
担当者の芹澤悠河が所属と官姓名を明かすよう指示する。
「SCP財団本部…、機動部隊シータ25……ジュリエット分隊所属。
抑揚の無い、低く無機質な声音で受け答えを行う。
----------まずは、簡単な経歴を聞かせて欲しい。
「出身地は………分かりませんが、戸籍状は北海道小樽市となっています。育ちも小樽です」
----------そちらの世界情勢に詳しくはないが、両親は死亡していると聞いている。
「アルギュロス戦争終結後、行方不明となっているそうですが……。自分はよく知りません。実の両親の顔は覚えていませんし、公衆便所の便槽の中で母親に産み落とされたまま放置されていた所を、偶然財団の関係者が発見したそうです。今更会いたいとは思いませんし、正直………死んでようが金属化してようが、どうだっていいです。どちらも、ただ自分を産んだだけの存在でしかない…」
----------その後はどうなった?
「財団の管理下にある孤児院に引き取られました。表向きはごく普通の児童養護施設でしたが、実態は圧倒的に不足する財団職員を確保する為の人員供給源となっていました」
----------そこで財団職員としての教育を受けた?
「一応は。ただ、その施設で働いていた職員達は、『いくら非常時とはいえ、我々大人の都合で子供の未来を奪って良いのか』という葛藤があったらしく……。結果、その人達が働きかけてくれたおかげで、自分が8歳の頃に
----------虎燿氏は、貴方を一般社会で生活させた?
「えぇ、彼は戦前の頃、アルギュロスに家族を殺された過去を持っていました。『お前を引き取った理由は、守れなかった家族に対する罪悪感と、その時に失った息子とお前自身を重ね合わせていたからなのかもしれない…』と、生前の頃に申し訳なさそうに言っていた事があります。彼の過去に何があったのか……、具体的な事は分かりませんでした。ただ、それでも自分は、彼に救われたのです。虎燿は自分に広い世界を見せようと、自由に育ててくれました」
----------そんな貴方が、財団への就職を決意した理由は?
「自分が財団への道を決めたのは高校三年生の頃です。当時、学業とスポーツの両方で優秀な成績を修めていた自分は、担任教師からの薦めもあって、奨学金で大学に行こうと思っていました。他にやりたい事もなかったので……。ですがその日、家に帰ると、居間で虎燿が倒れていました…」
暫し沈黙する。
「……財団の医師によれば、虎燿は長年の職務遂行の際、神格実体を相手にする事が多かったらしく、その影響を全身に受けていたそうです。結果、虎燿の身体は衰弱しきっており、遂に限界が訪れたのだとか…。虎燿は………父は最期に『お前は自由だ』と言い遺し、39歳でこの世を去りました」
----------それから?
「小さい頃に財団で教わった事は全て忘れて、平和に生きる道もあったのでしょう。アルギュロスや敵国の脅威は残りますが、それでもSCPやアノマリーと関わるよりはずっと良い……。ですが、父を失って初めて、自分は孤独だという事実を真正面から突きつけられました。今まで自分を見守ってくれていた存在を失った途端に、これから何処を目指せば良いのか分からなくなったのです。自分が思ってたよりずっと、嵳神向一という男は矮小な人間だと思い知らされました。結局、己の道を見つけられなかった自分が頼れたのは、財団しかありませんでした」
----------だから、自衛隊に入隊を?
「はい。財団の募集担当者と相談した結果、自分はフィールドエージェントだった父の様な孤独な戦い方は出来ないと悟り、戦術対策担当職員としての勤務を希望しました。その時に『精鋭チームを目指す気はないか?』と提案され、高校卒業後に機動部隊への入隊を志願し、選抜条件をクリアすべく陸上自衛隊に入隊しました。過酷な訓練を経て、『精鋭無比』とまで呼ばれる第一空挺団のレンジャーにまで登り詰めた自分は、戦地で数ヶ月間の任務に従事し、財団が規定する実地試験をクリア、今から約半年前に正式な機動部隊の一員としてMTFsの称号を受け取りました」
----------最初は、日本支部の機動部隊に所属していた?
「その通りです。機動部隊員になってから数週間後、自分は所属部隊と共に中国大陸に派遣され、現地の中国支部と協力しながら任務に当たっていました」
悠河はタブレット端末に視線を落とし、液晶画面を操作する。
----------それが『ヘルキャット作戦』?
「そうです。守秘義務があるので、そちらが把握してる以上の情報は明かせませんが……、ともかく、その時に自分はミスを犯し、査問会にかけられた結果、再教育命令と日本支部での軍籍を剥奪され、アメリカの本部へと異動になりました。そこでジュリエットチームに再配属されたのですが……、まぁ、脛に傷のある新人ですから、暫くの間は信用もされず、はっきり言えば嫌われていたと思います。真の意味でチームから信頼を得られたのは、共に最前線での死闘を潜り抜けた後でした。------その後、知らぬ間に『第四次O/D作戦』の作戦参加人員に加えられ、現在に至ります」
手元にある調査報告書の内容と相違ない事を確認し、次の質問に移る。
---------趣味や特技は?
「花や動植物の鑑賞、あと写真撮影です。昔から人と話すのが苦手なので……、子供の頃は蟻とか昆虫が友達でした」
---------口を出す気はないが、本当に友人がいないのか?
「………………」
黙ってしまった。
---------すまない、この質問は聞かなかった事にしてくれ。……特技はあるか?
「柔道ですかね……。中学では全国大会で優勝してますし、オリンピックが復活してたら、選手を目指していたかもしれません…」
---------自分の事についてどう思う?
「感情の起伏が乏しく内向的、社交性が低く、孤立主義の傾向がある割に女好き………まぁ、女遊びはリューさんと理雄さんに教わったんですけどね……。一応言っとくと、法に触れるマネはしてませんよ?ナンパする時もリューさんと二人きりだったら絶対に加わりません。確実に未成年の子しか狙わないでしょうから……。ブタ箱行きは御免被ります」
---------友達はいなくても彼女はいるタイプか?
「特定の彼女はいません。気になる人はいますが………チームの仲間には話していません。驚かれるでしょうから」
----------音楽は好きか?気になるアーティストやアイドルは?
「残念ながら、音楽には疎くて……、元の世界では音楽関係の番組を見た記憶は殆どなく、コッチの世界でも同じです」
----------最後に、ジュリエットチームの事について、君の想いを聞かせて欲しい。
「生まれてからずっと孤独だった自分は、多くの人の想いで生かされてきました。孤児院の職員達も、虎燿も、ジュリエットの仲間も----------彼らが居たからこそ、自分はようやく、今の居場所を見つける事が出来たんです。ジュリエットチームのメンバーは家族同然であり、決して失う訳にはいかない……。だから、守る為に戦います。それが自分の想いです」
【記録終了】
追記。彼もまた、自身の道を見つける過程で傷つき苦悩した若者の一人であり、これからも彼の困難は続くと思われる。
なお、個人的な感想として、嵳神向一に友人が増える事を心から願う。私も友人が少ない。
担当者、芹澤悠河。