Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
戦友達の仇であり、排除すべき敵の正体が判明した。だが---------。
「フェニックスグループが今回の事件に関与していない?どうしてそう断言できる」
既にフェニックスグループは財団の潜入工作員を殺害している。複数の要注意団体と接触し、オブジェクトや武器の取引、資金援助などの証拠も出揃っている。なのに今回のチャーリーチーム全滅やニ世界同時誘拐事件にだけは関わっていないなど、どうして言い切れるのか。
『コレを見れば分かるわ』
そう言って由那は、一枚の写真を提示する。突入した戦術分遣隊が撮影したのか、手ブレが酷く、お世辞にも写りが良いとは言えないが、専用機材による鮮明化が施され、徐々に画質がクリアになっていく。そして------。
「………ッ!」
『貴方は知ってるわよね?』
そこに写されていた人物を見て、硬直した。
『なにせ----------教え子なのだから』
宮益坂女子学園のセーラー服、ピンク色の一部が跳ねたショートヘアーに同色のぱっちりとした瞳---------。
鳳えむだ、間違いない。牢獄の奥でうずくまる様に両足を抱え込みながら座っている。表情までは窺えなかったが、明らかに衰弱している様子だった。
ガタンッ-------!と音を立てて椅子から立ち上がる。
「どういう事だ!?何故彼女があそこにいるッ?いつ奴等に拉致された!」
「理雄、少し落ち着け」
「しかしッ…!」
「二等海曹」
「……!」
與一の低い声に、混乱していた脳内が一気に冷却される。
「場を弁えろ、将補殿も同席されているんだ。冷静になれ。……できるな?」
「…………」
周囲の視線が突き刺さる中、「…失礼しました」と静かに席へと着く。
「田上、途中で遮ってすまない。話を再開してくれ」
『……続けます。ご存知ない方もいらっしゃると思いますので、補足説明をさせて頂くと、この鳳えむは志熊理雄が客員講師として務める宮益坂女子学園の一年生です。我々が事件の容疑者として拘束した鳳幸之助氏の次女でもあります』
事情を知らない仲間達が驚愕の表情を見せると同時に、理雄と同じくらい関係が深い信孝も衝撃を受けている様子だった。
「おいおい、あの監獄の中に囚われてるって事は……」
困惑した信孝の言葉に、由那が首肯を返す。
『そう、彼女は今回の誘拐事件に巻き込まれた被害者の一人よ。フェニックス・グループは……あの3人は自分の娘、妹がアノマリーを悪用する人間に攫われていた事実を知らなかった。つまり----------これは盾壁弘毅とマーシャル・カーター&ダークの独断による犯行よ』
由那の説明を前に、それまで黙って聞いていた四瀬が手を挙げる。
「田上捜査官、質問いいか?鳳親子は娘が誘拐されていた事を知らないと言っていたのか?」
『その通りです』
「嘘の可能性は?要注意団体との協力関係を築く上での担保として、娘を人質に差し出したのかもしれない」
『尋問時の反応から、その可能性は消えました。
四瀬が両掌を組みながら、暫し黙考する。
「-------仮に今回は無関係だったとしても、先の『サーキック・カルトテロ事件』や『ダウンフォール事件』への関与の疑いはある。いや、出揃った証拠から事実と言っていい。元々はSA-5000-2で財団と秘密裏に協力関係を結んでいたにも拘らず、奴等は我々を裏切り、忌むべき要注意団体と手を組んだ……。理由はなんだ?何故財団を敵に回すようなバカなマネに及んだ」
数秒の沈黙を挟んだ後、由那は口を開く。
『…では、全て最初からお話しします。我々SCP財団とフェニックス・グループの接触が始まった日から、今日における事件までの経緯を---------』
*
由那が最初に話したのは、現在のフェニックス・グループと財団が手を組むようになったキッカケだった。
『…まず前提として、あの3人は財団の詳細を把握していません。そもそも
フェニックスグループと財団が関係を持ったのは20年前、鳳楽之助がアミューズメントパークであるフェニックス・ワンダーランドを創設する際、偶然建設予定地で異常空間が発見されたのが始まりです。楽之助氏はフェニックス・ワンダーランド建設に並外れた執念を持っており、同地で収容エリアを確保しようとする財団と真正面から対立しました』
当時、楽之助は『世界中の人を笑顔にする』をモットーとしたフェニックス・ワンダーランド建設に強い想いを抱えていた。故に、それまで順調に進んでいた建設計画を途中で放棄しろと迫った財団に対し、激烈な怒りと拒絶反応を示した。互いに交渉が難航する中、財団はフェニックス・ワンダーランド建設を強行しようとする楽之助達に様々な圧力をかけたが、そのどれにも楽之助は屈しなかった。時間が経つにつれ、現状の措置では異常空間の隠蔽と抑制に限界があると悟った財団は、楽之助の頑なな態度に苛立ちを覚えはじめ、『これ以上要請を拒否するならば、武力を行使しフェニックス・グループを物理的に排除すべきだ』という強硬策まで検討される程だった。
もはや、いつ財団が銃口を向けてきてもおかしくない。戦争にでもなりそうな緊迫した空気が続く中、当時フェニックス・グループの傘下にあった『不死鳥運輸』社長の盾壁弘毅が、どこからか偶々この事実を聞きつけた。
『楽之助氏の元に乗り込み、事情を知った盾壁はある提案を持ちかけました』
----------アノマリーの秘密を守る代わりに、財団の
『盾壁は我々が持つアノマリーや政治的影響力・軍事力・経済力--------凡ゆる面で絶大な力を誇る財団に興味を持ち、それらを利用すれば更なるビジネスの拡大を図れると考えました。また、我々も一般の民間社会で名を馳せる大企業グループを隠れ蓑にすれば、人目に晒されるリスクが高い大規模な行動でもヴェールを保ったまま円滑な職務の遂行が可能となる。……盾壁の提案は、財団にとっても魅力的でした』
実際、それで不死鳥運輸は他の財団フロント企業と同様に、世間からアノマリーと財団の存在を隠してきた。今まで一度としてベールが暴かれる事はなく、世界の平和と常識の維持に貢献してきた。だが、楽之助は強固に反対した。仮に同盟を結んだとしても、共有される情報はごく僅かに過ぎない。組織としての実態が不明な上、理念の為なら少数を平静と切り捨てる冷酷な本性を隠さない財団に対し、強い不信感を覚えたのだ。
『結果、楽之助氏は盾壁の不死鳥運輸を秘密裏に財団のフロント傘下へと移し、協力関係を構築しました。事実上、我々と直接のやり取りを行うのは不死鳥運輸で、フェニックス・グループは一定の距離を保ったまま極力関わらない姿勢を示してきました』
その後、建設予定地の異常空間は財団が封印措置を施し、暫くして消滅。フェニックス・ワンダーランドは無事に完成し、楽之助も一年前に他界した。
『楽之助氏は最期まで息子である幸之助氏や、孫である晶介、慶介氏には財団の存在を一切伝えませんでした。おそらく家族を巻き込みたくなかったのでしょう。盾壁とは仕事上の付き合いでその正体をある程度察知する機会もあったかもしれませんが……、どのみち、得体の知れない組織と人間に関わりを持ちたくはなかったのでしょう』
かくして、財団とは距離を置いたまま、不死鳥運輸を通じて最低限の間接的な後方支援のみを行っていたフェニックス・グループであったが----------。
『尋問の際、鳳晶介は『今年に入ってからすぐの頃、盾壁に"新たなビジネスパートナーとして紹介したい人物がいる"と言われ、自分の他、兄と父親と共に呼び出された』と供述しています。おそらくその時でしょう、マーシャルカーター&ダークと接触したのは』
晶介曰く、最初はアノマリーの存在を信じられなかったいう。幸之助と慶介は何かを知っている様子だったが、ハンツマンの高級スーツに袖を通した胡散臭い雰囲気のイギリス人男性に見せられた
『異形を直接目にした事により、3人は要注意団体という修羅道を生きる者達の存在を認知しました。財団と直接関わる事の多い盾壁が我々の腐敗細胞と接触し、彼らを経由してMC&Dからある選択を迫られたそうです』
----------我々とこの世界で巨万の富を稼ぐか、生命も財産も全てを失うか選べ。
その時点で、盾壁も不死鳥運輸も味方ではなくなっていた。選択肢なんてものはない、MC&Dにとってフェニックス・グループなど小金持ちの集団にすぎない。その気になれば赤子の手を捻るかの如く、あっという間に経営破綻に追い込めるし、盾壁の傭兵がいつえむ達に危害を加えるか分からない。既にフェニックス・グループ内にも敵のスパイの侵入を許し、此方の行動は全て筒抜けとなっている。正面からは銃口、背中にはナイフを突きつけられ身動きが取れない、もはや詰みだった。
『その後は完全に盾壁達の言いなりとなっていたそうです。ある時はプロト・サーキックの集団と会合し、またある時はカオス・インサージェンシーのゲリラに資金提供を行った……。あの地下壕や研究施設はフェニックス・グループの金で造られましたが、出資者を脅迫したのはあの忌々しい強欲な銭ゲバどもです』
由那が吐き捨てる様な口調で説明を続ける。
様々な要注意団体がMC&Dと取引した。彼らがSCP-3199やSCP-610を手にしたのも、おそらくあの会社が財団の腐敗細胞辺りから入手し、売ったモノを購入したのだろう。次々と事件が起こされていく中、フェニックス・グループはいい様に利用され続けた。時には財団の潜入員に武器の取引を目撃され、社員の格好をした傭兵が発砲し銃撃戦にも発展した。
『今月に入ってから、MC&Dからあるアノマリーを渡されたそうです。それが----------』
「
理雄が答えを先に言うと、由那は首肯する。
『盾壁達が213-JPを用いて各地で誘拐を繰り返す中、1983はいつの間にか鳳家が所有する孤島の別荘にて出現したそうです。彼らによれば、『屋敷の中に突如として扉が現れた』……と』
「…にわかには信じ難いが、1983の特性を考えれば辻褄は合うな」
四瀬が小さく呟く。
「以前ロメオが親子を生け捕りにする為に突入したあの屋敷だよな?間違いないのか?」
『あの後、島は財団が確保・封鎖したわ。肝心の扉は封印されているのか開く様子はなかったけど、
初雪の質問に由那が答えると、四瀬が挙手する。
「盾壁が財団を裏切り、MC&Dに付いた理由は?」
『金の為でしょう。もしかしたら、盾壁はあの要注意団体の一員になる事を望んでいるのかもしれません。財団の犬として飼われるよりも、本格的にアノマリーで商売するとなれば、真っ先に彼らとの繋がりを求めるでしょうから』
「………確かにな」
四瀬が與一に視線を送ると、戦闘服の腰に手を当てながら一歩前に進み出る。
「現時刻をもって、不死鳥運輸は要注意団体と認定された!これ以上奴等の傍若無人を許す訳にはいかないッ。マーシャルカーター&ダークの暗躍に終止符を打ち、再活性化した1983の謎を突き止める為にも、君達には213-JP-1に潜伏している盾壁を何としてでも生け捕りにしてもらう必要がある!」
生け捕り……。それはつまり、盾壁の確保が最優先とされる。
「えむは……拉致された被害者達の救出はッ?」
理雄が血相を変えて声に出す。
「無論行われる。だが場所が場所だ。外部から無線も通じず、増援や持ち込める装備に限りがある中で異空間に少数のチームを送り込むんだ。213-JP-1の内部構造は未だ完全に把握されていない。拉致被害者の数は不明、どの監獄に収監されているのかも不明、敵の人数と使用する武器は分かっているだけでも相当なものだ。それらが何処にどれだけ配置されているのか、殆ど分からない状況での作戦決行なんだ。君達はこれから、軽装備で目隠しをしたまま敵地に乗り込むんだぞ。そんな状態でどうやって複数囚われている被害者達を助け出すつもりだ」
「……ッ!」
ギリッ…!と奥歯を噛み締める。與一の言ってる事は正しい。万が一にでも盾壁を逃せば、この後も更に被害者が増える。1983の脅威もある。もしアレが市街地……それこそシブヤにでも解き放たれた日には、あの街は心臓を引き抜かれた死体で溢れ返るだろう。
えむ達の救出は、後回しにせざるを得ない。頭では理解していても、あんな所で自由を奪われ、悪人や怪物に囲まれたまま一人で恐怖に耐える生活はえむの精神を容赦なく削るだろう。すぐにでも駆けつけたいが、現実がそれを許さない事に歯痒さを感じる。
「これより!ジュリエットチームはロメオチームと共に213-JP-1へと突入し、目標である盾壁弘毅を拉致せよ!この巫山戯たセールス活動を展開する連中に引導を渡してやれッ!なお、本作戦名は『
※おまけ
着ぐるみさん「クソッ…、放せぇッ!貴様らえむお嬢様をどこに-----------ぐごぇぇッ」
ボリス「おお!このサンドバッグ、キックの練習に丁度いいぜ!」
着ぐるみさん「ふ…ふざけるな…。人の着ぐるみをサンドバッグにするなど、この外道め----------ぐがはッ!」
フェニックス・グループの関係者を片っ端から捕縛する際、ロメオチームに捕まった着ぐるみさんはミルコ・クロコップに憧れる若手隊員に吊り下げられ、サンドバッグにされていた。