Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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 ※今日の茶番劇(メタネタ)。

一歌「そういえば、初期の設定では理雄先生じゃなくて雪平さんが主人公を務める予定なんでしたっけ?」

司「あぁ、なんでも主人公の候補として天城英牙と雪平豹馬の二人が上がったらしいが、思春期の高校生らしい悩みや葛藤を抱える一歌達に寄り添える主人公が必要と考えた作者が新しく生み出したのが志熊理雄らしい」

唯尊「英牙は外伝での主人公が決定したし、雪平は性格的にどのプロセカキャラとも合わないからな……。英牙もそうだが、この二人は良くも悪くも大人なくせして面倒臭い問題を抱えまくっている。未熟な子供ながらも夢や希望を追って成長していく一歌達に対し、英牙や豹馬は『希望がないと思い知らされた財団職員』だ。見ている景色が違いすぎる上に、理雄と違って自分の世界に閉じこもり周りの人間を閉め出すタイプの人間だから、歳下である一歌達は取っ付きづらいし、迂闊に近づいて地雷でも踏めば、取り返しの付かない大爆発を起こす」

司「物理的な危険度で言えば朝日奈まふゆより上な訳か…」

唯尊「あぁ、仮にこの二人のどちらかを主人公に登用した所で、大男が暴れて何もかもぶち壊す未来しか浮かばない。それに一歌達が巻き込まれでもしたら…」

一歌「し、死人がでるかも……」

唯尊「そういう事だ」

司「他に主人公候補とかいなかったのか?ジュリエットチームのメンバーは?」

メリッタ「うおぉ〜〜い!新しく入ったエロゲーやろうぜ〜!!」

信孝&龍一郎「「よっしゃああああああああああッ!!」」

唯尊「……アイツらを主人公にしたら18禁になるだろ。今から理雄を殺して無理矢理変えるか?」

一歌&司「「今のままでいいです」」

理雄「あっさり俺を殺そうとするなッ!!」






第七十三話 銀の銃弾 PART2

 

 再び光が差し込んだ時、視界に飛び込んできたのは薄暗い檻の中だった。

 

「よっと…」

 

狭苦しい棺から身を起こすと、他の仲間が装備に異常がないかを確認している所だった。

 

「よぉ、どうだった?初のテレポート体験は」

 

「狭苦しかっただけで、特に感想はないかな…」

 

信孝との会話に応じながら、自分も銃のチェックを行う。安全装置やボルトは問題なく機能しているようだ。

 

「…………」

 

 ふと視線を感じた方向を見ると、20代後半くらいの男がボロいバールを手に立っていた。坊主頭に虎を連想させる鋭い瞳からは強靭な意志を感じる。それ以上に目を引いたのは、財団のDクラス職員に支給される橙色のジャンプスーツと背中にプリントされたナンバー。

 

「……D-0442」

 

彼に与えられた識別番号を口にすると、囚人じみた格好の男------藤沢虎徹(ふじさわこてつ)は露骨に嫌そうな顔をしながら「チッ…」と舌打ちする。

 

「財団ってのは、どいつもこいつも人の名前を覚える気のない連中しかいない様だな」

 

「……………」

 

「まぁ、俺たちみたいな使い捨ての消耗品(コンシューマブル)を人間扱いする変わり者なんて、普通はいないか…」

 

「……確認するが、アンタは------」

 

「あんたらの言う異世界………SA-5000-2とか呼ばれてる方の出身だ」

 

 やはり、由那の読み通り二つの世界はSCP-213-JP-1内で繋がっている------。この様子だと、事前に一通りの説明は聞かされた様だ。

 

「アンタが俺たちの道案内役で間違いないのか?」

 

英牙の質問に「あぁ」と短く答える。

 

 D-0442。本名、藤沢虎徹。妹の暴行殺人に関与した6人の人物を殺害した罪で起訴され、過去に4度の脱獄・逃走歴を持つ財団のDクラス職員。理雄達の世界では、D-0442は30年以上前からこの監獄で拉致被害者達を救出していると聞くが……。

 

「こちら側のDクラス2名とは?」

 

「会ったよ。一応あんたらの動きは伝えている。どこで何をしているのかは分からんが……、まぁ邪魔はしないだろうから安心しろ」

 

肩を竦める虎徹に対し、英牙がバールとサバイバル・パックを手渡す。

 

「ブラックな職場からのお土産だ」

 

「助かるよ、使ってたヤツがそろそろ限界だったからな……」

 

あちこちに錆が目立つ年季の入ったバールを捨てると、英牙が持ってきた新品のバールと取り替える。

 

「------ところで、お前の相棒とやらはどこだ?もう一人ガイドが用意されていると聞くが」

 

初雪が辺りを見回す。

 

「あんたらのお友達……ロメオチームだったか?ソイツらの案内に回ってる」

 

「なるほど、つまり………場所は正確に把握してる訳か」

 

「何年もここでサバイバル生活やってたからな。……同じ識別番号とユニフォーム着たじいさんなら他にも色々と知り尽くしてるだろうが…、体力なら年齢的に俺の方が上だから、その辺は安心していい。あんたらが万が一しくじっても、俺一人でさっさと逃げられるぜ」

 

 あからさまな挑発に、思わず全員で苦笑する。

 

「敵の動きは?」

 

「今の所ない」

 

「よし、なら早く行こう。ぐずぐずしてたら奇襲の意味がなくなる」

 

巡回する213-JP-2にでも見つかれば、あっという間に敵の大部隊に包囲され殲滅される。突入した以上、ここからは時間との勝負だ。

 

英牙が無線を手に取る。

 

「ジュリエット1よりロメオ。"パールハーバー"通過。繰り返す、"パールハーバー"通過。オクレ」

 

『ロメオ1了解、こちらも同地点を無事に通過した。これより作戦行動に移る』

 

「互いに幸運を祈る。オワリ」

 

 無線を切ると、虎徹を先頭に監房から出る。鍵は予め虎徹が盗んだ看守のキーで解錠したのか、すんなりと開かれた。

 

「大丈夫だとは思うが、音を立てるなよ。人間の方はともかく、顔に触手の付いたヤツは弾丸すら効かない化け物だ。銃なんて意味がない」

 

「大丈夫だ。対策はしてある」

 

虎徹の忠告に答えながら、暫く廊下を進む。不思議な事に、明かりとなる電球やライトといった発光源がないにも拘らず、監獄内は暗視装置を必要としないくらいには明るかった。

 

「止まれ」

 

曲がり角の手前で虎徹が制止する。

 

「見ろ」

 

顎で促され、英牙が壁から顔を覗かせると、ポリスバトンを手にした看守が此方に向かって歩いてくるのが見えた。人間ではない。顔からイソギンチャクみたいな触手を何本も生やした人型の怪物(クリーチャー)だ。体格からして身長2.5m、体重200kgはある。

 

「SCP-213-JP-2か……、この通路以外に休憩室まで行けるルートは?」

 

「ない。少し前までならダクトから忍び寄れたが、今は工事中で使用不能だ」

 

「なら、倒すしかないな」

 

「おいおい、さっきの俺の話聞いてたかッ?あのイソギンチャク野郎は動きも速いし力も強い。あんたらの豆鉄砲じゃせいぜいビビらせるくらいだ」

 

「そんなに不安がるな。言ったろ、対策はしてある(・・・・・・・)

 

列の後ろで気配を殺す悟を呼ぶと、「やれ」と短く命令する。頷いた悟がポーチからグローブらしき物を取り出すと、負い紐(スリング)を使ってHK416を背中に回し、右掌に着用する。手首に付いたスイッチらしきボタンを押すと、低い起動音と共に手の甲の部分が赤く光る。

 

SCP-213-JP-2が曲がり角に近づき、向きを変えた瞬間。

 

「------ッ!?」

 

英牙達を目視した213-JP-2が驚愕のあまり硬直、その際に生じた一瞬の隙を逃さず悟が肉薄、懐に飛び込みグローブを履いた掌を心臓の上に重ねた。

 

「潰れろ」

 

掌を強く押すと同時に、グローブから細胞の結合を破壊するほどの振動波が発生する。異形の看守は内臓がかき回されたような激痛と共に、心臓が破裂。自分の身に何が起きたのか、理解する暇もなく吐血し、絶命した。

 

「おっと…」

 

音を出さないよう、前のめりに倒れてくる巨大な死体を受け止めると、そのまま引き摺って通路の隅に隠す。

 

「あんた、今……何をした?」

 

 困惑した虎徹の視線は、悟のグローブに注がれていた。

 

「財団が対大型生物用に開発した超振動デバイス---------通称『潰滅器官(アナイアレイト・オルガン)』。触れた箇所の細胞を残らず壊死させる絶死の兵装。数年前にSCP-682が収容違反を起こした時も、決め手となったのはコイツだ。クソトカゲの腹に触れただけで、ヤツの内臓(中身)が一瞬でズタズタにされた。最大出力でやればアフリカゾウだって内側から爆殺できる」

 

「……何の事だか分からんが、財団のヤバさは相変わらずだって事は理解した」

 

屍の胸部に刻まれた真っ黒い瘢痕を見ながら呟く。自分も逃走を図れば、こんな風に殺されるのだろうか……。割と有り得そうな未来が、虎徹の脳裏を過った。

 

「急げ、死体が見つかれば気付かれる。その前に目標を捕えるぞ」

 

再び前進を開始すると、理雄は移動しながら、ふと気になった事を虎徹に尋ねてみる。

 

「……なぁ」

 

「あ?」

 

「アンタ、もう一人の自分と会った事があるって言ってたよな?」

 

「……俺と同じ識別番号持ったDクラスの事か?」

 

無言のまま首肯を返す。

 

「もう一人の自分か……、あんたはそう言うが、少なくとも俺にそんな認識はねぇな。そもそも置かれた立場と番号以外、俺とあのじいさんに共通する点は一切ない。顔も歳も身長も、生い立ちも『妹を殺されて復讐し死刑判決。その後財団でDクラス』って部分以外は全く異なる。本名も違うし、アレじゃ殆ど別人だ」

 

「……そういうものなのか?」

 

「初めてアイツと会った時も、『俺と同じ使命感で動いてる赤の他人』としか思ってなかった。暫くして財団から『ソイツは別世界のD-0442だ』って言われたが、ハッキリ言ってなんの事やら……。ま、偶然同じ番号と宿命を背負った野郎って事で、俺は納得してる」

 

「…………」

 

理雄が見たSA-5000-2の自分は、秘密IDの経歴欄に添付された顔写真のみだ。その時は今の自分の顔と何ら変わらない、瓜二つと言えるほど同じ陰険顔だったが、確かに両親や孤児の件を含めて、生い立ちは全く別人のものだった。

 

 あの冷たい地の底でIAに流し込まれた記憶は、未だ断片的にしか認識できない。自分の事を『兄さん』と呼んでいた少女や、涙を流したり激昂したりする少女達。そして『忌わしい…」という謎の声---------。アレは自分とは全く無関係な他人の記憶に過ぎないというのだろうか。

 

---------なら、俺との因果関係はなんだ?あの時IAが口にした『力』の正体とは一体……。

 

「おいッ、お喋りはそこまでだ。着いたぞ」

 

英牙が人差し指を示した方向には、休憩室に置かれたソファでふんぞり返る初老の男性の姿があった。高級スーツに悪趣味な装飾の指輪、左手首にはハイブランドで有名なカルティエの腕時計を嵌めていた。外見的特徴からして間違いなく盾壁だ。どうやらジュリエットが当たりを引いたらしい。

 

「------だから何度も言ってるだろッ!鳳のバカ親子が財団に拘束されたんだ!クソッ……やはりあの無能のカスどもは早めに処分しておくべきだったッ」

 

携帯電話を片手に誰かと口論している様だが、今の所こちらの存在には気づいていない様だ。ソファの周りにはアサルトライフルと防弾ベストで武装した護衛が4人、周囲に眼を光らせている。待機姿勢……銃の持ち方や警戒の取り方からして間違いなく全員一流のプロだ。

 

「ここの存在もバレてるッ。カーターとは何度やっても連絡が取れない。兎に角、貴様らも急いで財産をまとめろ!ほとぼりが冷めるまでどこかで身を隠すんだ!いいな!?」

 

盾壁は一方的に通話を切ると、「まったく……愚鈍な奴等めッ」と忌々しそうに舌打ちする。ここは外部との電波が遮断され、通信は取れない筈だが……。

 

「方法は不明だが、外の連中と連絡が取れるなら、更に増援を呼ばれるかもしれない」

 

初雪に進言され、英牙は小さく頷く。今なら相手は4人しかいない。絶好のチャンスだ。

 

 音を立てずに接近すると、休憩室の出入り口前で左右の脇を固める。敵はジュリエットの接近に気付かない。右から悟、左から理雄が閃光弾を取り出す。安全ピンを引き抜き、点火レバーを取り外す。

 

「よし投げろッ」

 

英牙の合図で二人同時に投擲。刹那、強烈な閃光が盾壁達の視覚を奪う。

 

「片付けろッ!」

 

最初に休憩室に突入した信孝のMINIMIが火を噴き、先頭の一人を薙ぎ払う。半拍遅れてフィフティがもう一名を射殺。

 

「クッ…!」

 

閃光弾が炸裂する直前、機転を効かせて両目を守った傭兵が銃口をこちらに向けてくるが、トリガーを引き絞るより先に初雪からの銀製バックショット弾の餌食となる。

 

 最後の護衛を英牙が倒すと、両目を手で覆いながら「おのれぇ…ッ!」と盾壁が小型拳銃を腰から抜く。

 

 照準を付ける暇も与えず、理雄がHKの銃床で拳銃を叩き落とし、返す力で顎を打ち上げる。

 

「ガッ…!」

 

地面に仰向けに沈んだ盾壁をうつ伏せにさせると、素早くフレックスカフを取り出し、後ろ手に両腕を拘束する。

 

「放せぇ!!貴様らこの俺を誰だと思って------!」

五月蝿く喚く口を猿轡で黙らせると、頭髪を掴んで顔を上げさせる。英牙が前腕部に装着したタクティカルアームバンドを開いて盾壁の写真と捕らえた男の顔を見比べる。

 

「間違いない、コイツが目標だ」

 

本来なら撮影した顔写真を作戦本部に送って照合を頼むのだが、この異空間でそれは不可能だ。影武者の可能性がないか、自分達の目で直接確認し、本人だと確証を得る。

 

「ならとっとと連れて行こう。理雄、ソイツはお前が引っ張れ」

 

「了」

 

麻袋を顔に被せると、後ろ襟を掴みながら無理矢理立たせる。

 

「ジュリエット1よりロメオ1。ジャックポッド"通過。繰り返す、ジャックポッド。オクレ」

 

『ロメオ1よりジュリエット1。了解した、相変わらずの幸運だな変態チーム。作戦どおり陽動は此方で行う。なんとしても目標を連行しろ』

 

「ジュリエット1了解。お前達もあまり無理するなよ。オワリ」

 

 アーチェとの通信を終えると、すぐさま現場から離脱する。

 

「急げ移動だ!モタモタしてたら奴等が来るぞッ!」

 

既に閃光弾の炸裂音で此方の動きは察知されている。この場に留まり続ければあっという間に包囲され逃げ場を失うだろう。

 

「ホラ歩け、アドルフ・ヒトラー」

 

猿轡をされた盾壁が何事か悪態を吐きながら理雄に連れられる。元来た道を戻っていく途中で、何人かの敵兵と遭遇するが、ジュリエットは的確に排除し、脱出路を切り開く。

 

「最後尾だ!」

 

初雪が向一の肩を叩くと、階段の入り口へと入る。最後尾で後方を警戒する向一が最後に階段を降ろうとした直前。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

悍ましい呻き声と共に、SCP-1983-2が三体、奥の廊下から此方に向かって吶喊してくる。

 

 向一は静かにMG3を腰だめに構えると、銃口を少し下に向けトリガーを引く。気を抜いた瞬間ひっくり返りそうになる強烈な反動を全身の力で制御しながら跳ね上がる銃口(マズル)の先を人ならざる黒い影に向ける。

 

 仲間の信頼に応え、皆を守る為に力を振るう------。そんな祈りを込めた銀の銃弾が嵐となって1983-2を粉砕、消滅させる。

 

「敵性個体排除!移動するッ」

 

階段を降り一階のフロアに出ると、開けた通路の突き当たりで敵の待ち伏せ(伏撃)を受ける。

 

銃弾が迫る中、速やかに壁の隅に身を隠すと、身体をできる限り晒さないよう最低限リーンしながら銃を撃つ。

 

「叩きのめせッ!」

 

英牙が叫びながらセミオートで撃ち、敵の至近距離を弾丸が掠める。撃ち返され壁の表面を削り、破片が飛び散る。

 

 直後、足元に何かが転がってくる。

 

-------M26破片手榴弾。既に安全ピンが抜かれ点火レバーも取り去られている。

 

「くッ------!」

 

コンバットブーツの靴先で奥に蹴り飛ばすと、コンマ数秒後に爆発。手榴弾の外殻が破片となって不死鳥運輸の傭兵達を殺傷し、悲鳴が上がる。

 

「ジュリエット2!」

 

「手榴弾ッ」

 

英牙が援護(カバー)しつつ、背後につく初雪が攻撃型手榴弾(オフェンシブグレネード)を投擲、爆風が敵兵を噴き飛ばし、トドメとなる。

 

「よし、前進するぞッ」

 

更に先へと進むが、数十メートル前進する度に障害が立ちはだかる。特に銃器で武装したSCP-213-JP-2が3体現れた時は、銃が効かないだけに進行が妨げられた。

 

「おい!どうすんだコレッ!」

 

「ロメオが囮になってくれてるとはいえ、早く戻らないと敵の増援に囲まれるぞッ」

 

最初に転移した棺のある監房まで残り10m。その手前にある階段の上から銃撃を浴びせられ、身動きを封じられる中、信孝が壁の角から身を乗り出しMINIMIで応射。弾切れを起こした直後に初雪が援護に入り、M870を撃つ。

 

「ガスを使う!ジュリエット6、援護しろ!!」

 

「任しとけッ」

 

「ジュリエット5は『潰滅器官(アナイアレイト・オルガン)』でCQC(近接格闘戦)を行え!」

 

「了解ッ!」

 

信孝がMINIMIを乱射、死にはせずともダメージにはなるのか、213-JP-2は咄嗟に頭を下げ、銃撃が止む。その隙を見計らって英牙がガスグレネードを転がすと、瞬時に催涙ガスが充満。階段が有毒な化学物質で蹂躙される。

 

 213-JP-2も生物である以上薬剤は効くらしく、苦しげに咳き込んでいた。

 

「今だ、突っ込めッ!」

 

 HKを仲間に預けて身軽になった悟がガスマスクを付けたまま吶喊。先頭の一体に超振動の拳を振るい、ボディに打ち込む。内臓を潰され斃れた瞬間に次の獲物に飛びかかる。

 

 慌てて銃口を向けてくる213-JP-2に肉薄すると、銃身を掴んで射線を逸らし超振動で破壊。空いた左の拳を触手まみれの顔面に喰らわせ脳を揺らす。ボクシング国体優勝経験者である悟の左フックにダウンを奪われたイソギンチャクの怪人に、反撃する間も与えてもらえぬまま絶死の手甲(グローブ)を穿いた右ストレートが顔面に迫る。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

裂帛の気合いと共に放たれた拳打が直撃。頭蓋を通じて伝わった超振動が脳髄を破壊に至らせる。

 

『グモオオオオオオオオオオオオッ!』

 

怒りに駆られた213-JP-2が銃床を振り下ろし、接近戦を挑んでくるが、催涙ガスのせいで目(外見からして人間に相当する肉眼があるようには見えないが)がやられたのか、狙いが甘く易々と避けられる。低く沈んだ姿勢からアッパーカットで顎を打ち抜き、トドメと言わんばかりに頭を掴んで膝蹴りをお見舞いする。最後の個体が失神し、無力化された。

 

「どうだ!?」

 

「殲滅しました!しかし『潰滅器官(コイツ)』の予備バッテリーが残り一つですッ!」

 

「十分だ!このまま檻まで走るぞ!!」

 

全速力で薄暗い通路を走り抜け、檻房まで辿り着く。棺を開けて状態を確認し、転移に問題がない事を認める。

 

「大丈夫だ!フィフティ、先に離脱しろッ」

 

「喜んでッ」

 

銃を抱えながら棺に寝そべると、そのまま蓋を閉めて鍵を掛ける。数秒経った後に再び開けると、そこにフィフティの姿はなかった。

 

「よしッ、転送可能だ!理雄、そのゴミをここに突っ込んで------」

 

あとはこのまま棺を使って撤退すればいい。それで作戦は完了する-------。そんな甘い考えを粉々に打ち砕いたのは、鉄格子の隙間から飛び込んできた一発の銃弾だった。

 

「クソ!まだ来るのかよッ…!しつこい野郎は嫌われるぞテメェら!!」

 

信孝が悪態を吐きながら軽機関銃の火力を叩き込む。初雪と悠間も撃ちながら、奥に潜む敵を狙い撃つ。互いの銃弾が交差する中、監房に入り込んだ銃弾が跳弾を起こし、虎徹の左肩に命中する。

 

「ぐあッ…!」

 

壁を背に崩折れる虎徹に悠間が駆け寄る。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「大丈夫だ!この程度の傷なら慣れてるッ…!」

 

虎徹は苦痛に表情を歪めながらも、出血する肩の銃創を手で押さえ悠間の目を真っ直ぐに見つめる。

 

「構うな!弾は貫通してる」

 

「せめて止血を……」

 

「自分でやれる!あんたはあんたにしか出来ない事をしろッ」

 

サバイバル・パックを取り出し自力で応急処置を施す。そんな虎徹の執念にも似た何かに気圧されていると、監房の外から銃撃が止んだ瞬間を見計らって何者かが走ってくるのが見えた。

 

「クソッ…!」

 

悠間がHKの光学照準器(ドットサイト)越しに照準を合わせた直後、謎の不審人物が慌てて両手を跳ね上げる。

 

Wait, don't shoot! It's not an enemy!(待て撃つな!敵じゃねぇよ!)

 

英語で叫ばれ、一旦銃を下ろす。両手を挙げたまま薄暗い闇の向こうから姿を現したのは、虎徹と同じDクラスの作業服に身を包んだ白人男性だった。英語の発音からして生粋のアメリカ人、年齢は40代後半くらいに見える。

 

「ソイツは味方だ。俺の一応の相棒であんたらのお仲間をガイドしてた奴だよ」

 

虎徹が止血帯を巻きながら男の方を見遣る。悠間が扉を開けて中に入れると、軽くボディチェックを行う。どうやら持っているのはアメリカ製自動拳銃の代名詞、コルト社製M1911ガバメントだけの様だ。かなり使い込まれているのか、グリップは傷だらけでフレームが歪んでおり、スライドにもガタがきている。弾倉を抜いて残弾を確認すると------。

 

「……銀の銃弾ッ?」

 

薬莢の先端に埋められた弾頭は鈍く輝く銀色であり、悠間が信じられないといった顔で男の方を見る。作業服の背面に記された番号は------『D-14134』。

 

「まさか……アンタがあの銀の銃弾(シルバー・ブレット)、なのか…?」

 

「あ?なんだお前……」

 

男が怪訝そうな表情で悠間の方を見ると、戦闘服の袖に縫い付けられた財団のシンボルマーク(スリー・アローズ)のワッペンを目に「あぁ…」と納得した様に呟く。

 

「コテツが言ってた日本人チームってお前らの事か。さっきまで一緒にいたロシア人どもと同じ部隊だな」

 

タクティカルベストに貼られたシータ-25の部隊章である至聖女(パナギア)を見て溜息を吐く。

 

「それより、お前が案内してた部隊はどうした?一緒じゃないのか?」

 

「戦闘のどさくさではぐれたんだよ。まったく……あのヴァンパイアみたいな顔したルーマニア人の野郎、信じられないくらい人使いが荒いぜ。俺をイソギンチャク野郎の囮に使ったり、爆薬持たされて傭兵集団に突撃させられたり、『もうすぐそこだし噴き飛ばそう』とか言って塞がった通路爆破して爆風に巻き込まれそうになるし……。しかも最後には陽動だとか言ってコマンドーよろしく持ち込んだ銃でありったけの弾丸バラ撒いて更地にしそうな勢いだったぜ。メイトリックス大佐かよ…」

 

虎徹の質問に辟易した様子で答える。どうやらロメオチームは今回の奇襲作戦を強襲作戦と勘違いしているらしい。

 

「……………」

 

 悠間は男の方をまんじりともせず注視する。半世紀以上前に自分達の世界で、自らの生命と引き換えにSCP-1983の異常性を封じ込めた伝説のDクラス職員。消耗品のレッテルが貼られた捨て駒の身でありながら財団から叙勲された男が、時代を越えて目の前に存在している。

 

「……おい」

 

「ん?なんだ日本人。つーかお前ら全員デカいな…」

 

 身長180cm。体格は白人の平均だが元軍人らしく筋肉質で引き締まった体躯をしている。短い白髪頭にブルーの鋭い瞳。全体的に擦り切れた印象のある男に無言のまま近づく。

 

「幾つか質問したい。……アンタの名前は?」

 

「D-14134」

 

「本名の方だ」

 

「……フレディ・I・ヴォーン」

 

「出身はデトロイトの中心地で軍歴あり、米国海兵隊に所属する下士官としてベトナムに数回派遣された経験を持つ------」

 

「はぁ?何言ってんだお前……、俺はピッツバーグの出身で所属していたのは空軍。B-52戦略爆撃機(ストラトフォートレス)の搭乗員だ。ベトナムではジャングルに潜むベトコンやベトナム人民軍(VPA)の兵士を焼夷弾(ナパーム)で焼き殺すのが任務だった。陸軍や海兵隊の連中みたいに地上戦には参加していない」

 

「…………」

 

本名や経歴の詳細が異なる辺り、どうやら虎徹と同じで間違いなくSA-5000-2の人間のようだ。同じ認識番号と宿命を背負ったDクラスの英雄……。

 

 何故ここにいるのか------、色々と聞きたい事はあったが、戦闘中にそんな事は出来ない。しかし、その時になってようやく、悠間は事態の異常に気付く。

 

「隊長、変です」

 

「……確かにな」

 

 英牙も神妙な表情で首肯する。敵からの銃撃が---------ピタリと止んだ。

 

 撤退した?……いや違う。若手とはいえそれなりの修羅場を潜ってきた自分でも分かる異様な静謐。理雄が感じる不気味さは次第に大きくなっていき、やがて廊下の奥からペタ、ペタ…と足音が聞こえてくる。

 

 此方との距離が縮まるにつれて足音は大きくなっていき、ソレは大群が地を踏み鳴らす跫音(きょうおん)だと判別できる。

 

「…何が来るってんだ」

 

信孝がMINIMI軽機関銃のピカティニー・レールに装着されたタクティカルフラッシュライトを点け、廊下の奥を照らした瞬間------。SCP-1983-2が影の濁流となり、猛烈な勢いで押し寄せてくる悍ましい光景が眼前に迫ってきていた。

 

「撃て!撃ちまくれッ!!」

 

英牙の怒号が飛ぶより先に、全員が銃のセレクターをフルオートに切り替えて射撃する。フレディもガバメントで撃つ。

 

 死を恐れる事なく、絶望の雄叫びを上げながらひたすら心臓を求めて進撃してくる影の大群を必死の思いで堰き止める。

 

 銀の銃弾も、残弾が底を尽きそうになっていた……。

 

 

 

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