どうやらウマ娘からは逃げられないらしい   作:クウト

2 / 11
時間は一気に飛びます。


トレセン学園へ

「はぁ……」

 

ため息を一つ。

ボケーっと窓の外の風景を見つつ暇を潰す。

お師匠様であるスピードシンボリに言われて欧州まで行って帰ってきたわけだが……久々の日本の風景に落ち着きを感じる。だからつい独り言もする。

 

「あれから五年も経つとはなぁ」

 

五年の月日が経った。

スピードシンボリがウチに来てあれよあれよと気がつけば進路先が変わっていたり、シンボリ家に色々と叩き込まれたり、ある日突然欧州にも勉強行ってこいと言われてふと気がつけば帰りの飛行機の中。

大人になると時間経つのって早いよね……。

前世でも負けた次の日にはその週の重賞のこと考えてたし、気がつけば一ヶ月経ってたりしたものだ。

そういや前世の職場の先輩なんてついこの間の事のように話す内容が二十年前だったり三十年前だったりしたな。一番ひどい時なんてその頃は携帯がなかったとか言い出すもんね。こっちの思考が停止するわ。

 

「っと、降りないと」

 

余計な事を考えていたら降りる時間のようだ。

飛行機から降りて色々な面倒ごとを終え、荷物を受け取り一人寂しく空港の出口を目指す。うちのお師匠様は仕事らしいから迎えもない。

 

「兄さん」

 

「ん?」

 

聞き覚えのある声。

振り向けばどこか見覚えがある顔がいた。

 

「……ルナちゃんじゃないか」

 

「ふふ。一星さんにそう呼ばれるのも懐かしいな」

 

いつも思うが、ウマ娘は成長が早い。

一年見なかったら別人だからね?背も大きくなってまぁ。そんな事を考えつつも、トレーナーとなってしまった俺はついついステータスを見てしまう。この癖も直さないとな……。

 

「……」

 

こいつ……。

URAシナリオやってねぇだろ?

メイクラシナリオやってないか?

 

「そうやって見られるのも……久々だと少し恥ずかしいものだな」

 

「っと、わるい。癖だ」

 

「いや、気にしないでほしい。それは一星さんのトレーナーとしての武器なのだから」

 

「そうか?……そうかぁ」

 

「……なんだい?含みのある納得の仕方だけど?」

 

「色々と成長したなぁと思ってな。ついこの間までこんなだったのに」

 

「何年前の話だ……」

 

五年だよ!!

いや、もうちょい短いか?

でもそのぐらいの間に色々と大きくなってるなぁって話ですよ!!……まぁそれは一度置いておこう。

それよりも聞きたいことがあるのだ。

ルナちゃんは俺が向こうに行っている間に、もうデビューを終えている。活躍は向こうにいてもしっかりと見ていたのだ。

 

「そうだ。ルナちゃんはトレーナー見つかったんだね。随分と優秀みたいだ」

 

「あぁ。一星さんとの約束だからね」

 

「……約束ねぇ」

 

約束。

俺がシンボリ家にいた頃の話になってくる。

まだ子供ながらも、ものすごい将来性がある子を見かけた。それがこのルナちゃんだったわけだが……バカな俺は余計な考えが浮かんだのだ。

 

『シンボリルドルフだろこれ。……無理無理無理無理!育てるとかできんて!……むしろ戦いたい。それだけでもとんでもない経験じゃんね?』

 

バカである。

多少仲良くなってトレーナーのような事をしたこともあるのだ。その頃には多少自信もついていたからアドバイスはしたが……一言えば二も三も四もとできる才能には驚いたものだ。倒すの無理だろこれ。

 

「そう。約束だ」

 

「……はぁ……俺なんて障害にもならんだろうに」

 

「……どの口が言うんだそれは……とにかく!約束は約束だ。破らないでくれるだろう?一星兄さん?」

 

「……はぁ、では」

 

少しだけ背筋を伸ばしてルナちゃんに向かい合う。

 

「楽しいレースをしよう。シンボリルドルフ」

 

「……あぁ、この時をずっと待っていた……!」

 

ルナちゃん……いや、ルドルフの調子が絶好調へと変わる。そして圧倒的なオーラを醸し出しながら真っ直ぐに見つめてくる。

 

「あの人が見込んだトレーナーが育てるウマ娘。是非手合わせを願いたい」

 

「はは。まだ担当もいないけどね」

 

「来年ごろには叶っているさ」

 

人が多いはずの空港。

だけど出口まで随分と歩きやすかった。

あ、あの。ルドルフさん?覇気だしすぎ……。

 

 

 

空港からトレセン学園へと向かう。

道中、ルドルフは色々な事を話してくれた。

実を言うと俺はルドルフが生徒会長な事も、レースでの活躍もほとんど全部知っている。もちろん大きくなっていた事も。ただ目の前にすると実感してしまいあんなリアクションになっただけなのだ。

それをわかっているだろうに楽しそうに話すこの子を止められる?無理だろ?

 

「それで、どんな子を担当したいとかはあるのかい?今のトレセン学園にはデビュー前の子でも随分と才能あふれる子がたくさんいるが」

 

「んー。さぁ?」

 

ルドルフを倒すってのを目標にするから尖った子もありだ。けどそれはあくまで俺の目標の一つ。ウマ娘を育てる上ではノイズにしかならない。

短距離の子?マイルの子?中距離?長距離?

色々とあるけれど、一緒に走っても苦にならない子が一番だ。……なんてカッコつけるけどさ……。

あの、いまだに俺が名馬に出会う可能性とか怖すぎるんですけど?いや、未勝利戦頑張ってた子も好きだよ!?推し馬いたし!!応援馬券なんて何枚もあったよ!?だからそんな子なら大丈夫って訳でももちろんないんだけど!!

 

「あー、それはまだ治ってないようだね」

 

「だ!しょ、しょうがないだろ!?その子の人生を預かるんだぞ!?俺まだ二十三だよ!?無理無理無理無理無理!!責任持てん!!!」

 

「さっきカッコつけてた時は良かったのに……兄さんはあれだな。引っ張ってくれるような子が合うのかもしれないな」

 

「いや、やるってなったら頑張るよ」

 

無理無理と言うけれど。

それでもやるからには全力じゃないといけない。まだ見ぬウマ娘達と勝利のために努力をするのなら、俺は弱い自分自身なんて放り捨てる。……たまにまた出てくるけどさ。

でも考えて見てほしい。

実装された子達は大体覚えている。

けれどまだ実装されてない子は?見てわかる?分かるはずないのだ。たまたま声かけてくれた子があの名馬!?なんて事になってみろ。胃が持たん……。

あ、俺にこの子と歩めと?あー、死ねるってなる。

そんなこと起こると思うな?って俺は思ったね。でも考えた。今俺の隣にいる子はシンボリルドルフだぞ?それに俺にウマ娘の色々な事を叩き込んだのはスピードシンボリを筆頭とした名ウマ娘だぞ?

 

「薬局寄らない?胃薬欲しい」

 

「もう学園だから無理だな」

 

「はぁ……がんばろ」

 

「あぁ、頑張ってほしい」

 

ため息をついて車の外を見る。

あ、シリウスが走り去っていった。

……降りるとしますかね。

 

 

 

一星兄さんと学園内を歩く。

理事長室へと向かう間、兄さんはずっとウマ娘達を見ている。様々な子達を見ているが、それでもやはり目は確かだ。注目されている子達をちゃんと見抜いている。

オグリキャップ、タマモクロス、ミスターシービー、グラスワンダー、アドマイヤベガ、ダイイチルビー、コパノリッキー、ジェンティルドンナ、クロノジェネシス、アーモンドアイ。

まるで知っているかのように迷いなく視線を向ける姿。それは天川一星が持つトレーナーとしての確かな能力だった。

気になった私は聞いてみた。

 

「いい子はいたかな?」

 

「こっわトレセン学園」

 

「そのリアクションは予想したけど……」

 

本当に言うとは思わなかった。

だが彼らしい。そう思い少し笑いながら歩いているとボソリと小さな声でつぶやいた。

 

「ルドルフに勝てる子は何人かいたな」

 

「……」

 

思わず立ち止まる。

振り向いて彼の顔を見る。

ごく自然に、何気なく出た一言だったのだろう。

昔から失言の多い所がある人だが……あぁ、でも、そんな彼だから面白いんだ。

 

「それが誰なのか。是非知りたいものだね」

 

「言っても仕方ないでしょうよ。俺はまだ新人トレーナーで、担当できる子も現れる訳ないだろう?まずどっかのサブについて」

 

「問題ない」

 

「ん?」

 

「そこはすでに問題ない」

 

手は打ってある。

 

「兄さんの向こうでの功績は、すでに知られている。サブという立場ではあったが、それでも多くのウマ娘を成長させた事」

 

教員やトレーナー達はすでに把握している。

生徒には顔までは公開していないが、実力のあるトレーナーが赴任してくる事を発表している。

 

「そのウマ娘が今も欧州で活躍している事も」

 

特例。

本来であれば実績あるトレーナー達の元で勉強をしてからするべきだとわかっている。

 

「あのスピードシンボリとセントライトの二人が認めたトレーナーだという事も」

 

「……」

 

「待ち切れるわけがない」

 

そう。待ちきれない。

目の前に、私が望む強敵を作ってくれる人がいる。

日本のウマ娘達を大きく飛躍させる人がいる。

そんな人材を悠長に遊ばせておく時間は、我々にはないのだ。

 

「確か……恐れずに挑んでほしい。だったか?」

 

「……」

 

「私たちと共に作ってほしい。全てのウマ娘が幸せに暮らせる世を。そして、あわよくば……」

 

私が退屈しない世界を。

 

「……一人だけ。一人だけではあるが、兄さんはすぐにでも担当できるように手配してある。好きなウマ娘をスカウトしてほしい。そして」

 

全力で答えてほしい。

だから私は自身の全てをぶつけるような思いで兄さんを見つめる。私の本気を知ってほしいから。

 

「まずはその子と一緒に、私に挑みに来てほしい」

 

早く。

早く早く!

あの頃のように一緒に遊んでくれ。一星兄さん。

 

 

 

いや、こっわ。

もうルナちゃんって言えんって。皇帝やん。

先ほど見た子達。

あの中からルドルフに勝てる子達を考える。

……この皇帝に勝つのは本当に難しい。だけどレースに絶対はない。競馬に絶対はないが、この馬には絶対がある。なんて言われたりもしたが、それでも負ける時は負けるのだ。

あの子かな?この子なら勝てるかな?なんて考えてしまうあたり、俺は名馬達が大好きで、競馬ファンで、生粋のトレーナーなのかもしれない。

 

「兄さん?」

 

ぼーっとしていた俺にルドルフが話しかけてきた。

気がつけば学園長室についたらしい。

挨拶をして中に入る。

 

「……ん?」

 

「歓迎!!ようこそ!我がトレセン学園へ!待っていたぞ天川トレーナー!」

 

ちっさ。

あれ?もうちょい大きい人じゃなかった?

ちっさいのの隣にいる見知った顔の人であるたづなさんに目を向ける。人差し指と親指を立ててクルクルとした仕草。

あぁ、理事長変わったのね。

 

「初めまして天川一星です。これからお世話になります」

 

そういうとちっこい体をぴこぴこと動かしながらも様々な説明をしてくれる。俺はその勢いに圧倒されて何も言えずに返事だけを繰り返す。

隣にいるルドルフが苦笑いしている気がするが……気がつけば説明も終わり、理事長室を出る事になった。

 

「……いや、働いたらダメな年齢だろ絶対」

 

「あの一族だから……」

 

「あぁ、なるほど」

 

前の理事長も異常に若く見えるしなぁ。

たづなさん何歳なんだろ?

 

「天川トレーナー」

 

「!?」

 

扉が開いた音もしていないのにたづなさんが現れた。……この人、本当に何者なんだ?ステータスとかもあんまり見えないし……。

先ほど渡し忘れていたという必要な書類を受け取り軽く握手……あの、やわっこいけど、がっちりしてるなぁ……。

 

「応援してます。頑張ってくださいね」

 

「あ、はい」

 

なんとも言えない圧を感じた。

女性の年齢とか考えるものじゃないな……気をつけよ。

さて、俺とルドルフはまた移動を開始。

どうやら俺にも専用の部屋が与えられるらしい。正直迷惑……いや、ありがたい待遇だなぁ……ほんと、いきなりなんのサポートもなしに担当持てとかハードモードすぎんか?東条さんとこのサブトレにしてくれ。あと六平の爺さんのところとか。

 

「じゃあ私に手伝えることがあればなんでも言ってくれ。戦える日を楽しみにしている」

 

「あーうん。ありがとね」

 

生徒会長とはいえ学生であるルドルフをこれ以上拘束するわけにもいかない。俺は一人になった部屋の中でデスクに座り、カバンからウマ娘の週刊誌を取り出す。

 

「今週のメンバーはなかなか粒揃いだよなぁ。荒れそう」

 

出走メンバーを見て毎回思うけど、ウマ娘ファンとしては当たり前の光景なのだが、競馬ファンとしては夢のレースだよなぁ。

別の世代のはずなのに一緒のレースに出るとかさ。

 

「どうやって馬券組むか悩み続けそう」

 

こんなに悩んだ時って結局決まらなくて五分前とかに急いで買っちゃうんだよなぁ。当たんない当たんない。パドックとか見ちゃうとさらにわからなくなる。狙ってた軸馬が荒ぶってた時の絶望感すごいよほんと。

 

「っと、こんなことしてる場合じゃないか」

 

気がつけばもういい時間。

模擬レースが行われている時間が近づいてきた。

俺はいい加減に脱ぎたくなったスーツを脱ぐ。送っておいた荷物からジャージを取り出して着替え、トレセンが誇る練習場まで向かう事にした。

 

「相変わらず広すぎるよなぁここ。あ、メジロラモーヌだ」

 

ふと懐かしさに包まれる。

……またか。さて、俺のギフトの話をしよう。

ウマ娘のパラメータが見える。

そしてもう一つ。なぜか存在しないはずの記憶が蘇る。これに気がついたのはテレビで歌うハイセイコーを見た時だった。

 

『こいつ強かったよなぁ。イチフジイサミで勝とうと思って……あれ?』

 

ウイポの記憶である。

それもゲームをしていた記憶だけでなく、まるで目の前で体験したかのような鮮明さ。その俺は実際に馬主になってたり、牧場経営してたり、調教お願いしてたり……頭バグるて……。

とにかくハイセイコーを倒すためにどれだけの努力をして、色々なレースに愛馬を送り出したかという記憶。その膨大な情報が頭に流れ込んだ時、俺は初めて気絶した。

ウイポには縁がある馬というものがある。

まさしくそれなんだと思う。

俺にとって何かしら思い出が深い事になってしまった子達の事は、面識がなくてもなんとなくわかってしまう。ウマ娘に未実装の子でもだ。

昔、近所のお姉さんがよく遊んでくれていた。自分でもよく懐いていたなと思う程度には遊んでもらっていた。

俺はその人をお姉ちゃんとしか呼ばず、ある日名前がテンポイントだったと知った時、心の底から震えたもん。あ、ワカクモ買ったら産まれてくる子やん!!って当たり前のことに驚いた。

まぁ今はそれはいいか。

少し離れた場所にいるラモーヌをもう一度見る。

この子はゲーム内で娘になった子が乗ったなぁ。凱旋門まで制覇してしまってとんでもねぇ子になってしまった……。この世界ではどうなるのだろうか?

 

「あんまり見るわけにもいかねぇか」

 

トレーナーとはいえ完全に不審者になってしまう。

そっとその場から離れてやっとの思いで目的地に辿り着いた。

 

「広いなぁ」

 

アプリで見知った顔もいる。

実際に育成していた子達だし、それ以外にも見るだけで妙に懐かしくなる子もいる。名前はなんていうのだろうか?

 

「お、早速いるじゃねぇか」

 

「一星、久しぶりね」

 

声をかけられて振り向く。

そこに居たのは六平の爺さんと東条さん。

この世界で多くのウマ娘を育成し、大きな舞台へと導いた人たち。

……普段ヘタレな俺だけど、心の底から湧き上がる炎のような熱を感じるのだった。




ざっと決めただけの設定。

天川一星

前世・ウマ娘と競馬好きな一般人

今世・競馬がしたいトレーナー(仕事はちゃんとやる)


ウマ娘が好きな転生者。
ウマ娘のステータスが見れる。
ウマ娘やウイポで愛情込めて育てたウマ娘との縁が結ばれやすい。
高校生の頃に体力が低下していたスピードシンボリに余計なことを言ってしまい目をつけられトレーナーへの道を進むことになる。
というより同級生のウマ娘とかにも同じようなことをしていたため、トレーナーになるのは時間の問題だった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。