このトレセン学園が誇るトレーナー。
数々の記録をウマ娘と作り上げてきたその人達は、過去から現在に至るまで。多くのレースを経て研ぎ澄まされてきた。そしてこの二人も名トレーナーとして名前を刻む人たちだ。
東条ハナ。
チームリギルを牽引するこの人は、ウマ娘を徹底的に管理をして自身の要求するプランを実行させる。厳しくもあるけれど、それは全てウマ娘のためであり優しい思いが含まれたもの。
そしてルドルフを筆頭に今も多くのウマ娘達をレースに導いている。
六平銀次郎。
厳つい見た目だがフェアリーゴッドファーザーなんてかっこいいんだか、可愛いんだかわからない異名がある人。だがしかし異名があるほど有名なのだ。数々のウマ娘を大きなレースへと送り出し、G1の栄光を何度も達成した人だ。
「坊主。あれなんてどうだ?」
「いやいや六平さん。一星にはあの子なんてどうですか?」
「…………」
か、帰りたい!!!!
何この状況!!
トレセン学園が誇る名トレーナー二人に挟まれる俺の気持ち!!!集まる視線!!
『兄さんの向こうでの功績は、すでに知られている』
ルドルフぅぅ!!!
こういう事かぁぁ!!!
六平さん!!ウマ娘は孫に送るプレゼントじゃないです!!これなんてよくない?これ?それともこれか?みたいな感じで言わないで!!
東条さん!!あんたも冷静に分析しながら俺と合いそうな子をピックアップしないで!!絶妙に惹かれるラインだから乗りそうになってしまう!!
あー!そんなダートで輝きそうな子を勧めないで!!わがままだけど芝の子がいいの!!じゃないと不機嫌なルドルフに何を言われるか……!!
「あ、エアグルーヴだ」
「あの子はうちの子だからダメ」
「別に狙ってませんて……」
目に入ったからつい声に出てしまった。
エアグルーヴさん。あなたのお母さんであるダイナカールにはウイポでお世話になりました。
もちろんエアグルーヴにもお世話になった。
ウマ娘での育成も楽しかったよなぁ。
「すげぇ……」
担当があるなしに関わらず、この名馬達が……将来有望だったり、現在も活躍中のウマ娘達が集まる空間には感動する。
さて、真面目に考えてみよう。
「ルドルフを倒すにはどうするか」
「「!?」」
前世での成績は16戦13勝。
とりあえず馬券買っとけば当たるよ。
それほどまでに強いシンボリルドルフ。
この世界でもステータスを見れば正直に言ってバケモノで、俺から見てどこか退屈そうにも見える姿は……この世界でのあの子の過去を知っている分少しだけ腹が立つ。今の状態では負けることなんてないと心のどこかで思っていそうな顔に敗北を叩きつけてあげたい。
「どうしようかなぁ。王道で先行型?差しや追い込みで後方から一気にまくる?逃げて逃げて影すら踏ませないなんてのも楽しいよなぁ」
もう一度。
もう一度あの子がレースに対して必死になる顔を見たい。ウマ娘の模範となるような、これからの未来を考えているシンボリルドルフではなく、もっともっとエゴを剥き出しにしているシンボリルドルフを戦いたい。
「皇帝の呪い……ねぇ」
8冠の壁。
テイエムオペラオーやディープインパクト。
ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラックという名馬達ですら越えられなかったその高い壁。
それを打ち破ったのはアーモンドアイ。
「いたけどなぁ……」
「ねぇ、ちょっと」
俺が見るの?
無理無理無理無理。
あのアーモンドアイだぞ?できるわけがない。
この世界は前世と同じ道を進まないこともある。それはいい意味でも、悪い意味でもだ。
もし、アーモンドアイが牝馬三冠……ティアラ三冠達成できなかったら?…………。
「無理ぃ!!!最悪すぎるっ!!!」
「ど、どうしたいきなり」
「ほら、聞きたいこともあるんだから正気に戻りなさい」
パシンと頭に衝撃。
軽く叩かれたことにより落ち着きを取り戻した。
「えっと、なんでしたっけ?」
「ルドルフに勝つって本気?」
「わしもそれが気になるな」
「あー。一応?担当した子の適性次第ではありますけど、目標の一つというか約束なので。……新人が言うのは烏滸がましいですが、皇帝の座から引き摺り下ろします」
「「……」」
顔を見合わせる二人。
今更ではあるが、この二人は俺にトレーナーの仕事を見せてくれていた人たちだ。
師匠であるスピードシンボリに連れられてやってきたトレセン学園。トレーナーの勉強をするためにこの二人のチームの見学を何度もさせてもらった。
「……ってことは、もう目星はだいたいついてるわけか」
「油断をするつもりは一切ないですけど、負かすための算段を既につけているって言われているようで腹が立ちますねこれ」
「そりゃそうだろな」
「……え?あ」
チームリギルを背負う東条さんの前で言うことじゃなかった。ルドルフが居るところだもんな。
だ、だがしかし!もうここで引けん!
「た、たた、倒しますともええ。シンボリルドルフ?皇帝?ははっ、あのちびっ子ルナちゃんを知っている俺としては……はぁ…………」
「ため息をついてダートの方を見るな」
「芝を走ってる子を見なさいよ」
頑張れリッキー!!
怖い二人から逃げるためにダートコースを走っているコパノリッキーを応援する俺だった。
俺に与えられたトレーナー室。
そこで俺はゆっくりとコーヒーを飲みながら新聞を眺める。……今週のメインも粒揃いすぎんか?
ウマ娘には実装されてない子達の名前がちらほらと……年代が少し違えば名馬と呼ばれていたかもしれない子達もいるし……。
「荒れるなぁ」
「ですね。注目されていた子に思っていたほど評価が入っていないのが気になります」
「……」
「……」
……なんでいるのこの子。
俺の隣で新聞を読みながら過ごしているのはクロノジェネシス。
トレセン学園の中にあるベンチで新聞を読んでいた俺に興味を持ったようで少しずつ話すようになったのだ。そしてあの練習を見ていた日から約五日ほどが経った今は……。
「……一着は誰だと思う?」
「……悩みますね。この子とかどうでしょう」
「……あり」
趣味合うわぁ。
「ちなみに二着は?」
「そうですね……この子、でしょうか?」
「データ派だなぁ。ちなみに俺はこの子」
「少し足りていない気もしますが……でも荒れたバ場で差しが決まればあるいは……」
そろそろ芝も荒れてきてるからなぁ。
それに今回はフルゲートではないし絞りたい。
でも荒れるよなぁ……いっそ二頭軸で流してってのもありか?俺の軸とクロノジェネシスの軸で、あとは荒れそうなので気になる子達をチョチョイと入れて。
「あの、トレーナー?」
「ん?」
「……賭博とか……やってませんよね?」
「やってないよ!?」
やっていてもおかしくない会話だけども!!
この世界ではギャンブルに手を出したことありませんからね!?エア馬券ですよ!?
「流石にトレーナーがウマ娘を対象に賭けはしないよ」
「でも……」
「めっっちゃ疑うやん……」
そんな怪しい奴を見る目をしないでほしい。
俺は新聞をテーブルに置いて逃げるようにデスクへと向かう。時間を見るとそろそろいい時間だ。
「クロノジェネシス。悪いけどこれからお客さんが来るんだ。そろそろ戻ってもらってもいいか?」
「わかりました。トレーナーとは話が合うのでつい長居をしてしまいました。では、今日はこれで失礼します」
クロノジェネシスを送り出す。
その際、俺が書き込んだ新聞を持って行かれたけど……あいつこそやってんじゃないだろうな?いや、それは絶対ないけどさ。
「部屋に目立つゴミはなし。清潔感もあるし、換気もしている。多分あんまりうるさくは言われないだろ」
「そうとは限らないと思うが?」
「!?」
驚いて入口の方へと振り向く。
そこにいたのはスピードシンボリ。
俺のお師匠様がいた。
「驚かさないでくれ……」
「すまない」
スピードシンボリ。
俺をこの世界に引き込んだお師匠様で、今はURAの海外事業部を管轄しているというスピード出世を遂げたウマ娘。
そんなに忙しいこの方が、こうして会いに来てくれるのには理由がある。
「それで?君は一体何をしてるんだ?」
「……そ、それはですねぇ」
「君が必要以上に考えすぎることも、弱気な部分があることも、基本的にマイナス思考なことも全て知っている」
「…………」
ボッコボコに言うやん……。
全部自覚しているけどそんなに言う?
「だが、追い詰められるといきなり強気になる部分も知っている」
「あ……」
あかんやつ。
ギャンブルをした諸君。
こんな事はないだろうか?ゲロ吐きそうなぐらいに負けた後の最終レース。やめたらいいのに有り金ほとんどツッパしてしまう謎のヤケクソ強き部分。当たるでこいつは!!なんて思って外すあれだ。
そのヤケクソ部分をこのお師匠様は強気と解釈したのだ。ちゃうねん。それヤケクソやねん。
ずっと取り出したスマホの画面。
そこには俺の両親とスピードシンボリが写っていた。
「か、家族を!」
「そう。君の実家はもう押さえてある」
「そんな!!人質をとって俺に何を言うつもりですか!!」
「早く担当をもて」
「ですよねぇ」
バカなノリをしたなー。
なんて言いながらお師匠様の飲み物でも用意しよう。東条さんからもらった高級にんじんジュースがあったはず……へっへっへ。学生気分に戻ってみたらいいさ。……何言ってんだ俺は。
「家族を人質にとる映画とかみました?」
「見てみたいのはある」
「へー。珍しい」
「そんな事はいいんだ。それよりも」
「そっちが始めたのに……」
「君のことだ。もう大体の目星はつけているんだろう?」
「……まぁ……」
契約を結んでいる子とかは調べている。
例えばオグリキャップは六平の爺さんが担当しているし、グラスワンダーは東条さんの所。他に目星をつけた子もポロポロと居るけれど契約を結んでいるか、もう既に結ぶ寸前まで話が進んでいそうだったりと……。
「早く決めないと私以外にもゾロゾロとやってくるぞ?」
「うぐっ!」
確かにルドルフとか来そう。
その次は多分理事長が来て、次は六平さんと東条さんもやってくる。そして……。
『ほら、この子はどうだ?』
『え?あの、その方は?』
『あぁ、こいつは今年からトレセン学園のトレーナーになる新人だ』
『だが実績は欧州で積んでいるから安心しろ。で?どうだ?ちなみにスピードシンボリとセントライトに認められててだな』
『…………』
や、やだぁ!!!
こんな両親に引き連れられて遊んであげて?って言われてるみたいなシチュエーションやだぁ!!
「わぁぁぁ…………」
「はぁ……マイナスに考えすぎだとあれほど言っているのにな……」
回避せねば!!
俺はデスクにある紙に文字を荒々しく書く。
この際字の綺麗さなんて気にしちゃいられねぇ!!
「お師匠。俺ちょっと行って来ます」
「あ、あぁ……頑張ってくるといいさ」
せっかく来てくれて悪いが相手をしている暇は無くなった。
俺は何がなんでもそんなバカみたいな状況は回避したいのだ。そのただ一つの考えもって俺はトレーナー室を飛び出すのだった。
「……行ってしまったな」
まさか取り残されることになるとはな。
ソファから立ち上がりトレーナー室を見て回る。
いつ誰が来ても良いように最低限の掃除はしているらしい。綺麗好きな子からしたら甘いと思われるかもしれないが、むしろどこか居心地のいい空間だと私は思う。
「本当に、君は不思議だな」
出会いは唐突だった。
ファンの必死な声を聞きつい興味を持った。
だから近づいて話しかけてみた。
言われた事は休めと言う注意。
もちろん勝ったことは称賛されたがそれでもそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかった。
私は疲労感には強いタイプだと思っていたのだ。そんな私が他人から、しかもウマ娘にあまり興味もなさそうだった子から指摘されるほどの限界が来ていたなんて思いもなかった。
だからだろうか?色々と自分を見つめ直したおかげで疲労感に気がついた私は自身のケアに努めた。
「ハナ差で負け……か」
悔しかった。
万全の状態なら……!と何度考えただろうか?
負けてはいけないレースだったというのに、あと一歩が届かなかった。頭がおかしくなりそうなほど悔しかった。
自身のケアをしつつ、練習にうちこみ、挑んだ次走ではちゃんと一着を掴み取った。でもおそらく、あの一着はあの一言のおかげだ。
「まさか本当に目を奪われそうになるなんてな」
ハクセツ。
何故か彼女には目を奪われそうになった。
その時に思い出したのだ。
『芦毛の子に目を奪われすぎないように』
これの事か?
なんて思い冷静さを取り戻した。
もしそのまま走っていれば、レースにも影響があったかもしれないと考えると少しだけ寒気がしたものだ。そして私は有マ記念で引退し、就職を決めて彼に会いに行ったのだ。
「必要な才能だと思ったからだが……」
約五年ほど過ごしてわかったことがある。
色々と問題は多いが、思い切った行動をするときは私程度の予想できる範囲なんて軽く飛び越えていくのだ。
「まったく……だからこそ面白いのだが」
紙に殴り書いていた文字を思い出す。
『俺と一緒にシンボリルドルフを皇帝の座から引き摺り下ろそうぜ!!』
バカだと言うウマ娘は多いだろう。
だがもし。もしだ。
彼のそのメッセージを受け止めて、本気になったウマ娘が現れるとするのなら……。
「世界に誇れるようなウマ娘が新たに誕生するのかも……ははっ。実に楽しみだ」
期待している。
あの頃からずっとだ。
「恐れずに挑み続けてくれ」
私達の夢を叶えよう。
日本も。海外も。世界中から注目されるようなウマ娘を。そして日本が世界に誇れるウマ娘とトレーナーを。
「君なら、できると信じている」
そんな伝説が訪れる瞬間を期待しているよ。
天川一星トレーナー。
スピードシンボリ「来ちゃった」
担当が決まらん。
まじでどうしよう。
一人ってのが悩む原因になってるけど……。
でもいきなり二人になるとちょっと扱いきれんと思うし……。
担当が決まらんので参考程度になるけどアンケートさせてください。
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ジェンティルドンナ
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ミスターシービー
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サイレンススズカ
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アドマイヤベガ
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大冒険なアーモンドアイ