WIN4で終わった気持ちはどう整理すれば良いんだ?
華々しい勝利とはいかなかった。
判定の結果、ハナ差の二着。
けれど、それはアーモンドアイでもなしえなかった事。大丈夫。未来は必ず変えられる。
スピードシンボリが見せてくれたそれは、アイもできると確信できた。
「トレーナー」
「ん。改善点は?」
「……言っていたスタート。でも、何よりも焦っちゃったから、次は、もっと上手く」
「そうか。頑張った。次は、勝つよ」
「ッ……!ええ、勝つわ!」
涙を振り払い、強く宣言するアイ。
まっすぐに見つめてくる瞳は、いつものように煌めいていた。これなら、まだまだ大丈夫。強気で、ストイックで、何事も頑張っているアイなら。
「次は勝って、わたしとトレーナーが心から喜べるような!そんな勝利を見せるわ!」
「あぁ、楽しみにしてる」
明日からまた準備をしよう。
二着だとしても敗者のアイはこのターフを去らないといけない。控え室で会おうと伝え、俺とアイは一度別れる。
その場を離れる際、頑張っただったり、応援していくだったりと、ファンを作った事がわかった。それが嬉しくもあり、せっかくなら勝利でもっと多くの喜びを届けたかった。
「もっともっと、やれる事はあったかもしれない」
浮かれていなかったか?
アイなら、アーモンドアイならなんて馬鹿なことを考えてはいなかったか?
ふざけるな。自惚れるな。
俺は誰よりも努力をしなければならない。
改めて誓おう。
アイを一着にするために、なんでもしよう。
アイをG Ⅰウマ娘にするために、なんでもしよう。
「頑張らないと」
九つの冠を超える。
そんなウマ娘になることを願って。
誰もいない地下バ道を歩く。
トレーナーと話していて戻るのが少し遅くなったわたしはたった一人、そこを歩いている。
「……」
一人になると嫌でも考える。
負けた。
負けた負けた負けた。
できる限りの準備はしたのに、それなのに足りなかった。わかっている。勝負に絶対はない。あのシンボリルドルフでも負けていることもある。どれだけわたしに自信があっても、レース展開一つで力を引き出せなくなることもある。
「それでも……!」
勝てるレースだった。
あの時、スタートに集中するべきだった。
あの時、もっと冷静になれていたら。
あの時あの時……!
「もう、負けない」
負けたくない。
こんなに悔しい気持ちはもう十分だ。
だから、この気持ちは忘れない。
「っと、早く行かないと」
つい立ち止まってしまっていた。
あまり遅くなるとトレーナーが心配してしまうかも。そう思ったわたしは歩く速度を上げて控え室へと向かう。
だけど、少しだけ滲んでしまう視界のせいで思っているよりも先に進めない。
「悔しいなぁ」
こんな姿、トレーナーには見せられない。
わたしのことをあれだけ評価してくれて、この数ヶ月間ずっと自分の時間を削ってまでトレーニングメニューを組んでくれていたのを知っている。
だからこそ、わたしはわたしができる全てを出して、勝利を届けたかった。
「次は、次は絶対に」
絶対に一着を。
もうこんな思いはしたくない。
もうこんな姿を見せたくはない。
だから必ず勝とう。
「……ふぅ。よし」
涙を拭う。
悔しくて泣くのはこれで最後にしよう。
振り返り、コースの方向を見る。
あの光の先に、あのターフに、もう一度トレーナーと一緒に行こう。
「……」
ふと、不思議な感覚があった。
わたし……ここを通ったのって初めてよね?
何故かトレーナーと一緒にいた気が……ん?あれ?でもそのトレーナーは今ほど若くなくて、もっと歳も取ってて……背も小さくて……いや、わたしが大きいの?
「なんだろ?これ……?」
その不思議な感覚のせいだろう。
当たり前すぎて、普段考えもしないことを思い出す。
ウマ娘とは人間とは違う神秘的な種族。
生まれつき別世界の名前を持っていて、人間よりもずっと早く走れる生き物。そんなわたし達だからこそ、こんな感覚を覚えることもあるのかもしれない。
「……ッ!?」
わたしのすぐそばを何か大きなものが通り過ぎた……ような気がする。大きくて、すごい速さで、迫力のある足音で。待っている人の元へ早く戻れと、立ち止まる暇なんてないんだと、わたしに教えているようで……。
そうね。そうだったわ。
「早く戻らないとね」
ドクンドクンと心臓の音が聞こえる。
レースで興奮しすぎたせいでよく分からない感覚に襲われた。でも不思議と暖かいそれはわたしの中で何かもう一つの転機になった気がする。
悔しさをバネに、勝利へと。
「今すぐにでも走りたいわ」
それはトレーナーが許さないだろうから歩く。
先ほどまでとは比べ物にならないくらい軽くなった足。今は少しでも早くトレーニングを、あと、少しでも早くトレーナーの顔が見たくなった。
何故だろう?
目の前にいるアイを見ながら不思議に感じる。
「ふふふ」
「……」
ご機嫌である。
控え室に先につき、まだ戻ってきていないアイの心配をしていた俺。あの負けは悔しいだろうとか、これが引きずる負けになるのならまずいとか考えていた。
けどどうだ?戻ってきたアイは何故かご機嫌。
部屋に入るなり椅子に座り、自分から足の状態を見てと差し出す始末。もちろん見るし、今も見ている限りでは問題はない。
「うん。大丈夫」
「よかったわ。明日はトレーニングするの?」
「いや、移動もあるし明日を含めて二日はゆっくりと休んでもらうよ」
このあとウイニングライブもあるのだ。
その後の移動となると正直しんどすぎる。幸い俺の担当はアーモンドアイ一人だけだし、今日は日曜日で今週の開催も終わりだ。
これがチームを持っているトレーナーだったら次の日の移動があるのだが、俺はそんな超人トレーナーとは違うのだ。
「なら明日はこのあたりの観光してもいい?少しだけだから」
「……まぁ、そうだな。移動も昼からの予定だし、構わないよ」
「ならアレ食べたいわ!えっと……オッチャホイ?ダンツフレーム先輩が美味しいって言っていたから」
「なら、行こうか」
ダンツフレームと交友なんかあったのか?
いや、優等生なアイだし何かの縁もあったのかもしれない。トレーナーとしてアイといる時間は長いが、それでも学園生活全般までは分からないからな。
そんな話をしつつ足のケアを終えて問題がないことを確認した。
これならウイニングライブも安心して送り出せる。
「うん。大丈夫。あんまりライブではしゃぎすぎるなよ?」
「ええ。それは一着の時のためにとっておくわ」
「そうか。なら今は安心しとくよ」
「あ、そういえば……」
何かを思い出したようなアイが地下バ道であったという不思議な感覚について話をしてくれた。大きな何かが自分のそばをウマ娘と変わらない速度で駆け抜けたと……でもそれは怖い体験なんかではなく、何か暖かいものに包まれたようで……早く俺の顔を見たくなったらしい。
「え、こっっわ」
「だから怖くなかったんだってば!」
「いやいやいや。地下バ道だよ?誰もいなかったんだろ?……え、こっっわ」
「もう!!」
ふざけながらも内心パニックだ。
え?なにそれ?大きくてウマ娘と変わらない速度?馬じゃねぇの?もしかしなくても競走馬のアーモンドアイ?いやいやいや……でも、そんな事もあるのか?
この世界というか、ウマ娘には三女神像というものがある。
ダーレーアラビアン、ゴドルフィンバルブ、バイアリーターク、彼女達はウマ娘を見守り、時に導くと言われている。
本当に不思議なのだが……彼女達はアプリでもこの世界でもウマ娘に力を与えてくれるのだ。そうとしか思えないような事が実際に起こっている記録もある。
そして俺は目の前でプリプリと怒るアイを見ながら考える。
「そんなことも、あるのか?」
「なにが?」
「いや、なんでもないよ。それより振り付けは大丈夫か?」
「えぇ、そこは完璧よ」
地下バ道という場所は、ウマ娘と競走馬にとって関わりが強い場所。そんな場所なら……神秘にあふれたこの世界のことだ。不思議なことの一つもあってもおかしくはないのだろうか?
それに、アイが感じた気配。それがもしアーモンドアイなら、それが俺の元へと早く戻れと言っていたとするのなら……。
「ウイポの世界か?」
ウイポの記憶。
俺にこれがあるのは不自然ではあった。
同じく競馬を元にしたゲームではある。
もし、もしだ。俺がウイポで育てたアーモンドアイが、アイに何かを伝えようとしてくれたのだろうか?
そんなことを思いながらステータスを見る。
スピードE+
スタミナE
パワーE
根性F
賢さF+
このステータスで負けさせてしまったことに自己嫌悪しそうだ。だがそんな俺の気持ちを吹き飛ばすような文字が目に入る。
【栄冠を映す瞳】
「はぁ!?」
「ひゃっ!!な、なにトレーナー!?何かあったの!?」
「あ、い、いや、なんでもな、なない」
「絶対に何かあったでしょ!?え!?アイ、怪我とかしてないわよね!?」
「してない!大丈夫!」
あまりに驚きすぎて大きな声を出してしまった。
栄冠を映す瞳。
これはウイポの世界においてアーモンドアイがもつ固有特性だ。いわゆるスキルだ。
確か、東京のG Ⅰを差し、追い込みで走ると仕掛けどころで速度を上げる。デメリットもあり、レース後の疲労が大きくなる。
頭が痛くなるのを我慢しながらこのスキルを詳しく見る。
【栄冠を映す瞳】
仕掛けどころで加速力、速度を上げる。
いや待て、ウイポの頃のように限定されたものじゃなくなっている。
「ト、トレーナー?」
「……明日はタレかつ丼も食べてよし」
「ほんと!?」
わーいと喜ぶアイを見る。
本当にとんでもない化け物に育つだろうなぁ。
そう思うと同時に、強い力に振り回されて怪我だけはしないように、よりしっかりと見てあげなければならない。
「アイ」
「ん?どうかしたかしら?」
「次は勝つぞ」
「えぇ。もちろんよ!」
笑顔のアーモンドアイ。
今回のレースは、俺たちにとって良い経験になったと思う。敗北を知ったからこそ、先に進むための活力になる。
もう負けたくないから、だからこそ勝つしかないのだと。この笑顔の裏にはそんな大きな覚悟があるのだろう。
敗北はもう飲み込んだ。
苦くてとても飲めたものじゃないこの味は、もうたくさんだ。
次は勝利を味わおう。
なぁ、俺の愛バ。アーモンドアイ。
アーモンドアイの固有スキルがまだ分からないのでウイポから引っ張ってきました。