機動戦士Gundam GQuuuuuuX-AL1S開発部だいぼうけん! 作:邪竜神デスドラグーン
“ ……我々は覚えている、ツェルコの古則を。/ We bear the classical rocket equation. ”
「うわー!
ミレニアムサイエンススクール。
ミレニアムコロニーで最大にして最高の学府。ここ数年で急激に生徒数を増やし20万人を突破したことを思えば、今はサイド6コロニー群全体でも最大。宇宙最大級の学園と言える。
その広大な敷地の端に、無機質に並んだ長方形の群。
およそミレニアムらしからぬ、飾り気のない旧時代的なコンクリの部室棟にゲーム開発部はある。
「お姉ちゃんのバカ。お金はなんとかなったって言ってたのに」
「なんとかなるはずだったのー! 廃墟探索に使ったあとはすぐザクを売って帳尻合わせる予定だったんだよ。ミドリも確認してたじゃん!」
彼女たちゲーム開発部に与えられた部室は狭く小さく、ゲームと漫画とが散らばって足の踏み場にも困るような有様だ。けれど当人たちはどこに何があるかはちゃんとわかっているようで、モモイは雑然とした山の中から手書きのメモを取り出してひらひらと振って見せる。この先必要になるお金を計算したメモだ。
「ザクが無いと廃墟まで行けない。けどザクを売らなきゃ廃墟の情報を買えない……。金額だけ見れば合ってるけど、順番を考えてなかったんだ」
「そうなんだよー! どうしようミドリ~!」
「どうしよう……」
モモイはミドリの肩を掴んで泣きつき、しばらく見つめ合ってから二人同時に視線を移す。
部屋の隅のロッカーへと。
「ユズ、どう思う?」
視線に怯えるようにロッカーが少し軋む。震える息。それからロッカーの中の少女がおずおずと声を出す。
「うう……今更後戻りできない……よね……」
「うん、お姉ちゃんったら倍にして返すって言って凄い借金しちゃったし、失敗したらどうなることか」
「お金はカンケーないよ! この部室が無くなったら、ユズは……!」
「今はお金の問題じゃん!」
「じゃあ……ザクは諦めて、何か他の乗り物で……。廃墟まで送ってもらうだけなら、たぶん地下の人を頼れば安く済む……と思うん、だけど……」
普段はやかましいモモイだが、いまは静かにロッカーを見つめている。
ユズの言葉の続きを待っているのだ。
けれど、はっきりとした沈黙もまたユズに負担をかけてしまうことを知っているから、ミドリは適当なところで言葉を挟む。
「とりあえずヴェリタスに支払いを待ってもらえないか聞いてみない?」
「もちろん聞いたよー! ダメだってー!」
「まー、既にいろいろと無理を聞いてもらった後だしね」
「ヒマリ先輩はノリが良かったんだけどね。チヒロ先輩はもうダメ、ダメダメ! これ以上特別扱いはぜんぶダメって。部室は諦めて今のうちに身の回りを整理しておけーとか、ユウカみたいなこと言うんだよ」
「じゃあチヒロ先輩のいない隙を狙うしかないのかな」
「あ、あの……」
「なになにっ?」
「あ、いや、違くて。大したことじゃなくて……ただ……」
ユズが話し出した途端に、モモイはロッカーに飛びつきそうな勢いで反応し、ミドリはそんなモモイに後ろからぎゅっと抱きついてストップをかけている。
「部屋の掃除を、した方がいいかなって。その、たぶん、これからお客さんが来るので……」
◆
「気が付いたか? 君は運が良いな」
「急に変なしゃべり方しないでよお姉ちゃん。先生がびっくりしちゃうよ」
「でも、ほんとによかったなって。だってほら、先生も地球生まれのニュータイプなんでしょ?」
「あー。実験で頭蓋骨削られてたりしたらヤバかったかも。そんなとこにプライステーションが激突したら最悪死んじゃう」
部室の床に寝かされている先生の横に座るモモイ。癖の強い茶髪をかき分け、頭に傷痕が無いか確かめようとする。
その手を払いのけて、先生が背を起こす。
「悪いな、ゲーム機は無事だったか?」
周囲を確かめるでも、モモイとミドリに目を合わせるでもなく、先生は真っ先に部室の一角を見る。年季の入ったテレビと、それに繋がれた古い古いゲーム機。プライステーション。
掃除中にモモイがうっかり箒をスイングして吹っ飛ばしてしまったプライステーションは、窓をぶち抜いて部屋の外に消え、そして連邦から遥々助けに来てくれた先生の頭を直撃して意識を奪っていた。
動揺したゲーム部の面々は、気絶した先生を部室に連れ込み、そして回収してきたプライステーションをテレビに繋げて動作確認をしていた。
「だいじょうぶっ! 動くよ。せっかくだから先生も遊ぶ? 起動音だけでも聞いてってよ」
「お姉ちゃんに代わって謝ります。ごめんなさい、先生」
「ふーんだ、そういうミドリだって先生を放ってプラステの動作確認してたくせに」
「それは、だってこんなにお金で苦しんでる中でも手放さないって決めた大事なプラステだから」
そもそもゲーム部がこんなに散らかり放題な有様なのは、お金が無いから。なにもかもを売りに出しているからだ。部室にあるもので価値が付きそうなものは、それこそなんでもメルクリに出品している。
マニアックなものは状態確認も慎重に求められるし、価格交渉で時間がかかる。その一方でなんでもない棚なんかはあっさり売れてしまい、今のゲーム部には家具が無い。収納用品が足りていない。
「こんな古い物を。とっくにパーツも手に入らなくなってる、よくやるもんだ」
「先生、分かるの!?」
「いや、僕はこの世代となるとエミュレーターでしかな」
「実機はディスクの回転音が良いんです」
「
「中を見ても?」
「みてみて! 部品を作ってくれたのはエンジニア部なんだけど、設計は私たちでやっててー」
◆
ひとしきりプライステーションで盛り上がってから、思い出したように「あ」と声が出る。
「そういえば、自己紹介がまだでした」
「私はモモイ。モモイ・サイバ。ゲーム開発部のシナリオライターだよ」
「妹のミドリです。イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般をやってます。あと……」
「ここにはいないんだけどもう一人」「ディレクター兼スーパープログラマー、部長のユズ」
先生が一瞬目線を外す。
(ユズに気づいてる? まさかね)
「ともかく、いまゲーム部は廃部の危機にあるの」
「冷酷な算術使いの異名を持つ血も涙もない会計によって」「先週には最後通牒が叩きつけられた」
「部員不足に実績不足」
「一か月以内になんとかしないと廃部だって」
「ひどいよね」
「横暴だー」
先生は話を聞きながら、周囲に散らばっているものを弄っている。
紙を折っただけの手作りCDケースに、「超大作」と書かれた付箋。裏面には「開発中止」。
「とはいえ、ミレニアムも必死だ。君たちも必死でやるしかない」
と、そのときドア越しに声がかかる。
「その件に関しては、私の方から直接説明しましょうか」
「こ、この声は」
「ユウカ!」