機動戦士Gundam GQuuuuuuX-AL1S開発部だいぼうけん! 作:邪竜神デスドラグーン
旧ザクの乗り心地は存外悪くない。
また兵力に劣るジオンは遊兵戦術を扱う余裕は無いと考えており、限られた兵力を素早く集めて局所的有利を生み出す機動戦を志向していた。だから旧ザクは、宇宙空間を航行する中でスピードを落とさず細かな障害物を避けていくことに長けている。
「ねえミドリ。今の凄くない? ギリギリの動きでスペースデブリをかわしながら、びゅん!って。私、モビルスーツ動かす才能あるかも!」
「はいはい、ちゃんと前見てて」
「だいじょうぶだいじょうぶ。戦争中じゃないんだから。ふつうにセンサーが効いてるし」
2機で十分、MS2機のコンビネーションだけであらゆる状況に対応できるという事実が知れ渡る以前の古い設計思想。あるいはMSが単独で戦艦に肉薄して近接武器で艦を落とせるものだということさえはっきりとしていなかった頃の機体特性。
旧ザクは
咄嗟の瞬間、とにかく手足の反応を受け付ける余裕がある。どこをどう動かしても障害物を避けやすい。それは認知能力の低さを補うための補助輪に過ぎない。宇宙に適応して進化しつつあるこれからの人類には必要無い、とされる。
無視できない頻度で行動後に生まれてしまう不要な慣性を考えれば、動きの自由度はやはり高くない。格闘戦に向いていない。乱戦の中で咄嗟の一撃をかわす点においてのみわずかに強みがある……と言えなくもない程度。
とはいえその小さな利点は、モモイのような初心者にとっては大変ありがたい特性だった。
「ギリギリを攻めようとしないでよー! このザク、傷つけたら損するのは先生なんだからねっ」
「それはそうだけどさー。せっかくの機会なんだから、いろいろ試しておかないともったいないよ。これもゲーム制作に活きるかもなんだから。それに一々スピードを落とさない方が推進剤も安く済むし」
ザクを売らないと情報を買えない。情報が無いと廃墟にたどり着けない。
その問題を解決してくれたのが先生の提案だった。
つまり、ゲーム部が仕入れた旧ザクを先生が前払いで買い取ってくれるという話。
機体の所有権はすでにシャーレに移っていて、今はゲーム部がそれを借りている形だ。
だから傷付けると先生が損をする。
そういう形にしておいた方が、姉の無理を止めやすいとミドリも思う。会ったばかりの先生がそこまで分かっていたということはないだろうけれど。
一定の速度を保ってくれた方が通信がスムーズだ、と伝えてきたヴェリタスを無視していろいろ試しているのは、モモイなりの決意なのだろう。この機体に傷をつけずに廃墟探索を終わらせる、そのために少しでも経験を積もうとしている。推進剤の節約なんて話はすっかり忘れてしまって、夢中で操縦桿を握っている。
自分勝手で、向こう見ずで、やりたいことを諦めることを知らなくて、でも自分の気持ちがまわりの状況とうまく重ならないと集中できない。不器用なお姉ちゃん。
ザザッ。
「あ、通信だ」
「エンカウント、リンクします。これは――」
「えっまだ何も見えて」
「廃墟の方じゃないんです。後方から――ジオン軍の艦艇!? いま座標を、いえ、まずは進路を変えてください」
連絡してきたのはヴェリタスのコタマ・オットー。
廃墟について調べてくれたハッカー集団の一人だ。
「あわてて逃げたら怪しくない?」
「私たち別に悪いことしてないよ?」
「してますっ! この宙域はもうサイド6の外、民間払い下げのMSは活動許可を通しておかないと、問答無用で撃墜されても文句は言えません」
「え゛っ」
◆
「中佐殿ーそういえばこれってなんなんですか?」
強襲揚陸艦ソドン。そのデッキ正面に吊された小さな装飾品を指差して、イズナは上官に問いかけた。
「なんだと思う~?」
「うーん、イズナの親戚がコレクションしていた壺に形が似てるかも……」
「マリーちゃんは?」
「そうですね。青くて丸くて一か所が伸びていて、
「イロハちゃんは分かるよね? 地球の、海の生き物だから」
「あまり操船中に話しかけないでください。集中が乱れます」
「え~、でもぼーっとしてるみたいに見えたよ~?」
「その余裕が大切なんですよ。何が起こるか分からないんですから」
「分かりますイロハ殿っ。脱力こそ真の常在戦場、忍術にも通じる思想を感じます! 抜きの歩法ですね!」
殿はやめてほしい、と注意しても直らないことは分かっている。なのでイロハは代わりに溜め息を付く。階級では元からイズナ少尉の方が上。加えてゲヘナ出身のイロハがこれ以上昇進する見込みもないのだが。
緩んだ空気の中で、マリー少尉がまわりのモニターまでチェックしている。熱心でよく勉強している様子の新人にイロハは少し感心した。でも、ほんとうに怖いのは外の状況よりホシノ中佐のほう。何をするか分からない上官が一番怖いと思う。
姿勢を崩す。肩を回す。伸びをしながら横目にホシノ中佐の様子をうかがう。
「まあでも、さすがにこのへんなら何も起きないんじゃないかなぁ~」
「そうですね。連邦軍が破棄した古いコロニーの探索任務。すでに周回軌道を離れていて、特定タイミングでのみ地球圏に再接近する廃墟。周囲には他に何もありませんから、少なくとも廃墟に着くまでは気持ちを楽にしていても良いとは思います」
「もし他の人工物が浮いてる宙域に近づくようなら大問題だし、そういう案件だとうち一隻じゃ済まないからね~」
「ですねっ。そうだったら探索だけじゃなく処理までしておかないとです。火遁の術ー」
「ほんとうに大丈夫ですかね。中佐がやる気を出したときは、いつも面倒なことになりがちで……」
「やる気? おじさんそんなやる気に見える?」
「ええ。こんなお守りまでぶらさげて」
「お守り、なんですか」
これだって、いつもデッキに吊るされているわけじゃない。
ぬいぐるみの類を宇宙船に吊るすのは旧世紀からの古い伝統だ。なんでも世界最初の宇宙飛行士にあやかった生還のおまじないだという。だが今では、単純に視野が狭まって邪魔なのでやめるように再三の通達が来ている。戦時中はそれでも願掛けにと何かを吊るす兵士もいたが、今となってはさすがに軍では廃れた風習だ。
イズナが「それは何か」と問いかけたのは、そのモチーフとなった生き物を知らない以前に、軍艦にそんな可愛らしいものを置いていいのかという意味なのだろう。
「大佐はね、地球の海が好きだったんだよ~」
「ホシノ中佐のマブであらせられたという、あの――」
「少数精鋭部隊で敵地に潜入してガンダムを盗み出した伝説。現代の忍者ですね。ニンニン。まさかこのお守りって、大佐殿の」
その話の最中、イロハは予兆を感じ取った。計器類がはっきりと確認する以前に現れる数値の揺らぎ。なにかある。いや、居る……?
目をつぶる。考える。方向は、彼我の速度は。見なかったことにして済ませられないか。この感覚が気のせいならいいのに。今から怪しくない程度の細かな操作で接触を回避できないか。
そんなイロハに釘を刺すように、ホシノが視線を向けている。
(はあ……仕方ないですね)
直後、艦内システムがそれを捕捉する。アラート。ディスプレイに拡大表示。
「パイプが出てない。ザク……ではないんでしょうか? これ」
「いえ、ザクですね。開戦以前にコロニー内の治安維持に配備されたという初期型。私も技術ノートでしか見たことがありません」
イズナの疑問にマリーが答える。ルウム戦役を、コロニー落としを映像で見たことが無い世代の兵士にとって、旧ザクはそういうものらしい。
「軌道を変えた。こっちに気づいたのかな。古い機体なのに、センサーはかなり良いみたいだね」
「まさか向こうもニュータイプかもっ」
「とりあえず通信繋げられる~?」
「はい、停船信号を」
「無視されてませんか!? これはイズナの出番ですか。中佐殿っ」