機動戦士Gundam GQuuuuuuX-AL1S開発部だいぼうけん! 作:邪竜神デスドラグーン
止まろうとはしたのだ。
ジオン軍に見つからないよう事前に逃げようとは思っても、見つかったあとの命令を無視して事を構えるまではしたくない。
だが。
「うわっ。まーわーるーっ」
中古モビルスーツの急停止は簡単ではない。もちろんモーションプログラムによるオート制御は付いているが、それは後付けの改造・修復に対応しきれていない。完全に同じ部品を供給できるのは軍だけで、民間品でリペアを続けたものは少しずつズレが溜まっていく。その状態でスピードを出したところから急停止を試みると、元々あった勢いと上手く相殺し切れない。わずかに軸がズレたところから、残りの推進剤は思い切り方向を違えていき、最悪の場合は機体が乱回転する。
宙で転んでそのまま滑る。
「お姉ちゃん! いったん手を離して、オートバランサーに任せて!」
ミドリの判断は正しい。ただ、当のミドリ自身が回るコクピットの中でフットペダルを踏んでしまっている。
本来一人乗りの機体にもう一人乗っているせいで、ミドリにはシートベルトがなかった。そのせいで座席から投げ出されて、ミドリはモモイの足にしがみついている状態だ。
「ええ、止まんない!?」
「うぅ、気持ち悪い」
結果的に、二人はソドンから発せられた停止要請を無視。全力で逃げ出した形になってしまう。
◆
キーボードを叩くコタマの手が一瞬止まる。息を吞んで、マキを見つめる。ヴェリタスの拠点には今は二人だけ。ほかに頼れる仲間はいない。甘く見ていた。もはやだれも興味のない廃コロニーを調べるだけの小さな仕事だと思っていたのに。
「まずいですね……」
ハッカー集団、ヴェリタスの拠点は不定期に移動を繰り返している。
通信性第一、安全性第二。ネット環境が快適で、その経路に物理的ハックの余地が少なく、壁は厚くて音が漏れない。何かあったとき逃げるルートを確保できる。
広さ快適さは大抵の場合は二の次だ。いまのような、比較的まともな場所に居られることは少ない。窓がある。外の光が差し込む。ミラー越しだが日の出も見れる一等地。
しばらくここに留まるつもりで、最近のヴェリタスは危ない仕事は回避するよう心掛けてきた。
それでも、コタマも即座に拠点を捨てて移動を考えるくらいにヤバい。
データの物理破壊用にと、一応用意してある電動のこぎりはどこにしまっただろうか。
「まさか公国軍の、しかもこんな大物の艦艇とは。うかつでした。記録の消去を、いえ、先に副部長に連絡して判断を仰いだほうがいいでしょうか」
「それどころじゃないよコタマ先輩! 二人が死んじゃうかも」
コタマが言っているのは、曰くつきの艦をそうと知らずにハックしてしまったこと。哨戒艦や機雷掃討艇ではない、メガ粒子砲を積んだ戦闘艦がこんな場所にいること自体、知ってはいけないことだ。
一方マキが言っているのは、モモイとミドリの命が危ないかもしれないこと。向こうもMSを出す準備が始まっているらしいこと。
「とはいえ、それに関しては私たちでは動けません」
「あきらめないでよー!
ただでさえ、連邦から鹵獲された一隻だけの特殊艦。それが一般に情報公開されていない未知のMSを載せている。特殊な二事例が重なったことで発生した珍しい脆弱性。そこから来る、艦とMSを繋ぐ通信データの閲覧。できるのはそこまでだ。
さすがにそれ以上の情報を探ることはできなかったし、それ以上の罪状を積み上げるわけにもいかない。
ならサイド6の外での戦闘に対して、遠隔通信で介入できることはありそうにない。ゲーム部の旧ザクとの通信だって無視できない遅延が発生するくらいに距離が離れている。
「いえ、あきらめるかどうかも含めて、私が判断する事案ではないと言っているんです」
「どういうこと?」
「現状、私たちに何かできるとしたら、あの艦――ソドンに直接連絡を取ることだけです。あなたのセキュリティに問題を見つけました。私たちなら修正できます、と」
「いつもの営業だね」
「そしてそれは、独断ではやれないかと」
ヴェリタスのほかのメンバーなら、モモイとミドリに今からでも降伏を勧めたかもしれない。
コタマとマキはそんなことは考えない。実体験として、軍は理不尽なものだと思っている。
盗聴だけを罰する法律は無いはずなのに。軍人には理屈が通じない。
グラフィティは芸術なのに。軍人は理屈だけで動く。
感じた不満は真逆でも、結論は一致する。交渉はしても降伏はできない相手だ。
「今は待ってられないよ。チヒロ先輩なら分かってくれるって」
「返事が来ないのであれば、副部長も面倒な案件を扱っている最中かもしれません。なおさら勝手には決められません」
ミノフスキー粒子下で見つかるのとは違う。レーダー越しの接敵では実際にはかなり距離がある。問答無用で主砲が飛んでくるのでない限り、猶予はある。そう分かっていても、手を止めるのは罪悪感があった。
マキは待つだけの時間に耐えられそうにない。
副部長ならどう言葉をかけるだろうかとコタマは考える。部長なら事前に全部察知して問題自体を回避できたのだろうが。
チヒロからの返事はまだ無い。
「マキ――」
コタマが何か言おうとしたとき、不意にインターホンが鳴った。
無機質な電子音。意識がこちらに引き戻される。思わずマキの身体がびくりと跳ねる。彼女も事の大きさは分かっていて、恐怖を感じていた。
コタマは静かに立ち上がる。腰に帯びた銃を確かめながら。
「いまそれどこじゃないよ~! あ、でも待って、コタマ先輩が出るくらいなら私が」
言葉と裏腹に、足取りは重い。遅れてマキが動くときには、もうコタマは室内のインターホン本機を操作している。
「――先生」
「ヴェリタスの場所は分かってるつもりだったが、また移動していたとは」
「どうして」
「まず入れてくれないか」
エントランスからの映像がモニターに出ている。コタマの後ろからマキも見る。
知らない人だった。だがコタマがこの状況で迷わず招き入れるような人物らしい。
着崩したスーツ。背中に誰かおぶっている? 険しい顔をしているが、きれいな目をしているとマキは思った。
「コタマ先輩、これ誰?」
「先生の経歴を説明するのは難しいですね」
「先生なんだ」
「今はゲーム部の味方だ。それで十分だろう」
「そして先生が背負っているのがユズ――UZQUEENですね」
「この子が!?」
「うう……」
遠慮無くずかずかと入ってくる。だが下を見ていないのに足元のケーブル類を避けている。転がってくるエナドリ缶も。
「うわ、あそこからデータを抜いたのか、やるものだな」
「え、その距離から画面を一瞬見ただけで分かるの」
「だが見落としもある」
「私達はなにを見落としていますか? 先生」
「良いことも、悪いことも」