囚人の朝が早いのは鳥達のさえずりを聞き逃さないためだ(諸説アリ)。皮肉な事に自らも逃れられないが。
なんて余裕を持って言える内はまだ大丈夫っぽいわ。あれから数時間、特に何も動きなく様子を見に来た兵士さんと世間話したりしてご飯貰って寝て今に至る。
ちなみに俺のお気に入りはやけに塩っ気があるスープだ。知ってる?牢屋でご飯食べると視界が歪んで味が濃くなるんだよ。これライフハックね。
一流の牢屋マスター……ロウヤーと成る。進路相談で言ってみようかな。
「はぁ……フランス〜」
フランスはフランスでもここ過去のフランスだとよ。魔女が焼かれただのなんだって窓の外から聞こえてきたし。窓から聞こえてくるには物騒すぎるわぁ…鳥さん達のさえずりが染み渡るぜ。
それとここの街に凄い有名な魔女を尋問した人がいるんだってさ。魔女狩りの年代となると……わかんないわ。
異端審問っていつからやっていつまでやってたの…?というか俺焼かれる…?
だとするとかなり不味い、流石に殺されるとなれば抵抗も視野に入れるしか無い。出ようと思えば出る一手はある。だが出来る限り強引な手段は取りたくない。
「どうすっかなぁ……」
とりあえず真摯に向き合ってみよう、それで駄目ならその時は我儘言わずに強引に行く。
キャァー!
ドカンッ!
悲鳴が聞こえた。あの街で散々感じた炎も。懐からマグナムレイズバックルを出し
『マグナムシューター40X』
牢屋の入り口に照準を合わせ引き金を引く。
ダンダンッ!
『SET』
突然の事だった。太陽を黒い影が一瞬覆い隠したと思えば、緑の鱗をしたそれが現れた。
「竜だァァァァ!」
その名もワイバーン。
牙、翼、太い首と脚。口から炎を吐く。神話やおとぎ話の中でしか存在し得なかったモノ。だがそんな常識は今、この兵士が持っていた武器のごとく折れ砕かれ、現実逃避を行うものはそのままこの世からも消え失せることとなるだろう。
ガァァァァ!
牙と牙の隙間から赤が漏れ出ていた。陽炎によってワイバーンの頭がぶれて見える。
(こんな事なら…!)
本来彼はここにいる筈が無かった。牢屋番としてわざわざ罪人を守る義務なんてなくさっさと逃げだした。だが、戻ってきてしまった。
『まいねーむいずアルク・ドウドウ!』
『カツ丼無いのかーそれは俺にとって死活どんってね』
『兵士さんお給料ってどんくらい?』
『戦争……そっか…仕方ないか』
『うめっ…うめ…』
馬鹿なやつだと思った。いちいち反応がデカくて、だから直ぐに疑いが晴れるだろう。こいつがスパイならそんな国はきっと弱い、戦争って単語だけで心底悲しそうにする奴をスープ飲みながら泣けるやつを使うはずがない。
(馬鹿は俺だった…!)
目を瞑って祈る。どうか命だけは
炎が口から放たれーーー
バシュッ!ドサッ!
石造りの道に緑の巨体が力無く倒れ込む。
(何が……?)
「兵士さん大丈夫か?」
そう差し出された手の主は
「騎士……」
白き鎧に身を包んでいた。兵士は彼の手を借りて立ち上がる。
「怪我は……とりあえず見えないから良いか」
上から下に首を動かし兵士の身体を確認するとそのまま別の場所に向かおうとする。兵士はその背に向かって
「あんた…名前は!」
そう問いかけた。
「昨日散々言って…あぁそういう事…」
1人納得した様子で
「ギーツ、仮面ライダーギーツ…南の方は被害が少ない…逃げるならそっちに逃げてくれ」
言うだけ言って去っていった。兵士は言われた通りその場から離れる事にした。
「ふぅ…」
もう何匹目か分からないドラゴンを撃ち抜き、子どもを助けた。一発一発が彼の精神を疲弊させる。万一にも外してはならないという重圧を感じているからだ。
「もう大丈夫だぞ」
安心させようと声をかけるが泣きじゃくってしまってどうにも上手くいかない様だ。
(…俺の表情が見えないからあんまり安心出来ないのか)
どこか自意識過剰にも聞こえるがやはり人間は顔が見えなければ不安になってしまうのは常なのだろう。
ドガンっ!バサァッ!
彼の仮面が捉えた破滅的な衝撃の予兆。
「なっ……伏せて!」
突風が街の中心部から吹き荒れ、彼も子どもも風に晒される。彼は咄嗟に地面を殴りつけ腕を埋め込み子どもが飛ばされないように抑えつける。
(頼む、早く収まってくれ…!)
強風に晒され続ければ吹き飛ばされはしなくても子どもの息が続かなくなる。彼は祈るように子どもを抑えていた。
「……よし……南の方は……大丈夫そうか…」
ギーツに搭載されたギーツイヤーが人々の声を捉えた。
「あっちの方向に1人で行けるか…?」
コクン
彼は身体を張ったことでなんとか信頼を得ることができた。
まだ泣きが入っているもしっかりと頷くその姿に彼はほっとした。
「何があったんだ…?」
街の中心部に向かうとそこには風によって機能が失われた家屋だった物の数々。そこにポツンと倒れ伏す姿。
「あ…ぐぁ…」
「おい!しっかりしろ!」
ぐったりした様子の門番に駆け寄り抱え起こそうとするもあることに気が付く。
「これっ…」
折れた槍が門番の手を地面に縫い付けていたのだ。急いで槍の部分を掘りおこし門番を抱え起こす。
「あんた…このお腹……」
その部分だけ服の色が変わっていた。
「司教…が……蘇った……魔女に……」
「おい!?」
「……連れて……行かれた……頼む…どうか…」
「…任せてくれ」
そのまま彼の腕の中で命の火が消える。門番はそれ伝える為に槍で自分の手を貫いたのだ。
「…譲れないものだったんだな…」
今、ギーツは彼から大きな物を託された気がした。そして、ギーツイヤーでソレを捉えた。
バサッ
「これだな」
前方の空で羽ばたく音。マグナムシューターのライフルモードなら狙撃可能距離ではあるが。連れ去られた人がいるならそれは出来ない。
「急がないと…」
這ってでも追いかけなければならない、そんな思いに駆られていた。
♪〜
彼の視線の先に1つの箱が出現する。
「頼む……」
ブーストレイズバックルを使用しブーストライカーを呼び出せば見失う事なく追いつくことが可能だろう。そう願いを込めて箱を開けた。
「……これは…」
彼が手にしたのはプロペラレイズバックル。小型レイズバックルの中で唯一飛行能力を持つものだ。
「日頃の行い…相当良かったんだな…ありがとう」
門番の頭をゆっくりと地面に置き、瞼を閉じさせる。
『DUAL ON!』
『MAGNUM & ARMED PROPELLER』
彼は手に持ったレイズプロペラをフル回転させ大空へ飛び出していった。煙を抜けるとそこに広がる物に彼は一瞬心奪われた。
(…オーロラ?)
見たことのない景色だった。そこにある光の輪は幻想的で……だが、今はそんな場合ではないと切り替え進む。
足元に流れていくフランスの景色、丘があり街があり、川があり森がありそして、城があった。そして彼はある会話を拾った。
『お、お前はジャンヌ・ダルク!?』
『お久しゅうございます!ピエール司教!』
恐怖に慄く男の声と何故か聞いているだけで気分が悪くなりそうな女の声。
(ジャンヌ・ダルクって…あのジャンヌ・ダルクか?)
歴史に疎い彼でも知っているビッグネーム。だが、知っているからこそ疑問が生まれる。
(ジャンヌ・ダルクってフランスの英雄だよな……なんでそんな事…)
ドラゴンとジャンヌ・ダルクは別件なのか、そもそもなんで怯える必要があるのか。最大速度を出しつつそれでいて聞き逃さないようにする。
『貴様は……3日前に死んだ筈だ!殺した筈だ!じ——』
『地獄に落ちたはずだと?』
「……あぁ…そういう事ね」
否が応でも状況と動機がわかった。だから何も聞かないようにただ進む事した。
風を切る音、それに混じって
『助けて…ください…お願いします………たすけて』
そう聞こえた。今、1番聞きたくない言葉だった。
『お願い……助けて…仮面ライダー』
重なるはずのないそれが重なった。重なってしまった。だから
『司教…あなたは今自ら自分は異端であると証言してしまったんですよ……悲しくて悲しくて気が狂いそうなぐらい笑ってしまいそう!』
許せなかった。
「異端がどういう刑になるかわかりますよね」
司教はそれをよく知っている。なにせ3日前に目の前の女にそれを行っている。
「ひっ…嫌だっ…いやだ…助け…助けてっ」
「残念ながら救いは品切れです、この時代にはまだ免罪符もありませんし……では足元から」
女は嗤う。
「私が聖なる焔で焼かれたと言うならばお前は地獄の焔でその身を焦がされると良い」
司教にその手が向けられ
ドガンッ……パララっ …カチャ
「その人から離れろ」
天井を突き破った際に生じた瓦礫を手で払ってマグナムシューターを構える。
「何者だァッ!貴様!」
男は吠える。城を破壊された事は勿論、何故今なのか。
男は感じた、目の前の彼から聖なる気配を。ならば何故あの時現れないのか
「落ち着きなさいジル、この男を助けに来たと?」
「ああ…頼まれたからな」
「良かったですね司教」
「あっ……は?」
まさか自分は助かるのか。
救いの光が司教の心に射した。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
地獄の焔が司教の体を焼いた。塵1つ遺さず、叫び声だけが彼の鼓膜に焼き付いた。
「……?」
だが、耳にこびりついた
「貴方のせいで急ぎ足になりましたがそれを差し引いても感謝を申し上げたい所です……ありがとう、貴方が彼に希望を見せてくれたお陰で———」
「ぁ?…あ……お前ッ!おまえぇっ!」
拒んだそれを突き付けられた彼に冷静さなど等になく、半狂乱で飛び掛かった。ジルと呼ばれた男がそれを阻もうとするが
「下がりなさいジル、私がやるから」
「わかりました」
ガキンッ!
レイズプロペラでの打突は旗によって容易く防がれ薙ぎ払われ逆にジャンヌ・ダルクからの攻撃が彼に向かって行くが。
「ぁ…ぐぅ…ぁぁぁアア!」
ギリギリの所で鍔迫り合いとなる。それはあり得ない事だった。彼と鍔迫り合いをしているジャンヌ・ダルクの筋力のランクはあの燃える街で戦ったアーサー王と同等。それで尚、鍔迫り合いが成立しているのは彼女が遊んでいるからに他ならない。
「可哀想に、燻っているのね」
「黙れぇっ!」
『REVOLVE ON』
足に展開された白い装甲で蹴り上げ距離を空け隙かさずマグナムシューターにマグナムレイズバックルを装填する。
『MAGNUM TACTICAL BLAST』
放つのは現時点で可能な最高火力の一撃。
「本当に可哀想すぎて……心底笑えるわ」
彼女が手を翳して放つのは怨嗟の炎。
ぶつかり合ったそれらはとてつもない衝撃を生み出す。
「……ッ!」
一瞬力をかける方向を変えたのが命取りだった。彼は先の街からここまで一度も変身解除を行っていない。疲労した気力ではその衝撃に耐えることが出来ず
「うわぁぁぁぁぁ!」
壁を突き破り城の外へと弾き出された。
「なんと無様な」
叫び声を上げながら消えていった彼を見た男は心底、侮蔑した目をしてそう吐き捨てた。
「ジル、あなたの目にはそう見えたの」
「それは…どういう」
たらぁ
彼女の頬から流れ出る赤。
「おお…ジャンヌ…その様な…!」
「…サーヴァントを呼ぶ前で良かったわ」
振り向いた彼女の目線の先には壁に突き刺さったレイズプロペラがあった。
バシャンッ!
感じる水の冷たさと身体の重さ。川に落ちたのと疲労からだろう。
『所長さん!手を!』
『貴方が希望を見せてくれたお陰で』
より深い絶望が生まれた。ずっと考えないようにしてた。忘れられなかったのは掴んだ手の感触だけじゃない。
『ギャァァァァァア!』
ごめん
『……連れて……行かれた……頼む…どうか…』
ごめんなさい
『……!』
彼女の手を掴んだ…届いた時のあの顔が、光をみたような顔が俺を見ている。
(あぁ…)
手を伸ばしてしまってごめんなさい。
でも多分俺は
百道歩の意識はそこで途切れた。そこで彼に2つの幸運が舞い降りる。
1つは不幸中の幸い。彼の変身が陸に引っかかるまでで解かれなかったこと。もし流されている最中で解かれていればそのままあの世行きだっただろう。
2つ目は
着物を着た少女が足を止める。彼女の視線の先には今のフランスでは見ない色使いの物が落ちていた。少女はそれを拾い上げると日にかざしたり逆さまにしたり色々な角度で眺めた。
「これは……ぴあの…でしょうか?」
聖杯から得た知識の中でこれに1番近い物がそれだった。他にも落ちていないかと辺りを見渡すと
「息はしてい…」
うつ伏せで意識の無い彼を発見する。少女はその身体よりも大きい彼を軽々と持ち上げると一瞬固まる。
「…この雰囲気…もしや…!」
プロペラレイズバックル
使用するとレイズプロペラという武器を使用するアームドプロペラと呼ばれる形態となる。
レイズプロペラは回転させることによって飛行する事ができる。武器として使用することも可能である。
大型レイズバックル
使用すると通常のレイズバックルと違い広い範囲に装甲が追加され各大型レイズバックルの特性に合った特殊機能が拡張される。
基礎スペックが大きく上昇し戦いを有利に進めることができる。