学校帰り、お父さんから大事な話があるからとファミレスに呼び出された。
俺はあれからまともに会話してこなかったくせになんだよと無視してやろうと思ったが、今家族でその大事な話を聞いてやれるのは息子の俺だけって考えるとそれはできなかった。
お父さん1人でファミレスなんて恥ずかしいだろうしな〜
軽口を叩きながらも足が軽かったのを覚えている。久しぶりの親子での外食だったから。
お父さんが言ってた席に向かうとそこには1つの家族がいた。
『この人は一野誠美さんで…』
頭が上手く動かなくなって自分が立ってるのか座ってるのか分からなくなった。多分話が始まってるって事は座っていたんだと思う。
『再婚しようと思うんだ』
その言葉に対して驚きはなく、怒りもなく、悲しみもなく、ただ情報として処理した。
『そう』
俺の目の前にいるこの2人は親父の家族になるのか。改めて2人を見る。
一野誠美さんと呼ばれた女性は凄く優しそうだ。一野美耶と呼ばれた女の子は…わかんね。ま、父さんはユーモアがあって優しかったしな。
改めて3人を見る。うん、バランスいい家族になれそうじゃん。
『俺、パンケーキ食べたいや』
『……そうか』
こういう所で食べるやつは家のやつやスーパーの奴と一味違うからなぁ〜イチゴかチョコかどっちにしようかな
『歩くん』
誠美さんに呼ばれメニュー表から顔を上げると少し不安そうに揺れる目とかち合う。だけどそれも一瞬で目に力を入れた彼女は
『私、理想のお母『美耶ちゃんは何か食べたいの無いの?』
『海鮮サラダ』
『チョイスが渋いねぇ……誠美さんもそうなんですか?』
『あっ…いや…私はそのっ…』
『歩…』
俺のお母さんはあの人1人だけだよ。あんたにとっては違ったかもしれないけど。
なんて反抗心を燃やしていたがそれからしばらくしてお父さんは帰らぬ人となった。
『2人を……』
ふざけるな自分ができないことを俺にやらせようとしないでくれ。
そう、写真に語りかける。
随分と男前だな。3割増でかっこよく見える。いつの写真だこれ……てかあんたこれ盛った?
玄関に置いてある写真にそう尋ねるも返事が返ってくる事はなく。
『………』
カキカキ
誠美さんは不安からか仕事の時間が増えた。だからあの子は1人でリビングにいることが多くなった。別に自分の部屋が無いわけじゃないんだけどな、寂しいんだろうね。
せっかくお父さんがお金残してくれたのだからもっと一緒にいてやれば良いのに。最低限しか話してない俺が言うのも変か。
学校帰りのリビングの扉1枚越しの静寂は重く分厚かった。
なぁ、再婚するって決めた時にあんたは美耶ちゃんの親になる覚悟も決めてたんだろ。じゃあ寂しがらせるなよ、子どもを…寂しがらせたら駄目だろ。
……
まあ、いいや別に俺は関係ねぇーし。美耶ちゃんは学校に行けば友達も沢山いるだろう。落差で落ち込むパターンがあるかもしれないけどその分学校が楽しくなるだろうし〜
この目は孤独がよく見える……強くなれよ美耶ちゃん。
俺は自分の部屋に行こうと階段に足を
『お母さん…』
その声はどこかの誰かさんと重なった。
愛が欲しいだけ貰えるのならきっと誰も苦しまなくて良いのにな。そうなったら誰もが隣の人に愛を分けてあげられるようになるのに。
ガチャ
『あー!なんか喉渇いたけど2階の冷蔵庫空だったわぁ』
どんなに重くて分厚くても開けられない扉は無い。
「んんぅ…朝…ん!?…朝だな」
身体の震えが抑えられなくなっていく。
『本当に笑えるわ』
負けた……完膚なきまでに…
見渡すと知らない家だった、でも知らない事がここがフランスであると俺に教えてくれた。
俺がここにいるってことは逆転の一撃は届かなかったということ、助けてって言われたのに助けられなかった。俺は…いや、今はナイーブになるな……犠牲者が増えるだけだ。
後悔を奥に押し込める。
とりあえず家の主人にお礼を言わなくちゃならないんだけど
「あぁ…安珍様ぁ…」
この子なのかなぁ…寝ぼけてるのかなんかアンチンって言ってる。起きて温かいなって思ったら抱きつかれてるし、怖いし身体の震えの理由の4割……6割はこの子だと思う。
着物だし日本にルーツあんのかなぁ…色々話聞かないといけないから仕方ない、話しかけて……うーん幸せそうだし…起こすのも……
「…………」ジー
あ……どうしよう震えてるせいかな起こしちゃったかも、どしよ目を逸らしたら失礼だよな。
「………アンチンがいると安心ってね」
「ええ、その通りでございます」
俺のギャグで初めてだよ微笑みって反応が出たの……なんだこの子…
そう俺が困惑していると
ガチャ…
「キヨヒメちゃん、目が覚め…ているようですね」
どこか見覚えのある女の人が入ってきた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「王はな…魔女……竜の魔女として蘇ったジャンヌ・ダルクの炎に焼かれて死んだんだよ」
砦まで辿り着いた藤丸とマシュに兵士が語ったのはそんな奇妙な話だった。
「それは…本当なんですか…?」
聖人と名高いジャンヌ・ダルクがそんな事をするのだろうか。疑問は湧き続ける。
「ああ、俺はこの目で…見たんだ…髪や肌の色や雰囲気は違ったがあれば間違いなく……ジャンヌ・ダルクは悪魔と契約して蘇ったんだ…」
「悪魔…それは」
がぁぁぁぁ!
恐怖を煽る声が響く。
「…ッ!」
「今の…」
「ドラゴンが来るぞっ!お前らさっさとしないと食われちまうぞ!」
兵士が周りの兵士を奮い立たせる。立ち上がる兵士達だが、どうしても疲労が隠せていない。
『君達の周りに大型の生体反応が……速いっ!』
「目視しました...!あれはワイバーンですっ!」
「15世紀にいる訳が無いよね…!」
この人達を助けるには戦うしか無い。藤丸は戦闘に向け意識を尖らせようと
「お前ら!仮面の白騎士のように最後まで戦い抜くんだ!」
していたのを中断せざるを得なかった。
「仮面の白騎士……?それって…!」
「兵たちよ水を被りなさい!そうすれば彼らの炎を一瞬ですが防げます!」
高らかに掲げられた旗。それを見た兵士の眼が見開かれる。
「え!?」
『反応は弱いがサーヴァントだ!』
目まぐるしく変わる状況の中、それでもワイバーンは待ってくれる事は無く
「マシュ!やるよっ!」
「はいっ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「王様まで…」
金髪女性が今のフランスの状況について説明してくれた。俺が負けてからもう既に数日経ってるらしい。
「はい……王が死してなお、その勢いは止まる事無く……」
「……そうですか」
やはり、俺はあの場で彼女を……ジャンヌ・ダルクを倒さなければいけなかった。俺の弱さが今のフランスを生み出したと言っても過言じゃない。
スススススス
「安珍様……そう気を落とさないように…」
スライド移動で俺の隣に移動してきたキヨヒメちゃん。この子が俺を水から引き上げてくれた恩人。そのままキヨヒメちゃんはずぶ濡れの俺を背負って宛もなく移動。それを保護してくれたのが金髪の人。
恩人のマトリョーシカだぜ。フランス初のマトリョーシカなんじゃない?
「そんなに見つめられたら…」
なんて半分現実逃避しながらキヨヒメちゃんについて考える。
この子は俺の事をアンチン様と呼んでいる。最初はアンチェインの略かなんかだと思ってかっこいい二つ名ゲットかと思ったが掘り下げればそうでは無いことが分かった。
「わたくしと安珍様は……そういった仲でありました」
「そういったってのは……」
「ふふっ照れてしまいますわ♡」
「あっ…そう…恥ずかしいなら無理に「夫婦です」
「アンチンさんと?」
「はい、
この時俺とキヨヒメちゃんは初対面だ。なんかやけにグイグイ来ると思った。
彼女も日本生まれ日本育ち…アンチンさんもそうだろう。同郷がいて嬉しいなぁ…問題は彼女は俺がアンチンさんだと思い込んでいるということになる。
〜〜歩の妄想〜〜
『キヨヒメ、拙者とフランスに行ってはくれないだろうか?』
それは突然だった。いきなり異国の地へと行こうとの誘い。中々即答できるものではない。
『ええ、アンチン様の行くところにわたくしありです』
だが愛し合う2人はどこに行こうとも一緒であった。そうして様々な困難があろうとも2人の愛で乗り越えていた日々。
それは突然崩れ去る事となる。
がぁぁぁぁー!
理不尽な暴力。緑の鱗を持つ竜が2人を一緒の腹の中に収めようと襲いかかる!
『はぁはぁ…くっ…』
必死で逃げるが竜と人、やがて追い詰められてしまう。
『アンチン様…わたくし…あなたと一緒なら』
『……キヨヒメ、そなたは生きろ!』
アンチンのサムライスピリッツが愛する者を逃がすための力を彼に与える。
『いやっ……いや!アンチン様ぁー!』
〜〜終わり〜〜
そこで命からがら逃げたキヨヒメちゃんは偶然同じ日本人である俺を発見して俺をアンチンと思い込むことにより自らの心を守った。
俺はアンチンでは無いと言う事は簡単だ。でもそうしたらキヨヒメちゃんの心は……かと言ってアンチンのふりをすれば良いわけじゃない。
あ、そういえばお礼言ってなかったわ。
「キヨヒメちゃん、ありがとねぇ」
「いえ!…いえ夫婦とは支え合うもの…ふふっ」
逃避にも人間はエネルギーを使う。だからふとした瞬間、逃げられなく時が来る…向き合わなくちゃいけない時が…その時の邪魔をしない為にも俺は否定も肯定もしない。
あれ…そういえばさっき俺の事を背負って移動してたって……この身体のどこにそんなパワーが…?
「……♡」ポッ
まぁ、良いでしょう……愛だよ愛。キヨヒメちゃんもそうだけど…何か後ろ暗いものを抱えてるのは
「………」
目の前の金髪さんもだと俺のこの孤独がよく見える眼が告げていた。いや、その何かは薄々わかっている。
最初は少し面影がある程度だったが、ある話……ジャンヌ・ダルクが竜の魔女として蘇ったと話をした時に浮かべた苦々しい表情、その暗い顔はあの城で対峙したそれと瓜二つだった。
母親なのかもしれない。そして母親ならもしかしたらジャンヌ・ダルクを止められるのではないか。
「俺の故郷では〜~」
「そうなのですね」
だけど俺は話しを切り出せずに、適当に会話を続ける。多分そんな事は向こうもお見通しなんだと思う。それでも踏み出せないでいた。
「ご飯だと丼物ってのがあって、量は
「……はは」
苦笑いを浮かべられてしまったわ。
「安珍様は洒落がお好きなのですね」
すっごい優しい目。キヨヒメちゃん……笑ってくれよ。
「ぅ…うぃ」
親になった事ないからわからんけど、自分の娘が祖国の為に戦争に行って戦って……魔女として処刑されるって…しかも今度は蘇って本当に魔女になったみたいに破壊をもたらしている。
「その、気を使っていただいてありがとうございます慣れないジョークまで言わせてしまって……ジャネット……ジャンヌ・ダルクは私の娘です」
あ、二重の衝撃が来た。むしろ2つ目は予想できてた分、1つ目の悪気のないアレが心の鳩尾にダイレクトじゃん。
「随分失礼な物言いになってしまうのですが…娘さんは本当に蘇ったのでしょうか?蘇ったとして……母親目線彼女はフランスを滅ぼしたいという願いをお持ちになると思いますか?」
「……わかりません、本当に蘇ったのか……でも…あの娘は…誰かに復讐するような…」
「そうですよね…」
そりゃそうだよな、現代じゃ聖女って言われてるし。あんま復讐と結びつかな……燃やされてんだから可能性はあるか…?
「ですが」
また、あの顔だ。
「ジャネットが…あの娘がそれを望むなら、それでも良いって思ってしまってるんです…全部肯定してあげたい…私は親ですから」
「………」
特に何も返す言葉が思い付かなく、黙ってしまう。自分から聞いといて失礼ってのはわかってるんだけど…きっちぃ…
そのまま家の時間が止まったかのように沈黙がのしかかってくる。
俺以外の2人が重いよ。俺のギャグ力じゃ癒しが不足だよ……孤独がよく見える眼もこの戦いにはついてこれなくっちゃった。
『そもそも、ジャンヌ・ダルクを止める意味はあるのか』
頭がそんな考えを俺に与える。……そうだよなそもそも裏切ったのって国が先なんじゃないのか?
『あの街では子供が巻き込まれてたんだぞ、何も知らない子供が…!今もどこかの街で……その時点で止めることに意味なんか要らないだろ…!』
心が糾弾する。……確かにそうだけど…でも
わからない、どうすればいいのかが。復讐を止める権利…俺にあるのか。机と見つめ合っても答えはでない。
「安珍様……大丈夫ですか?」
キヨヒメちゃんが俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫…じゃないかも…正直、今の話を聞く前まではジャンヌ・ダルクをなんとしても止めようと思っていました…でも今は全くわかんないんです」
「……はい」
「だけど」
ガタッ
俺は立ち上がるとそのままドアに向かって歩く。
「このままここにいるときっと後悔する……数日間お世話になりました…この恩は必ず返させていただきます」
頭も心も多分正しい、だけど魂は兎に角動きたがっている。
「いえ、大して饗すこともできずにすみません……あの娘を止めると言っていましたね……できるのですか?」
「やります、俺は仮面ライダーなんで」
「あなたがあの……どうかお願いします…あの娘が苦しんでいれば……いつでもここに帰っておいでとお伝えしてもらえませんか」
「わかりました、しっかりと伝えます」
正直、その言葉にどんな反応をするかはわからない。だけど伝える事が大事だよな。
「安珍様……イザベル様、わたくしも安珍様と共に…」
「わかっていますよ、キヨヒメちゃん…気をつけてお往きなさい」
「はい」
「ちょっ…危ないぜ?ドラゴンとかもいるし…」
これでキヨヒメちゃんが巻き込まれでもしたらアンチンに面目が立たない。
「大丈夫です!わたくしサーヴァントですので!」
ん?
「それでは行きましょう!旦那様!」
ん?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ワイバーンを退けた藤丸達。兵士達が目の前のサーヴァント…ジャンヌ・ダルクに怯えてしまい、場所を変えて情報交換を行う事に。
「仮面の白騎士ギーツ・カメンライダー…彼は街を一つ救った後、竜の魔女に挑んで行方知れずになったと聞き及んでいます」
「え…?」
「そんな…」
その中でもたらされた情報の一つがカルデアに衝撃を与えた。
仮面ライダーギーツの敗北。
(あの…形態が…負けた…?あの騎士王と互角に渡り合ってたあの形態が…)
ロマニは考え込む、だとするなら明らかに戦力が不足している。
マシュはやはりサーヴァントとしての経験不足が目立ち、ジャンヌ・ダルクはサーヴァントとしてのスペックがダウンしている。霊脈を発見すればカルデアのサーヴァントを送れるが一騎が限界。
(彼らには悪いが流石にあの騎士王と比べてしまえば……)
状況は悪い方に傾いている。だが、
「……歩君が戦い抜いたなら……私達が諦めてちゃ駄目だ」
藤丸立香は前を向く。
「……そう…ですよね」
そんな不安の拭えない旅の始まりだった。