心が地獄へ向かうたび、私の子宮は悲鳴をあげる。 作:田地町 待乃
というか、そっちの作品の終盤になって初めて、この化け物の正体が明かされるという謎仕様。
向こうはコミカルすぎ、こちらはシリアスすぎ、二作の差異は大きいですが……
でも、ヒロインの心の問題はここから始まっているんだというところを描いておかなければ、結局、向こうのストーリーも説得力を減じてしまうと判断したので、こうした前日譚を設けることにしました。
私はまさに地獄のあえぎをあげていた。
異形の化け物たちによってベッドが占領されて、その全員が全員、私のカラダの総てをむさぼってくる。
私の寝息くらいしか鳴ったことがなかった寝床は今、
「はァーはァー」
「へぇーへぇー」
……悪臭を伴う下劣な吐息に満たされていた。
私は両手首・両足首を、無数の汚い手によって鷲づかみにされ、金縛りのように動くことができない。
「やめっ……んんっ」
口もふさがれてしまっているから、声すら出せず……。
でも、声が出せたとしたって、両親はきっと助けに来ない。
だって私の声が下に届くことを肯定してしまったら、自分たち夫婦の
だから、
“引きこもり娘が一人で勝手にヒステリーを起こしている”
という
それはちょうど、政治家が保身のために、ありもしない事実をでっち上げたりするのと同じように。
実際、小六の私が生理の苦しさから叫んだときだって、二人とも翌朝になって初めて、軽い心配の言葉をかけてきたくらいだった。
ああ自宅のしかも自室にいるのに、私は……私は父にも母にも助けてもらえず、ここでこんな化け物たちに犯されるんだ。
柔らかな部屋着のワンピースは、凶暴な手と鋭いツメによって無残に切り裂かれ……
他人に触られては絶対にいけない部分を、“他人”より理不尽な生き物によってイジられて、
「んんぅっっ」
気持ち悪い。ただそれだけだった。
私しか乗ったことのないベッドが、むさ苦しい生き物たちの
「ぅうっ……」
吐しゃ物がこの喉元までこみ上げてくるのを、はっきりと感じる。
ベッドという名の十字架へ
これは、罰なの?
よくマスメディアでは、“引きこもりだった人間が学校や社会に戻った”というテの話題が出ると、その人をまるで勇者か偉人みたいに褒めたたえる。
それなら、その逆の立場にある私は、罰を受けなければいけないの?
もしもそうだとするのなら、そんな世界、私は要らない。
「んぅっ──」
殺して、と、叫びにならない声で訴えた。
自分が消えることと、世界が消えること。それって真逆のようでいて、実はそれほど変わらないはずだから。
ところが、そんな惨めな願いさえ聞き入れられず……
気づけば、私と化け物の体勢は、まさに最悪の形状になっていた。
これって、これって……
性教育の教科書に載っていた、男の人と女の人が子供を作るときの……!
ああ、私
〈私、初夜の気持ち悪さは忘れられないわぁ。主人とは
いつか電話で、母が学生時代の友達に語る声が、この地獄のなかを木霊する。
そしてその“慣れるまで大変だった
ああっ、もう何もかもが嫌。
ラクになりたい。けど、穢されるのだけはイヤ!
それだけは、それだけはっ……!
「いやぁああぁっ! はぁ、はぁぁっ……えっ?」
パッと、テレビのチャンネルでも変えたように、目に映る世界が一変する。
がばっと身を起こすと、化け物たちの姿も、彼らの発していた悪臭も、一瞬にして消え失せていた。
「
残っているのは、私自身がかいた脂汗のベタつきと、生理のとき特有の臭気。
それ以外、悪夢を見たことによる物理的な被害は、何もない。けれど……
ふと視界の隅に、何か見慣れないものが入った気がして、とっさに振り向くと、
「ひぁっ」
血だった。
鮮血だった。
無数の血だまりだった。
手の形、足の形をした血液の染みが、スタンプを思わせる克明さで、ベッドのあちこちに刻みつけられている。
「え、これって……!」
!?
翌日の昼頃。
私はメイクし直したベッドに腰かけ、脚の上に置いた藁人形をじっと見つめていた。
ゆうべ、よく見てみたら、あの“スタンプ”の正体も分かった。
あれは自分の経血で、それを、寝乱れた私自身が手足であちこちに塗りたくったものだったらしい。
悪夢の影響で、それがあたかも化け物の残していった痕跡のように見えてしまったんだろう。
……でも、そうか、あれが地獄なんだ。
悪夢を見る直前の、
〈地獄って……どんなところ?〉
そんな私の問いへ答えるように、地獄通信というシステムが自動的に
死後、私はあんな体験を永遠に味わいつづける……。
バタっと、背中からベッドに倒れ果て、
「人を呪わば、穴二つ……」
地獄少女のセリフを、自分の口で反すうした。
●●
どうしたらいいのか分からなくって、藁人形を胸に抱いたまま、その日は夜を迎えていた。
一日前の悪夢がウソのように、いつも通りの虚無なベッドの上。
すると突然、いつも通りじゃないことが起こった。
「
母が、ドアの外から私の名前を呼んでくる。
……珍しい。
そして少し期待もしたりした。
私の様子がおかしいことに気づいて、さすがの母も心配を……って。
広いだけの部屋を早足に歩いて、ドアを開けると、
「!」
消極的にうつむく母の、その隣には……一番会いたくない人物が立っていた。
それは言うまでもなく、私が地獄へ流すことを目論んでいる、あの担任教師。
お母さん、騙したのね?
最後のほうは公式本編にも存在するシーンですね。
相変わらず「ほぼモノローグのみ」にて対応いたしました。
公式視聴済みの方は、最後の箇所がヒロインの「脱ヒキ前夜」であることをご存じと思います。
そして、「脱ヒキしたら性地獄も終わるんじゃね?」とお感じになるかもしれません。
しかし! 事実は逆です。
彼女の子宮が悲鳴をあげるのは、むしろ脱ヒキ後からが本番……。
なお小生、前回あたりで「2005年に不登校話は早すぎたのかな?」と書きましたが、よく考えたら、20年前だったからこそ、あの話は輝いたのでしょう。
不登校への無理解がデフォだったあの時代に、あえて不登校児の心情を主張してくれたことこそ、このヒロインの素晴らしさなのだと思います。