かわいい三原則   作:花咲らいら

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その一:どんな信念も貫くこと

 かわいいものが好き。

 フリフリのお洋服が好き。

 

 それは本来、個人の自由。

 でも、それを許さない人たちもいる。

 ──男だからという、理由だけで。

 

 

 

 物心ついた時から、かわいいものが好きだった。フリルのついたドレス、キラキラ輝く指輪、ピンクのリボンの髪飾り。でも、それに手を伸ばそうとする度、僕の手は誰かに止められていた。

 

「だめよ、──くん。もっとかっこいいものにしましょう」

 ただ、言われるがまま、手を伸ばすのを諦めていた。みんなが言うには、「男と女で着る服の趣味が違って当たり前」らしい。

 僕には分からなかった。別に、かわいいものが好きでも、かっこいいものが好きでも、それは個人の自由だと思う。それが僕の考えだった。

 それに、ただ周りの言う服を着るのは、つまらない。ベストにズボンは動きやすいけれど、なんだか飾りが物足りない。──あの女の子達のように、僕も可愛いお洋服を着ていたい。

 やがて、お小遣いを持って隣町まで行くことが増えた。布を買うためだった。

 

「やだ、裁縫なんて。何を作るのかしら」

「お母さん。家族のために、新しい洋服を作るよ」

「本当!? うれしいけど、もっと他にやりたいことは無いの?」

「うん、大丈夫」

 

 これがやりたいことそのものだとは、なぜか言えなかった。

 母に裁縫を習って、家族の服を作りながら、自分の着るドレスのことも考える日々。寝る間も惜しんで服を仕立て続ける僕だったが、幸い母は何も言わなかった。

 

 そうして迎えた、16歳の誕生日。

 日中何を言われたか、よく覚えていない。村の人達が口々におめでとうと言っていたこと、それぐらい。

 

 みんなが寝静まっただろう夜。

 僕は鏡の前で、ドレスに着替えた自分の姿を見ていた。

 ああ、これから僕は、この時間だけでも。──そう思ったときだった。

 

「──くん……なに、してるの」

 

 なんの疑問も持たずに振り向いたことを、僕は少しだけ後悔した。僕を見た彼女は甲高い悲鳴をあげて、その場にへたり込む。

 やがて、村の人達がぞろぞろと入ってきた。皆、おかしなものを見る目付きで僕を見ている。

「──、だよな?」

「あいつ女の格好してやがるぜ」

「まだ諦めてなかったんだ」

 何がおかしい、何が──そう考えかけて、僕は気づいた。

 

 最初から、おかしかったんだ。

 かわいいものを好む男、そんなのに生まれ育った、僕が。

 

 

 

「っはぁ、はぁ……!」

 

 どれくらい走っただろう。気づけば森の中にいた。生まれ育った村の姿は、遥か遠くに思えた。

 もう、戻れないんだ。そう思うと言いようのない気持ちが込み上げてくる。別に、戻りたい訳じゃないけれど。帰る場所を失くすというのは、まだ「ガキ」の僕にとっては大きな問題だった。

 そのうちに、僕はへたりこんだ。せっかく作った服も、半日で汚れてしまった。そのことが悔しくて、ひとつ、涙を零した。

 

「僕、なにやってるんだろう……」

 

  その時だった。

 

<君、どうしたんだ?>

 

 噂でしか聞いた事のない、竜の一族。その中でも、地に降りることなど稀なハイドラゴンだ。

 ──どうして。

 

<困っている人を見かけたら、放っておけないタイプでね>

 

 ──僕の考えが、聴こえているのか。

 

<ああ。なんでも話してごらん>

 

 僕は話した。かわいいものが好きなこと。昔から周りに認めて貰えなかったこと。……今日、自分で作った服を着たら、周りに怖い目で見られてしまったこと。

 

<そうか、そうか。──それでも自分の信念を貫き通したのは、すごいことだと思うぞ!>

 

 ──自分の、信念?

 

<ああ。だって、周りに何を言われてもかわいいものを好きでい続けたんだろう? 立派な自分の信念があるじゃないか!>

 

 ──そうか。これが、僕の信念なのか。

 僕はようやく、気づいた。僕は、間違っちゃいない。

 

 

 

 しばらくして。

 僕は冒険者としての一歩を、踏み出していた。

 まだまだ未熟だけれど、それでもできることは、きっとある。

 

 僕は──ボクは諦めない。

 誰に何と言われようとも、ボクの思うかわいいを貫いて、世間に知らしめてやるんだ!

 そのためなら、こんな名前はいらない。

 

 花咲らいら。

 新しい名前を得て、ボクは歩き出す。

 あの日、名も知らぬ竜に貰った、お守りの牙を携えて。




Halphas さんに友情出演いただきました。ありがとうございました!
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