かわいいものが好き。
フリフリのお洋服が好き。
それは本来、個人の自由。
でも、それを許さない人たちもいる。
──男だからという、理由だけで。
物心ついた時から、かわいいものが好きだった。フリルのついたドレス、キラキラ輝く指輪、ピンクのリボンの髪飾り。でも、それに手を伸ばそうとする度、僕の手は誰かに止められていた。
「だめよ、──くん。もっとかっこいいものにしましょう」
ただ、言われるがまま、手を伸ばすのを諦めていた。みんなが言うには、「男と女で着る服の趣味が違って当たり前」らしい。
僕には分からなかった。別に、かわいいものが好きでも、かっこいいものが好きでも、それは個人の自由だと思う。それが僕の考えだった。
それに、ただ周りの言う服を着るのは、つまらない。ベストにズボンは動きやすいけれど、なんだか飾りが物足りない。──あの女の子達のように、僕も可愛いお洋服を着ていたい。
やがて、お小遣いを持って隣町まで行くことが増えた。布を買うためだった。
「やだ、裁縫なんて。何を作るのかしら」
「お母さん。家族のために、新しい洋服を作るよ」
「本当!? うれしいけど、もっと他にやりたいことは無いの?」
「うん、大丈夫」
これがやりたいことそのものだとは、なぜか言えなかった。
母に裁縫を習って、家族の服を作りながら、自分の着るドレスのことも考える日々。寝る間も惜しんで服を仕立て続ける僕だったが、幸い母は何も言わなかった。
そうして迎えた、16歳の誕生日。
日中何を言われたか、よく覚えていない。村の人達が口々におめでとうと言っていたこと、それぐらい。
みんなが寝静まっただろう夜。
僕は鏡の前で、ドレスに着替えた自分の姿を見ていた。
ああ、これから僕は、この時間だけでも。──そう思ったときだった。
「──くん……なに、してるの」
なんの疑問も持たずに振り向いたことを、僕は少しだけ後悔した。僕を見た彼女は甲高い悲鳴をあげて、その場にへたり込む。
やがて、村の人達がぞろぞろと入ってきた。皆、おかしなものを見る目付きで僕を見ている。
「──、だよな?」
「あいつ女の格好してやがるぜ」
「まだ諦めてなかったんだ」
何がおかしい、何が──そう考えかけて、僕は気づいた。
最初から、おかしかったんだ。
かわいいものを好む男、そんなのに生まれ育った、僕が。
「っはぁ、はぁ……!」
どれくらい走っただろう。気づけば森の中にいた。生まれ育った村の姿は、遥か遠くに思えた。
もう、戻れないんだ。そう思うと言いようのない気持ちが込み上げてくる。別に、戻りたい訳じゃないけれど。帰る場所を失くすというのは、まだ「ガキ」の僕にとっては大きな問題だった。
そのうちに、僕はへたりこんだ。せっかく作った服も、半日で汚れてしまった。そのことが悔しくて、ひとつ、涙を零した。
「僕、なにやってるんだろう……」
その時だった。
<君、どうしたんだ?>
噂でしか聞いた事のない、竜の一族。その中でも、地に降りることなど稀なハイドラゴンだ。
──どうして。
<困っている人を見かけたら、放っておけないタイプでね>
──僕の考えが、聴こえているのか。
<ああ。なんでも話してごらん>
僕は話した。かわいいものが好きなこと。昔から周りに認めて貰えなかったこと。……今日、自分で作った服を着たら、周りに怖い目で見られてしまったこと。
<そうか、そうか。──それでも自分の信念を貫き通したのは、すごいことだと思うぞ!>
──自分の、信念?
<ああ。だって、周りに何を言われてもかわいいものを好きでい続けたんだろう? 立派な自分の信念があるじゃないか!>
──そうか。これが、僕の信念なのか。
僕はようやく、気づいた。僕は、間違っちゃいない。
しばらくして。
僕は冒険者としての一歩を、踏み出していた。
まだまだ未熟だけれど、それでもできることは、きっとある。
僕は──ボクは諦めない。
誰に何と言われようとも、ボクの思うかわいいを貫いて、世間に知らしめてやるんだ!
そのためなら、こんな名前はいらない。
花咲らいら。
新しい名前を得て、ボクは歩き出す。
あの日、名も知らぬ竜に貰った、お守りの牙を携えて。
Halphas さんに友情出演いただきました。ありがとうございました!