「弱ったなあ……」
ボクは今、遊園地で迷子になっていた。
◇
「知り合いからもらったの。今度行ってみたら?」
そう言ってお隣さんに手渡されたのは、一枚のチケットだった。わくわく触手ランド――この地では有名な遊園地らしい。らしいというのは、ボクはよく知らないからだ。
そもそも、このはじまりの街に来てからというものの、ボクの故郷の名前を聞く機会もない。別に聞きたくはないのだが、どういうわけか出身を名乗っても皆口々に知らないと言う。……ここは魔法の有名な地、迷い込む人だっていても不思議ではない。
だから、知らないことがあるのも仕方ない――そう思うことにしている。
だからといって、いざ出かける日になって隣を訪ねてみたら、隣人――メイが小さくなっていたのは――驚きを隠せなかったのだが。トリックを間違って自分にかけたら縮んでしまったらしく、見るからにしょげている。
……なんか可哀想だし、連れてくか。
◇
そうしてやってきたわくわく触手ランド。普通に人混みを通り抜け、目指すアトラクションに向けて歩いていたはずが、気がついたら外れにあるのだろう、ポツンとしたベンチに来てしまっていた。
「はあ、どうしたものかな」
入口で買ったシェイクを片手に立ち尽くす。ついてきているメイはというと、ジト目でこちらを見つめている。チケット渡してきたのに、ここに来たことがあるわけでもないのか。なんて、今考えても仕方がない。
とりあえずベンチに座って、入口で取ってきた地図を眺める。
「……読めない」
字が読めないのではない。地図が読めない。そもそもこのベンチがどこかもよくわからなかった。見た目はピンクのウネウネで、触手モチーフで、ほぼ間違いなく遊園地の中であることしか、推し測ることもできない。
「ま、いっか」
とりあえず、疲れたから休もう。シェイクの甘さに浸っていると、誰かの声がした。
「――泣いてる?」
その方向へ向かってみると、まだ幼い子がしくしくと真っ赤な顔で涙を流していた。目の周りは腫れてしまっている。泣きじゃくる合間に出る言葉を聞くに、親とはぐれてしまったようだ。
大丈夫、なんて声をかけて泣き止めばおまわりさんもガイドもいらないわけで、知らない人間に声をかけられるなんて怖いに決まっている。――それでも。
「大丈夫、元気出して。えっと……ほら」
隣人の見様見真似で、リボンの花を虚空から出してみせる。不格好なそれを差し出せば、幼子は目をぱちくりさせ、次の瞬間、少しだけ笑った。
「……ありがとう、おねえさん」
「うん。お母さんのこと、ボクと探しに行こう」
そうしてしっかり手をつなぎ、共に足を踏み出したときだった。
「素敵なヒーローさん、発見ですワ〜!」
「!?」
陰から、いきなり赤いバニーガールが飛び出して……こちらめがけて走ってきた!
「でっすワああああああ!」
「ぎにゃあ〜!!!!」
自分でもよくわからない悲鳴を発していると、バニーガールはきちんとボクの前で立ち止まり。
「アタシ、困った人を笑顔にできるそんなアナタに、いたく感動しましたノ。だから、」
「弟子にしてほしいのですワ!」
ツインテールのバニーガールが、深く頭を下げる。それはそれはきれいなお辞儀だった。
「……ボクはそんなことしてないよ。」
「そんなことなんて言わないでくださいナ! それに」
「それに?」
「――お姿が、とってもキュートで一目惚れですのヨ!」
参ったな。この人は、弱点をしっかり突いてくる。
「……名前は?」
「ハピナと言いますワ!」
よし。覚えておこう。
◇
無事に子供を迷子センターに引き継いで。そこから
「……師匠、アナタも迷子でしたよネ」
ぎくっ。
「な、なぜそれを?」
「あそこのベンチにいる人は、大抵迷子になってやってきてると相場が決まっておりますワ」
「……そりゃそうかぁ……あんな辺鄙なとこにベンチなんかあるのが悪いよ」
「それは思いますワー」
そんなことを話していたら、目当てのアトラクションの前についた。パステルカラーで彩られた、なんともメルヘンなコーヒーカップだ。
「それでは、アタシはここで」
「うん。ありがとう、ハピナ」
……ハピナとメイが揃って奇妙な目で見てくる。少し考えて、はたと気づいた。
「――流石、ボクの弟子」
「はいっ! アタシ、師匠のようになるために、頑張りますワ!」
「……さて」
弟子に渡した、無料お仕立て券の半券を見る。いつかはじまりの街で彫ってもらった、新しい名前の入ったハンコ。そのしるしが、二人をまた巡り会わせると信じて。
ハピナさんに友情出演して頂きました!ありがとうございました!