1. 英雄王(偽)、キヴォトス現着
「……私のミスでした」
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が目を開けると、目の前に傷だらけの少女が座っていた。紅い瞳がピントを合わせようとするが、なぜかうまく定まらない。
後ろの窓から見える青空だけが、やけに澄んでいた。
(え、なにこれ……ここどこ? 体動かないんだけど!?)
そんな彼の心の叫びも虚しく、少女は語る。
「……今更図々しいですが、お願いします。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎先生」
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……」
そう言って連邦生徒会長は寂しく笑う。
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々」
「責任を負う者について、話したことがありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます」
「世界を背負っていると言った、その自信」
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも」
彼は、この間常に困惑していた。体は動かせないし、なにやら違和感もある。
「先生」もなにも、彼は自分が死んだと思い込んでいた。
実際に、彼の肉体は滅んでいる。その魂は、還る場所を失っている。
だからこそ、彼が
「……ですから、先生」
「私が信じられる大人である、あなたになら、この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……」
違和感を覚える。この台詞、この景色......
「そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです」
「だから先生、どうか……」
その疑問の答えが出るより先に、彼の意識は闇に飲まれていった。
七神リンは、迷っていた。連邦生徒会長が選んだという「先生」が、目の前にいる。
金色の髪に、神々しいまでの
威圧感。彼を起こせば自分は殺されるのではないか? そんな考えが頭をよぎる。
しかし今は緊急事態。このキヴォトスは危機的状況にある。
七神リンは、大きく息を吸った。
「……い。……先生、起きてください。先生!」
ゆっくりと瞼を開く。
先ほどの夢について思索を巡らす暇もないのか。そう思いながらも、声の主を確認する。
「……」
目の前には無言でこちらを見つめる生徒らしき人物が一人。
黒髪ロングで眼鏡をかけ、白を基調とした制服らしきものを身にまとっている。青のネクタイが良い味を出しており、とても良く似合っていた。
リンちゃんーー「七神リン」である。
「フン……」
ここに至って、確信する。ここは、「ブルーアーカイブ」の世界。
(こんなことなら、もっとブルアカ進めとけばよかったーー!)
彼は所謂、ライトオタクである。ブルアカも友人に勧められやってはみたものの、他のソシャゲにかまけて対策委員会編の初期も初期でストーリーが止まっていた。
そんな彼の心情などいざ知らず、七神リンが続ける。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」
「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」
「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします」
彼は、「ありがとう、助かるよ」と口に出そうとして、出た言葉はーー
「いいだろう、疾く話せ」
(何言っちゃってんの俺ーー!!)
彼は、ようやく違和感の正体に気付く。声が、彼自身のものではない。
目線も、彼の知っているものとは異なっている。
頭脳も、目も、いっそ恐ろしいほどに冴えている。
これは、まさかーー
「……私は七神リン。学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが」
彼女の言葉を聞き流しながら、ふと窓の外を見ようとしてーー固まる。
金色の髪、真紅の瞳、整った顔立ち、人ならざる威容。
その姿は間違いなく、自分のものではなく。
「転生しておるではないか
あまりの声の大きさに、七神リンがビクリと震える。
お労しきは七神リン。連邦生徒会長が失踪したばかりに、このような危険人物に接しなければならなくなったのだから。
そして、彼は「ごめん、続けて」と言おうとして口から出たのは。
「……構わん、続けよ」
あまりにも傲岸不遜なセリフである。
いきなり叫び出したかと思えば、突如冷静になって先を促す。
この男、側から見れば情緒不安定にも程があるのだが、そこはさすが代行。短い間でなんとか気持ちを持ち直していた。
「……ああ。推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」
なぜ連邦生徒会長はこんな大人を選んだのか、七神リンには理解できていなかった。
しかしそれ以上に、この大人だからこそあの人が選んだのだろうと直感する。
「……。本当に色々と混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います」
「……でも今はとりあえず、私についてきてください」
そんな七神リンの心情などいざ知らず、彼は窓に映った自分の姿をチラチラと見ていた。
(なんでギルガメッシュの姿になってんの!??!)
英雄王ギルガメッシュ。古代ウルクの王。その英雄譚はギルガメッシュ叙事詩により語られる、最古にして最強の王である。
Fateシリーズにおいてその力は圧倒的であり、全英霊中最強と言っても過言ではない。
……のだが。この英雄王、登場するとその強さを存分に発揮するーーこともなかったりする。
端的に言うと油断しまくり、慢心しまくる。それこそ、慢心王とも呼ばれるほどには。しかし、「慢心せずして何が王か!」と開き直り、反省することはない。
それが英雄王クオリティーである。
「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」
「やらなければならぬこと、か……フン、おおかた想像はついているがな」
「学園都市の命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう」
ーーかくして、物語は動き出す。
英雄王(偽)と七神リンが、エレベーターに乗って、学園都市を見下ろす。
巨大なビルが、まるでジャングルのように生い茂っている。彼は、それを裁定するように目を細めていた。
無論、魂の方は「スゲー!」程度にしか思っていなかったのであるが。
「『キヴォトス』へようこそ、先生。キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働くところでもあります」
「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は苦労するかもしれませんが……」
彼は知っていた。キヴォトスの治安は現世と比べて極端に悪い。美少女版G◯Aの名は伊達ではないのだ。
「その程度の些事など、気にする必要はない」
「そうですか、それは心強いですね。あの連邦生徒会長がお選びになった方だけあります」
「……? 連邦生徒会長、だと?」
「……それは後でゆっくり説明することにして」
一応聞いてはみたものの、記憶が正しければここで得られる情報はあまりなかったはずだということを思い出す。
エレベーターの音が、到着を告げる。扉が開き、紅い瞳が4人の生徒を捉えた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
誤字報告等よろしくお願いします。