ギル様は口が悪いので、そのうちアンチ・ヘイトタグがつくかもしれません。
連邦生徒会長が失踪し、各地で混乱が広がっているキヴォトス。
あちこちから硝煙の香りが漂ってくるのは日常茶飯事であるため、特筆すべきことではない。
ただし、その濃さは平時を軽く超える。銃声は鳴り止むことを知らず、閃光と爆音があちこちから感じることができる。
そんな中、黄金の男が悠然と天を移動し街を睥睨する。
彼は、その玉座に女を侍らせていた。
いや、生徒を引率していた。
「すごい、音がほとんどしない……動力はいったい何なのかしら」
「改めて、ひどい有様ですね。どの自治区の治安も悪化しているでしょう」
「先生、スピードはこれが限界なんですか? もう少し急いだ方が良いのでは……?」
生徒たちが口々に感想や意見を述べていたが、ニルガメッシュはただ眼前の街を見下ろし口を開かない。
その指だけが滑らかに動いたかと思うと、ヴィマーナの機構が作動する。
ニル自体は考え事をしており、無意識に体が動いていたのに気付かなかった。
ヴィマーナ後部が稼働し、翼のようなパーツが広がったかと思うと機体はみるみる上昇し――
「なにアレ、翼!? というか先生、なんか高度上がって――」
「「「「キャーー!」」」」
キヴォトスの空を、流星のごとく駆けた。
その姿は案の定クロノススクールにすっぱ抜かれ*1、色々と説明に苦慮することとなるのだが、それはまた別の話。
「フハハハハハ! 光栄に思うがよい!」
「全速力とはいかんが、生身でこれだけの速度を体感する機会なぞ、そうはあるまい」
「特別に、我の許可なく歓声をあげたことも不問としよう」
本人はいたって上機嫌にヴィマーナを乗り回していた。
ギルガメッシュの体になったことの一番の恩恵、それは「
この実質なんでもありのチート宝具により、大抵の問題は独力で解決できる。
英雄王なら、この世界で死ぬ事もないだろう。少なくとも、彼はそう踏んでいた。
そう、ここが
「さて、そろそろ着く頃か……なに?」
目的地まで一キロ弱、降下準備を始めようとしたニルの瞳が捉えたのは、3桁に届こうかという不良生徒。
一斉に放たれる砲火。しかし、ヴィマーナに搭載されている迎撃宝具がその悉くを撃墜。
その攻撃がニルまで届くことはない。
(危ないなぁ……! にしても、よくこんな数集められたもんだよ)
『やっと通信が繋がりました! 脱走した生徒の情報を送ります。彼女は――』
リンの通信によれば、煽動者は災厄の狐、
本来こちらにやってくる生徒を撃退・足止めし、その隙に自らが連邦生徒会長の残した「何か」を簒奪・破壊するという算段だった。
しかし、クロノススクールの速報により先生の動向を確認し、急遽作戦を変更。目的の建物付近で先生一行を待ち構える。
「フン……我を地に堕とそうとしたその罪! しかと償ってもらうとしよう……!」
ヴィマーナが、迎撃宝具を展開しながらゆっくりと降下する。
視線、そして圧倒的な王気を感じ、ワカモは思わず顔を上げる。
しかし、彼の中身はあくまで
突如ワカモが明後日の方に走り去っていった。
「逃げていった……?」
「……捕らえて話を聞きたかったのだかな、仕方あるまい。今は『ある物』とやらが優先だ、我についてくるが良い」
ワカモと見つめ合っていた間も降下を続けていたヴィマーナが停止し、王が地に降り立つ。
傲然と腕を組み、この世全てを見透かすかのような瞳で生徒たちを眼差す先生。その王気は、キヴォトス全土を背負ってあまりあるものだった。
一歩、また一歩。スケバン達の足が下がる。下がる、下がる、下がる、下がる。
一度歯止めを失ってしまえば、その崩壊は早かった。知らない機械、知らない大人。しかも、自ら集まったのではなく扇動された形で、彼らはここにいる。
元より、戦う義理もなく。集結していた不良たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
(あれ、戦わないんだ……まぁ、王の財宝を使わなくていいなら、それにこしたことはないけど)
「我の許しなくして我に背を向けるとは、不敬であろう……!」
「先生、お気持ちは分かりますが落ち着いてください」
憤るギルガメッシュ(の体)をなだめるチナツ。もはや自分より生徒たちの方が体の扱いが上手いことに諦めを通り越して怒りを覚えてきた。
だが、そもそもギルガメッシュを御そうというのが間違いである。生徒らがなんとか抑えられているのも、魂が先生だからにすぎない。
天上天下唯我独尊。そのセリフがこの世で最も似合うのは、間違いなく英雄王なのだから*2。
ヴィマーナを宝物庫にしまいながら歩を進める。ワカモが戻ってこないとも限らない。ニルは建物の周りに生徒を配置して、一人中へと入っていった。
「ほう、これが『シッテムの箱』か……」
ただのタブレットにしか見えないそれは、超一級品のアーティファクト。宝具と言っても差し支えないレベルの代物である。
本来リンから説明を受けて起動の準備をするものだが、ヴィマーナの速度が埒外であったため、行政官は未だ到着していない。
しかし、記憶と直感の両輪が起動の方法を伝えていた。
「我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を」
シッテムの箱が、起動する。その瞬間、空間が明滅し――気付くと、ギルガメッシュは見知らぬ空間に立っていた。
「うぅ、むにゃ――」
「起きよ、アロナ」
「カステラには、いちごミルクが……えへへぇ……」
「……この我を前にして、惰眠を貪るその態度……いいだろう」
本来ならほっぺをつんつんしてみたりするところではあるが、そこはAUO。
悪辣な笑みを浮かべつつ、王の財宝から「目覚まし時計の原典」を取り出しアロナの居眠りする机に置く。
――恐ろしいほどまでの光。「どんな深い眠りに陥っているものであろうとも目を覚まさせる」神秘が、その効能を十全に発揮した。
「うぅわぁああ!? え、■■■■■■■先生がなんでここに!? ということは……」
「フン、やはりそうであったか」
アロナが呼んだ名は、前世のもの。とりあえず、自分の魂がここに呼ばれたことは確からしい。
……英雄王の肉体に入っていることについては、皆目見当もつかないが。
「これから、我のことは『ニルガメッシュ』と呼べ。外ではそう名乗っているからな」
「理由はよく分かりませんが……とにかく分かりました、ニルガメッシュ先生!」
「あ、忘れてました! 先生、生体認証をするので指を出してください!」
この後、AUOボディーが生体認証の邪魔をしたり、アロナの自己紹介をぶった切ったりした以外には特に何事もなく進んだ。
英雄王にしてはおとなしい気がする、と訝しむニルだったが、考えても答えは出ないので諦めることにする。諦めの大切さは、キヴォトスに来てから幾度となく感じている。
折り合いをつけると言い換えてもいい。とにかくそれが、じゃじゃ馬がすぎるAUOボディーとうまく付き合うコツだ。
アロナの力を借りてサンクトゥムタワーのアクセス権を掌握し、即座に連邦生徒会に移譲する。アロナにはキヴォトス全土の支配が出来ると言われたが、そんなことをしてはまた過労死する*3羽目になる。
そんなのはごめんだ。
謎の空間を出て、こちらにようやく到着したリンに、権限の引き渡しが上手くできているか確認した。これで一安心だ。
続いて
「あ、先生お疲れさまです。とりあえず周辺の不良たちは一掃しました」
「とは言っても、そこまでの数は残ってませんでしたけど」
「先生の活躍? もSNSで話題になってますよ! 既にクロノススクールでも報道されてますし」
そんなことを口々に言ってくる。ヤバいやつと思われていると思ったが、ある程度向こうが大人の対応をしてくれているようで何よりだった。
生徒たちには感謝しなければなるまい。その後、多少の世間話をしていたらリンに睨まれたのですごすごとそちらに向かう。
アロナに会った時からAUOボディーが落ち着いている気がするが、気のせいだろうか。
体のことに思いを巡らせていると、いつの間にやらシャーレへと案内されていた。
「ここが連邦捜査部『シャーレ』の部室になります」
長く放置されていたにしては、えらく小綺麗な部室。もし汚かったりすれば宝具で何とかしようと思っていたが、手間は省けた。
リンからシャーレの仕事について説明を受けるが、その内容はほぼ前世の記憶通り。やることは分かっている。
「ここまでご苦労だったな、リン。そちらにはそちらでやることがあるのだろう? なら疾く仕事に戻るが良い」
「なに、
そう言って、いつものように腕を組む
キヴォトスを背負う重圧。それをものともしない雄姿を見た彼女はほんの少しだけ微笑みを浮かべた後、シャーレを退室した。
誤字報告等よろしくお願いします。