4. 英雄王(偽)、闇金のお偉いさんと間違われる
「フフ、フハハハハハッ! 業務量が多いぞたわけぇ!」
「先生、笑ってる暇があったら手を……って、動かしすぎじゃないですか!?」
シャーレの執務室に、半ば自棄になった笑い声が響く。声の主は、言わずと知れた英雄王もどき。
シャーレの仕事量は尋常ではない。連邦生徒会が充分にその機能を発揮し、かつ
彼は左手でキーボード、右手でタブレット端末をそれぞれ操作して仕事を片付けている。
ちなみに書類は思念筆記宝具に任せているため、この姿を誰かが見たら大層驚くことだろう。
「そんな大道芸みたいなことをするんだったら、私の提案通り生徒さんを当番制で呼んだらいいじゃないですか!」
「……アロナよ、貴様は
口を動かしながらも、手を一切止めることなく。送られてきた電子ファイルや、机にうず高く積みあがった書類の山がみるみるうちに整理されていった。
シャーレ赴任時より現在に至るまで、彼は仕事を全て終わらせた上で定時退社していた。
もちろん、生徒から直接助力を願われた場合は別であるが。
それから数時間後、ニルガメッシュは
「残るはこれだけか……」
「はい! アビドス高校から送られてきた救援要請の手紙ですね!」
手紙の内容は、救援。全校生徒5人の学校に暴力組織が攻め込んできており、物資が足りないということだった。
(1クラスとかじゃなくて、全校生徒5人……どこかで記憶とズレてるところがあったりするかとも思ったけど)
少なくとも、その現状は記憶通りであった。追加で情報を調べてみると、アビドス高校は借金を抱えており、生徒会も満足に機能していないこともわかった。
理由は、わからない。少なくとも、自分が読んでいたストーリーの中では明かされなかった気がする。
ストーリーを進めなかった過去の自分に腹が立つが、仕方がない。ブルアカのストーリーは重厚*1であり、じっくりと読みたかったのだ。
(そんな滅び一歩前みたいな高校に攻撃……大した力もないのに? 何か恨みとか買ってたりするのか、それとも……)
「現時点で断定するには情報が足りんな……現地に行ってみるしかあるまい」
「即断即決、これが大人の行動力なんですね! あ、でも……アビドスは広大らしく、下手すると町で遭難しちゃうとか……」
「フン、誰に向かってものを言っている? この我が遭難などするわけなかろう!」
「なるほど、これがアビドス砂漠か……こんなものがあったのでは、人は減る一方よな」
腕を組み、真紅の瞳で砂漠を見つめる英雄王。砂漠に資源と呼べるものはほぼ存在しない。
街が砂漠に飲み込まれるのなら、その街を去る。合理的選択であろう。
「……砂漠だけでもなさそうだがな。まぁ今はそれよりも優先すべきことがあるか」
ギルガメッシュの肉体は「何か」を捉えているようだが、それが何かまでは分からない。
いったん思考を打ち切り、黄金の男はアビドス高校へと向かった。
「貴様、その制服……アビドスの生徒か?」
「…………何者?」
現在ニルガメッシュは、刺し殺すような視線を向けられていた。他ならぬ
アビドス高校へと向かう途中、ロードバイクに乗った少女を見かけたので声をかけたのだが、その恰好が良くなかった。
先生として必要な黒のスーツ、シャーレの証も風に吹かれて鬱陶しいため宝物庫にしまっており。砂漠の日差しを鑑みてサングラスをかけていた。
金髪、黒いスーツ、サングラス、尊大な態度……どこからどう見ても堅気ではない。初見でこれを先生と見抜ける者はいないだろう。
シロコは警戒レベルを最大限に引き上げ、いつでも愛銃を放てるように身構えていた。
「借金なら、きちんと毎月利息分は返済してる……それとも、さらに私たちに何か背負わせる気?」
「いや、そのような意図はない。そもそも――」
「わざわざ偉い人がこんなところに来て……支払い能力でも確認しに来たの?」
「えぇい! 人の話を聞かんかたわけっ!」
大声とカリスマでもって無理やりこちらを信用させ、誤解を解く。今度からシャーレの証はずっと首から提げようと決意する先生と、人を見た目で疑ってはいけないと学ぶシロコ。
どちらがより有益な学びを得たのかは定かでない。
そのままシロコに案内され、高校へと向かう。全体的に砂まみれではあるが、普段生徒が使う場所は多少なりとも手入れされているようであった。
「ただいま」
「あ、おかえりシロコせんぱ……えっ」
「……シロコちゃん、その隣の大人の方は……?」
校舎に入り、扉を開けると同時にシロコが挨拶する。返事をしようとして、そちらを見るとシロコの隣には
フリーズする
「……我はニルガメッシュ。シャーレの先生だ」
「ん、ここまで案内してきた」
「シャーレ……つまり、支援の申請が受理されたんですね!」
喜ぶ一同と、若干不機嫌なAUOボディー。不審者扱いされる原因は英雄王側にあるのだが、彼にとってはそこは大した問題ではないらしい。
もっとも、魂の方は銃口を向けられなくて良かった、くらいしか思っていないのだが。
「ホシノ先輩にも知らせてあげないと……!」
「待て、貴様ら。まさか、『支援要請が受理されて終わり』とでも思ったのか?」
空気が、ぴしりと音を立てて凍った。「ああ、またなのか――」そんな思いが四人の胸中を支配する。
結局、大人というものはこうなのだ。シャーレの先生と言ってもしょせん大人。申請するだけで受理してもらえたのにも、裏があった。
いったいどんなことを要求されるのか。そう思っていると――
「手紙によれば、貴様らは頻繁に襲撃を受けているそうではないか。であれば、
ニルが指を鳴らすと、部屋全体に十を超える黄金の波紋が出現した。まるで水面に水滴が落ちたようなゆらめきと共に、その中から食糧や弾薬がこぼれ落ちる。
その光景の異様さに、思わず言葉を失う一同。
「シャーレの先生が不思議な乗り物に乗っているという話は聞いたことがありましたが……」
「先生は魔法使いだったんですね~♠」
「先生、これ本物なの……?」
猫耳を生やした少女、セリカが恐る恐るといった表情で尋ねる。彼女らからすれば「
よって、何かのトリックがあると思うのも無理のないことであった。しかし、彼女の発言はAUOボディーの逆鱗を逆撫でした。
「……貴様、よもや我の宝物庫に贋作が入っているとでも言うつもりか?」
「ひっ――!」
彼にとって、宝物庫に入れたものが*2贋作という誹りを受けるのは王に対する侮辱であり、死を以て償うべき大罪。
際限なくあふれ出す殺気と
セリカを誅しようと宝物庫から宝具を見繕おうとしたところで、動きが止まる。
「私の可愛い後輩に、なにするつもり?」
――
そのあまりに冷え切った声。ニルガメッシュは
彼女らは、小鳥遊ホシノこそが「最強」である*4ことは理解していた。
しかし、彼女が本気を出した姿は滅多に見られるものではない。
(そういえば、前世で友人に聞いたぞ……「ブルーアーカイブのロリは強い」って……!)
「貴様こそ、我の背後を取り、あまつさえ銃を向けるとはどういう了見だ?」
黒見セリカなどもはや眼中にないとばかりに、英雄王がゆっくりとホシノへと向き直る。
「……フン、まぁ良い。貴様に免じて、セリカの狼藉は許してやるとしよう……だが、次はないぞ」
黄金の男から発せられていた殺気が途端に消え失せる。小鳥遊ホシノは、内心で冷や汗をかいていた。
(……なんであの距離で
先生が対策委員会と合流した時は別の部屋でゴロゴロしていたホシノだったが、王の殺気を察知し即座に駆けつけていたのである。
「なにかまずい」という直観によって。
この大人は、現時点で一番信用できない。それこそ、
その後、改めて話を聞いたところ、この男は救援物資を届けに来た先生だという。
どうやら最初はなんの見返りも求めることなく物資を渡してきたらしい。
しかし、空中に黄金の波紋が現れ、そこから物資が出てくるという何かのトリックや偽物を疑わせるようなパフォーマンスをしたため問いただしたところ、突如激昂したのだとか。
「うへ~……先生って、ちょっと変わってるんだね~」
「フハハハハッ! 今さら道化を演じるとはな! いささか無理があるのではないか?」
「…………」*5
「ねぇ、こんな露骨に機嫌悪そうなホシノ先輩とか初めて見るんだけど……」
「ん、レアキャラ」
「と、とにかく支援物資も受け取ったことですし――」
一旦落ち着きましょう、というノノミの言葉は最後まで続くことなく。
――カタカタヘルメット団の攻撃が始まった。
ライブ感を大事にするという言い訳をしつつ、ある程度の道筋だけ考えて書いているのですが、想定外でした。
まさかホシノとここまでこじれるとは……。
誤字報告等よろしくお願いします。