鬼方カヨコに犯されるまでの青春のアーカイブ 作:ハッピーエンド大好きクラブ
少年は走っていた。
ひたすら走っていた。恐怖の色に塗られた顔面は尚も色を濃くして疲れ果てた体に鞭を打つ。
何度転んでも立ち上がり、その度に服は汚れ肉体は傷付いていく。
精神は摩耗し、頭の中でひたすら「なんで?」と叫ぶ。
分からない。全く分からない。けれど走る。走って走って走りまくる。
「彼女」に見つかったら終わりだ。
廃墟となった建物へ逃げ込んだ少年は身を隠せる場所を探す。汗が頬を滴る。あちこちに目をやり、階段を駆け上がり、いつしか屋上へ出ていた。
「はっ………………はっ…………」
息を切らしながら足を進める。ずっと考えていた。どうしてこうなったのか。理由なんて知らない、分からない。でも、それは真実から目を背けていたからだ。
本当は気づいている。彼女をあそこまで怒らせた訳を。
「くそ………………」
好きだと言われた。頬を赤く染めた彼女から、決意を固めた彼女から伝えられた言葉は純粋な好意。
それを、少年は断った。告白された衝撃で頭は回っておらず、自分でも何を言ってたか正直覚えていない。
そよ風が少年の髪を撫でる。頭に巻いていたバンダナを外す。このバンダナは彼女から貰った物だ。
「僕のせいか…………」
そうだ。こうなったのは、全て少年のせいだ。選ぶべき選択を何度も間違えた。
──────トントンッ。
肩を叩かれた。背筋が凍り付く。振り返ったと同時に、首に何かを打ち込まれた。
「あ"っ……!?」
彼女は笑っていた。右手には小さな注射器が握られている。何を打たれた……?何を打った?
視界がぐにゃりと歪む。足に力が入らなくなり、立つのがままならなくなって転んでしまった。
浮き輪から空気が抜けるように、筋肉に力を込められなくなっていく。
「き、筋弛緩剤……!?」
「そ。やっぱりアヤメは鋭いね。医学の知識もあるから気づいて当然か」
打ち込まれた薬は症状発生の速さからみて筋弛緩剤の中でも強力なものだろう。
動けなくなった少年、もといアヤメを前に少女は微笑んだ。
「凄いよねコレ。即効性なんだけどまさかアヤメが動けなくなるほどとは思わなかったよ」
視線が中身の無い注射器からアヤメへ動く。注射器を投げ捨て、ゆっくりとアヤメの胸元へ手を伸ばす。
胸ぐらを掴み、ぐいっと自分の元へ引き寄せた。
「ねぇなんで?なにが嫌なの?私って、そんなにアヤメの好みからかけ離れてるのかな?」
「ち………違う………僕は、僕には………叶えなきゃいけない夢が……………だから……貴女の」
「だから私の想いには向き合えないって?」
アヤメは静かに頷いた。彼の態度に、少女はギリッと歯を食いしばる。溢れ出しそうな怒りを理性で押さえている、そんな悍ましい表情をしていた。
「うん……分かってた。私分かってたんだよ。アヤメなら断るだろうなって。でもさ、間違ってないよね?私が貴方を好きなのはさ、間違いじゃない。アヤメ年上が好きだもんね、自分でそう言ってたじゃん。年上で、クールで落ち着いてて。大人の雰囲気があって包容力があって、ちゃんと愛してくれる人が良いって。それ全部私に当てはまってる。私はアヤメのことが大好きだし、最後まで愛してあげられる。ううん、死んでも愛してる。生まれ変わっても、絶対にアヤメを好きになる。貴方のことを本当に理解してるのは私だけ。好きなものも、趣味も、全部共通してる。よくブラックデスポイズン聴いてたもんね、私のイヤホンでさ。それで…………それで………………はぁ、もういいや。元々監禁するつもりだったし、手間が省けた」
監禁………!?その言葉に、アヤメは目を見開く。説得するために口を開こうとした、その瞬間口元をハンカチで押さえられた。
「ぐっ……ごぶっ……う"....」
睡眠剤を染み込ませたハンカチだ。今のアヤメに抵抗する力はない。無理やり吸い込まされ、意識が少しずつ遠のいていく。
意識が消える寸前、アヤメが見たものは恍惚と笑う彼女の姿だった。
アヤメの左手から鉛色のバンダナが滑り落ちる。
バンダナは風に煽られ、宙を舞った。少女はアヤメを背負い、建物を後にする。バンダナのことなど眼中になかった。
「最初からこうしておけばよかったかな」
────────────
「────────ッ」
目を覚ます。直ぐに周りを見渡した。大丈夫、ここは「ゲヘナ区第一公園」に立てたテントの中だ。
次に自分の腕に抱いている少年へ目を移した。こちらに体を向けて、静かに寝息を立てているアヤメがいる。
「あぁ…………良かった」
社長が家賃を払えず事務所を追い出され、いつもの公園へ仮設テントをたてて今日は野宿一日目。
耳を澄ませると社長の呻くような寝息が聞こえてくる。悪夢でも見ているのだろうか。
「………どんな夢だったっけ」
ただの夢か、悪夢か、はたまた正夢か。どちらにせよ、内容が思い出せなかった。
考えるのが面倒になってアヤメをより近くに抱き寄せる。腕枕ももう慣れたものだ。梳くように優しく頭を撫でながら、もう一度目を瞑る。
微睡みの中、「鬼方カヨコ」は願う。夢を見れるなら、アヤメと結ばれる未来を見せて欲しいと。
狂狼アヤメ
トリニティ総合学園からそう遠くない場所にある私立プリンチ中学に通う一般生徒。学年は三年生。
身長は147センチとかなり低め。どうやら彼には野望があるみたいだが、それがキヴォトスにとって害となるかはまだ分からない。
所持している銃は「ブラディス(モデルはM1911A1ガバメント)」。
実はもう一丁銃を所持しており、それは銃というより兵器なためいつも世話になっている武器屋に預けている。
実力はほぼ皆無、というより射撃精度が致命的なまでに終わっている(キリノよりはマシ)。
だがアヤメには三つ目の武器がある。それは腕力。彼の腕力は聖園ミカ百人相当。だが肉体が耐えられず、全力で拳を振るえば骨が砕け散る。(ワン・フォー・オールを受け継いだばかりのデクを参照してくれれば良いかと)
毒物にはめっぽう弱いぞ☆
下記がアヤメのヘイローとなっています。
【挿絵表示】