【悲報】超絶成金プレイヤー、異世界転移する【課金できない】 作:課金は家賃まで
現在ナザリックは防衛施設をフル稼働させている。この状態でも今後十年は稼働し続けることが可能だが、できる限り破産は避けたい。
ナザリックという組織を成り立たせるためには外征をせざるを得ないのだ。だが、立地が致命的に悪かった。前の世界で例えるならそう。ヨーロッパ統一国にポツンと取り残されたスイスのようなものだ。
ナザリック地下大墳墓の出現地点はアゼルリシア山脈のふもとにある森林の中だ。ここはスレイン法国領土のド真ん中なのである。スレイン法国は三百年ほど前に人間種―――人間に代表される、
これでは、たとえ一都市に工作を仕掛け、独立させられたとしても、その何倍の物量で押し切られてしまうだけだ。黎明華がいなければそのまま絶滅戦争に発展させられたかもしれないが、ヤツが相手方についている以上、その気になったら一瞬でこちらが負ける。
「やるのならば同時多発に、です。モモンガ様もご存じの通り搦手を用いなければアレに勝つことができません。そこで超位魔法〈
「…〈黒き豊穣の貢〉は大都市一つを壊滅させるに足るだけの威力を持ちます。それをパンドラズ・アクターと合わせて二発、亜人国家の国境付近で展開すれば…」
「亜人の領域と合わせて実質的に局所的な戦力優位を作り出せる、か。やはり初撃で混乱させた後の反乱工作しかないな……分かった。デミウルゴス、各都市の評価を頼む。その評価を基に、どの都市が離反した際に最もスレイン法国が痛手を負うか検証を行う。明日のこの時間、再び報告を聞かせてもらおう」
「かしこまりましたモモンガ様。ところでモモンガ様、よろしければパンドラズ・アクターをお借りしてもよろしいですか?彼の黎明華への分析には私も驚愕させられるところがありまして、できれば彼にも助力を乞いたいのです」
「もちろんだとも。パンドラズ・アクターに赤熱神殿に向かうよう伝えておく。それで良いな?」
「ありがとうございます、モモンガ様」
そう言って自身の領域へと転移したデミウルゴスと入れ違うようにして扉を叩くものがいた。特徴的なノック音だ。
「ああ。入れ」
「失礼します。モモンガ様」
マドレーヌ。彼女が持ってくる香はセンスがいい。時々アルベドやシャルティアから貰ったという香も焚いてくれるのだが、モモンガとしては彼女自身の選んだ香のほうが好みだった。かつてまだ幼かったころ、母親が洗濯してくれた暖かい布団のような香りが心地いいのだ。香り自体は人工的なもののため大して珍しくもないのだが、その香りはモモンガにとっては特別なものだった。
しかし、今日の香はそれではない。
「だが、ふむ。これもいいな…」
「はい。ヨトゥンヘイムで採れるエルダーフロストフラワーの香です。お気に召さなければすぐ取り替えますが…」
「いや。素晴らしい香りだと思ってな。ありがとう」
そう言い椅子に深く腰掛け目を閉じる。どうせベッドに入っても眠ることなどできない身だ。椅子で寝たっていいだろう。何も考えずぼーっとしていたモモンガだったが、突然メイドから声をかけられる。
「あの、モモンガ様。追加の香は必要でしょうか?」
「―――あ、ああ。もういいよ。楽にしていい」
気付けば既に数十分経っていたらしい。香炉の中身はすっかり灰になってしまっていた。
(時間が経つのは早いな…)
モモンガがそう思うのも無理はない。モモンガの体感では、まだ目を閉じてから数分しか経っていないのだ。まるで矢のように時間が過ぎていた。これは……久しく忘れていた睡眠の感覚に似ている。
心なしかスッキリとした心持ちで報告書に目を通す…
…報告書の内容は理解しやすい。恐怖公たちに無理を言って、報告書の文体を分かりやすいものに変えてもらったのが良かった。おかげで内容がスッと頭に入ってくる。
都市の地図に目を通した後、モモンガはふと思い立って、隣にいるメイドに質問をしてみることにした。
「……なあマドレーヌ」
「はい。何でしょうかモモンガ様?」
「もしもこのギルドが滅んだら、残されたシモベたちはどうなるんだろうな」
「うーん……それは私には分かりかねますが…」
「…それでも、きっと最後までモモンガ様にお仕えしますよ。それがナザリックのシモベたちの総意です」
「そうか。そうだな」
モモンガは決意を新たにし、紙の山脈に戦いを挑むのだった。