俺の脳内選択肢が全力で修羅道に導いてくる 作:修羅
俺はあっけなく人生を終えた。
高校二年生。まだ何も成し遂げられないまま、病弱な身体に縛られ続けた末のあっけない幕切れ。両親だって妹ばかりを可愛がり、俺の方はまるで空気だった。いろいろ諦める間もなく、あっさりと死んでしまった。
目を覚ますと、そこは純白の空間。妙に神々しい雰囲気の可愛い女性が、椅子に腰掛けて俺を見下ろしている。彼女は不思議なほど生気に満ちていて、俺の疑念を見透かしたかのように口を開いた。
「はい、はい。要するに君を異世界に転生させるってこと。で、お決まりの特典をあげるけど、何が欲しいの?」
「いや、展開が早くない?」
「日本人だろ? 異世界転生は理解しておけよ」
「日本人に対して期待しすぎでは?」
これは、よくある異世界転生パターンに似ている。だが、流石にそんなファンタジーチックなことはないだろう。つまり、これは俺の夢なのだろうか?
「夢じゃないよ、これは本当に現実。君は死んでしまった。だから、神である私が異世界に転生させてあげると言っているんだよ」
「え……マジ?」
「マジ」
これは、本当に現実なのか? でも、流石に非現実的であると思ってしまうし。だが、死んだのも本当だ。死んだ時の生々しい記憶が脳裏に焼き付いている。
「それで? そろそろ冷静になれた? ほれ特典をどうする?」
「……異世界特典ってやつか」
「流石オタクは順応が早いね。それで特典は?」
「……強くなりたいかな。弱かったら何も出来なそうだし」
「おーけー。
「え、もうちょっと考えさせて……」
こうして呆気なく約束が交わされた――本当にこれが転生? 死の間際に見る夢ってわけじゃないのか。オタクの妄想なのか、何もかも曖昧なまま、俺の意識は再び遠のいた。
──選べ
『魂が熱く叫ぶままに……剣の素振りを千回やる』
『魂が燃え上がるままに……剣の素振りを一万回やる』
なに、この強制的な選択肢。聞いてないって!
◇ ◇ ◇
転生先は「ガルド帝国」という大国らしい。でも、両親はいなくて俺は孤児院に預けられている。さらに厄介なことに、脳内には頻繁に選べなんて声が響いてきて、ものすごいトレーニングを押し付けてくるんだ。
──選べ
『素振りを千回するまで休憩は一切禁止』
『気分転換と称して全裸で踊り狂う』
こんな感じで俺の脳内には強制的に選択肢が現れる。この選択肢が現れている間は周りの動きは止まり、俺も動けない。俺が提示された選択を選ぶとようやく動けるようになるのだ。
そんでもって、あまりにも選択肢がピーキーすぎる。当然、俺は仕方なく素振りを選ぶ。だけどこれが地獄の始まりだ。選んだら最後、中断は一切できない。手の皮が剥けて血塗れになろうが、剣を振り続けるしかない。
しかもこの選択肢実質上の一択だろ!! どうやったら下を選ぶんだよ!!!
この選択肢毎回、提示がぶっ飛んでるし。絶対に俺にトンデモないトレーニングを課してくるのである。
はい、素振りやります!!!!!!
「くそが」
現在俺は4歳、ここは孤児院なので他にも子供はいる。でも、俺みたいに剣を振る輩なんて居ない。そんな中で俺みたいなのが居たら浮く……なんてレベルじゃ無い。
恐れられるに決まっているのだ。前世から病室育ちで人間関係の作り方など知らない俺はコミュ障だし、余計に孤立している。
「……」
無言で素振りをする俺……そんな様子を見て全員が引いてる……俺だって辞めたいよ。こんな疲れることはさ。
あと、これ一度選択すると絶対に途中で止めることができなかった。マジでクソすぎて、腹立つわぁー。
何が転生特典だよ!! ふざけやがって、こっちは手の皮が擦りむけても一生素振りしてるんだぞ!! 血だらけなんだぞ!!
「やっぱりライヴァンって子、なんか怖くない?」
「手が血まみれなのに、ずっと振ってるし……」
おっと、聞こえてるぞ。心はガラスなので勘弁してほしい。ここでの俺の名前はライヴァン。黒髪というこの世界では珍しい要素もあって、どうやら悪魔と同じ特徴だと忌避されがちなようだ。
もうこれ、ぼっちでは!? ぼっち絶対強制されてない!?
もう、ぼっち街道を突き進めと神様が言っているじゃ無いだろうか?
おいクソ神、なんとかしろ。俺に異世界俺強ぇぇぇ生活をさせてくれ。そうは祈っても意味などないのである。
「……手から血が出てるよ。大丈夫?」
そんな俺の過度な訓練、最悪の容姿にも関わらず声をかけてくれる優しい子も居るのだ。異世界とは素晴らしい。病室でほぼぼっちで心配してくれる人など居なかった身からすると天使みたいな子だ。
「……」
あ、ごめん。選択肢が終わるまでは辞められないんだよね……。せっかく心配してくれているのにごめんねぇ。
栗色の輝かしい髪色、肩ほどまで伸びた髪はショートボブみたいになっている。少し薄い紅色の美しい瞳。鼻はスッと引き締まり、肌も綺麗で超がつくほど可愛い女の子。
孤児院でも1番男子人気のあるティルファって名前の子だ。歳は同い年の4歳である。まぁ、可愛いけど、子供なので恋愛的な感情とかは一切ない。
「あ、て、手から血が……」
「……」
あ、ごめん。まだ素振り500回しか行ってなくて……俺の手から血が出ているから心配してくれてるんだね、ティルファは優しい子だ。孤児院で1番人気なのも納得ができるぜ。
俺も超絶手が痛い!!! ものすっごく痛いけど、どうにも出来んのよ!!
選択肢が無理やり……
「血、血が出てるって……」
すごい心配してくれてる……すまん! あと、487回素振りしやたら終わるから!!!!
──こんなんじゃ、異世界でもぼっち確定よ……
◾️◾️
あの子はいつも、剣を振っている。
手から血が出ても、吐瀉物を体から出しても、雨の日でも、晴れている日でも。彼はいつでも、いつまでも剣を振り続ける。
孤児院に居る中で彼は浮いている。当然と言えば当然なのだけれど、あれだけ剣を振っていれば嫌でも他者とは縁遠くなるだろうに。
「ティルファ! あそぼ!」
「うん!」
私は4歳。彼も同い歳だ。私は物心つく前に両親に捨てられ孤児院に来た。両親の記憶は全くないから、別に悲しいとかはない。
この孤児院には全てがあったから、優しい家族も、友達も、美味しいご飯や知識を高める本も。
魔法を使えるようになる本だってあった。
私は両親に捨てられたことを悲しいとは思わない。だけど、焦っては居たのだろう。この孤児院がなければ自分はきっと、生きることなどできなかっただろうから。
死んで、腐って、塵になるしか未来はなかったのだから。
だから、本を読んで学んでいるのだろう。生きるために。死なないために。
──だから、彼もそうなのかと思った。死にたくない衝動、生きたいという焦り、だからひたすらに彼は強さを求めている。
今度は自分一人で生きていけるように。いつまでも孤児院に居ることなど出来ないのだから……
「あ、血が出てるよ」
「……そうか」
彼は口数が少ないタイプだ、目も合わせない。それが浮いている原因でもあるかもだけど、黒髪だってその要因かもしれない。彼は悪魔と同じ特徴を持っている。
世界を混沌に陥れた、『虚無の悪魔』それと全く同じ特徴だ。こんな狭い箱庭でも彼は一人ぼっち。
もし、孤児院の外に出たら彼は頼れる人がいないから今あんなにも狂ったように剣を振っているのかもしれない。
「ライヴァン、大丈夫?」
「……当たり前だ」
「手、治さなくて良いの」
「……問題ない」
そう言って彼はまた剣を振り始めた。
「俺の魂が……叫んでいる。もっと力を……」
彼はそう言った。力を求めている、彼を見てなぜか、目を離すことは私は出来なかった。
そして、ここから彼とは長い付き合いになることになる。
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