俺の脳内選択肢が全力で修羅道に導いてくる 作:修羅
「や、やや、ややや、やっと終わった……」
夕暮れの孤児院の裏庭。背丈ほどの木剣を握りしめ、息も絶え絶えに膝をつく。もはや指の感覚はない。選択肢が終わるまでに要した時間は数時間、合計素振り数はおそらく千を軽く超えている。
本当は痛みで泣き叫びたい!! やめたいと何度も思った!!
だが──この訳のわからない選択肢が脳内に響く以上、俺は強制的に体を動かされる!!!!
選択肢は基本的に終わるまで強制なのだ。いや、勘弁してくれって。厳しいって!!!
「ライヴァン、大丈夫?」
心配そうにこちらを覗きこんでくるティルファ。ショートボブの髪が夕日に照らされ、柔らかそうに揺れている。彼女の瞳は純粋な好奇心と憐れみ――いや、若干怖がっているかもしれない。
俺が怖がられてるのは……仕方ないよなぁ。
俺だって、手の皮がズルズル剥けて血を流したまま必死で素振りしている子供がいたら、かなり引くと思う。しかも、選択肢が終わるまでは無言で剣を振り続けるしかないから、周囲には一心不乱に修行する狂信者みたいに見えるはずだ。
「……平気、慣れてるし」
何ともいえない間が空く。実際は慣れていないし、痛みも熱く感じる。でも、下手な言い訳をすればするほど不審がられそうだ。どうせ周囲からはもう十分不審者扱いされているわけだけど。
あと、前世だと病気でずっと病室だったからコミュ障なのですが?
「……ならいいけど」
「俺は大丈夫だ」
「……大丈夫、なんだ」
ティルファは少し安心したような、しかし複雑そうな顔をしている。俺としても変に気を遣わせたくない。ああ、気まずい。気遣い系美少女(幼女)に心配されるなんて、今までの人生ではなかったからどう対応していいかわからない!!
それと君は子供だからね、そんなに気を使うなよ。
「……あ、えっと、これ……」
彼女が差し出してくれたのは、小さなハンカチ。自分で洗濯したのか少し色がくすんでいるけれど、所々に可愛い刺繍が施されている。俺は傷だらけの手を引っ込めるべきかどうか逡巡したが、結局断るのも悪いと思い、素直に受けとった。
──選べ
『こんな布切れなど不要。目の前で切り裂く。切り裂くだけは生ぬるい、それを目の前で焼き、その布の灰を集めて木に投げつけ、枯木に花を咲かせる』
『ふん、礼など言わんぞ(ベジータ風に言う)』
おい、実質下の強制やめろって!! こんな良い子なんだから、上の選択肢どうやって選ぶんだよ!! ふざけるなよ!!! しかも後半花咲か爺さんみたいになってるじゃねぇか!!!
これ下を選ばせたいだけだろ!! 選択肢のくせに妙な自我があるような提示をするなよ!!!
そんでもって、ベジータ風!? ドラゴンボール好きなんだな!?
「ふん、礼など言わんぞ(ベジータ風)」
「うん。私が勝手にしてるだけだから」
おい、こう言うセリフはそれが似合うキャラが言うから良いのであって、俺みたいなガキが言っただけじゃただの嫌味だろうが!!
まぁ、取り敢えず受け取ったけどさ。子供の持ち物を血まみれにするのは気がひけるけど、俺の手を見て少し目をそらしながらも「いいよ」と言ってくれるティルファに胸が痛んだ!!
良い子すぎるよ。選択肢がごめんねぇ
くそ、こんな優しい子がいる世界なら、もっと普通に交流していたかった……
そんな後ろ向きな考えを抱えつつ、俺は裏庭から孤児院の建物へ戻っていった。しかし、孤児院に戻った瞬間、周囲の視線が突き刺さるように集まる。
「あ、あいつ……今日も血まみれになりながら剣を振ってた……」
「悪魔みたい……やっぱり黒髪だし、不吉じゃない?」
ほら来たよ。耳を塞ぎたい。血潮は鉄じゃないけど、心がガラスなんだからやめてくれ!! なのにどうにもその声ははっきり聞こえてしまう。
しかし、ここで顔に出したりすると強面フェイスも相まって余計にビビらせてしまうかもしれない。一人で部屋に戻って体を休め……
──選べ
『トレーニングのしすぎで極限の体をさらに追い込むため、今から夜通しでランニングをする』
『孤児院の廊下で華麗なバク宙十連発を披露し、周囲をビビらせる』
……嫌だ! どっちも嫌だ!
なんだよ、このトンデモ選択肢。夜通しランニングしたら確実に倒れるだろ……でも後者のバク宙なんて、成功しても異常者扱いが加速するだけじゃなく、失敗したら大ケガだ。しかも廊下は狭い。絶対に危ない。
ま、まぁ、上ならまだ……でもこれ上しか選べなくね? だから実質選択肢の強制辞めろって言ってるのに!
はぁ、夜通しでランニングでもしますか!!!
とりあえず今夜は眠れなさそうだ。なんて不幸な転生人生だろうか……彼女とか可愛い彼女とか、出来ないかなぁ!
──深夜。孤児院の子どもたちが眠りにつき、周囲に人気がなくなった頃。
「はあ、はあ、はあ……」
月明かりだけを頼りに、孤児院の敷地から出て人気のない街道を一人で走り続ける。霧がかったように視界がぼんやりするが、足だけは止まらない。止まりたくても止まれない。冗談じゃない。
汗が噴き出し、脈打つ心臓は限界を訴えている。こんな小さい子どもの体にこの負荷は絶対やばい。呼吸が苦しくて、頭もふらつき始めて……。
ちくしょー! マジで厳しいって!!
けれど足はまるで意志を持つかのように自動運転だ。きっと朝日が昇る頃にはもう体がボロボロになっているだろう。孤児院に戻って来た頃には、さらに周りからのあいつやべえ奴だという評価が固まること間違いなし。
翌朝。孤児院の門を開けて入って来た俺の姿を見つけた子どもたちは、悲鳴にも似た歓声を上げた。
「うわっ、ライヴァン、何やってんだ!?」
「朝帰り!? しかもすごい汗……どこかで修行してたの? 本気で怖いんだけど……!」
俺だって怖いわ!! と叫びたいところだが、声もまともに出ない。足がガクガクだ。それでも、みんなからは「やっぱりただ者じゃない」「あの悪魔染みた黒髪は伊達じゃない」と勝手に評価されていく。
そんな評価を聞きながら俺は瞳を閉じた。
◾️◾️
また、ライヴァンは朝孤児院の入り口に倒れていた。全身からは汗を大量に流し、死んだように目を閉じていた。
彼の自身への体への負担の掛け方は日に日に大きくなっている。誰が止めても、止まらない。自分でも止めることができないように彼はひたすらに己を鍛えている。
なぜ、そこまで……
何がそれほどまでに。彼を掻き立てるのだろうか。孤児院でたった一人浮いてしまったとしても、それでも彼は止まらない。
私は勘違いをしていたのかもしれない。彼は臆病だから、強くなりたいのだと思っていた。自分と同じで生きるための術を得るために強くなろうとしているのだと。
だけど……彼は違うのかもしれない。強くなるための理由などない。ただ、強くなりたいのだと。
只管に強さを求めているだけなんじゃないかと。
「ママ」
「どうしましたか?」
孤児院の私達の面倒を見てくれている、両親のような存在。
ママ。
ママはライヴァンをどのように評しているのだろうか。子供が危ないことをしようとしていたら彼女は止めている。泣けば子に寄り添う姿をいつも私は見ている。
「ママ、ライヴァンはどうして、強さを求めるのかな?」
「……さぁ、ママにも分かりません。でも、彼は……強くなりたいのでしょうね。それだけは分かる。手から血を流しても彼は剣を振る、振り続ける。血が雨のように地面に落ちているのに」
「ライヴァン……あんな感じで大丈夫かな」
「……ああ言う子は孤児院でもたまに現れます。私も昔孤児だったから、その時同じような子がいました。その子は復讐のために剣を握っていました……でも、その子よりもライヴァンの方が執着があるように見える。強くなると言うことに」
ママは何も言わずに、私の頭を撫でた。そして、ママの部屋に立てかけられている一枚の写真をなんとも言えない表情で見つめた。
写真には小さい時のママと、一人の男の子が映っていた。
「……ルキ」
ママは何か呟いたようだったけど、多分追求しない方がいいのだと思った。ママと話を終えて、
外に出た。また、ライヴァンは剣を握っていた。
一人ぼっちな彼を見て、なんだか、私が寂しくなった。
需要があれば続けていこうと思っていますので、面白ければ感想、高評価で応援お願いします!!