エルピス一行がホテルに来訪する前の時間軸。
※2025.3.10.改題しました
「ビッキーちゃん、何書いてるのぉ?」
深夜の事務所には場違いな陽気な声が響く。
ニユロハスが扉の向こうから顔を覗かせている。
「招待状ですよ。ボスから代筆を言いつかってまして」
机から顔を上げ、ヴィキディテが振り向く。
「招待相手への手紙くらい自分で書けばいいのにねぇい」
「自分で書いたらどうしても煽る感じになってしまうそうで……」
苦笑するヴィキディテの隣の椅子にニユロハスが腰を下ろす。
「それってボスと揉めた子のことぉ?」
「そうです。エルピスという方と、そのお連れ様達ですね」
「ふぅん」
書きかけの手紙に視線を落としながらニユロハスが呟く。
「変だよねぇい。シスルちゃんみたいに、その場でスカウトして連れてこないなんてぇ」
「ボスと同じ『奏鐘士』だからでは?」
「そんなこと気にするタイプじゃないと思うよぉ」
「それはまあ……そうかもしれませんね」
しばらく見つめ合う二人。
「もしかすると『ゲートキーパー・チャレンジ』なのかもしれないねぇい」
固まるヴィキディテ。
ニユロハスは淡々と続ける。
「他に何か言いつけられてない?」
「そういえば、最高級の薔薇を切らさないようにしろと言われました」
答えるヴィキディテの声がだんだん小さくなっていく。
「ラガン君はいつ頃戻るか聞いてるぅ?」
「いえ、近いうちにとだけ」
「タイミングも絶妙だしねぇい」
ゲートキーパー・チャレンジ。
ホテル・エルシアムのオーナー、スティーノスが目をつけた人材を選抜育成するための舞台。
「そっかぁ……」
ニユロハスがヴィキディテの頭に手を伸ばし、抱き寄せる。
「ライバル、また増えちゃうねぇい」
「……はい」
「あんな男、好きにならなきゃ良かったよねぇい……」
「まだ起きてたのか?肌が荒れるから、酒はほどほどにしておけよ」
事務所を出たニユロハスにスティーノスが声をかけてくる。
「……本当に、どこが良かったのかなぁ」
「何の話だ」
「女心はボスには難しいって話だよぉ」
「意味がわからん」
ふん、と鼻を鳴らすスティーノス。
「砂漠の国でやり合った子をエルシアムに招待するらしいねぇい」
「耳が早いな。ヴィキディテからか」
「ボスの目に止まった相手のことは知っておきたいからねぇい」
話しながら、ニユロハスがさり気なくスティーノスの表情を覗き見る。
「別にそんなつもりじゃない。仕事を邪魔されたお返しがしたいだけだ」
「ふぅん」
仕事を邪魔した相手の話をしてるはずなのに、どこかスティーノスは楽しそうだ。
「……ねぇ、今からどう?」
ニユロハスがスティーノスの耳元で囁く。
「駄目だ」
スティーノスは素気なく答える。
「疲れてる?」
「今夜は気分じゃない。お前も早く寝ろよ」
浮かれた足取りで歩み去るスティーノスを見送りながら、ニユロハスは呟いた。
「本当に、好きにならなきゃ良かったよぉ……」