ヴィキディテとスティーノスがエルピス一行の部屋を退出してすぐ。
「あいつはどうだった」
廊下の先を歩きながら、振り向きもせずにスティーノスが問いかける。
「エルピス様ですか?」
小走りで後を追うヴィキディテ。
「他に誰がいる。率直に答えろ」
口ぶりこそぶっきらぼうだが、その声に険はない。
むしろ、いつものスティーノスより上機嫌でさえある。
「変わった方だとは思いますが……」
その雰囲気に、ヴィキディテもつい本音を漏らしてしまう。
(なぜあの人なんですか)
特別な才能を持っているからこそスティーノスが招待したのは分かる。
しかし、その才能が何なのかヴィキディテには分からない。
「私にはそれほど腕が立つようにも見えませんでした。何がボスの目に止まったんでしょうか」
思わず不満がヴィキディテの口をついた。
その言葉が終わらないうちに、スティーノスの足が止まる。
(しまった)
エルピスはスティーノスが直々に招いた相手だ。
好意を持っている相手を貶されて気分を悪くしない者はいないだろう。
「……あいつの才能は剣じゃない」
背中を向けたままスティーノスが呟く。
「砂漠の国で覚えた舞踏でもない。奏鐘士だからでも、連れてる応答者の能力でもない」
「それなら……」
「あいつの才能は『諦めの悪さ』だ」
ヴィキディテの問いかけを遮り、スティーノスが振り向いた。
その視線はどこか遠くを眺めているようにも見える。
「自分はちっぽけな力しか持たないくせに、いつまでもしつこく足掻きやがる。その姿に感化されて、周りに勝手に協力者が増えていく」
(それは)
スティーノスは誰の話をしているのか。
それは彼自身の話ではないのか。
「機械の国、科学の国、植物の国、砂漠の国。顔を合わせる度に連れが増えていて、自分じゃ出来ないことまで成し遂げて」
無人島を買い、ホテルを立ち上げ、多くのスタッフを雇用し、世界有数のレジャーランドにまで育て上げて。
「癒術士、侍、絵描き、魔法使い。料理人に踊り子。モンスターまで連れていて」
くくかまる、ラガンケイル、ニユロハス、ヒュチュカ。ヴィキディテにスタッフ達、モンスター達を連れていて。
「初めて会った時は世界鐘も2つしか鳴らしてなかったのに、今では俺と肩を並べてる」
今ではお互い最後の鐘を鳴らそうとしている。
(……ああ、そうか)
やっとヴィキディテにも理解できた。
スティーノスはエルピスをライバル視している。
もちろん本人は認めないだろうけれど。
「どちらが上なのか、ここらではっきりさせてやらないとな」
「そのための世界鐘なんですか」
「そうだ」
先に鐘を鳴らしてしまえば自分の方が上だと簡単に示せるのに、そうしないのはエルピスと勝負がしたいのだろう。
子供っぽくもあり、男らしくもある。
(そんなところが……)
語り過ぎたと思ったのか、急に顔を背けてスティーノスが歩き出した。
「お前達ゲートキーパーにもひと働きして貰うぞ」
少し怒ったような声は照れ隠しだろうか。
「ウィ、ボス」
置いていかれないよう、ヴィキディテも走り出す。
(負けないでくださいね)