ヒュチュカとスティーノスがエルピス一行と合流するまでのやり取り。
「そうか、チャレンジは3つとも失敗か」
ゲートキーパー達からの報告を聞いて愉快そうにスティーノスは笑った。
「それなら激励に行ってやらねばならんな」
その言葉に、ついヒュチュカが口を出す。
「また?一昨日も煽りに行ってたじゃない。溜まってる書類を片付けなさいよ」
「あれはお客様への挨拶だ」
ムッとした顔でスティーノスがヒュチュカを睨む。
「この程度で諦められてしまったら大変だからな。やる気を出して貰わんと困る」
「嫌味しか話すネタがないわけ?」
そっぽを向きながらヒュチュカが悪態をつく。
(あいつが欲しいなら、いつもみたいに正面から口説けばいいじゃない。何怖がってるのよ)
本当はヒュチュカにも分かっている。
スティーノスは自分に自信を持てていない。
だからこれまでプロデューサーに徹して、自ら舞台に立つことをずっと拒んできた。
(それなのに)
エルピスのゲートキーパー・チャレンジを自分の初舞台にするという。
チャレンジに成功した達成感と高揚感でエルピスにスカウトを了承させるつもりなのだろう。
あえて自分を敗者にしてまで。
(そんなの、まるで脇役じゃない)
ヒュチュカも他のゲートキーパー達も、みんなスティーノスを主役にするためにエルシアムをここまで盛り上げてきた。
付ききりでスティーノスの喉を診てきたのも、いつか本人から舞台に立つと宣言する日が来ると信じていたから。
(なのに、私達じゃ何が足りなかったの?)
口を出かかった言葉を飲み込んで、再度ヒュチュカが悪態をつく。
「あいつのどこがそんなに気に入ったのかしらね。まだシスルの方が才能あるんじゃない?」
「シスルは確かに天才だ。だが、エルピスにもまた別の才能がある」
スティーノスの表情がほんの少し緩む。
その小さな変化がヒュチュカには許せない。
「俺ならあいつの才能を開花させてやれる。今のままだと宝の持ち腐れだからな」
「とてもそうは思えないけど」
「……お前には分からん」
説明でも言い訳でもない、素っ気ない返事。
これはスティーノスが話を打ち切る時の合図だ。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
部屋を出ようとするスティーノスの上着の裾をヒュチュカが掴む。
(ああ、もう)
ニユロハスやヴィキディテなら立ち止まらせることくらいは出来たかもしれない。
けれど、小さなヒュチュカの力ではスティーノスをどうにも出来ない。
(もし私が妖精じゃなかったら)
スティーノスの背中を追いかけながら、ヒュチュカは考える。
(あんたを振り向かせることが出来たのかしらね)