異世界転生したら岐阜だった   作:金木桂

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居候→動画編集者

 

 

 一通り話を済ませると遊由とリヴィアは探偵事務所を出た。リヴィアはサラの傍にいたかったようだが、そもそも外に出る服が無いためまずはそちらを優先する形である。

 駅前のインスタントファッションチェーンで適当に見繕う。リヴィアはあまり服装に拘らないタイプのようで、動きやすく無難で廉価な服を3セット、それから下着を購入。

 

「使ったお金は必ずお返ししますので!」

「あ、あまり気にしなくていいですよ。困っていたらお互い様です」

 

 遊由の懐の広さに感服の念を抱きながら帰路に就く。

 部屋に着くや否や早速着替えようとするリヴィアに遊由はつい目を逸らす。前世から根付いた本能的な行動である。

 

「むぅ……ちょっと小さいですね」

 

 リヴィアはブラの着用に苦戦していた。チラリと見ればブラのカップサイズがどうもリヴィアな豊満な双丘にフィットしていないようだった。思わず遊由は自身の胸に手を当てる。小さい。

 

「……後でもう少し大きいもの買いに行きましょうか」

「某が大きいばかりにかたじけないです」

 

 項垂れると、それまで無理矢理ブラに収めようとしていた胸が解き放たれて微かに上下に弾んだ。再度遊由は目を逸らすのであった。

 そうする間に昼ごはんとしては少し遅めの時間帯になったため再度服を着たリヴィアとパスタを食べると、遊由は申し訳なさそうに口を開いた。

 

「あのリヴィアさん、実は私午後から大学に行かなきゃいけないのでお留守番をお願いできますか?」

「だいがく……ですか?」

「ええと、学術的に専門的なことを勉強できる学校です」

「ほう! 遊由殿は研究者であったのですね!」

 

 案の定勘違いしたリヴィアは憧憬の眼差しを遊由に向けた。

 慌てて首を横に振って否定する遊由。

 

「全然違います! 学士課程だしまだ一年生だから研究なんてしないんですよ」

「それでもそういった学術機関に入れるのは一握りのはずです! そんな場所で学問の勉強をしている遊由殿は凄いと某は思います!」

「あはは……」

 

 遊由の口から乾いた笑いが出た。

 大学全入時代と言われ始めて早10年、遊由が通う大学は国立大学のためそう簡単な大学ではないが超難関というわけでもない。ここまで持ち上げられると普通に気まずくなる。

 

「リヴィアさんはこれからどうしますか」

「某は一旦姫様の下へ行こうかと思います」

「分かりました。ではこれを渡しておきますね」

 

 遊由は使っていない合鍵と5000円をリヴィアに渡した。合鍵は言わずもがな、現金は何かと入用になってくるだろうという予想から一先ず手元にある金銭を遊由はリヴィアに与えることにしたのだ。

 

「ありがとうございます。では某はこれから探偵事務所に行きます。夜までには戻りますね」

「はい。今日は私、大学だけなので夕飯を準備して待っているので」

「はい!」

 

 元気よく飛び出していったリヴィアを見送りながら遊由も大学へ向かう身支度を始めた。

 

 

───10月6日 13時52分───

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 それから一週間経つと、遊由はリヴィアとの共同生活にも慣れてきた。

 リヴィアは最初の2日こそ朝から晩まで惣介の探偵事務所に通っていたのだが、サラから「妾は今後この探偵事務所で惣介と共に働くつもりじゃが、お主はずっとそうやっているつもりかのう? え、一先ず現状維持で良いじゃと? 遊由に迷惑かけっぱなしでヒモとは……主として嘆かわしいのじゃ」と呆れられてしまい、心を入れ替えて次の2日は朝に行くのは止めて街を放浪して職を探すようになった。だが住居はあるとはいえ身分証がないリヴィアでも可能な仕事がそう易々と見つかることも無く、リヴィアからアドバイスを求られた惣介も「マイナンバーも健康保険も免許証も無しで仕事となると……合法的な仕事は難しいだろうな。大阪まで出れば西成ならそういう日雇い労働がまだあるかもしれないが、ここから通うことを考えると難しいと言わざるを得ないしなあ……まあ俺も何か条件に当てはまるのがあれば紹介するよ」と同情的に告げた。

 

 意気消沈したリヴィアは直近3日間は昼まで寝ては岐阜市内を歩き回る日々を送っていた。この頃になるとサラは本格的に惣介の仕事を手伝うようになり、そのリヴィアがサラの周りをウロウロとしていれば「妾は大丈夫じゃし……というかリヴィア、ぶっちゃけ邪魔じゃ。そう頻繁に来るでない」と拒否されてしまい、肩を落としながら商店街や長良川の河川敷を歩く日々を送っていた。

 

「仕事……ですか」

 

 これまでは戦うことこそがリヴィアの仕事だった。しかしこの平和な世界では日本刀を使って敵を屠るような職業はないようだとリヴィアは数日前に惣介から聞いていた。国を守る組織という観点からすれば自衛隊がリヴィアの前の仕事と一番近い職種らしいが、昨今は人手不足に喘いでいるとはいえ身元不明人を雇うほど自衛隊は甘くない。それに寮暮らしはサラと離れてしまうためリヴィア的にもNGである。

 となると残りは警備員やボディーガードとなるが、それもやはり本人確認書類の問題で駄目だ。一般的な職業はやはり異世界人のリヴィアに対して厳しい。

 

 その日の夜、リヴィアは遊由にも聞いてみることにした。

 

「遊由殿。実は某、最近はずっと仕事を探しておりまして……しかしマイナンバーカードなる代物を作ることが出来ず見つからないのです。無理を承知で言うのですが……何か某でも出来る仕事を遊由殿から紹介いただくことは可能でしょうか?」

「仕事……ですか?」

「はい。身分証明書不要なものでお願いします」

「そうですね……」

 

 悩まし気に手を当てると、遊由は思いついたように目線を上げた。

 

「リヴィアさん、動画編集やってみますか?」

「動画……編集でしょうか?」

「取り敢えずこれ見てくれますか」

 

 遊由はスマホを取り出して、動画サイトのチャンネルを見せた。

 チャンネル名は『成風ゆゆみch』と書かれており、動画が何本も並んでいる。この数日間の生活でリヴィアは個人で動画をアップロードできるインターネット上のサイトがあり、そこで上げた動画が沢山の人から見られると金銭を得られるということを知っていた。

 

 遊由が適当な動画を一つ選択すると、可愛らしい二次元の少女の立ち絵が動きながら、小気味なトークと共になにかゲームをしている。

 

「これはVtuberと言うんです。こうやってゲームしたり雑談をして、視聴者の方を楽しませるんですよ」

「ぶ、ぶいちゅーばー……ここではこういうものが人気なのですね」

「ま、まあ言ってしまえば」

 

 垂れ流しにされた動画を不思議そうに見るリヴィアに対して遊由は曖昧に頷く。

 

「で、このチャンネルは私のものなんですが、有難いことにチャンネル登録者が20万弱ほどいるんですよ。それでリヴィアさんには切り抜きチャンネルをお願いできれば有難いなぁと」

「あの、切り抜きとは何でしょうか?」

「配信のハイライト……面白い部分を文字通り切り抜いて、10分前後で纏めた動画のことです。最近人気が出てきたのに伴って勝手に切り抜きされることが増えてきて、切り抜き動画の収益も馬鹿にならないので余裕があれば公式でやりたいと思っていたところなんですよ。お金も私がリヴィアさんに直接払うので身分証明書も必要ありません。」

「な、なるほど。分かりました、では某にその仕事をやらせてください!」

 

 リヴィアは取り敢えず頷いた。

 内容こそあまり理解していなかったがこの機会を逃すのは良くないと判断した結果である。

 遊由はそのリヴィアの言葉に手を握った。

 

「ホントですか! ありがとうございますリヴィアさん! ではまずは動画編集ソフトの操作を学ぶところからですかね。手始めにaviutlを……いやそろそろ無料ソフトは辞めてこれを機にAdobeのプロ版に変えるべきかな……」

「は、はあ……」

「あ、でもリヴィアさんの場合パソコンの操作方法からですよね」

「そうなのですか……?」

 

 ぶつぶつと独り言をつぶやく遊由にリヴィアは乾いた笑いを浮かべた。一週間暮らした上で遊由のこういう面を見るのは初めてだった。

 徐々に独り言の深度が上がり、やがてリヴィアの理解が及ばない領域へ達すると、手持ち無沙汰になってリヴィアは目を泳がせる。徐に配信動画が再生されっぱなしで机に置かれた遊由のスマホを見た。

 ……あれ、これはいつ撮っているんでしょう?

 

「この配信……? というのは何処で撮っているんですか? 某と一緒にいるときは少なくともやられていないですよね?」

「ああ、それなら配信部屋を別で借りているんです」

「配信部屋?」

「この家から2分の場所にマンションがもう一部屋借りているんですよ。普通の部屋で配信したら近所迷惑ですからね」

 

 リヴィアは目をぱちぱちと瞬かせて遊由を見る。

 

「それはまた……豪勢ですね」

「仕方ないんですよ、ここ軽量鉄骨造だから防音も遮音も大したことないですから。配信するならSRC構造は求めすぎでもRC構造くらいは欲しくて。実家の部屋みたくこの部屋で防音シートとか遮音シートを壁のあちこちに貼ることも考えたのですが、やっぱりそれじゃ不十分そうだったので一部屋借りることにしたんです」

「そうだったのですか」

「騒音問題は配信者とは切っては切れないものですからね。では一先ずパソコンを触ってみましょうか」

「今からですか? 分かりました! 某、やってみます!」

 

 その言葉に頷いた遊由はリビングに置いていたノートパソコンを取り出すとリヴィアに渡す。ネットサーフィン用のノートパソコンであるため編集に耐えうるスペックは有していないものの、それでもパソコンに慣れる用途では十分な代物だ。

 リヴィアは高価な陶磁器でも触るかのような手付きでノートパソコンのキーボードを触った。地味にパソコンに触れる機会がなかったリヴィアにとって緊張の瞬間である。

 

「大丈夫ですよ、壊れませんから」

「は、はい!」

「電源はこのボタンです。押してみてください」

 

 指示された通りリヴィアは側面にあるボタンを押した。

 画面が点いた。目を白黒とさせながらOS起動画面を眺めていればデスクトップ画面が起動する。

 

 次にブラウザやテキストエディターを開いた。ブラウザに関しては家にあるタブレットと使用感が似ていたために問題無いが、課題となるのはやはりローマ字入力だ。

 ブラインドタッチ以前にリヴィアはローマ字が分からない。つまりまずはそこから学ばねばならないわけだ。

 

「これは難しい……某に出来るでしょうか……」

「慣れですね、まあ。まずはローマ字から学びましょう」

「わ、分かりました」

 

 その後、1時間ほどパソコンを操作したが分からないローマ字や規則性の無いキー配列に苦戦して全然上手く扱えない。

 その短い時間で見事にパソコンに対する苦手意識を身に付けたリヴィアであった。

 

 

───10月13日 21時23分─── 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 リヴィアは5日間、必死にパソコンに慣れるためにタイピング練習を行った。

 その傍らで動画編集の方法も遊由から教わって一本をなんとか仕上げたりもした。拙い動画であったが、ローマ字も知らない上に慣れないツールを使用して作り上げた割には上出来だと遊由からはそこそこ好評である。

 

 ───しかし性に合わない。

 1日10時間。ここ最近のリヴィアの作業時間だ。

 椅子に座ってパソコンに向かって只管動画ファイルを0.1秒単位でカットし、無料の効果音を付け、慣れないローマ字入力で字幕を付ける作業にリヴィアは早々に嫌気が差してしまった。

 要するにリヴィアはストレスを溜めていた。

 

(遊由殿には悪いですが……某ちょっとこれは無理ですね。この一本を作ったら別の仕事が無いか聞ききますか)

 

 そもそもリヴィアは肉体派だ。身体を目一杯動かすことは得意なれど、こういう作業はあまり好きじゃないのである。

 

 その日も動画編集に1日の大半を注ぎ込み、根性で8分ほどの動画を一本作り終えると、時計の針を見てリヴィアは居候しているマンションの一室を出た。現在午後7時20分。今日は8時から配信をするからと言って遊由は配信専用部屋へと出掛けて行ったことをリヴィアは知っている。配信までまだ時間に余裕はある。相談するなら直接言う方が良いだろうとリヴィアは足を動かした。

 

 配信部屋の場所を教わっていたリヴィアはすぐにロビーに辿り着いた。歩いて2分は伊達じゃない。堅牢そうなマンションの一室で、玄関ロビーにて預かっている合鍵を回した。

 

 普段生活拠点にしているマンションよりも大分綺麗な内階段を上り、3階にある配信部屋を開錠してリヴィアは何の気なしに入った。

 室内はシンプルなワンルーム6畳のため、遊由の姿は直ぐに目に入った。イヤホンを付けて何やらキーボードで作業している様子。

 

「遊由殿、動画編集終わりました! それと少しご相談が……」

「あっええ!? リヴィアさん!?」

 

 肩を叩かれた遊由は白い肌を蒼ざめたさせながら振り向いて、リヴィアはやっと気づく。

 

「もしかして……これ配信中だったりしますか?」

「……うん。絶賛全世界にリヴィアさんの声もブロードキャストされ中だね」

 

 引き攣った顔で言うリヴィアに対して、これまた乾いた声で遊由は答える。

 準備が早めに出来たからか、運の悪いことに今日は早めに配信を付けているようだった。

 良く見ればディスプレイには沢山のコメントが並んでいる。『誰だろう?』『ガチ女の子の声じゃね?』『もしかしてホントに同居人いた?』『もしかしてリアルキマシタワー?』などと配信コメント欄が別種の盛り上がりを見せているところは見なかったことにする。

 同様にディスプレイを傍目に見ていた遊由はリヴィアをマイクの側へと手招きする。

 

「あーみんなゴメンねー。ええと、この子は同居人のリヴィアたんって言うんだ。リヴィアたん、自己紹介をしてもらってもいいかな?」

「ちょっと待ってください!? 某のことを『たん』と呼ぶのは勘弁出来ないでしょうか!?」

「えー? 勘弁ー?」

 

 と言いつつモーションキャプチャーをしているカメラの外で遊由は手を立てて謝罪の意を示す。本意では無くキャラ付けの言葉らしかった。

 「切り抜き用に提供された動画はこんな感じじゃなかったんですが……」と思いつつも、リヴィアも一応この状況に対して責任を感じているので一旦『たん』呼びは飲み込んで、コホンと息を吐いた。

 

「某はリヴィア・ド・ウーディスと言います。職業は姫様をお守りする騎士です、今日この場のことは事故だった故に今日限りの人間となりますがお見知り置きいただけると有難く思います」

「リヴィアたん硬いよ~もっと肩の力抜いて、ね?」

「は、はあ」

「というわけでリヴィアたんです! みんな拍手!」

 

 すると『88888888』と数字コメントが流れていく。8という数字の読みのオノマトペから拍手を連想させるスラングだと早々に理解したリヴィアは、その中で埋もれる『これが最近ゆゆみが自慢してたゆゆみの女か……』というコメントを発見して思わず遊由の顔を見た。

 

「ゆ……ゆゆみ殿。某にご教授お願いしたいのですが、某がゆゆみ殿の女だというコメントはどういう意味でしょうか?」

「えー、ええと……ほら、親愛を込めて! だって一緒に住んでるんだからリヴィアたん私の女だよね?」

「そうだったのですか!?」

 

 この世界では同居=懇ろ的な図式が成立するのかと驚くリヴィアに再度画面外から謝罪する遊由。今更だが遊由の演じる成風ゆゆみは女好きという設定がある。決して現実準拠というわけではない。

 罪悪感で胸を膨らしつつも表面上は女好きを装う遊由とは違い、リヴィアはそれを聞いて驚きこそすれど「遊由殿はそういう感じもアリと」などと冷静にインプットをしていた。リヴィアからすれば存外に悪い気はしない。寧ろ全然構わないとまで思う。何故ならリヴィアは普段こそ純朴で忠義に厚く硬派な武士に見えるが、こと同性関係に関してはその評価は180度異なるものとなる。

 リヴィアの嘗ての仲間はリヴィアのことをこう称した。

 『女を悦ばせるために生まれてきたようなドスケベ』と。

 

 故に、リヴィアからして少々見た目は幼く見えながらも見目の良い遊由はリヴィア的にはアリだ。俄然"そういう関係"も問題ない。寧ろバッチこい。

 

 リヴィアの目が一瞬だけ獲物を見定める獰猛な獣の瞳に歪み、トークを続けていた遊由が思わず振り返る。

 

「───っ!? いまなんか背筋がピンってなった!? 地震!?」

「安心してくださいゆゆみ殿、揺れてませんよ」

 

 コメントでも『大丈夫!?』『自身特定班急げ』『ニュース見て来たけど現時点何処揺れてないって』と地震が発生していないことを指摘されて遊由は逆にそわそわした気持ちに駆られた。

 

「そ、そっか。気のせいかー」

「もしかしたら某がいるせいで何時もと違う感覚になっているのかもしれません。一旦某は退出しますね」

「う、うん……ごめんね。また後で」

「はい」

 

 依然と肉食動物を警戒する子兎の如く周囲を見渡す遊由を尻目に、自身の眼力にやられたとは露程も思っていないリヴィアは一旦部屋を出ることにした。

 

 

 

 

───10月18日 19時37分─── 

 





需要あるのか分からないけど気分転換に上げます。

ちなみにリヴィアの百合?は原作通りです。はい。
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