マブラヴ クロニクルズ SS 1話   作:プラトマイネ

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3話

 

シアトル タコマ兵員宿舎正門 8:50

 

今日はデートと銘打ってはいるが、俺の服装はBDUにダウンコート。何時も通りの、一目で軍人とわかってしまう格好だ。

今日の空は雲量3程度で文句無しの快晴である。しかし今は寒冷化の影響で、季節関係無しに防寒着と呼べる物は欠かせない。

防空司令部の予測では降雪の予報は出ていないが、それでも気温は5℃しかない。

正直立っているだけでは寒い。9時に待ち合わせという話だったが、張り切って早目に出てきたのは間違いだったかもしれないな‥‥ん?

 

「中尉〜!」

 

俺と同じBDUを着た柚香が、手を振りながら小走りに駆け寄って来ていた。

彼女もまた俺と同じ位、今日を楽しみにしていてくれたのかもしれない。

大声で俺を呼ぶ柚香に応える。

 

「早かったな。まだ時間じゃないぞ?」

 

苦笑気味に言うと柚香はこちらの顔を覗き込むようにして、少しおどけた風に言った。

 

「ふふ、中尉こそ、私よりも早かったんじゃないですか?ほら、こんな日に立ってるだけなんて寒かったでしょう?こうして、暖かくしないと」

 

腕を絡ませて来た柚香。密着したコートを通じて、だんだんと柚香の熱が伝わってくる。

 

付き合い始めてしばらく経つが、柚香は思っていた以上に積極的だ。お嬢様らしく世間知らずなのをからかいのネタにされると怒り出したりあたふたして可愛いのに、二人で居る時はどうにもこちらが振り回されることになる。実際の所柚香の方が1、2歳年上だったりするので、こちらが本当の柚香、ということなのかもしれない。

 

抱きつかれ俄かに早まった鼓動を隠す為、今日の予定について尋ねる。

 

「そ、それで今日はどうするんだ?どこに行こうか?」

 

俺の問いに、柚香は少し頰を赤らめて言った。

「街まで行って、買い物をしませんか?‥揃えたい物があるんです。」

 

「揃えたい物?服か何かか?」

 

彼女は頷いた。

 

「はい。それで、中尉に選ぶのを手伝って欲しくて‥」

 

言うのが恥ずかしいのか、少しだけ顔をこちらから背ける。恥じらう姿も可愛い。

 

「そうか。服選びに自信がある訳じゃないが、いくらでも付き合ってやるよ」

 

俺がそう言うと、柚香は嬉しそうな顔を見せた。

 

「本当!?ありがとう!早く行きましょう!」

 

「お、おい!」

 

彼女は俺の腕を掴んだまま、早足で歩き始めた。

 

 

 

 

俺たちの居住区はシアトルの南、タコマという港町にある。

シアトルの中では割と雑多な雰囲気のある場所で、日本人の大半はここに住んでいる。太平洋に面し、コメンスメント湾には海水から海洋プランクトンを抽出し、加工する巨大なプラントがそびえている。

 

東京23区の数分の一にも満たないこの極僅かな租借地が、ハワイを除けば唯一の日本の領土である。シアトルを失う事は日本人の絶滅を意味し、その危機は何度も現実のものとしてこの街に暗い影を落としていた。

第7次まで続いた対BETAシアトル防衛戦、プラント占拠事件。そのことごとくに辛勝を上げ、この街の市民はその命を繋いでいた。

今や日本人は数十万人しか残っていないという。この小さな国の先行きは見えず、それでも人々は明日に希望を抱き、進む事を止めようとしない。

デパートが立ち並ぶここプレイスマーケットも市民が行き交い、戦時中とは思えない活況を呈していた。

 

 

「なぁ、柚香」

 

「?どうしたんですか?」

絡ませた腕を離すことなく、柚香は嬉しそうな表情のまま首を傾げる。

 

 

「‥‥視線とか、気にならないか?」

 

俺たちは今ショッピングモールを歩いているが、今日は世間では平日である事を感じさせない程度には周囲に人がいた。

その中で美しい長髪の大和撫子とどうにも「背が低くて冴えない」男が連れ添っている。

米国人衛士の仲間から散々短身である事をからかわれた身としては、否応無しに視線を集めるこの状況は被害妄想から幻聴が聴こえてきそうだ。

釣り合わないとか、そんな事を言われそうで。

 

俺の問いに柚香は、余り心配していないようだった。

 

「私達みたいに腕を組んで歩いてる人なんて大勢いますよ?中尉は気にし過ぎです。‥‥ああ、なるほど。背丈の事を気にしてるんですか?」

 

図星だ。しかし、柚香にからかわれるのは初めてで、いたずらっぽい目付きもまた可愛いと思ってしまう自分がいた。

 

 

「なっ!誰が気にするか!そんな、背が、低い、とか‥」

 

俺の慌てた否定の言葉は、珍しく茶目っ気のある柚香への気恥ずかしさもあったかもしれない。

思わず目を逸らしてしまう。

 

 

「‥可愛い、響」

そんな事を小声で呟く柚香は、歩くのを止め、俺を抱き締めた。

突然柚香の柔らかさに包まれた俺は、まともに返事ができない。

 

「お、おい‥‥」

 

俺の頭を撫でながら、柚香は言った。

 

 

 

「‥そういう子供っぽい所が、可愛くて仕方がないんです。本当に子供を愛でているみたいで」

 

「‥‥おい」

 

台無しじゃないか。

 

俺から離れて、柚香はふふふと笑った。

 

「冗談ですよ、ごめんなさい。‥そう思っていたことも、否定はしないですけど」

 

 

「‥ったく、なんだよ‥いきなり」

 

完全に俺はされるがままだった。

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