魔王を倒した勇者、家に帰る   作:かりんとう

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2話目です。でも実質1話みたいなもんです。
ネタバレタイトル()


第二話 結論としては、やらない方が良かった

 実家、おそらく、部分的にそうと言える屋敷に住み始めて、早くも数週間が経った。

 

 正直逃げ出したかったが、僕を迎えてくれる場所なんて、もうここを置いて他にはないし、この調子だと一人暮らし待ったなしなものだから、ここで住まわせてもらうことにした。独りは寂しかったからだ。一応断っておくが、仕方ないでも妥協でもないから。自分でしっかりと決めているから。

 

 寝室で目覚める。一応寝室兼自室なのだが、元は使用人が暮らすための空き部屋だった。急拵えだったために、とても質素な内観。でも逆に落ち着く。キラキラしているのはあまり好きじゃないんだ。

 でも、息子の帰りを両親は待っていなかったのか。それとも勝手に独り立ちしているとでも思っていたのか。僕の部屋くらい作っとけよ。

 

 自室には洗面台がないため、使用人が使う手洗い場で顔を洗いに行く。扉を開けて廊下に出る。大きな窓からは中庭が見え、よく日差しの当たる暖かい廊下だった。赤い絨毯が敷かれ、途中途中には小さな棚の上に花瓶が置かれている。

 まるで2年前に隣国の避暑地で泊まったリゾートホテルの様な風だった。あの時はルーク達が煩かったのに、なぜだか曲解されて「勇者一行が乱痴気騒ぎしていた」なんて話しになっていたっけ。何もしてなかったんだけどなぁ、僕。いや、何も言えずに無視することしかできなかった僕にも落ち度はある、のかなぁ。分からない。

 この廊下を見る度に思い出す。良い加減なれないといけない。こんなことで思い悩むより、家族とのひと時を感じようじゃないか。うん。

 

「はぁ……、あ」

 

 手洗い場の途中で、猫獣人のメイド、僕が初めてここにきた時に対応してくれた人と鉢合わせた。名前をリリ・ターマンという。若干10歳の少女で、この屋敷には最近お勤めに来た見習いらしい。

 

「リリさんおはようございます」

 

「おはようございます、ミルト様。何度も言うようですが、呼び捨てで構いませんよ。貴方はこの家の者、ましてや勇者なのですから」

 

 スカートの裾を持ち上げ、深々と頭を下げる。この挨拶は貴族に対する礼儀作法の1つだそうだ。まだ10歳の少女のなんていじらしいことだろう。言葉遣いもしっかりとしているし、僕の子供の頃と大違いだ。なんだか途轍もなく差を感じる。

 

「では、良い一日を」

 

「ありがとう」

 

 リリさんは去り際に丁寧に会釈し、仕事へそそくさと戻っていった。

 

 勿論のことだが、リリさん以外にも使用人がこの屋敷に在中している。執事のバルトさん、メイド長のハンナさん、メイドのカアトさん、同じくチールさんとカレラさん、シャンさんだ。なんと執事のバルトさん以外全員獣人の女性だった。直感で父親の影を感じた。最悪の事態も頭をよぎった。そういえばバルトさんは、母さんとの距離が異様に近い時が……。

 ……どうなってるんだこの家。

 

 一応、魔物の脅威はまだまだ消えないが、曲がりなりにもこの世界は平和な方へと向かっているはずだ。なのにどうして、僕は焦燥感を感じているのだろう。落ち着かないし、やるせない。最近ため息の数が増えてしまった。

 東国で内頸の扱い方を学んだ時、師匠が、「ため息というのは悪い気を自分に纏わせてしまう。控える様に」と言われたっけ。まぁその時のため息の原因はお前がルークにえこ贔屓していたからなんだけどな。

 あの年増若づくりクソババアが。ルークに教える時だけ猫撫で声上げやがって。微笑みやがって。僕にもその僅かな優しさを分けてくれよ。何が「才能が無いこともないな」だよ。ルークにだけ免許皆伝授けやがって。僕も同じ修行しただろうがクソババア。地獄にでも落ちとけ。

 

 ……ああ。なんだか疲れる。

 

 僕は世界を救ったんだ。僕1人の力ではなかったけれど、少なくとも僕は、世界を救った人達の1人だ。もうこの先はずっと楽をしよう。そうしないと持たない。せめて隣に誰か居てくれたらなぁ。どうしよう。女の子なんか口説いたことないし、ルークは勝手になんかモテてるだけだからアテにならないし……、あ、そうだ。

 

「婚活ぅ?」

 

 父さんに婚活の提案をした。知り合いに婚活で結婚ができた人がいたから、それを倣って僕もやってみることにした。自分でもなんだが、僕は勇者だ、きっとそこそこ美人な人が来てくれる……なんて淡い希望を抱いた。

 

「はい。勇者の血を護るためにも、僕は妻をもらいたいんです」

 

 嘘です。結婚したいだけです。

 

「婚活なぁ。だったら、貴族向けの結婚相談所に聞いてやるよ」

 

「本当?ありがとう、父さん」

 

「おう」

 

 ということで、話は早く進んだ。数日後には、結婚相談所の方からお見合い写真が送られてきた。一体どんな人達が——

 

「ブッッッ……」

 

 僕は別に何も口に含んでなどいなかったが、水でも噴き出すみたいに口から何かが飛び出た感じがした。あとついでに目も飛び出ていた。

 

「ど、どうした息子よ?」

 

 いやブッサイクか明らかな行き遅れの年増しか居ない!どうなってるんだよ!?

 

「い、いや……も、もうちょっとその、整った、というか、若い方は……」

 

「あー、それなんだが、貴族方の若くて美人なお嬢さんは大体許嫁か恋人がいるもんだから、基本こういうとこには名義登録しないんだ」

 

「えっ……えぇぇ……」

 

 僕の目論見は失敗だった。多分、いや、絶対今の僕は白目を剥いて引き攣った笑みを浮かべている。

 なんなんだよ。じゃあ何か、いつの間にかお見合いで有名な商会の美人お嬢様と逆玉ラブラブ結婚していたかつての王立魔法学園同級生、あのうだつの上がらなかったベン・ラザトレー君は奇跡だったってのか。はぁ?

 

 いや、粗方目を通しただけで、1人や2人は良い人がいるかも知らない。そんな僅かな望みに賭けて血眼で少しでも美人な人を探した。

 

 その努力、どうやら報われた。3人見つかった。

 

 まずエルフの女性、そして一回り年上だが若々しい黒髪の女性、それから背は小さく子供っぽいものの優しそうな笑みを浮かべる空色の髪をした女性。

 なんというか、安心した。

 

「この3人と会ってみたいかな」

 

「ふむ、結構良さげじゃないか。じゃあ早速相手方の都合聞いて、準備するか」

 

 相手方へ手紙を送り、返事を確認してから、会食の約束をとりつける。伝統的な貴族間でのお見合い、らしい。

 

 まず1人目。エルフの女性だ。名前はエルザさん。

 

「……」

 

「ごめんなさいね……」

 

「はは、いや……」

 

 なんか、異様に僕の服の裾引っ張ってくるエルフの男の子がいるんですけど。すんごいつぶらな瞳なんですけど。

 

「パパァ?」

 

「えっっっ………、い、いやパパじゃないよー……エルザさんこの子は一体……?」

 

「亡くなった主人との子供です……この子にも新しい家族が必要と思いまして……プロフィールには記載がなかったでしょう?未亡人だと、憚られると思って……騙すような真似をして……ごめんなさい……」

 

「あ、はは、そ、そうなんですね。ぜっっ全然気にしませんよ。エルザさんとてもお綺麗ですし。いやぁホント、可愛いお子さんだなぁ、あは……あはは」

 

「そう、とても可愛い……あの人が残してくれた最期の宝物……あの人によく似ていて……」

 

 未亡人。

 

 というか、雰囲気が、重い。この人を受け入れるのは正直、無理だ。受け止め切れない。未亡人というのには最悪目を潰すぐらいの勢いだったら大丈夫だが、尋常じゃないくらい悲哀を感じる。彼女の背後が暗い。一体話の節々に出てくる「あの人」には何があったのだとか口が裂けても言えない。言えそうにない。

 

「……」

 

「……」

 

 初めて来た場所に目を光らせる子供を差し置いて、沈黙が続く。つ、辛い。無理すぎる。僕は幸せになりたいだけなんだ……ごめんなさい……。

 残念ながら破談となった。

 

 2人目は黒髪の女性、コスロさん。

 結構美人な人だったからなぁ。性格がキツくなければ良いんだけど。そう思いながら、会食の場で待機しているとだ。

 なんだかシワの多いおばさんがやってきた。えっ。あ、お母様、とか、かなぁ?

 

「はじめまして、コスロ・ペテシアです」

 

「あ、どうも……」

 

 本人だった。

 

 詐欺じゃねぇか。って、言いたかった。

 なんだったんだよあの写真。若づくりにも程があるだろうが、何が30代だよ明らか50じゃないか。おい。綺麗な黒髪以外全部違うじゃん。加工しすぎじゃん。

 共通の話題などある訳もなく、明確なジェネレーションギャップというやつを感じた。

 後々になって知ったことだが、彼女、今回みたく年齢と顔の偽装をして、いざ面と向かった時にがっかりする男の顔を見るのが趣味の変人だったらしい。ふざけんなよ。

 案の定破談。

 

 これで最後。3人目の女性。名前はガルダンツさんという。

 

「お初にお目にかかりますわ、ミルト様。ガルダンツ・オースラヴですわ」

 

「はじめまして」

 

 おお。普通に写真通り。安心する。

 とても柔和な雰囲気を纏っている。なんだか男っぽい気がするような名前だが、全くその逆。趣味は生花で、品評会でも賞を獲る程の腕前らしく、そして最近はお菓子作りにハマっているという、見た目含めとても可愛いしい女の子すぎる人だった。

 僕のことを勇者だと分かっていても、それでも隔てなく話しかけてくれる。とても笑顔が素敵な人だ。

 あぁ、この人と一緒になれる気がする。

 しばらく会話を続けていると、好きな作家が同じだったことが判明した。グリデル・パンセという、悲劇的な結末を描く作家なのだが、その作家が唯一のハッピーエンドを描いた作品に胸打たれた。ついぞ共感してくれる人がいなかったのだが、ついに感動を共にできる人と出会えた。嬉しかった。

 

「私たち、とても相性が良い……そう思いませんか?」

 

 会食が終わって、ガルダンツさんから植物園へ行かないかとお誘いを受け、散策している途中にそう言われた。花々を覗き見る時に、空色の髪を徐にたくしあげる彼女は、まるで絵画から出てきた様に可憐だった。

 

「はい……本当に」

 

 言葉を返すと、手を握られた。彼女の手は小さかったが、とても暖かく、心地よかった。あぁそうか。僕って、この人と一緒になるんだ。

 

「ふふふ……ふぅぅ、じゃあ、下の相性はどうかなぁ」

 

「へっ!?んなっ、ガルダンツさん、はしたな……えっ」

 

 ガルダンツさんの方に振り向くと、目を細めてニタァっと嗤ういやらしい顔の少女が……ん?あれ?しょう、ん?あれ?なんか、ドレスの、股間部分がなんか、盛り上がって

 

「私、どちらかというと攻めなのですけど、それでも宜しいわよねぇ?うふふ」

 

 彼女は彼女じゃなかった。

 僕は僕の大切なものを護るために必死に逃げて、その後なんとか話をつけ、破談、ということにした。その様にせざるを得なかった。僕にはそういう趣味はなかった。悲しい思いをさせてしまったが、きっとガルダンツさんには他に良い人がいるはずだ。「貴方のこと忘れません!たまには受けもしてあげますから!」とか、去り際に言われた気がするがきっと気のせいだ。そう、気のせい。そういうことにしておいてくださいお願いします本当に——

 

 ——その後家路に着いて、やっと自室に辿り着く。そして僕はまくらに顔を埋めて、叫んだ。

 

「んんんんんんんんぬぁぁぁぉぁぁぁぁ!!!!!」

 

 なんだったんだこの3日間!まるで無駄だった!なんか僕悪いことした!?良いことしたよね!?世界救ったよね!?それ以上のことしろってか!?じゃあなにすりゃ良いんだよ!教えてよ誰かぁぁ!!!!

 

「はぁはぁ……、恋人が、欲しい……」

 

 分かるだろうが異性の方のだ。

 

 皆んな、みーんな、僕を置いてイチャコライチャコラ。僕だって一生懸命戦ったんだぞコラぶん殴るぞコラ。特にルークは一度顔の原型が分からなくなるくらいボコボコにしてやりたい。行く先々で女作りやがってあの野郎。

 なんで僕だけ?なぜに僕だけモテない。女運がない。我勇者ぞ?ちょっとくらいキャーキャー黄色い声援浴びさせてくれよ。イケメンじゃないからってか。見てくれが一般的な中肉中背の地味な黒髪の男だからってか。あぁ?

 

 もうやだ。疲れた。

 便利な移動用の魔法を使えたアレクシアが魔物の毒にやられ、解毒剤を貰うために人里を目指し、体力の少ない中ずっと歩き続けた時くらい疲れた。

 なんだったんだよ今回。婚活の駄目なところ煮詰めたみたいな感じだったぞ。最後に至ってはもう究極自爆魔法だろうが。全て吹き飛ばすだろうが。

 もう婚活なんてしない。トラウマになってしまった。

 

「幸せ……幸せに……なりたい。けど、もう、どうすればいいのか……」

 

 幸せになれない。呪われてるんじゃないかってくらい。でも呪われていないことは分かっている。勇者の力が呪いを跳ね除けるんだ。だから絶対に呪われない。なんで呪われてないんだよ。逆に誰か僕を呪っていてくれよ。あぁ嫌だ嫌だ。

 

 せめて、せめてガルダンツさんが女性だったら。

 だがそんな願い、無駄でしかなかった。残念ながら、生憎と現実は、非常に非情だった。なんつって。

 笑えない。

 涙が頬に一筋流れた。その涙はそのまま落ちて、枕を濡らす。

 

 今日はもうこのまま寝てしまおう。頭が痛い。

 

 ……明日は、どうしよう。そういえば、最近はカインさんに会っていなかった。最後に会ったのは、もう一年も前か。久しぶりに会いに行って、少し話でもしようかな……。

 

 僕は瞼を閉じた。

 

 

 

 寝ている間に夢を見た。魔王を倒してから、時々、この夢を見る。

 いつも僕は湖畔のすぐ側に建った木造の一軒家、僕はそこのバルコニーで椅子に座っている。

 背後から声がした。

 

「クッキーが焼けたわよ。お茶をしましょう?」

 

 声の主が女性であることは分かる。聞き覚えがあるような、ないような、優しいような厳しいような不思議な声。振り向くとそこには、僕と同い年くらいだが、僕より少し背が高いくらいの女性がいた。その人の顔は、もやがかかっていてその表情は窺えない。直感的に、こんな人は僕の知り合いにいないと感じる。でも、とても落ち着く。

 なぜか夢の中の僕はこの人のことを知っているようで、普通に返事をして、居間へと向かう。勝手に口が動くし、勝手に身体が動いてしまうんだ。まるで他人の身体に入り込んでいる気分だった。

 

 彼女とは毎回、向かい合ってテーブルに座る。それから僕は彼女に向かって言うんだ。

 

「君と一緒になれて……幸せだった」

 

 って。震えた声で言う。なぜか、過去形。

 

 もやがかかっている顔が、笑ってくれているような気がした。

 

 いつもここで目が覚める。

 

 まだまだ陽は昇っておらず、外は暗かった。虫の声なんかが聞こえる。一体この夢は何なんだろうか。正夢、とかだったらいいのに。

 そう思って、僕は再び瞼を閉じる。

 

 

 

 

 




さぁ2話目が終わりました。次はどうしましょう。考えてない。あはは。
ちなみにですが、名付けに関してはめちゃくちゃ適当です。深く考えていないです。ふっ、と思いついたのを付けてます。似たような名前の奴が出てくるかも知れないし、間違えて同じ名前にしてしまうかも知れません。気をつけます。でも万が一いや、百が一くらいの時はどうか、どうか、助力をお願いします。
感想、評価、誤字脱字報告どしどしお願いします。
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