魔王を倒した勇者、家に帰る   作:かりんとう

4 / 5
4話目です。前回からの続き。ちょっと暗くなったかも。


第四話 やっぱり、辛い

 晩御飯を食べ終えた頃には、外の天気は小雨程度までに治っていた。カインさんが窓の外の様子を見て、

 

「今日の内には止みそうで良かった」

 

 という言葉に対して、

 

「そうですね、これ以上お邪魔にならなくて良かった」

 

 と返したら、

 

「……だから……はぁ」

 

 とカインさんに呆れられた。

 僕はコミュニケーション能力に多大なる障害が発生しているようだ。どうして。

 

「さっきも言ったが、来てくれることは嬉しい……分かってくれるかどうかは知らないが本心なんだ」

 

「はい……」

 

「……。君は、こうやって下手くそな会話をするためにここに来たのかい?」

 

「……その、実は、少しだけ相談事があります」

 

「なんだい?」

 

「話し難いことです。できたら、あなた2人とだけで話したい」

 

「そうか。じゃあ私の書斎で話そう。車椅子、押してくれるかい」

 

 書斎まで移動、途中で角にぶつけたりして申し訳なかった。

 暗くなっていた部屋の灯りをつけて、椅子を用意し、カインさんの向かい側に座る。

 

「早速ですが、その……なんというか」

 

「もしかして、結婚の話がなくなった事」

 

「いや、そうじゃなくて……あぁでもその傷心の分もあったから来たんですけど……一旦それは置いといて、実は……」

 

「?」

 

「実は、僕、魔王を倒したあの時から日に日に弱くなってる。そんな感じがするんです」

 

「……本当なのか?」

 

「はい。最初は気のせいかも知れないと思っていたんですが、でも、今日でなんとなく確信に近付いたんです。精神的な弱りも感じるし、力量的な弱りも感じる。我慢できていた事が我慢できなくなっているし、ここに来る時転送魔法を使って、失敗してしまったのはよくある事なんですが、でも体内の残存魔力回復が妙に遅いんです。今までだったら、1日経たない内、今くらいだと半分以上は回復してる筈なんです。なのに、気怠さを感じるんです」

 

「……それは、他の、君の仲間達には?」

 

「誰にも伝えていません。というか、仲間には最近は会ってすらいません。何の連絡もないのは、それはそれで不思議ですが……多分僕に怒っているんじゃないかな。言葉も交わさずに仲間の元を離れたから」

 

「それはそれで問題だが……でも、何故その話を私に」

 

「貴方が、仲間以外で唯一信頼のできる人、だと思ったからです。勇者の力が弱ったなんて話が広まれば、何があるか分かったものではないですし」

 

「そう……か……」

 

 話したのは、僕の独り善がりのようなもので、他人の心情はあまり考えていなかった。本当は話すつもりはなかった。でも、機会ができた、という言い訳によって話した。これで僕の心が少し軽くなってしまっていた。

 

「どうするんだ?」

 

「魔王軍との戦いは終わりました。だから、それと同時に僕の役目は終わったも同然。このまま僕は両親の下で暮らして、配偶者もまたいつか、探して、……それで……終わる……」

 

「それで終われる程、ここは優しい世界なんかじゃない。勇者というのは、象徴である以前に他国に誇示できる力の一つだ。勇者が表舞台に出る事がなくなれば、国力が下がったなどと見做して君の住むアーケア王国に攻め入る国だってもしかすると、あるだろう。そしたら今度は人と人同士の戦いが始まる。ついこの間まで魔王軍の恐怖に怯えていた人類の殺し合いだ。馬鹿馬鹿しい話だが、今までの人類史から鑑みると、その事態が起こっても何ら不思議ではない」

 

「……表舞台……どうすればいいでしょうか……」

 

「死ぬまで隠し通せ。としか、私には言いようがない」

 

「でも、僕は、もう疲れました。魔王を……倒したんです。なのに、戦い続けろと?」

 

「そういうことになってしまう。アベルの件だって、あいつはもう私の身体には居ないが、何もかも解決しているのかどうか、分からない」

 

「弱くなっているのに?」

 

「……君は象徴だ。だからきっと……」

 

 僕の心に仄暗いものが渦巻いた。今までだったら我慢できそうなものだったのに。どうしても反論しようとしてしまった。王宮であったあの衝動と同じものだった。

 

「僕が、象徴?勇者の力がある、いや、あっただけの僕が?王宮から勝手に出て行った時、追われもしなかった僕が?知ってるんだ。本当は僕じゃなくて、ルークが英雄として持て囃されているのを。よっぽどルークの方が英雄らしい。勇者らしい。顔も頭脳も性格も豪胆さも何もかもだ。ルークの成功も失敗も、神話に出てくる英傑そのものだ!その癖僕が勇者だと知っている人の殆どは「お前は勇者だから」と言ってくる!何なんだ!僕に何を求めているんだ!一体……!あぅ……すみません、言い過ぎました」

 

 思わず僕は立ち上がって、声を荒らげてしまった。

 

「ミルト君……謝る必要はない。こちらが謝らないと、すまない……。しかし、そう、だったのか」

 

「……はぁぁぁ、前はこんなこと、なかったのに……」

 

 僕は項垂れて、椅子にどすんと座る。身体が重かった。

 

「前?もしかして君、ずっと我慢してきたのか!?」

 

「えぇ、まぁ。やっぱり、弱くなっているでしょう?」

 

「……話してくれてありがとう。今日はもう、ゆっくり休んでくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 そうだ。今日は休もう。勝手に話して勝手に怒って、何をしているのだろうか僕は。立ち上がってカインさんの車椅子を押して一緒に書斎を出ようとした。

 

「あぁ、良いよ1人で出る。車椅子の練習もしないとね」

 

「そう、ですか?じゃあ、これで、おやすみなさい」

 

 ドアノブに手をかけて書斎を出る直前だった。カインさんが

 

「辛い時はいつでも来ると良い」

 

 と言ってくれたから、

 

「はい」

 

 と返事をして、振り返った時、彼の目はまるで死人を憐れむような目をしていた。

 

 部屋を出ると、セフィさんが立っていた。

 

「わっ、セフィさん」

 

「大丈夫?大きな声がしたけど、彼と、喧嘩しちゃった?」

 

「いえ、悪いのは僕です。申し訳ない……晩御飯も頂いたのに。もう、客室に戻って寝ます、おやすみなさい」

 

「え、えぇ……おやすみなさい」

 

 あぁ、クソ。結局2人とも無駄に心配させただけじゃないか。何がしたかったんだよ、僕は。なんでこうも、勝手に疲れる。

 何か、お礼を用意しないと。……、宝で良いだろうか。収納魔法の中に大量に残っている。便利なものにしよう。

汚れない布と、切れ味の変わらない包丁、自動的に度数が調節される眼鏡に、インクの切れない羽ペン……2人にあげて喜ばれそうなものを見繕った。

 これを明日、帰る時に渡そう。説明書も添えて……明日の準備はこれでよし。もうやる事は思いつかない。眠ろう。

 

 客室のベッドに横たわり、目を瞑った——

 

 ——次に目を開いたのは、窓からの朝日を鬱陶しく感じた時だった。どうやら無駄に寝つきが良かったらしい。これは勇者の加護の1つ、安眠の加護だろう。どうやら加護は機能している。ただ、僕の力だけが抜けていっている。そんな感じがする。

 

 客室から出て、リビングに向かうと、すでにカインさんとセフィさんが居た。朝食を食べている途中だった。

 

「おはようございます」

 

「おはようミルト君」

 

「あら、おはよう。後で起こしに行こうと思っていたところよ。朝食、食べる?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 朝食はパンと、野菜サラダ、それに昨日の晩御飯の残り物のクリームシチューだった。美味しかった。

 穏やかだった。このままここに住みたいくらいに。でも帰らないと、両親を心配させるかも知れない。

 食事を終えて、紅茶を一杯、食後に飲んだ。

 

「帰るのかい?」

 

「はい。そろそろ。昨日と合わせて、どうもありがとうございました」

 

 そう言った後、身支度をし、家の玄関の扉前まで見送ってもらった。

 

「また来てね」

 

「はい。セフィさんの料理美味しかったです。ありがとうございました。2人に迷惑をかけてしまったので、お礼と言っては何ですが、これを。説明書も添えてあるので後で確認しておいて下さい」

 

 選んだ宝物を2人に渡し、扉を開けて外に出ようとする。

 

「なっ、いや、君からこれ以上貰うなんて、第一この家を建ててもらったのも君の助力があったからだし、家財の一部だって君が」

 

「受け取ってください。本当に、迷惑をかけたんです。お礼をさせて下さい」

 

「いや、だが……」

 

「カインさん」

 

「……そうか。すまないね」

 

「では」

 

 扉を開けて外に出た。その後速馬車に乗って、家に帰った。

 勇者特別区の前で降ろしてもらい、家に向かうと、門が閉まっていた。

 

 門の鐘を鳴らして、しばらく待つと、メイドのカアトさんが出てきた。灰色の毛をした、狼の獣人のメイドさんだ。この家で働くメイド達の中で飛び抜けて身長が高い。

 

「あぁ、ミルト様。お帰りなさいませ。ご主人様と奥方様が心配されておりましたよ。今、門をお開けいたします」

 

「どうも」

 

 門がキギィと音を立てて開く。

 少し歩いて家の扉を開けると、ちょうど通りかかった母親がいた。何やら荷物を持ったバルトさんも居た。

 

「あらミルトちゃん、お帰りなさい。一日家を空けて、心配したのよ?行く時は今日中に戻ってくると言っていたのに」

 

「いえ、おべんち……お気遣い結構です。ごめんなさい、心配させてしまって。でも何かあったとしても、僕は必ず帰ってきますから、その辺りはどうか、信用して」

 

「そう……?でも、あまり心配させないで頂戴ね。今までずっと心配していたんだから」

 

「ごめんなさい」

 

 本当かよ。

 

「これから、貴族の婦人会があるから、私行くわね」

 

「父さんは?」

 

「お父さんなら……あー、お仕事だって言ってたけど、多分お友達と遊びにどっかほっつき歩いてると思うわ」

 

「……そう。行ってらっしゃい」

 

「ええ。行ってきます。ほら、バルトさん、行くわよ」

 

「はい、奥様」

 

 執事のバルトさん。黒髪で、髪を後ろに結っている。目が悪いのかずっと眼鏡をしていて、若い。多分僕とそこまで歳が変わらない。なのに何故か、母さんを見る目がなんか、すごく、怪しい。狙っている、といった感じの人。そしてその対象の母さんも満更ではなさそう。面倒くさいから関わらないようにしている。

 

 母さんを横目で見送った後、自室に着いて、ベッドの上に座る。

 

「はぁ……全然心配してないな、不幸中の幸い、と言って良いものなのか……父さんに至っては遊びに……いや2人とも遊びに行ってるじゃないか」

 

 ……僕だけ差し置いて、人生を楽しんでいる。

 

「お食事はいかがなさいますか?」

 

「んなぁっ!?」

 

 カアトさんがいつの間にか背後に。気づかなかった。気配もなく、忍び寄って来たという事だ。結構、やり手なのかも知れない。もしカアトさんが敵だったとしたら死んでいたかも。

 僕は思わず、声が聞こえて振り向いた瞬間後退り、反射的に護身用に腰に下げていた剣に手をかけてしまっていた。

 

「……申し訳ありません。驚かせるつもりは」

 

「あぁ……いえ、大丈夫です。……食事の方も」

 

「左様でございますか……自室にお着替えをご用意しておりますから、今お召しになっているものは後で使用人めに洗濯をお申し付け下さい」

 

「分かりました。ありがとうございます、カアトさん」

 

「さんは付けなくて結構ですので」

 

「はい……」

 

 どうにも慣れない。別に僕は元々貴族ではなくて、ただ村の少年だった訳で、どうしても他人をぞんざいに扱うような真似はむず痒い。なんだか、僕がさん付けする度に「結構です」とこの家で働く人達に言われる気がする。逆に僕がさん付けさせろ、とか言ったら聞いてくれるだろうか。いや、それはそれで命令しているみたいになって嫌だ。……僕が慣れるしかないのか。

 これまた慣れない家の中を歩き、自室には、言われた通りの着替えがあった。着替えて、脱いだ服は丁度通りかかったメイド長のハンナさんに手渡した。ハンナさんは犬の獣人で、年長者だと自称しているが、とても若々しい人だ。二十代と言われても疑問に思わない程に。そんな彼女はメイドの中でも一番鼻が効く。そのせいか、服を渡した時に「ヴッ」という声を漏らしていた。そんな臭いのか。

 

 自室のベッドに寝転ぶ。自分で予定を立てないと何もすることがない。旅を続けて、命のやり取りが多かった生活からの落差。ずっと目的があった。でも、今は仕事をするまでもない生活が送れる。両親からお金はいくらでも貰えるし、それが無くなったとしても、収納魔法の中にある宝物を切り崩していけば、死ぬまで不自由なく暮らせる。後世にも十二分に託せる。その後世ができるか甚だ疑問ではあるけど。

 明日は何をしようか。

 そんな事を一々考えることができるくらい、今は余裕がある。

 旅をしていた頃の方が充実していた気がする。勿論辛いことは沢山あった。でも仲間がいた。嫌いなところも沢山あるが、それでも大切だった仲間。色んな場所を共に冒険した。冒険、冒険かぁ。

 

 冒険、とまでは行かないが、久しぶりに街へ繰り出してみようか。何か買い物でもしよう。本当に久しぶりだ。

 王都へ出奔して王立魔法学園に入り、卒業してからは全く行っていない。卒業した直後くらいには王命によって魔王を倒す為の旅路が始まった。その時に、結婚の約束があったんだっけ。約束といっても、内内なもので、あの時の場に居たものしか知らなかった気がする。仲間と、護衛の兵士と大臣と。だから、約束が破られることがあっても騒ぎになっていなかったのだろうか。もしかすると、僕は死ぬと思われていたのかも知れない。少なくとも可能性としては十分あったから、だから……してやられた気分がする。

 よし、気分を晴らそう。甘い物でも一杯買って周りの目を気にせずに豪遊してやろう。もう知るか。やってられるか。

 

 僕は勇者。何か王国にあった時はきっと呼ばれるだろうが、その時はその時。どうせ街に出たところで気づかれないだろう。生憎僕は地味な人間だ。どこかの金持ちが遊んでいると思われるのが関の山だ。いつもいつも人気があるのはルークの方。多少やらかしても何かの補正があるのか直ぐ許されるルーク。

 

 ルーク……かぁ。

 

 僕は彼のことが好きじゃない。彼の尻拭いは何回もした。でも、それ以上に僕の足りないところを兼ね備えた彼。失敗した僕をフォローしてくれたのはいつも彼だった。せめて性格が悪ければ、目一杯嫌ってやったものを、なまじ性格が良いものだから、完全に嫌うことができなかった。だから、彼の背中に皆んな付いて行くのだろう。抜けるところは抜けているが、それ以上に彼は強かった。時の運、知略、戦略、あらゆる面において。

 僕は、勇者の加護と力を持って、無駄に強かっただけで、優しく振る舞うことが精一杯。そのせいで色んな失敗をした。変に優しくしたせいで欺瞞を抱かれたり、助けの手が回らなかったことで恨まれたり……。

 

 辛い。

 

 今日はこの家で1日過ごして、ぐっすり寝て、明日の為の英気を養おう。その方が明日の街がより気晴らしになる。

 

 まさか、ルーク達とかち合ったりなんか、しないよな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分で言うのもなんですが、駄文。
でも評価が増えてて嬉しいっす。0でもなんでも、きっと読んでくれているでしょうから、嬉しい。
ところでなんでこんなに見てもらえるんです?UAもなんか知らない間に4000とかになってて……なんで。

次回も気長に待ってくれると嬉しいです。次は、どうしよう?

感想、評価、誤字脱字報告、どしどしお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。