魔王を倒した勇者、家に帰る   作:かりんとう

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5話目です。間が空きました。これくらいのペースがわいの平常なんや……。
何となくですが全体的にタイトルの雰囲気をちょっと変えました。
最初はコメディっぽくしようと思ってたんですけどね。胸糞悪いのを吹き飛ばして溜飲が下がるみたいな。
なんでこう変な方向になってしまうのか。分からない。ごめんなさい。どうしようもならない。



第五話 それに理由は、あるのだろうか

 やはり王都というべきか、活気付いている。

 商店や雑貨等を売っている露店、飲食店。有名な店から怪しげな店まで千差万別だ。

 

 平和と言えば、平和だろう。路地裏の方を進むと浮浪者がいたり、奴隷市なんかもあるが、これに関しては救う救わないの問題ではなかった。ただ社会構造の一つだった。強きものが弱きものを搾取する。これはこの世界においてどうしようもない事実であって、僕はその事実を変えれる程に頭は回らなかった。

 

 とりあえず、今日は楽しもう。目を背けるのも大事な気がしてきた。僕は今、魔道具である認識阻害の眼鏡を掛けて外出している。人が多いところで「勇者だ」とか、声をかけられるのが面倒だったからだ。

 

 結構な量の金を持って街に繰り出した僕は、屋台で食べ歩きをした後に、服屋や本屋に立ち寄って両手に大量の荷物を携えていた。

 

「結構、買いすぎた……」

 

 服は自室のすかすかなクローゼットに大体は入るとして、本はどうしようか。いざ買ってみてだが、無駄に多くなってしまったかも知れない。本棚は空きがあったものの、入るだろうか。入らなかったら地べたに置くことになるだろうか。いや、それだと本の装丁が汚れてしまう。完全に後先考えずだった。気を抜いていた。最近気が抜けていることが多い。

 

「はぁ……、ん?」

 

「やっ……やめ……」

 

 どこかから微かに声が聞こえた。女の子の声。おそらくだが、何かを拒絶している。無視をしても良かった。ただ気になった。

 

 声を頼りに、その声の主がいる方向へ。

 辿り着いたのは商店が建ち並ぶ中。右にあるパン屋と左にある茶葉の量り売りをしている店の間にできた路地に、女の子が1人と男が3人。人通りが無い訳ではなかった。ただ、この状況を無視されている。何も無いように。面倒ごとに関わらないようにだ。

 筋肉質な男とその取り巻きといった風体の男達はニヤついて女の子を囲んでいる。片方は女の腕を掴み、その抵抗を止めていた。女の子はエプロンをしておりどちらかの店の店員であることが窺えた。瞳には薄らと涙を浮かべていて、恐怖で体が震えていた。

 

「……おい!何してる!」

 

 ただ衝動的だった。若しくは正義感。僕は声を上げた。勘違いだったらどうしようとか、余計な感情を交えての言葉。

 

「ああ?何だてめぇ」

 

「おいおい、俺たちは仲良ししてるだけだぜぇ?」

 

 そんな訳ない。明らかにその場凌ぎの言い訳にもならない暴論にしか感じられなかった。

 

「たっ、助け」

 

「うるせぇ!」

 

 女の子に向かって筋肉質な男は殴りかかった。鈍い音が鳴る。勢い強く地面に滑り込み、倒れてしまった。

 

「あうっ!」

 

「けっ……おいそこの坊ちゃん。今なら何も見なかったってことにして逃してやるよ、俺は優しいからなぁ」

 

「そうだぜぇ?アニキは優しいんだぜ?痛い目見たくなかったらさっさと帰んな」

 

 事情は分からない。ただ、ここで男達を見逃すほど臆病でも弱い人間でもない。ここから立ち去る訳にはいかなかった。

 

 両の手に持っていた荷物を投げ捨てて、まずアニキと呼ばれた男の方に地面を蹴って瞬く間に近づく。殺す必要はない。気絶させるだけで十分だろう。事が済めば、王国の兵士に引き渡せばいい。

 力を込めて、殴る。

 

「あん?ぐがっ!」

 

 僕の拳はアニキとかいう奴の顔面に直撃する。鼻から鼻血が出て、後方へとよろめいた。よろめいたのだ。

 

「いってぇ……このクソ何しやがんだ!」

 

 ——おかしい。

 

 僕は今、こいつを吹き飛ばすつもりで殴ったはずだった。なのに、よろめいた、それだけだった。単純に殴った相手が強かったとか、そういう可能性も考えられるが、その可能性があるとすれば、殴った相手が名うての戦士である必要がある。そこら辺のチンピラとしか考えられない奴に、何故。

 

「何止まってんだよこのガキゃあ!」

 

 殴った相手からの反撃。反応はできた。相手からの拳を腕で防いだ。

 

「……っぐ」

 

 痛い。殴りかかる速度から考えて、この程度屁でもない、筈なんだ。なのに。痛い。これはどう考えたって、そういうことだった。

 でも、そんなことを考えている場合でないのは明白で、僕は反撃する。相手の伸び切った腕を引っ張り、前に倒し、その勢いに合わせて蹴りを喰らわせる。今度は全力。現状の、だ。

 

「なっ、ぐはぁっ!」

 

 アニキと呼ばれていた男は壁に打ち付けられ、気絶した。

 

「てんめぇアニキに何しやがる!」

 

 取り巻きだった男の片方が懐から短刀を取り出して、僕に突っ込んでくる。一応見えはする。斬撃を回避、そして男の両腕を掴み、男の背中側に回り込んで拘束する。

 後は——あれ?

 視線を向けた方向に誰も立っているものは居なかった。もう1人いた筈、どこに、

 

「後ろだボケェ!」

 

 背後を取られた。手には短刀。回避は間に合わない。突き刺さる。

 

「しまっ——」

 

「ぶげえっ?!」

 

 突然、僕に短刀を突き立てた男が吹き飛んだ。拘束していた男の首を絞めて気絶させた後、振り返る。

 そこにはローブを着た狐であろう尖った耳と少し細い目をした黒髪の獣人がいた。

 

「なんや騒いどるなぁって来てみたら、危ないところやったやないの?」

 

「すみません、ありがとうございます。あんたは……」

 

「ま、しがない狐っ娘魔法使いってところやな。ただの通りすがりや。わっ……たしのことは気にせんでええから、ほら、そこの女の子、介抱したりぃや」

 

「はい」

 

 独特の喋り方の獣人。明らかに変だったが、一応味方だ。気にする程でも無いのかも知れない。確かに、倒れた女の子の事の方が先決だった。

 

「大丈夫ですか、今回復魔法をかけますから」

 

「う、うぅ、ありがとうございます……」

 

 とりあえず打撲と擦り傷を治して、女の子を立たせる。

 

「すみません、まだふらついて……肩を貸していただけませんか」

 

「はい」

 

 話を聞くに左側の店の店員だった。店の2階にある彼女の生活部屋まで送ってやった。

 路地から離れる時、荷物を投げ捨てた方を見たが、すでに荷物はなかった。

 

 ——倒れた男達を兵士に引き渡した後、女の子から話を聞いた。

 

「本当にありがとうございました」

 

「いや、どうも……あいつらは一体?」

 

「あの人達は……地上げ屋に雇われたゴロツキです。代々私達家族はここで茶葉の専門店を営んでいるのですが、最近は王国の土地代も上がっているらしくて、それで、売り上げが良くない店を狙って……」

 

「そう、ですか……」

 

 それ以上何も言えなかった。僕は助けたものの、どうすることもでになかった。今回は安全に終わったからといって次が無いという保証などどこにもなかった。

 

「あの、暗い顔をしないで下さい。そうだ、お礼におすすめのお茶っ葉を差し上げます。後、この店にまた来ていただいたら、特別料金にさせていただきますから、本当に、どうもありがとうございました」

 

「いえ、そんな……、はい、また来ます」

 

 次来た時、この店はあるのだろうか。なるべく早く来た方が良いのだろうか。

 

「人助けした癖にえらい暗い顔やなぁ?」

 

「うわっ」

 

 突然話しかけられる。さっきの狐の獣人だった。

 

「……別に……何でも無い」

 

「つれへんなぁ、こんな可愛い娘が話しかけてんねやでぇ?ええやんちょっとくらい」

 

「うるさい」

 

「んん?塩対応言うやつか?初対面やのにぃ」

 

「初対面じゃないだろ。気づかないとでも思ってるのか」

 

「んもぅ」

 

 狐の獣人の姿が変わる。黒だった髪は乳白色へとなって、体躯も煽情的なものに変わり、その妖艶な姿を顕にする。服装はローブから東国で見られる着物という衣服に変化していた。着物ははだけ、肩と胸の上部が露出している。

 彼女の名はスイレン・セイリョウ。元魔王軍四天王の1人、魔人だ。被害はあったものの確認上人死にがなかったことと、最終的に人類側に味方したことで、無罪放免となり、持ち前の美貌と人柄の良さよって人々から受け入れられている。ということになっている。

 

「どこで気ぃついたん?」

 

「そんな訳の分からない訛りで喋るのはお前くらいだし、第一わっちって言いかけてただろ。わざとだな」

 

「なんや、説明の手間省けたわ。言っとくけど通りかかったんはほんまに偶然なんよ?」

 

「あぁ、そう」

 

「いやぁでも久しぶりやなぁ、王宮以来やな。あん時は急におらんくなったから皆んなで心配しとったんよ」

 

「じゃあ何で追いかけて来ない」

 

「そりゃあんた、勇者やし、死ぬ事はないやろ言うてなぁ、ルークはんが」

 

「あぁ、そう」

 

「それはそれとして、ちょっとお茶しぃひん?喉乾いてもうたわ。ちょっと飲み屋……やなかった、喫茶店でも行こうやぁ」

 

「あぁ、そう」

 

「返事のレパートリーいうもんがないんか、あんたは。大体こんなお誘いは男の方からした方がえぇと思うで?でもまぁ、わっち、今人妻ではあるしぃ、そういうの憚られるかも知れんかぁ、おほほほ」

 

「「あぁ、そう」」

 

 僕の言葉にスイレンの言葉が被った。

 

「ほら言うた。おもろないわぁ」

 

 一々歩く方向にスイレンは着いてきた。面倒くさかったから喫茶店に着いて、座ることにした。店員に席を案内される。僕達の席以外に、誰も居なかった。違和感を感じる。微かな魔力だ。

 

「おい」

 

「何ぃ?」

 

「人払いの魔法かけるなよ」

 

 スイレンは幻惑、罠、はたまた誑かしと、人を騙し欺く為に生まれてきたような存在だった。敵だった頃は苦労したもので、僕には効かなかったものの周りが幻惑によって妨害してきたり、罠に嵌ったり、碌なことがなかった。

 

「えぇやん。2人で話したいねん。あんたやって、人妻と2人っきりで興奮してるんとちゃうん?」

 

「する訳ないだろお前なんかに……。何の用だ?」

 

「店員さぁん。このケーキセットいうの2つ、わっちがチーズケーキで、えぇともう片方はまぁチョコでええやろ。どっちもコーヒー、あったかいのでぇ」

 

「聞けよ……後勝手に頼むな」

 

「……"偶然"見つけたから丁度えぇ機会やと思てなぁ。あんた、わっちのこの眼ぇが特別製なんは知ってるやんな」

 

「ああ。お前の眼は他人の情報を見れる。真名に魔力に、加護とか」

 

 スイレンの眼は魔眼と呼ばれるものだ。彼女の目は看破の魔眼。意識する事で相手の情報を事細かに読み取れる。魔眼が発動した合図として瞳が輝く。

 

「よぉ分かっとるやんか。その事なんやけどな、自覚してるかも知れんけど、わっちの眼で見たあんた、めっちゃ弱なってるで」

 

「そう、か。やっぱりそうだよな」

 

 こいつには隠す事なんてできなかった。でも、はっきりと他人から言われると、どうしても腑に落ちてしまった。弱い。どう考えたって。しかも日に日に弱くなっていっている。カインさんの所に向かった時から思っていたが、スイレンに言われると確信的だった。

 

「あんた最近、自分の根本みたいなんが変わった気ぃせぇへん?」

 

「え?……まぁ、何だか最近、我慢が効かなかったりする時はあるけど……それくらい」

 

「へぇ。我慢がなぁ。わっちの目に見えとったいくつかの加護、その先頭にでかでかとあった"忍耐の加護"言うんがなくなっとるんや」

 

「……え?」

 

「ついでに魔力、気力、それに体力も筋力も大分無くなっとる。はっきり言って、王国騎士団の一兵卒よりちょっと強いくらいやな。魔王が死んだ後くらいから薄々感じとったんやけど……な」

 

「そう、……か……でかでかとあったって言ったけど、それ以外の加護はどうなってる?」

 

「普通に残っとるな。でも、多分それ勇者やったから、と思う」

 

「?」

 

「勇者とか魔王って例外があるからはっきりせぇへんけど、ホンマはな、この世に存在する生きとし生けるもんに与えられる加護は一つだけやねん。似たようなもんが出ることはあるけど、過去にあったもんと全く同じもんが存在するなんてないんや」

 

「例えば、お前の幻惑の加護みたいにか?」

 

「まぁ……そんな感じや。で、今残っとるんは、歴代勇者の加護の複製、とかやな」

 

「複製?受け継がれた、じゃなくて?」

 

 勇者は数十、数百年と間隔はまばらだがこの世界に危機が訪れた時、天が遣わす希望の光であるという伝承がある。そして聖教会の記録から勇者の加護は代を重ねる毎に一つずつ増えていったことが分かる。前代の勇者が持っていたものを受け継いでいると考えられている。

 

「あー、そやなぁ、ほら、わっちって結構長生きやろ?今まで何人も勇者とか魔王を見てきて、その経験則やな」

 

「はっきり言え」

 

「……一、二回やけどあんたと似たような状況になってる奴見たことあんねん。無くなったのは力と、自分が元々持っていた加護」

 

「僕は、そうか確かに、勇者に選ばれる前は忍耐の加護だけだったかも知れない……でも何で」

 

「契約不履行——とか?なぁんて、わっちにもよぉ分からん」

 

「契約って、何のだよ」

 

「知らんわ。適当に言って見ただけや」

 

 知らない。僕も知らない。ただ力が無くなった、のは知っている。どうするべきか。

 

「隠す、べきだろうか」

 

「それって問い掛け?それとも確認?」

 

「どっちもだ。勇者が弱くなっている、なんて知られてどう世の中が動くかなんて分かったことじゃないから」

 

「ふぅん。わっちは世の中がどう動こうが知ったこっちゃないわ。己が幸せに生きられたら、それでえぇからなぁ」

 

「勇者は弱くなっていない、って暗示か幻惑をかけたりとかってできるか」

 

「その程度、わっちにすれば朝飯前……や・け・ど、めんどくっさいことこの上ないなぁ。まず明らかにその期間が際限無さそうやし、頭回しすぎて死んでしまうわぁ。わっち、あんたに命賭けれる程愛してないんやけどぉ?」

 

「……すまない。余計なこと言った。……自分でどうにかする」

 

「……ふぅん。そないでっか」

 

 会話は終わる。いつの間にか運ばれていたケーキセットとやらのコーヒーは少し冷めて、カップの淵に湯気が立っていたのが窺える水蒸気が付着していた。

 

 このまま帰ってしまおうかと考えたが、勿体無いのでケーキは食べた。美味しかった。

 

「あ、そうだ」

 

「どないしたん?」

 

「荷物返せ」

 

「何のことぉ?」

 

「僕が持ってた服と本の袋だ。どうせお前だろ。返せ、ほら」

 

「んもう」

 

 スイレンは両の手を少し回すと、袋が現れた。全く、いつ奪っていたのか。

 

「わっちでよかったなぁ。他のもんやったら探しようがなかったで」

 

 いけすかない笑顔を浮かべるスイレン。だがなまじ美人だったのが、男である僕は思わず許してしまいそうになった。癪に触った。

 

 

***

 

 

 帰り道、というべきか。彼女は店を出た後、何をする訳でもなく王都の街を歩いていた。

 幻惑の力を加護として持ち、それだけでも魔法による対策を意に介さない混乱と災厄を撒き散らす最悪の存在。彼女はその気になればいつでも人類を滅ぼし得る力を持っている。

 そんな彼女が何故人類に手を出していないのか。勇者に敗れたからかなのか、もしくは、単に彼女の酔狂によるものかも知れない。

 

「ちょっと間見とったけど、案外変わらんなぁあいつ。遊び甲斐があるんかないんかよぉ分からんわ……もぉ暫くは、ルークはんで遊んどきましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミルトくんは不惑の加護があるのでアンチスイレンです。まぁ惑わないだけで真実は見れないんだけどね!


タイトルが似たような2chのスレを見つけました。設定は違ったけどそっちの方が百億倍面白かった。

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