デクとキラの二重奏   作:ルーシー統括主任

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第1話「新世界の継承者」

 

日本のとある海岸、多古場海浜公園。かつては漂着物と不法投棄で荒れ果てていたこの場所は、今や緑谷出久の努力によってゴミが一掃され、海岸線が輝きを取り戻していた。朝焼けの中、波の音が静かに響き、絶好のデートスポットへと変貌した浜辺に二人の姿があった。筋骨隆々で金髪の男、オールマイト。そして、無個性の少年だったはずの緑谷出久。

 

オールマイトは深く息を吸い、少年を見下ろした。「肝に銘じておきな。これは君自身が勝ち取った力だ」と力強く告げる。そして、自らの髪の毛を一本むしり取り、それを差し出した。「食え。時間が無いからな。」雄英高校の入試は今日で今は朝6時。

 

緑谷出久は目を丸くし、「へぁ」と間の抜けた声を漏らした。感極まる瞬間のはずだったが、入試までの時間が迫っている現実がそれを許さない。躊躇いながらも髪の毛を口に放り込み、慌てて訓練の終わりを迎えた彼は、家に急いで戻った。シャワーを浴び、荷物をまとめ、地下鉄を乗り継いで40分。雄英高校の巨大な校舎が視界に飛び込んできたとき、彼は小さく呟いた。「間に合った…」

 

正門へと足を踏み出そうとしたその瞬間、空から黒い物体が落ちてきた。パラパラとページが風に揺れる音とともに、それは彼の足元に着地する。表紙に刻まれた文字を見て、出久は眉をひそめた。「DEATH NOTE…直訳すると、死のノート?」

ヒーローオタクである彼の頭に浮かんだのは、ヴィランの個性によるものか、イタズラの可能性だった。通常なら拾うべきか迷う場面だ。だが、オールマイトとの訓練を終え、個性を継承したばかりの興奮が彼を突き動かした。躊躇なく手を伸ばし、ノートに触れた瞬間――。

 

頭の中を稲妻が走るような感覚。わずかコンマ0.1秒の間に、前世の記憶が洪水のように流れ込んできた。

*夜神月。幼少期の穏やかな日々。高校三年生でデスノートを拾ったあの日。死神リュークとの出会い。新世界の神になるという野望。FBI捜査官を次々と葬った冷酷な計画。東応大学への首席入学。Lとの壮絶な頭脳戦。弥海砂との記憶とレムの犠牲。父の死。そして、ニアに追い詰められ、廃工場で松田に撃たれ、階段で息絶えた最期の記憶。*

全てが一瞬にして脳に刻み込まれ、出久は2秒間、呆然と立ち尽くした。

 

「これは…デスノートに触れたことで、前世の記憶が蘇ったのか」

冷静に状況を分析する思考は、もはや純粋な緑谷出久のものではなかった。夜神月の知性が彼を支配し始めていた。「今は考えている暇はない。オールマイトから継承した個性を使い、雄英の入試を突破する。それが最優先だ。不自然な行動は避けなければ」

 

立ち上がったその時、後ろから聞き慣れた荒々しい声が飛んできた。「どけ、デク!」

振り向くと、そこには幼馴染の爆豪勝己が立っていた。彼もまた雄英の入試を受けに来ていたのだ。出久は静かにその名を呟いた。「爆豪勝己…」

爆豪は眉を吊り上げ、「俺の前に立つな、殺すぞ」と吐き捨てて校舎へと向かった。

心の中で爆豪は違和感を覚えていた。いつも「かっちゃん」と呼ぶ緑谷が、フルネームで呼び捨てにしたことが引っかかったのだ。しかし、入試直前という状況に思考を切り替え、彼はそのまま立ち去った。

 

一方、出久――いや、夜神月の心の中では冷たい怒りが渦巻いていた。「爆豪勝己…。無個性というだけで他人を見下し、虐げるような輩は、僕の新世界に必要ない。前世を信じてワンチャンダイブしろと言ったお前が、今度は僕の足を引っ張る気か? ふざけるな」

過去の屈辱的な言葉がフラッシュバックし、彼の瞳に鋭い光が宿った。

 

足を踏み出そうとした瞬間、身体がわずかにバランスを崩す。前世の感覚で歩こうとしたせいだ。転びそうになったその時、突然身体が浮いたような感覚に襲われた。「誰かの個性…!?」と警戒した直後、柔らかな声が聞こえてきた。

「私の個性。ごめんね、勝手に使っちゃって。でも、転んだら縁起悪いよね」

見上げると、受験生らしい少女が笑顔で立っていた。「ありがとう」と出久は冷静に返した。

「緊張するよねぇ。お互い頑張ろうね!」と少女は軽やかに校舎へ向かう。

かつての緑谷出久なら、女の子との会話だけで顔を赤らめていただろう。だが、今の彼はそんな感情を抱くはずもない。「くだらない」と内心で切り捨てた。

 

筆記試験は、前世の夜神月の頭脳と緑谷出久の記憶が融合し、完璧にこなした。おそらく満点だろう。しかし、実技試験に不安がよぎる。オールマイトの個性をまだ一度も使ったことがないのだ。「前の緑谷の怠惰さが腹立たしい。前世の僕なら、もっと効率的に訓練を進めていた」と苛立ちを呟く。

 

試験会場に響き渡るハイテンションな声。「今日は俺のライブにようこそー! エヴィバディセイヘイ!」

プレゼントマイクが実技試験の説明を始めた。仮想敵ロボットが演習場に配置され、ポイントを稼いで合否が決まるルールだ。説明が進む中、メガネをかけた真面目そうな受験生が手を挙げた。

「質問よろしいですか。資料には仮想敵が4種と記載されていますが、説明では3種とおっしゃいました。これは誤りですか?」

鋭い指摘に会場がざわつく。そして、その受験生は突然出久の方を睨みつけた。

「先程からボソボソと独り言を呟いて気が散る。物見遊山のつもりなら、即刻雄英から去りたまえ!」

周囲の視線が集中する中、出久は一瞬で冷静さを取り戻した。前世の夜神月の話術が自然と口をついて出る。

「君の指摘はもっともだ。だが、僕が呟いていたのは試験への集中を高めるための戦略だ。むしろ、君がこんな場で他人を非難する方が、ヒーローとしての資質に欠ける行為じゃないのかな? 周囲を鼓舞するのもヒーローの役目だよ」

流れるような反論に、メガネの男は「くっ…」と歯噛みするしかなかった。

プレゼントマイクが慌てて仲裁に入る。「おっと、その4種目はこの会場に一体だけ配置された0ポイントのギミックだ! 大暴れしてるから気をつけてな!」

最後に彼は高らかに叫んだ。「俺からは以上だ! “Plus Ultra”!」

説明が終わり、受験生たちは試験会場へと移動した。

 

演習場はまるで一つの街そのものだった。ビル群が立ち並び、仮想敵ロボットが蠢く様子に、さすがの夜神月も内心で驚嘆した。「オールマイトの個性の原理は…どうすれば発動する?」と頭をフル回転させる。

その時、「ハイ、スタートー!」とプレゼントマイクの声が響き、試験が始まった。

「出遅れた…! 落ち着け、考えろ」と自分を叱咤する。緑谷出久のヒーロー知識と夜神月の知性が交錯し、彼は確信した。「負けるわけがない。雄英高校の生徒という立場は、キラの表の顔として完璧な隠れ蓑になる」

 

走り出した瞬間、1ポイントのロボットがコンクリートの壁を突き破って現れた。「標的補足! ブッ殺ス!」と襲いかかる。足がすくむ感覚に襲われたが、横から青いレーザーが飛び、ロボットを粉砕した。

金髪の受験生が軽薄な笑みを浮かべて言った。「メルスぃ! 良いチームプレイが出来たね。でも君と会うことは二度と無さそうだ。アデュー!!!」

去っていく背中に、夜神月は内心で毒づいた。「二度と会わないだと? 僕を舐めるな」

 

時間が刻一刻と過ぎ、他の受験生が次々とポイントを稼ぐ中、彼は焦りを覚えた。「くそっ、どうすれば…」と呟いた瞬間、ビルを超える巨大な0ポイント仮想敵が現れた。受験生たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、夜神月の唇に狂気的な笑みが浮かんだ。

「これだ…ヒーローの本質は自己犠牲。この状況をカメラが捉えていれば、採点者にアピールできる」

視界の端で、正門で助けてくれた少女が足を負傷し、動けずにいるのが見えた。0ポイント仮想敵が彼女に迫る。

夜神月は走り出した。表面的には少女を救うヒーローのように見えるが、彼の心は冷たく計算的だった。「少女の命などどうでもいい。ただ、この試験を突破する。それだけだ」

 

高く跳び上がり、オールマイトの言葉を思い出す。「スマッシュ!」

拳が0ポイント仮想敵に炸裂し、巨体が粉々に砕け散った。残り時間1分5秒。夜神月は勝利を確信した。

 

緑谷出久。現在0P。

 

こうして、緑谷出久は雄英高校への第一歩を踏み出した。表ではヒーローとして、裏ではキラとして――新世界の神への道が、今、再び始まろうとしていた。




緑谷出久(みどりや いずく)
- 概要: 雄英高校を目指す中学3年生。無個性だったが、オールマイトから「ワン・フォー・オール」を継承。入試当日にデスノートに触れ、前世の夜神月の記憶を思い出し、緑谷出久と夜神月の二重生活を始める。

オールマイト
- 概要: No.1ヒーローで、緑谷出久に個性を継承した師匠。多古場海浜公園で出久を鍛え、雄英入試当日に髪の毛を渡して力を譲る。

爆豪勝己(ばくごう かつき)
- 概要: 出久の幼馴染で、雄英入試に挑む中学3年生。「爆破」の個性を持ち、出久を見下す傲慢な態度で接する。


すみません、今から姫と同伴なので第2話は明日以降になります。
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