雄英高校の一室では、実技試験の採点を終えた教師たちがモニターを囲んでいた。画面には各演習場の映像が流れ、緊張感と活気が混じる声が響く。
「実技総合、成績出ました」と一人の教師が報告。モニターに映し出されたのは爆豪勝己だ。
「救助ポイント0で1位とはなあ!」「タフネスの賜物だ!!!」と教師たちは感嘆の声を上げた。
映像が切り替わり、今度は緑谷出久が映る。「対照的に敵ポイント0で7位か。アレに立ち向かった生徒は過去にもいたけど…ぶっ飛ばしちまったのは久々に見たね」と、ある教師が苦笑交じりに呟いた。別の教師が頷き、「あの覚悟は評価すべきだ」と付け加えた。
合格通知翌日の夜8時。緑谷出久の携帯にオールマイトからの連絡が入り、彼は多古場海浜公園へと向かった。波の音が静かに響く中、暗闇に立つ筋骨隆々の姿が現れる。
「合格おめでとう!」オールマイトが力強い声で祝福した。「一応言っとくが、学校側に君との接点は話してないぞ。君、そういうズルいのは気にするタイプだろ?」
出久は穏やかな笑みを浮かべ、「オールマイトさん、お気遣いありがとうございます」と好青年らしい返答をする。
「さん付け?」とオールマイトは内心で引っかかった。普段は呼び捨てだった少年の変化に違和感を覚えたが、深く追及はしなかった。
出久が続ける。「オールマイトさんが雄英の先生だなんて驚きましたよ」
「発表までは他言無用だからな!」とオールマイトは笑いながら釘を刺した。
だが、出久の心は冷え切っていた。かつてのヒーローオタクなら脳死で駆けつけただろうが、今の彼は夜神月。無計画にここへ来るはずがない。「ワン・フォー・オール、一振りで身体が壊れてしまいました。僕には扱えないかもしれないです。」と切り出す。
オールマイトは即座に答えた。「それは仕方ないさ。突如シッポが生えた人間に芸を見せろと言っても、操るどころか立つことすら難しいって話だよ。」
出久の瞳が鋭くなる。「ああなることは、あなたには分かっていたんですか?」
「まぁ、時間なかったし…でも結果オーライ!!! 結果オールマイトさ!!!」とオールマイトは笑ってごまかした。
出久の内心は苛立ちに満ちていた。「ダメだこいつ…早く何とかしないと…。」
オールマイトは少し間を置き、真剣な口調で言った。「今は100か0かだ。だが調整が出来るようになれば、身体に見合った出力が扱える。鍛えれば鍛えるほど、力は自由に動かせるようになるさ!!!」
そう言って痩せた姿から変身し、筋肉を見せつけるポーズを取る。ファンサービスのはずが、出久にはまるで届かない。それどころか、彼の頭は別の計算に支配されていた。「個性の鍛錬が滞ればキラとしての裁きに支障が出る可能性が高い...。優先順位を上げる必要があるな」と心の中で呟いた。
帰宅後、彼はデスノートを開き、淡々と裁きを続けた。既にデスノートを手にして数日。そろそろ来る頃だと予想していた矢先、後ろから聞き慣れた声が響く。「気に入ってるようだな」
振り向くと、そこには不気味な笑みを浮かべる死神リュークが立っていた。
出久は微動だにせず、平然と見つめる。それを見てリュークが問う。「何でそんな平気な顔してんだ? 普通の人間なら俺を見てパニックになるぜ。デスノートの落とし主、死神のリュークだ。よろしくな」
「リューク、よろしくね。僕は緑谷出久だ」と月は簡潔に返す。
「初対面でそんな落ち着いてる奴は初めてだぜ、出久。どうやらそのノートがただの物じゃないって分かってるみたいだな?」とリュークが興味深く探る。
「ああ、分かってるさ」と月は涼しい顔で答えた。
ノートに目をやったリュークは、ぎっしり書き込まれた名前に鼻息を荒くした。「くくっ…すげえな。逆にこっちがビックリだよ。過去に何度かノートが人間界に出回ったことはあったが、数日でこんな殺しまくる奴にまた会えるとはな!」
夜神月はこの時点で完全に確信した。この世界が僕の死後の未来で、死神界も僕が生きていることを知らない。リュークに正体を明かすか迷ったが、隠し通すのは難しいだろう。
即座に決断し、彼は口を開く。「リューク、僕は緑谷出久じゃない。本当の僕は夜神月だ。何らかの理由でこの世界に戻ってきた」
「お前、俺が殺したはずだろ? 何で生きてんだ?」とリュークが驚きと疑いを込めて問う。
「さあ、どういう理屈か分からない。デスノートを使った人間は天国にも地獄にも行けないと言っていたが、僕は輪廻転生でもしたのか?」
「全く分かんねえな。死神大王に聞いてみるか?」とリュークが提案しかけたが、月が制止する。
「待て、リューク。この超常だらけの世界で、前世より面白い景色を見せてやる。今度こそ僕が新世界の神になる。それに、リンゴ食べたいだろ?」
「さすがライト、気が利くぜ。じゃあ楽しみにさせてもらうよ。」とリュークは不気味に笑った。
だが、会話はそこで終わらなかった。リュークがふと思い出したように、翼を少し揺らしながら問う。「なぁ、ライト。今回は前みたいにお前の父ちゃんが警察関係者じゃねえだろ。情報集めるにも限界があるんじゃねえか?」
その言葉に、夜神月は鼻で小さく笑った。「ふん。そんなこと、とっくに計算済みだよ。」とすました顔で言い放つ。
リュークが首を傾げ、「ほう?」と興味を煽るように促すと、夜神月は冷たい瞳を光らせながら続けた。
「ヒーロー科は体育祭が終わると、ヒーロー事務所への職場体験が始まる。そこで信頼関係を築き、仮免許を取得。その後のインターン期間にデータベースの場所と侵入経路を突き止めれば、あとは前世と同じだ。裁くだけだよ。」
言葉には一切の迷いがなく、まるで既定路線を語るような確信が宿っていた。計画の緻密さと冷酷さに、リュークは一瞬目を丸くした後、口元を歪めて不気味に笑い始めた。
「くっくっく…やっぱり死神より死神してるな、お前。」と低く響く声で呟いた。
夜神月は内心でほくそ笑んだ。「この世界では個性が捜査を複雑にする可能性もあるが、ヒーロー社会の仕組みを利用すれば、前世以上の効率で裁ける。父が警察官でなくとも、僕には頭脳とデスノートがある。」
リュークがさらにからかうように、「前世じゃLとかニアとかいう奴に追い詰められてたよな。今度はどんな敵が現れるか楽しみだぜ。」と言いながら、空中で身を揺らす。
「その時は、その時だ。敵が現れようが、僕の計画は揺るがない。」と夜神月は静かに、だが絶対的な自信を込めて応じた。
「へぇ、さすがライトだ。じゃあリンゴくれよ。話聞いてたら腹減ってきた。」とリュークがだらけた口調でせがむ。
夜神月は机の引き出しからリンゴを取り出し、放り投げる。「お前も相変わらずだな。」と一瞥して、デスノートに目を戻した。
リュークはリンゴをかじりながら、「くくっ、これからが面白くなりそうだぜ。」と呟き、暗い部屋にその笑い声が反響した。
春。入学当日の日の朝。緑谷家では母が慌ただしく出久を見送る準備をしていた。「出久、ティッシュ持った? ハンカチは? ハンカチも!!!」
「全部持ってるよ。心配性だなあ、母さん。ただの入学式だよ。」と出久は余裕の表情で返す。
母は息子の変わりっぷりに目を細め、「出久!!! 超カッコイイよ!!!」と微笑んだ。
「行ってくるよ、母さん。」と言い、彼は堂々とした足取りで家を出た。誰が見ても好青年そのもの。裏でキラとして暗躍しているとは誰も想像しない。
リュークが後ろから茶化す。「ライト、やっぱお前作り笑顔上手だなあ!!!」
校舎に着き、パンフレットの地図を頭に叩き込んだ出久は迷わず教室へ向かう。「やけに広い校舎だな。」と感じつつ、巨大な「1-A」のドアに辿り着いた。「ここか。」
中では爆豪勝己と飯田天哉が口論を繰り広げていた。
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や製作者に申し訳ないと思わないのか!!!」と飯田が注意。
「思わねえよ。てめえ、どこ中だよ、端役が!!!」と爆豪が返す。
「僕は私立聡明中学出身。飯田天哉だ。」と飯田が律儀に自己紹介すると、爆豪は「聡明〜!? クソエリートじゃねえか。ぶっ殺しがいがありそうだな。」と挑発した。
月は仲裁に入ることを決めた。爆豪が気に食わない存在であると同時に、クラスでの信頼を早々に築く為に利用させて貰う。「お互い初日なんだから、ここは冷静になろう。雄英に来た目的を見失うのは勿体ないよ」と正論を織り交ぜ、饒舌に話を収める。
一見好青年の行動だが、爆豪にしか見えない角度で嘲るような笑みを浮かべた。爆豪は内心で激昂したが、入試以来の出久の変化に警戒し、手を出すのを控えた。
飯田が向き直り、「緑谷くん…君は実技試験の構造に気付いていたんだな。俺は見誤っていた。悔しいが、君の方が上手だった。」と悔しさを滲ませて認めた。
爆豪が睨む中、後ろから明るい声が飛んできた。「あ!!! そのモサモサ頭は!!! 地味めの!!!」
試験で助けてくれた少女、麗日お茶子だ。好意的な笑顔で話しかけてくる彼女に、月は落ち着いて対応。「あの時、直談判してくれてありがとう。」と目を見て礼を言う。
爆豪はそれを見ながら、中学での記憶を思い出した。合格発表後、教師が「緑谷は奇跡中の奇跡だ」と褒めた後、校舎裏に緑谷を呼び出し、緑谷の胸ぐらを掴み、「どんな汚え手使ったんだ!!!」と詰め寄った。だが、今の緑谷は怯まず、逆に爆豪の手首を掴み、「僕の邪魔をするなら、幼馴染だろうが許さない。」と冷たく言い放った。その記憶が蘇り、爆豪は内心呟く。「反抗しやがって…お前の化けの皮を剥がしてやる。」
キャピキャピした会話が続く中、寝袋から声が響く。「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ。」
一同が「なんかいる!!!」と驚く中、「担任の相澤消太だ。よろしくね。」と寝袋から出てきた男が自己紹介。
「さっそくだが、体操服着てグラウンドに出ろ。」と指示し、1-Aの生徒たちは従った。
「個性把握テスト!?!」と驚く一同。お茶子が「入学式は?? ガイダンスは??」と聞くと、相澤は呆れた顔で、「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出る時間はないよ。」と一蹴。
「雄英は自由な校風が売り文句。それは先生側も同じだ。爆豪、中学のソフトボール投げ何メートルだった?」
「67メートル。」と爆豪が答える。
「なら個性使ってやってみろ。思いっきりな。」
「死ねぇぇ!!!」と爆豪が叫び、ボールを投げる。一同が「死ね?」と困惑する中、記録は705.2メートル。
「705メートルってマジかよ!」「おもしろそく!!!」と生徒たちの声が上がる。
相澤が呟く。「…面白そう…か。」そして死んだ目で続ける。「ヒーローになる3年間、そんな腹づもりで過ごす気か? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分とする。」
出久は焦りを覚えた。「余計なことを…!!!」
夜神月にとって、個性の無断使用が禁じられた社会で鍛錬の場は雄英しかない。雄英に入学してからコントロールの鍛錬を始めようとしてたのだ。除籍は計画の崩壊を意味する。自分の甘さを痛感し、リュークが茶化す。「ライト、ピンチじゃーん」
相澤は不快な笑みを浮かべ、「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」と締めくくった。
- 緑谷出久
雄英入試を7位で通過し、1-Aに所属。「ワン・フォー・オール」で身体を壊す。裏ではデスノートでキラとして裁きを続ける。前世の夜神月として、新世界の神を目指し、雄英を隠れ蓑に利用する冷徹な少年。
-オールマイト
No.1ヒーローで出久の師。雄英の教師として個性の調整を指導。出久の変化に気付かず、彼を未来の希望と信じる。
- 爆豪勝己
出久の幼馴染で1-Aの生徒。入試1位の実力者。「爆破」の個性で705.2メートルを記録。出久の変貌に警戒し、対抗心を燃やす。
- 飯田天哉
1-Aの真面目な生徒。試験での出久の実力を見誤り、悔しさを抱く。爆豪と口論しつつ、クラスでの秩序を重視。
- 麗日お茶子
1-Aの明るい少女。試験で出久を助け、ポイントを譲り、彼に好意的な態度を見せる。無重力の個性を持つ。
- 緑谷の母(緑谷引子)
出久を育てるシングルマザー。息子の合格と成長を喜び、心配性ながら見送る。裏の顔は知らない。
- 相澤消太
1-Aの担任で厳格な教師。個性把握テストで最下位除籍を宣言し、生徒に現実を突きつける。
- リューク
出久にデスノートを落とした死神。夜神月の正体を知り、面白がって同行。リンゴで釣られつつ、彼の計画を見守る。