デクとキラの二重奏   作:ルーシー統括主任

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第4話 「試練の幕開けと暗躍の足音」

 

「最下位除籍って...! 入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても...理不尽すぎる!!」

麗日お茶子が、目を丸くして相澤消太に抗議した。

彼女の声は、個性把握テストの緊張した空気を切り裂き、クラスメイトたちの間に微かなざわめきを引き起こした。

飯田天哉が「確かに異議はあるが…」と呟き、爆豪勝己が「うるせえ」と苛立たしげに舌打ちする中、夜神月は静かにその様子を観察していた。

 

 

「麗日の抗議か…感情的だが、悪くないきっかけだ」

夜神月の頭脳は瞬時に状況を分析した。

相澤の「最下位除籍」という宣言は、本気なのか、それとも生徒に本気を出させるための単なる脅しなのか。風貌から意図を読み取るのは難しいが、彼の冷徹な瞳と無表情からは、何か裏がある可能性も否定できない。

「もしこれが布石なら、抗議は無意味かもしれない。だが、本気なら…ここで黙っていては僕の計画が頓挫するかもしれない...。」

一瞬の迷いの後、彼は決断した。麗日の勢いに乗じて、抗議の流れを加速させるのが得策だ。

 

 

緑谷出久として、夜神月は穏やかで自信に満ちた笑みを浮かべ、相澤に向かって口を開いた。

「麗日さんの言う通り、僕も引っかかります。先生、初日から最下位を除籍するのは、僕たちにチャンスを与えないってことですよね? ここにいる全員、ヒーロー科で学びたくて来たのに、たった1日で切り捨てるのはおかしい。みんなもそう思うでしょう!!!」

 

彼は周囲を見渡し、共感を求めるように声を張った。

言葉は優等生らしい誠実さに満ちていたが、内心では、「この程度の試練で僕が排除されるはずがない。

相澤、お前のルールごとひっくり返してやる」と冷たく燃えていた。

 

「へえ、デク。なかなか上手く扇動するじゃねえか」と、リュークが背後で低く笑う。

案の定、数人の生徒から「確かに…」「緑谷の言う通りだ」と共感の声が上がった。

飯田が「理不尽なルールには異議を唱えるべきだ!」と力強く支持し、お茶子も「そうだよ!」と頷く。

 

夜神月はさらに一歩踏み出し、相澤を真っ直ぐ見つめて続けた。

「先生、僕はこんなの納得できません。先生なら分かってくれますよね。」

その口調は穏やかだが、どこか挑戦的な響きを帯びていた。

 

 

相澤は一瞬黙り込んだ。

眠たそうな相澤の瞳が、夜神月を鋭く捉える。やがて、彼は淡々と説明を始めた。

「分かってくれる…か。自然災害…大事故…身勝手な敵たち…。いつ何処から来るか分からない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういうピンチを覆していくのがヒーローだ。」

 

その言葉に、クラスメイトたちの表情が引き締まる。相澤は僅かに口角を上げ、笑みを浮かべながら続けた。

「これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。Plus Ultraさ。全力で乗り越えてこい。」

その宣言は、重くもどこか期待を孕んだ響きを持っていた。

 

 

生徒たちの反応は様々だった。

飯田は「覚悟を決めるべきだ」と姿勢を正し、お茶子は「頑張らなきゃ…!」と拳を握り、爆豪は「やってやるよ」と不敵に笑う。

しかし、夜神月は人一倍焦燥感に苛まれていた。「Plus Ultraだと? 苦難を与えるだと? 僕を試すにはいい舞台だが、初日からこんなリスクは想定外だ。」

彼の心は、前世の記憶と現在の現実が交錯する嵐の中にあった。

 

 

入試の日の夜、デスノートを拾い、前世の記憶が蘇った後の事を思い出す。

あのYB倉庫でニアに追い詰められ、松田に撃たれ、血を流しながら這って逃げた記憶。

死に際、かすかに感じた後悔——「デスノート拾わなかったら。」という疑念が、今世の彼の信念を一時揺らがせていた。

 

だが、今の超常社会を見て、その迷いは瞬時に消え去った。

テレビをつければヒーローの賛美ばかり。CMもバラエティもニュースも、ヒーローを神聖視する声で溢れている。

しかし、緑谷出久の記憶が教えてくれた真実は違う。

ただの遺伝や偶然で強い個性を持った者が称賛され、無個性は人権など無いかのように蔑まれる理不尽な世界。

犯罪検挙率は前世より低く、指名手配の逃亡犯が野放しになり、不起訴で裁かれない悪人が跋扈し泣き寝入りするのが現実。

「この社会は腐ってる。ヒーローが正義を掲げながら、金と名声のために犯罪者を裁く…その矛盾を放置するなんて、僕には耐えられない...。」

 

夜神月の心の中で、キラとしての怒りが再燃した。

「ヒーロー社会は偽善の仮面だ。法で裁けない悪人を放置し、真っ当な人間が苦しむこの世界を救えるのは僕しかいない。もう前世の失敗を繰り返さない。今の僕には緑谷の知識と強力な個性がある。誰が国民的ヒーローの裏にキラが潜んでると気付く? 僕が新世界を創る合理的理由は、ここにある。」

彼は再びキラとして生きることを誓った。

だからこそ、初日で除籍される可能性に焦りを覚えていたのだ。

「嘘かもしれないが、本気だと仮定して動くべきだ。ここで躓くわけにはいかない。」

 

 

「第1種目、50メートル走」と相澤が告げた。

飯田天哉が「エンジン」で疾走し、青山優雅が「ネビルレイザー」で華麗に走り抜ける中、夜神月の番が来た。一緒に走るのは爆豪勝己だ。

「初種目から個性を使うのはリスクが大きすぎる。持久力を使う種目で怪我すれば終わりだ。」と彼は冷静に判断し、個性を使わず走った。

結果は7.02秒。平凡すぎる記録に、内心で苛立ちが募る。

「この程度では目立たない。もっと個性を活かせる種目で挽回するしかない。」

 

走り終えた後、彼は入試後、多古場海浜公園でのオールマイトとの会話を思い出す。

「調整のコツは感覚だ! 君は100%を引き出せたはずだ! 感覚はどうだった?」と問うオールマイトに、「電子レンジに入れた卵が爆発するような感覚でした」と答えた自分。

そして、「W数を下げるイメージを反芻しろ」との助言。あの痛みがフラッシュバックし、夜神月は眉をひそめた。

「痛みへの恐怖が邪魔をする。前世の倉庫での痛みが蘇る…だが、怯むわけにはいかない。」

 

次の握力テストでは、卵が爆発しないイメージを試みたが、入試の激痛が脳裏を支配し、力が出せない。

「くそっ…」と呟き、記録は56kg。

隣で腕を4本ある生徒が540kgを叩き出すのを見て、「何だこの差は? こんなところで躊躇してる僕がキラになれるのか?」と自己嫌悪に陥った。

 

反復横跳びでも、足への連続的な負担を恐れ個性の使用を控え、平凡な結果に終わる。

焦燥感が彼を包んだ。

「残りはボール投げ、持久走、上体起こし、長座体前屈…ボール投げ以外で個性は使いにくい。ここで決めなければ最下位だ。最下位になってたまるか…!」と心の中で叫んだ。

 

「緑谷くん、このままだとまずいぞ…?」と飯田が心配そうに声をかける。

「当たり前だ! 無個性の雑魚だぞ!」と爆豪が即座に反応し、

「無個性!?彼が入試の時に何を成したか知らんのか!!」と飯田が反論。

騒ぎが背後で起こるが、夜神月は耳を貸さなかった。

「キラを必要とする人がいる。僕は新世界を創るんだ。」

彼は覚悟を決め、ボールを手に取った。

 

大きく腕を振りかぶり、「絶対に結果を出す!」と意気込んで投げた——はずだった。

しかし、メーターは46メートルを表示。混乱する夜神月に、相澤が近づき、「個性を消した」と告げた。

「つくづく、あの入試は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」と冷たく続ける。

「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド…このゴーグルに見覚えがあったわけだ。」

夜神月は小さく呟きつつ、冷静さを取り戻した。

 

相澤がさらに近づき、

「見たとこ…個性を制御できないんだろ? また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」と問う。

夜神月は柔らかな笑顔で応えた。

「そんなつもりはないですよ、先生。確かに制御は難しいですけど、助けてもらう気はないんです。僕は、この個性をちゃんと使うためにここにいるんです。どうか、もう一度投げさせてください先生。結果は出します。」

 

「助けてもらう気はなくとも、周りはそうせざるを得なくなる。お前のは蛮勇だ。昔、暑苦しいヒーローが大災害から千人以上を救った。お前のは一人を助けて木偶の坊になるだけだ。緑谷出久、お前の力じゃヒーローにはなれない。」

相澤の断言が、夜神月の幼稚で負けず嫌いな心に火をつけた。

「僕がこんなところで躓くはずがないだろう…!」

 

相澤が目を閉じ、「個性は戻した。ボール投げは2回だ。さっさと済ませな」と告げた。

彼は冷めた目で、

「どうせ玉砕か萎縮かの二択だ」と見つめる。

夜神月は思考を巡らせた。

「他の種目が平凡すぎる。ここで挽回しなければ除籍だ。個性全開は愚かだが、一点集中なら印象を変えられる。人差し指ならダメージは最小で、スコアは稼げる。完璧だ。これで認めさせてやる…。」

 

彼は小さく笑い、人差し指に「ワン・フォー・オール」を集中させた。

「Smash!!」と叫び、ボールを投げる。

メーターには705.3メートルが映し出され、相澤は内心、「指先に力を絞ったのか…。」と驚く。

夜神月は痛む指を押さえ、「先生、僕はまだ動けますよ。」と自信満々に宣言した。

「こいつ...」と感心したように口角を上げる相澤。

「おい、ライト。派手にやったな。指一本で済むとは思わなかったぜ。」とリュークが笑った。

 

 

 

 

同時刻、新大久保のラブホテル一室。

とある死亡現場で、捜査員が呟く。

「この男は2年前、少女連続殺人事件の容疑で逮捕されましたが証拠不十分で不起訴処分となった者だそうです。午前8時頃、突然ここで胸を抑えて苦しみ出した...だとか...。」

「また心臓麻痺か…」

「おそらくまた...ですね」

中堅捜査員が若手に話す。

「昼過ぎからキラ模倣犯の捜査本部が開かれる。今回は被害者が、あまりにも多いから、あの『極追跡特務隊』が動くらしい。」

「あの幾多の難事件を解決したチームが!? 噂じゃなかったんですね!」と若手が驚く。

「ああ、彼らなら被疑者特定も近いだろう。」と中堅が冷静に頷く。

 

奥から、とある警部が歩み寄り、静かに口を開いた。

「キラ模倣犯か…正義のヒーローのつもりかもしれないが、私刑は犯罪だ。野放しにはできん。」

「塚内警部!」と二人が振り向く。

塚内は淡々と続けた。

「一刻も早く捕まえねばならん。社会の秩序を乱す輩は、許さんぞ。」

物語は、夜神月の知らぬ間に進んでいた。

 




- 緑谷出久(夜神月)
前世で「キラ」として犯罪者を裁いた夜神月が、緑谷出久の体で転生。聡明で計算高く、「新世界の神」を目指すが、学校では好青年を演じる。「ワン・フォー・オール」を継承し、ヒーロー社会の矛盾に怒りを燃やす。

- オールマイト
No.1ヒーロー。緑谷に「ワン・フォー・オール」を譲り、指導者として助言を与える。豪快で熱血だが、深い洞察力を持つ。

- 爆豪勝己
緑谷の幼馴染でライバル。個性「爆破」を使い、自信家で攻撃的。緑谷を「無個性」と見下すが、入試での実績に苛立つ。

- 麗日お茶子
明るく正義感の強い少女。個性「無重力」で物体を浮かせる。理不尽さに抗議し、夜神月の発言を支持する。

- 飯田天哉
真面目で規律を重んじるクラス委員。個性「エンジン」で高速移動。夜神月の抗議に共感しつつ、秩序を重視。

- 相澤消太(イレイザーヘッド)
1-Aの担任で抹消ヒーロー。個性「抹消」で他人の個性を一時無効化。厳格だが生徒の成長を期待する。

- リューク
夜神月の行動を見物し、皮肉や茶々を入れる傍観者。超常社会にも興味津々。

- 塚内警部
警察庁のベテラン警部。冷静沈着で正義感が強く、キラ模倣犯を犯罪者と断じ、迅速な逮捕を誓う。
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