ユメ先輩「ひぃん!!ギルドは狩猟を要請するよ!」 作:まつ毛とパンツ
龍都の生き残りこと、シルドの民が住む隠れ家にやって来たレイヴン、オトモアイルーのペコ、編纂者の資格を持つユメ先輩、そしてミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部からはアリスとオトモンであるアルシュベルト、双子のモモイとミドリ、そしてアルシュベルトの一応の監視役であるユウカ。
「えっ?様子が変だよ?」
ペコがその場の全員の心の声を代弁するように告げた。彼らはシルドの民の隠れ家である里の入口に来ているが、扉は未だ閉ざされており…扉の僅かに開いた隙間からは何かが通ったような後があり、入口から下層に向かって複数の尻尾…いや触手を持つ何かがはうように移動した痕跡があり、そこには人間の赤い血液が乾いたような後も残されていた。
「ひぃん!?これって…人間の血?」
久しぶりにシルドの隠れ家に来てみれば、ホラー映画の惨劇が行われたような現場に遭遇してしまい、2年の歳月で他の生徒と比べてモンハンのモンスターに対する知識を得ているユメ先輩でさえも驚いてしまう。
「多分な。この痕跡は…結晶が鋭利になった物が落ちている?結晶を武器にするのはディノバルド亜種だが、住んでいる地域が異なるし…這うような痕跡は残さない」
ギルドナイト時代ゆえの経験があり、モンスターの知識に対しても博学なレイヴンが痕跡を分析する。這うような痕跡は複数の触手を用いて移動したような物であり、間違いなく竜ではない。蛇竜という線もあるが、蛇竜の骨格では閉ざされた入口の隙間を通過することは不可能。
この痕跡を残したモンスターはかなりの確率で骨がない軟体動物であり、同時に獰猛な肉食モンスターの可能性が高い。
「頭足種?だが、この痕跡からして陸地に住まう頭足種で大きくなる物が居るのか?ユメ、エリックにビデオ通話を」
「はい!…えっ?エリックさんにですか?アルマさんじゃなくて?」
「アルマは別件で通話が出来ない。それに生物なら、専門家に聞くのが早い」
『なるほどね。大陸側では大型の頭足種は殆ど居ないからね。遺伝子工学では頭足種だけど、明らかに自然の法則から外れたオストガロアという古龍も有るけど。
モモイちゃん、ミドリちゃん。そこの触手らしき物の跡に立ってくれない?』
「はい!エリック先生!!」
「はい」
大陸側では頭足種のモンスターは珍しい。遺伝子工学や遺伝的には大型の頭足種であるオストガロアという禁忌の甲イカが居るが、オストガロアは生体が明らかに自然のソレを超越しており、分類的には古龍に分類される。
モモイとミドリはエリックに言われた通り、触手が這った跡に立つ。すると、エリックは数秒ほど考えて…
『全長は14メートル前後、全高は大雑把に見積もって2メートルから3メートルか。他の痕跡から判断してシーウーか?いや、シーウーの痕跡にしてはデカ過ぎる。
だけど、大陸側では全高1メートル弱のシーウーは周辺に大型モンスターや肉食動物が多いのもその一つ。龍都の跡地はガーディアンは居るが、捕食者は小型しかいない…幼体のシウシウも安全に大きくなると考えれば…それに完全栄養食とも言える竜乳が無限に出ることもあり、竜乳やそれらを吸収するガーディアンをエサとして捕食すれば、大陸の個体と違って充分に育つ可能性もある』
「つまり、大陸では小型だった一部のモンスターが、竜乳の栄養や捕食者が居ない影響で、大型に育つ進化をしている訳だな?」
『そうだね。その可能性が高い。それに頭足種は全身が筋肉で、骨が要らない程だ。例外なく肉食だから、気をつけて』
頭足種は例外なく肉食、そして骨さえ不要な全身筋肉であり、身を守る殻も存在しない。切断した触手も充分な栄養が有れば再生するほどであり、小型の頭足種は色彩を変えることも出来るのだ。
エリックは通話を切り、ユメのスマホに『シーウー』というモンスターの詳細を送ってくれた。シーウー(大陸の姿)は全高1メートル弱のモンスターであり、一度の産卵で数千の卵を産み、幼体はシウシウと呼ばれている。閃光玉や閃光弾は効かず、食性は肉食であり、吸盤の代わりに触手には無数の鋭利な歯が生えており、触手から分泌液を出して…それで結晶の刃を作り出すことも出来るのだ。
だが、それは獰猛な捕食者が周辺に要る環境の場合。大陸でのシーウーはリオレウスやオドガロンにボコボコにされており、シウシウでさえ成長できるのは極僅か。この龍都の跡地には肉食生物は殆ど存在しない。連龍脈を通ってアビドス砂漠や緋の森、ゲヘナ火山や氷霧の断崖こと首都の跡地から肉食モンスターも流れ着くが…基本的には大型モンスターはガーディアンだけであり、襲われはするが食べることはない。だからこそ、仮にここにシーウーが居れば大陸側より遥かに大きくなる可能性も有るのだ。
「うわ、気持ち悪い!!これがシーウー!?」
「頭の上にも口がある!?」
「ひぇ!?脚の裏こわ!!」
「アギャッス」
ユメのスマホに着たシーウーの画像を見て、ユウカ達は驚く。なぜなら、そのシーウーの姿はエイリアン真っ青のクリーチャーだったのだから。
本来、頭足類こと頭足種は身体の作りが脊椎動物と異なっている。
胴頭
脚
↑こんな感じになっていたりするのだ。人の場合は頭→胴体→下半身であるが、頭足種は異なるのだ。
しかし、シーウーは頭足種の中でも特殊であり、内臓が詰まった胴は小さく退化している。
第二の口
胴(小さい)頭
口
脚
こうなってるのだ。口が2つ有り、下からの口と頭の上の口、その中にはミキサーのように小型の歯が無数に有り…獲物を挽き肉にしながら丸飲みにする。こうすることで、小さな消化器官でも効率良く消化できるのだ。
「用心に越したことはない。すまない…誰か居るか?」
レイヴンは入口の向こうに要ると思われるシルドの民に話しかける。しかし、返事はない。
「相棒?」
「強引に行くぞ。最悪の場合、数時間以内に頭足種のモンスターがまた来る」
血の痕跡、返事がない、この2つからレイヴンはシルドの民が頭足種に襲われたと判断。指を入口の下に入れて、己の怪力で強引に扉を開けてしまった。
「なにこれ……」
「ひどい…」
だが、その先は地獄だった。住居はボロボロとなっており、シルドの里は荒らされていた。多くの人々は無傷とは言えず、殆どの人が大怪我をしており、中には下半身が文字通り無くなった人、その人が死んでいることを受け入れられず…心臓マッサージを続ける人等々だ。
「うぅぅぅ…」
勿論、大怪我をした人の中には手足が無事な人も居るが、肩から袈裟懸けにかけて皮と表面の肉が抉りとられた人も居たのだ。
「ユメ、直ぐにファビウス団長に連絡。ヘリで医療部隊を回せ。
ユウカはミレニアムサイエンススクールに連絡し、直ぐに病院の手配だ。そしてミレニアム自治区に滞在してるサポート部隊を回してくれ」
このままでは大勢の人が死んでしまう。だから、レイヴン達は素早く行動に移した。
レイヴンは回復の大粉塵というアイテムを取り出し、それを辺り一面にばら蒔いた。ばら蒔いた大粉塵は輝く緑色の粒子になり、辺り一面に届き…傷ついたシルドの人々を癒す。だが、それでも重傷者には一時的な時間稼ぎしか出来ないだろう。
「すまない…本当に助かった」
3時間後。駆けつけたギルドからの救助部隊*1とミレニアムからの医療部隊、迅速なレイヴン達の対応のお陰で未だ息の有った人は全員が助かった。
その事もあり、シルドの代表であるタシンは深く、頭を下げた。そんなタシンの後ろでは…外見年齢がモモイやミドリほど…つまり中学生ほどの男の子 ナタが居たのだ。
「シルドの里を襲ったモンスターはガーディアンか?いや、捕食痕が有ったことから、ガーディアンじゃない。被害者の肉片が削られるように抉りとられていたことから、このモンスターか?」
レイヴンが聞き、レイヴンからアイコンタクトを受けたユメがスマホを取り出し、画面にシーウーの画像を出して見せる。
「ああ…間違いない…このモンスターだ。見たことがないモンスターで…全長は十数メートルだったよ」
間違いない…シーウーのようだ。だが、このままではいけない。
シーウーは非常に賢い生き物だ。事実、人間とアイルーなどが全滅したあと、地球の新たな霊長となるのは頭足種なだと言われている程に知能が発達している。
そんなシーウーは理解してしまった。アソコの生き物はガーディアンと比べて弱い生き物だ、簡単に食べることが出来るし、骨は有るけど身は柔らかい、苦労せずに簡単に食べることが出来ると。身体を鍛えていない人間の弱さを知ったシーウーにとって、人間は手軽に手に入る食料なのだと。
「なら、話は早い。今すぐここから出てミレニアム自治区に身を寄せてほしい。あのシーウーは人の味を覚えた、命懸けの生存競争をしなくてもエサが手に入ると知れば、シルドの里を必ず襲う。
ミドリとモモイ、ユウカはタシンとこの子供を連れて、ミレニアム自治区に。アリスとアルシュベルトは手伝ってくれ…ユメ、許可を」
「はい!ギルドは件のシーウーの討伐を要請します」
狩猟ではなく、討伐。当然だ。狩猟は討伐だけではなく、捕獲も兼ねている。捕獲すれば調査すれば野生に帰すことになり、人の味を覚えたシーウーは…人肉を求めてミレニアム自治区に出るかも知れない。
「待ってくれ!!ソウシという里の者がそのシーウーだったか?に連れ去られたのだ!!」
しかし、ソウシという人物がシーウーに連れ去られてしまったのだ。シーウーの食欲を考えれば…既に手遅れかも知れないが、やるだけ探すしかないだろう。
「む?」
しかし、ペコが何かに気付く。後ろの隙間から…にゅるっとシーウーが出てきたのだ。全長は十数メートル…全高は3メートルほどあり、シーウーは素早い動きでタシン…いや、タシンの後ろに居るナタに襲いかかる。
「不味い!!」
レイヴンは背中に背負った大剣ヴァルレギオンに手を伸ばすが、間に合わない。このままではナタはシーウーに食べられてしまう。
「アギャッス!!」
「ナイスです!!」
「ぐるゅぅぅぅ!!」
だが、そうはならなかった。アルシュベルトがシーウーの横からタックルし、シーウーを吹き飛ばす。シーウーは里の入口まで吹き飛ばされ、触手で止まろうとしたが、勢いを殺せず…崖から堕ちるように下に落下した。
「作戦開始!!」
レイヴンはそう叫び、落ちていったシーウーを追いかけて走り出す。その1歩目で、里の地面がへっこんだが気にしてはいけない。
「ぐるゅぅ……」
アルシュベルトに落とされたシーウーは大したダメージはなかった。全身筋肉の軟体動物であり、骨折などは関係ない。そしてシーウーはその目で見て理解した。更に上に行けば、弱い生き物…人間のもっと大きな集落があると。
さて、上に行こうと移動しようとした時だった。
「よお」
上から物凄い速度でレイヴンがヴァルレギオンを構えて、降ってきたのだ。落下の勢いを用いて、ヴァルレギオンを振り下ろし、シーウーの胴体を切り裂く。切り裂かれた胴体から半分以上どろどろに溶けた挽き肉や青白い挽き肉が出てきた。恐らくだが、人肉やガーディアンの肉だろう。
「浅いか…」
「ぐるゅぅぅぅ!!」
だが、タコは全身が筋肉!!そして再生能力があり、筋肉を収縮させて無理やり、傷を塞いだのだった。
シーウーの触手から分泌液が出てきて、それが瞬時に固まる。鋭利な槍、あとは触手に付けられた投げナイフとなる結晶となったのだ。
シーウーは槍のように触手を伸ばし、レイヴンを攻撃するが、レイヴンは緊急回避で前転して、その攻撃を回避する。だが、その一撃は軽く岩盤を貫いた。
続いて、結晶を投げナイフのように飛ばすが…レイヴンはヴァルレギオンの刀身でガードして防ぐ。
「頭足種と戦うのは初めてだな。パターンが読めん」
ヴァルレギオンを背負い、距離を取るレイヴン。
シーウーは8本の触手を持ち、短い触手が2本、長い触手が6本だ。捕まりでもしたら、ナイフのような歯で抉られること間違い無しだろう。
鞭(蛇腹剣のように鋭利な歯がいっぱい)のように触手が迫る。レイヴンは後方に飛んで回避するが、続いて投げナイフのように結晶が飛んでくる。物陰に隠れるが、続けてシーウーは…地面に落ちていた爆破岩を触手でつかみ、スリングショット…投石器のように遠心力を用いて投げてきた。
「なっ!?」
スリングショットの速度は紐を用いても、秒速80メートルを計測している。ただの紐で人間(非力)の腕力でそれである。それが全身筋肉のシーウーが使えばどうなるか?考えるまでもなく、レイヴンが隠れていた物陰を一撃で粉砕した。
「ぎゅるっぽ!!」
物陰が粉砕され、煙からシーウーが高速で迫る。さて、このままレイヴンを食べようと迫るが、そこにレイヴンは居らず、代わりに有ったのは大樽爆弾であった。
「ぎるっ!?」
もう停まらんよ。シーウーは口部で大樽爆弾を刺激してしまい、弱点に大樽爆弾の爆発が直撃する。まさに、刺激的な味となり、シーウーは裏側にひっくり返ってしまう。
「丸見えだ」
そして隠れ蓑の装衣を纏ったレイヴンが現れ、不意打ちの一撃を与えて、シーウーの触手が1本ちぎれて飛び切断される。
「ぐゅぅぴ!!」
「そこが弱点だな?」
そして口部に渾身の真溜めが炸裂し、シーウーに絶大なダメージが入り、シーウーの口部~触手に向けて広がる歯がボロボロと砕ける。まあ、デンタルバッテリー*2で直ぐに生えそうだが。
絶大なダメージを受けたシーウーはレイヴンから距離を取る。全方位に素早く移動が可能な、タコ由来の動きだろう。
「どうして俺が1人だと思う?こう言うことだ」
風が吹く。地下空間である龍都の跡地は基本的には上からの下降気流しか吹かない。だが、その風はしたから吹いた。
「お待たせしました!レイヴン先生!!」
「お待たせ相棒!!」
それはアリスとペコを乗せたアルシュベルトであり、竜乳をエネルギー変換したのだろう。翼の蛇腹剣から莫大な龍属性エネルギーが吹き出していた。
「ぶちかましてやれ」
「アギャァァァシャァァア!!」
振り下ろされるアルシュベルトの蛇腹剣。その一撃は、1000年ぶりにシーウーという種族に、アルシュベルトというキヴォトスの王者からの裁きであった。
「ぐるびゃぁぁぁあ!!」
その一撃を持って、そのシーウーは完全に沈黙し、討伐された。
「アリスとアルシュベルトはユメを迎えに行ってくれ。俺はその間、コイツの胃袋を調べる」
アリスとアルシュベルトをユメの迎えに行かせ、その間に剥ぎ取りナイフで、シーウーの胃の内容物を調べるレイヴン。流石に、子供に消化された人間及びガーディアンの肉片を見せる訳にはいかない。
「どう?…相棒」
「わからん。だが、人間特有の腐敗臭がする。人間を食べてたのは間違いない…これは…」
やがて、中からシルドの民が着ているコートのような物が出てきた。シーウーの歯と胃液でボロボロだが、間違いない。
「それって…」
「ああ、誰かは分からんがシルドの民の人のだ」
それをポーチにしまう。
「もっ…もしかすれば…巣に囚われてるかもしれませんし!!」
ユメと合流し、安全のためにもユメはアリスの後ろでアルシュベルトに乗せてもらう。
レイヴンとペコはセクレトで移動し、警戒しながら奥に進む。エリックが言うにはシーウーは本来、洞窟の奥などに巣を作る習性があるそうだ。
「停まれ」
だが、レイヴンは停止の合図を出す。そこは複数の繭があり、破れた繭はゆっくりと修復されて中が竜乳で満たされた。元から破れていない繭はうっすらとセクレトらしき影や、リオレウスらしき影、オドガロンらしき影、ドシャグマらしき影が映る。
「これって……」
「間違いない。古代人が作り出したガーディアンの製造工場…その一部だろう」
そう、ここは龍都の跡地にたくさん有る、ガーディアンの製造工場および休眠場所の一部だったのだ。それらは未だ稼働しており、1つの繭が内側から破れて、中からディノバルド…恐らく亜種のガーディアンが誕生した。誕生したガーディアンディノバルド亜種はレイヴン達に気付かず、何処かに向けて歩いていった。
「先に進むぞ」
ガーディアン製造工場を通過して、やがてシーウーの巣にたどり着く。天井には無数のシーウーの卵がびっしりと着いており、床には無数の結晶化した骨、龍都の跡地に迷い混んだ小型モンスターの骨などが転がっていたのだ。
「人骨は無いようだな。だとすると、今回…初めて人間を食べたか」
巣の糞を調べるが、人骨は見当たらない。だとすると、人間を食べたのは今回が初めてであり、ソウシの亡骸は発見されなかった。
だが、後日。レイヴンがシーウーの胃から取り出した、シルドの布、それを調べるとソウシの物だと判明。更に胃の肉片を調べるとDNAがソウシと一致。ソウシは食べられて亡くなったことが判明した。
シーウーさん、ぶっちゃけ怖すぎ。
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