とある竜の恋の詩   作:桜寝子

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第1章
第1話 終わりと始まり


 富、名声、力。この世の全てを手に入れた……様な気がするから旅に出た。

 普通に考えてそんな事は無いんだが、そう感じてしまう程の人生だった。

 

 常人離れした圧倒的な力でもって戦い続け、結果的に多くの人を救い、英雄として生きてきた。

 だけど俺は独りだった。誰も隣に並んではくれなかった。

 

 それでも英雄としてあらんと歩き続け……そうしてふと立ち止まった時に気付いた。

 振り返ってみれば、俺には他に何も無いのだと。

 

 富も名声も力も、俺は望んじゃいなかった。

 望んだ物は何1つ……いやむしろ何を望んでいたのかさえもう分からない。

 

 それに気付いた時から、俺は何もかもがつまらなく感じる様になった。

 だけど、そんな自分が何よりもつまらない人間なんだと悟った。

 

 何かが壊れていく様な気がした。

 だから、新しい道を探した。もう今更だけど、自分探しの旅ってやつだ。

 

 

 何処に行っても英雄として見られるのは仕方ない。なんなら新たに逸話が増える程だった。

 それでも構わず、ただ我武者羅に歩いた。

 何を求めているのかさえ分からないまま、自分探しと称して、ただひたすらに。

 

 

 そんな長い旅の道すがら。

 英雄と謳われた俺でさえ足元に及ばない様な、ヤバ過ぎるドラゴンと出くわした。

 

 かつてない程の全力で警戒し構えた俺は、あっけなく炎に飲まれ――

 

 そうして、俺の人生は終わった。

 

 

 

 

 

 

 うん、終わった筈だったんだ。

 気付いたら真っ白で小さなドラゴンになってた。何故?

 

「おお、目が覚めたか」

 

「~~!?」

 

 混乱している俺の後ろから声が響いた。振り返って見れば、赤く巨大なドラゴン。

 俺を殺したドラゴンじゃないか、と余計に混乱した。

 

 もう困惑とか驚愕とか恐怖とか、色々とぐちゃぐちゃだ。

 しかし言葉は出せず、ただギャーギャー叫ぶだけだった。

 

「まだ人の言葉は喋れんだろう。構造が違うからな、慣れるまで暫くかかるぞ」

 

 なんでドラゴンが人の言葉を喋ってるんだ?

 この状況も何もかもが分からない。

 

「少しずつ説明してやるから、ちょっと落ち着け」

 

 暴れる俺を尻尾で押さえつけ、ソイツはそう言った。

 なので言われた通り大人しく説明を待つ事にした。

 

 だって目の前の存在が恐ろし過ぎて縮こまるしかないんだ。

 コイツはそこらのドラゴンとは格が違い過ぎる。

 

 俺が大人しくなったのを見て、そいつはもう一度口を開いた。

 

「あの時はたまたま寝起きでな……近くにとんでもない魔力を感じたから、思わずやってしまった。人間だと気付いた時には消し飛ばしてしまっていたよ」

 

 どうやら俺は寝呆けて殺されたらしい。

 全力で警戒したからこそ、逆に刺激してしまったようだ。

 英雄の最期がこんなくだらない物になるとはな……

 

 開口一番から納得いかないけど、とりあえず全部聞こうか。

 騒いだら物理的に潰されかねない。

 

 ていうか謝るくらいしないのか?

 

「自分の力を疑問に思った事は無いか? 稀に居るんだよ、お前みたいな人間が。私もそうだった」

 

 そりゃずっと思ってたけど、それがどうした。

 ていうか私もってどういう事だ?

 

「根本的に何かが人間からズレた魂ってやつだ。そういう奴は死ぬと特別強いドラゴンに生まれ変わる」

 

 なんだそりゃ……異常だって事は分かったけど、それがなんでドラゴンになるんだよ。

 

「理由なんて知らん、とっくに考える事もしなくなった。私以外にも居るから、いつか出会えたら聞いてみろ」

 

 内心の疑問が顔に出てたのか、そこも説明してくれた……いや説明になってないわ。

 今度は呆れを顔に出してやった。

 

「永く生きていればそうなるさ……動くのも考えるのも億劫なんだよ。どれだけの時間が流れたのかさえ分からん。多分千年くらいだ……殆ど寝てるがな」

 

 それは寝てるから時間が分からないだけじゃ……?

 まぁ千年なんて生きてたら思考さえ放棄するってのも……いや、全然分からん。想像も出来ない。

 

「むしろ早くに死ねて幸運だぞ。どうせずっと孤独に生き続ける羽目になってただろうからな。あんな苦しみは知らなくていい」

 

 言うに事を欠いて幸運とか言い出した。

 けど納得だ。そうなりたくなかったから、何かを見つける為に旅してたんだしな。

 

「孤独で居ると心が壊れていくのさ。自分が死んだってのを簡単に受け入れてる様にな」

 

 心が壊れる……ね。

 確かに混乱はしても死んだ事を全く残念に思ってない。

 

「絶望と諦観のままドラゴンになるよりよっぽど良い。私とは別の生き方を見つけられるかもしれんな」

 

 まさに諦観した様に、溜息混じりにそう呟いた。

 コイツはそうやって生まれ変わったのか……?

 

 そのまま俺の反応なんて置き去りにして、ゆっくりと語る。

 

「罪滅ぼしも兼ねて暫くは面倒見てやる。その後はどうにか人に紛れて暮らせ。人間に変身出来るからな」

 

「私はもう全て諦めているが、この先も孤独でいれば本当にどうにもならなくなる」

 

「まぁ準備に何年か掛かるがな。ちなみにお前が死んでから多分5年くらい経ってるぞ」

 

 という事らしい。

 人間社会の中にドラゴンが紛れても余計に孤独感がありそうだけど……

 それでもコイツの様に独りで居るよりはマシってか。こうなるぞ、と教えてくれてる訳だ。

 

 ていうか死んでから5年くらい経ったって?

 

「普通のドラゴンと違って卵じゃないし、何時何処で生まれ変わるか分からんからな。探したぞ」

 

 ポカンと口を開けて呆けてたら、追加で説明してくれた。割と親切か。

 さっきも言ってたけど、一応申し訳無くは思ってるらしい。それにしては謝罪が無いけど。

 

 しかし本当に普通じゃないんだな。

 というか、見た目からドラゴンって呼んでるだけっぽい。多分本質的には全く違うんだろう。

 

 まぁ考えるのは後回しだ。

 面倒見てくれるって事だし、暫くは色々とお世話になろうかね。

 

 

 

 

 

 

 で、サクッと時間は飛んで更に5年。つまり死後10年。

 

 ドラゴンとしての自分の力を知って、慣れて、体も成長して。

 そうしてようやく人の姿に変身する事を教わる時が来た。

 

 そんで教わった通りに変身をした結果――

 

 

「おぉーい! 俺メスだったんかーい!!」

 

 思いっきり叫んだ。

 鏡なんて無いから具体的な容姿は分からないが、流石に一瞬で理解出来た。

 

 光に包まれ現れたのは、素っ裸で真っ白な女の子。

 生前と同じ白銀の髪をしてるって事は眼も青いんだろう。

 そして薄い胸に細い手足、明らかに幼い。

 

 まぁ実際生まれ変わって5年……つまり5歳な訳で。そう考えると逆に大人かもしれない。

 だってこれ大体10歳くらいじゃないか? 子供の体格なんてよく知らんが。

 

 

 しかしメスだったとはな……ドラゴンの雌雄なんて自分の事でも判断出来なかった。むしろどう違うんだよ。

 考えてみれば、生まれ変わったなら男のままなんて保障も無いわな。

 

「そうだったのか。まぁいい、とりあえずこれでもう教える事は無い気がするから終わりだな」

 

「軽いんだよ! もっとなんかあるだろ!」

 

 そんな俺を眺めていたヤツは大層呑気だった。

 いつもそうだけどな。

 

「さて、私はまた何処かで眠るとするか。お前は好きに生きろ」

 

 そして気怠そうに大きな体を起こすと、これまた大きな翼を広げた。

 おい、もう行くのか? なんか他にもっとこう……無いのか?

 

「早いって、無視すんな! ホント心というか頭がぶっ壊れてんなぁ、おい!」

 

「じゃあの」

 

 マジで行きやがった! 一瞬でどっか飛んでったぞ!

 一応5年間は一緒に居たのに、なんて薄情な奴だ。

 いつもいつも、まるで俺に関心が無ぇっ!

 

 アイツからしたら、所詮ほんのちょっとの時間でしか無かったんだな。

 碌に会話に応えてくれる事も少なかったくらいだし。ていうか大体寝てたし。

 

 もう誰かと関わるっていう事がまともに出来ないのかもしれない。

 悪いと思って最低限の面倒を見るってのは、奴にとっては最大限の出来る事だったんだろう。

 

 俺もいつかそんな感覚が当たり前になるのかな……

 

 

「はぁ……まぁ、なんにせよせっかくの機会だ。出来るだけ楽しんでみようかね」

 

 うん、気ままに生きてみよう。

 英雄である事さえも、何もかも全てを捨てて新しく。

 

 それに生前より更に強いからこそ、何も恐れずに好きにやれる。

 どうせ早々に死ぬ事も無いだろうし、死んだら死んだで構わない。1回死んで未練も無いし。

 いや、そうマイナスに吹っ切れるのがダメなんだよな。

 

 とにかく、今度こそ何かを見つけられたらそれで良い。

 その何かが分からないままだが……きっと……

 

 

 

 と、そんな訳で……

 俺の新しい、長い長い人生(?)が始まった。

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